第4話 死神

 目が覚めると馬小屋みたいなボロ宿に寝かされていた。


 隣には書き置きとパンで出来た簡単な軽食。


 書き置きの内容は三つ。お前の怪我はもう治っている、迷宮にはもう潜るな、パン食ったら帰れ。


 よし、帰ってくるまで待とう。


 あれ程の戦闘力を持った駒…もとい仲間を逃がすのは惜しい。見たところ何故か一人でいたのも気になる。


 奴に寄生してダンジョン潜れば生活できる、強くなれる、領主を痛めつける事ができる。領主のクソを嬲れる。領主を…殺せる。


 そう思って待つことにした。


「お前…何でまだいんだよ。男、それもとびきりのクズ野郎の部屋によくいられるな」


 アホ面下げながら部屋に入ってきたのは銀髪のおっさん。名をフレッドというらしい。


ひとしきりお礼を言ってからソロ冒険者か聞いてみる。答えは肯定


 そこでお互いソロ同士パーティーを組まないかと提案してみる。


 「自由きままな冒険者生活を辞めてまでお前を介護してやるメリットとかあるのかよ」とか「俺毎日二層で狩りしてんだけど。二層来たら確実にそのうち死ぬだろお前」だの「せっかく助けてやったのに自殺の片棒担ぎたくねーんだわ、そんなに死にてえなら俺の見てないとこで死ねよ」とかガタガタ抜かすがおれはお前と組めなきゃ確実に死ぬんだよ。


 迷宮都市に来てからの事を時に激しく時に切なく涙を流しながら大げさに語る。


 最後に頼れるのは君しかいないという言葉をアカデミー女優賞ものの演技で語る。その結果いつ死んでも良いならという条件つきでパーティーを組むことが出来た。ちょろいンゴ。


「俺の名前はフレッド」

「おれの名前はエフィミア、よろしくね」

手を差し出した。その途端彼は顔を真っ赤な色に染め、目線は泳ぎまくり、その上でクッッッッッッッソやる気も興味もなさそうな仕草を取り繕って俺の手を握り返してきた。


「後でガタガタ文句言われたくないから教えてやるよ。リノレガミン地下迷宮は全五層。ある程度強くなれば一層は楽勝。どう転んでも死ぬことは無い。一層に俺は同行してやるつもりは無いがお前でもなんとかなる」


ふむふむ


「問題は二層以降。ここからはどんなに強かろうと死の危険がつきまとう。ここで俺が狩りをしている時にお前がついてくるのは構わんけどさ。あー昨日お前が殺されかけていた時の魔物いるだろ、あいつの攻撃食らったら俺でも3割の確率で即死する」


ほうほう


「おまけに二層にはお前みたいな奴の天敵がいるんだ」

「おれみたいな美少女の天敵とな?モブおz」

「黙れ話を聞けクソボケ、お前みたいな魔術頼りのもやしの天敵がいるんだ。お前一撃でも攻撃受けたらアウトだろ。一層のカス共の物理攻撃程度であれば俺様がかばえる。が広範囲攻撃はかばえ無い。そして二層にはブレスと言う広範囲攻撃持ちがいる」

「つまり?」

「ブレス打たれた瞬間お前死ぬ」

さいですか

「ついでに教えてやるよ、三層、ここは理不尽な能力持ちは少ないが単純に敵の練度が高い。この国の狂王レベルの戦闘力あるなら二層よりこっちのほうが稼ぎに適してるかもな、俺は無理だけど。いつかお前が育てば行くのを視野に入れても良いかもな」


「ほんで?四層と五層は」


「覚える必要ない、四層からはこの迷宮で最悪の能力であるドレイン持ちが出現、五層は完全に地獄だ」


「…一層の冒険だけで強くなったりはできないかな」


「一層では強くなるのも生計立てるのも無理だ。金の方は厳密には不可能では無いが色街行ったり美味いもの食ったり色街行ったり色街行ったりといった人間らしい事は一切できない。最低限の金で長時間ルーチンワークする必要がある。慣れちまえばなんのリスクも犯さずできる冒険は報酬もそれなりってわけなんだ。それでもやるか?」


さてどうするか。一層か二層の二択のようだが一層では復讐を果たせない。二層では死ぬ。詰んでるわ。


「一層で鍛えてある程度慣れたら二層行くのはどうかな」


「それ俺になんのメリットがあんの?稼ぎ効率下げてまでお前の鍛錬に付き合ってやる道理とか無いよな。ついてくるのは構わんけどそこまでやってやる義理はねえぞ」


ぐうの音も出ない。

二層で死ぬか、ソロで一層で活動し復讐を成すのを諦めるか、その二択しか存在しない。

答えは…

どうするかをおれが言いかけた時


「話は変わるがヒイズル国って知ってるか?」


フレッドが唐突に言い出した。おれは首をぶんぶんと振る。


「東の果てにある小国でな、優秀な冒険者と優秀なんて言葉じゃ言い表せない程凶悪な魔剣を多数排出している所だ。そこのボンボン共に迷宮に適応するための指南を頼まれたんだ」


何が言いたいのだ?


「いくら俺様が優秀だといえそれでも一人でやるのはキツイなーどっかに助手になって一層を無給で一緒に回ってくれる奴隷いないかなーいるわけ無いなー」


恐ろしいまでの棒読みでフレッドは俺の目を見つめて言った。


 3日ほどおっさんと過ごして分かったことは三つ。


 1つ目は本当にアホみたいに強い。

 13段階ある冒険者の戦闘能力評価で7段階目だと評価されている。これだけだと弱そうに聞こえるが7段階目、面倒だからゲーム風にレベル7と呼ぶがレベル7に達した冒険者はこの都市でも上位の5%しかいない。




 その上職業は〝聖騎士〟白魔術が使える戦士だ。


 この都市の冒険者の職業は8種類に大別される。

 肉弾戦を得意とする戦士、黒魔術使いの魔術師い、白魔術使いの僧侶、鍵開け担当の盗賊の4職が基礎職と呼ばれている。


 それに対し基礎職2種の力を両方使える職業が上位職と呼ばれている。


 黒魔術を使える戦士である侍、戦士級の戦闘力を持つ盗賊である忍者、黒魔術白魔術どちらも使える(使えるとは言ってない)産廃職、そして戦士と僧侶両方の力を使える聖騎士だ。



 中途半端になりがちで上位とは名ばかりなのが上位職だが聖騎士は例外的に白魔術の練度も戦士としての戦闘力も高い。


 そのため最強の職業と呼ばれている。(規格外のマジックアイテムや練度があればこの限りではないようだが。)


 そんな強職についている奴が高レベルになっているのだ。当然馬鹿みたいに強い。


 小型の竜種〝ガスドラゴン〟を一刀の下に斬り伏せ、空を飛ぶ硬貨の大群〝クリーピングコイン〟を雷魔術でまとめて焼き払い、腐乱した人影〝ゾンビ〟を剣も魔法も使うこと無く祈りのみで消し飛ばす。


 次の日迷宮に潜ったときには本当にビックリした。バケモンじゃねえか。


 こんなに強い奴がなんで一人でいるのかさっぱり分からん。




 2つ目はこいつがソロである理由。

 単純に口が悪すぎる。その上自己中心的、金にがめつく、意地汚い、足が臭く露悪的。


よって他の冒険者からつけられた渾名は【カス】


 なんて酷い渾名だ。いくら事実でも酷え名前の付け方しやがると怒ったが気にいってるから別に問題ないとのこと


 3つ目は割とスケベだ。

 クール気取っているが胸を少し出しただけで目線がそこに固定され、顔面を正面から見つめただけで顔真っ赤にして目をそらし、部屋のベットの下がエロ本の祭壇みたいになっている。始めて見た時マジでビビったもん、あれ。


 まあとにかく俺の寄生対象として完璧な存在だ。

 ネカマとしての技能をフル活用してせいぜい利用させてもらおう


 

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