第6話 ボリタック

ボリタック商店〟個人財力では王すら凌ぐ迷宮都市一番の金持ちだ


 とにかく金の使い方がアホみたいに上手い。


 敵対した相手、それこそ暴力の権化たる冒険者であろうとを金の力のみでなだめすかし、対立させ、分断し、最後には支配下に置く。


 圧倒的な暴力によるアドバンテージすら財力と舌先三寸で容易く粉砕する。


 ヤクザみたいな連中が金を奪い取ろうと喧嘩を売った結果組織は壊滅、ボスは拷問拷問拷問の末に処刑という結末に至ったのは一回や二回ではない。


 迷宮都市の表の支配者はイカレ王トルバーだが迷宮都市の裏の支配者はこの一般人以下の戦闘力しか持たないくさそうなおっさんだ。


 イカレ王トルバーに多額の根回しをした結果迷宮都市唯一の冒険者向けの店となっている。


 こいつの店はなんで法律によって独占が禁止されているのかを物語っている。


 まず何を買っても相場の20倍はある。傷薬なんて故郷では銅貨50枚、めんどくせえから日本円に直すが500円程度で買えたのにここでは12000円相当で売られている

 クソがよ


 武器防具に至っては見るからに粗悪な品が70万相当で売られていたりする。本当に舐めてんのかてめえ。


 その上買い取りはもっと舐めてる。少しでもこちらに道具の知識がないと見るや最上位のマジックアイテムでも舌先三寸で言いくるめ二足三文で買い取ってくる。


俺も一度やられたが意識でどうにかなるようなものではないほど交渉が上手い。洗脳魔術でも使ってるのかと言うほど鮮やかに戦利品を全て巻き上げられたのはいい勉強になった。


 なので戦利品の価値を理解するのがこのクソとの交渉のテーブルにつく最低限の準備なのだ。


 そのため迷宮都市ではパーティーに一人は鑑定のための司祭を入れることが常識になっている


 ボリタックは鑑定屋も兼ねているものの鑑定料が鑑定したものの売値と一緒になるためほとんど誰も利用していない。


 利用しているのはソロ冒険者時代の銀髪青年ぐらいだったようだ。


 他の鑑定屋?


鑑定をパーティーの仲間にやる分にはお目溢しされるが少しでも派手にやるとボリタック商会に潰される。よってボリタックが唯一の鑑定屋だ。


 ともかく今までは戦利品をただみたいな金で巻き上げられていたが俺が連日連夜の必死の勉強により鑑定能力持ちになった事で状況は一変。真っ当に戦利品を売ることができるようになった。


銀髪青年が店から出てポツリと一言


〝本当にすごいな、この短期間でこんなに鑑定能力が伸びるなんて〟


 むふーと俺の鼻息が荒くなる、もっと褒めろ褒めろ。




ホクホク顔で帰宅する



 フードを外した俺と銀髪を見て周りの連中がガタガタ言っている


〝なんであんな美人と冴えない顔をした奴が一緒に歩いているんだ〟〝釣り合ってないだろ〟〝あんな不細工でも高位冒険者になればあんな子と付き合えるんだな…良し、冒険者になろう!〟


 見た目をチヤホヤされる喜びと銀髪を侮辱された怒りで感情がぐわんぐわんだ。


 そんなにボロクソに言われるような顔をしてないだろ銀髪青年は、少し盛って中の下程度にはあるだろ。


 人間顔じゃない。


 良い言葉だ。これを言う奴に限って顔が人間じゃない上に性格もアレだというのはお約束だが俺とこいつに関しては本当にこの言葉が当てはまる。


 顔以外の全てが壊滅している俺と顔以外非常に優れているこいつ、どちらに人間としての価値があるかと言えば銀髪の方だ。


 何も分かってねえくせにゴタゴタ言うんじゃねえ。睡眠魔術ぶち込むぞ。


銀髪に私が美人過ぎて君が侮辱されてしまった。かわいくってごめん。と謝罪する。


むちゃくちゃ生暖かい目が飛んでくる。


 その後も見るからに柄の悪い奴らに〝死神様のご登場だ〟〝見てくれよ、なーんにもしてないのにそこの死神につけられた傷を〟〝陰気な面してんじゃねえよ、そんなんだからみんなみんな死んじまうんだよ〟

 ヒソヒソと、しかし確かに聞こえるように言われていた。


お前ら顔覚えたからな、迷宮で見かけたら睡眠魔術ぶち込むぞ。


帰ったあとに〝僕の為に怒ってくれてありがとな〟とか言われた。


感情感知能力で怒りを察知したのか。こいつに嘘はつけねえな。


待てよ、今ので相当好感度上がったのでは?

捨てられる危険性が少しは減ったか。



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