第8話 龍

 盗賊めっっっっっっっちゃくちゃ有能だな?


 銀髪青年オーフェンの弟、金髪青年ジョンとともに迷宮に潜った時そう思った。


 盗賊は前衛としては腕力が貧相、後衛としては魔術が使えないため使い物にならない、そのため戦力としては三流未満というところだった。


 しかし盗賊青年は後衛に引っ込んでいる間は石つぶてや投げナイフを駆使して撹乱、君主青年の後ろで虎視眈々と隙を伺い少しでも魔物が隙を見せたに弾丸の様に飛び出し喉笛を掻っ切る。とにかくあまり高くない身体能力を技術で補う事に長けていた。


 特に身を隠しての急所狙いの攻撃の技術は群を抜いていた。


 未熟とは言え最強種族たる龍種の一席、ガスドラゴンですら鎧のような鱗の防御すら意味をなさず刈り取られる。


 戦闘力も十分あるものの本人曰く〝戦闘は本職でない〟らしく索敵マッピング解錠能力ははそれ以上に素晴らしかった。


 特に解錠は本当にありがたい。


 今までは戦利品を取り出すたびに君主くんに矢が飛び毒針がつきささっていた、正直見てられなかった。


 しかし今日は盗賊青年がカチャカチャ針金を動かすだけであっさりと宝箱が解錠される。


 なんというかめちゃくちゃ快適だ。


 ■□■□


 ここで迷宮第二層の敵を紹介していこう。


 ガスドラゴン。


 こいつについて語る前にこの迷宮の種族について話したい。君主くんの受け売りだがこの迷宮に存在する生物種の中で最強の種は何だろう。


 間違いなく悪魔だ。とにかく対人戦闘能力に優れ、とめどない悪意をもつ人類の天敵。


 下級の悪魔ですら第4位階の魔術を使いこなし、

 上位の悪魔はこの迷宮最悪の脅威と呼ばれている。

 過去には大陸を滅ぼしかけた〝魔王〟なる化け物も系統としては悪魔に分類されるそうだ。


 では迷宮の外も含めた、この世で最強の種族は?


 間違いなく龍だ。


 たった一体の龍が龍種が最強の種族だという評価を決定的なものにした。


 そいつの名は〝金剛龍帝〟


 過去に世界を滅ぼしかけ人類の9割を喰らった最悪の龍。


 喰らった対象の身体能力、特殊能力を自らの力に加える特殊能力により得た戦闘力は常軌を逸したものだったそうだ。


 爪を一振りすればこの世界そのものすら歪ませ、固有魔術〝災厄魔術〟による流星は魔王を含めた悪魔の大群をゴミのように轢き潰し、吐き出す黒炎は概念すら焼き尽くし、自身とそう戦闘能力の変わらない分体を呼び出す能力すら保持していたと言われる。


 地球での創作物では龍はなんだかんだでかませポジ、序盤だけ強いサンドバッグという立ち位置になりがちだがこいつは全くそんな事ないようだ。


 そこらのチンピラですら6位階の魔術を使い本職の魔術師に至っては9位階の魔術すら使いこなすほど魔法が発達していた過去の世界。


 その時代には古代種なる今より遥かに強力な魔物や異世界(多分地球)から召喚された核兵器すら存在していたようだ。


 しかし金剛龍帝によりそれらの全ては喰われた。


 最終的に全世界全ての魔術師の命を生贄にした月すら穿ち太陽にすら風穴を開ける15〝月光殲滅〟により封印され今でも世界のどこかで休眠しているようだ。


 話が長くなってしまったがガスドラゴンも金剛龍帝と同じ龍種、全く油断できない相手だ。


 未発達の龍鱗、未発達の翼、未発達の火炎機関。


 さりとて龍。


 高い身体能力、鎧のような鱗、そしてなによりブレスが脅威だ。


 魔法でも物理でもないとされているこの攻撃は前衛が生き残って敵をブロックしている限り後衛に攻撃が届かないという一層までの戦闘の常識を変えた。


 前衛にいようと前衛の後ろに隠れていようと火炎にはまとめて焼かれる。


 とくに生命力の低い司祭にとっては脅威だ。


 地球のrpgでは魔法職はブレスや魔法に対する耐性を持っていることがほとんどだがこの世界では全くそんな事はない。


 ブレスを軽減するのは単純に生命力のみだ。


 そして司祭は生命力が低い。


 ブレスに俺達スペルユーザーは死ぬほど弱いのだ。


 一度受けたことがあるが体の前半身がどろどろになり鼻と唇が熱で癒着して呼吸ができなくなって死にかけた。体の血液が沸騰するかの様な内部からも焼かれる経験はもう二度としたくない。


 対処法はやられる前にやるだ。どんな強力なブレスだろうと動き出す前に殺してしまえば良い。


 本日エンカウントした時も龍鱗と高い生命力により君主くんと盗賊青年ですらやられる前に殺し切るのは不可能だった。


 そんな時こそ俺の睡眠魔法が役に立つ。実質的な即死攻撃となっているこの魔法を先手をとってぶち込んだ結果ブレスを吐くこと無くこいつは死亡した。



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