陰キャアイドル”シャイボーイズ”

佐々井 サイジ

陰キャアイドル”シャイボーイズ”

 陰キャアイドル“シャイボーイズ”がテレビからネットまでジャックするほどの人気ぶりだ。今日はシャイボーズの特集を本誌30ページにわたってお届けしよう。アイドルという職業とは対照的に内向的で人見知り、誰も表に出て行こうとしない彼ら、シャイボーイズ。取材班は半年にわたり彼らに密着した。


 シャイボーイズは3年前、2034年にデビュー。当初は他のアイドル同様、きらきらしい服を着てファンに白い歯を見せて笑顔を振りまいていた。彼らもそれが仕事であり、望んでいたものだった。しかし、デビューから1年が経過する直前にメンバーの一人、ガジュがパニック症候群で休養を余儀なくされた。


 ガジュがきっかけで、グント、オーボ、ワルロ、そしてリーダーのサイファーの全員が精神的不調を訴えてメンバー活動が休止に追い込まれた。メンバーは全員内向的で人見知りが強かった。アイドル活動には憧れていたものの、性格との相性が合わず、心身ともに疲れ果ててしまったのだ。


 シャイボーイズのマネージャーは彼らの健康面を優先し、王道のアイドル路線を歩むことを止めさせた。彼らは最初、抵抗したようだが身体がついていかないことを理解していたため受け入れたという。ただアイドルを辞めるということではない。人見知りを逆手に取った。“決して会いに行かないアイドル”として再出発したのだ。


 彼らは人前では歌わない。全国ツアーもしない。見られるのは観客のいない音楽番組や動画投稿サイトだけ。彼らを見かけることはめったにないため希少性が増し、結果的に若い世代を中心に話題になっていった。この頃にシャイボーイズへと改名した。彼らは自分たちの弱みが強みになることを自覚した。


 もちろんシャイボーズはファンのことが嫌いではない。むしろ他のアイドルとは違ってファンと交流しない自分たちを応援してくれるファンたちに熱い感謝の気持ちを抱いている。そんな彼らは3周年を迎えるにあたって、あるサービスを限定で開始した。先着1000人にメッセージ動画を送るというものだ。


 同じメッセージではない。あらかじめ送られたメールに対して一人ひとり動画でメッセージを撮るのだ。1000人分。リーダーのサイファーが提案し、全メンバーが賛成した。マネージャーはまた精神的不調になるのではないかと危惧したがメンバーの強い意向により実現された。


 取材班が密着している間も仕事の合間を縫っては動画を撮り続けていた。筆者もその場にいたが、テンプレではなく、本当にもらったメッセージに対して返事していた。恥ずかしながら一瞬でシャイボーイズのファンになってしまい、次に機会があれば筆者もメッセージを送ろうと思ってしまった。


 彼らは人見知りゆえ、態度が悪いだの勘違いされることも未だにあるという。しかし、1000人分に動画でメッセージを送ることを有言実行した彼らのことを悪く言えるものはもう誰もいないだろう。そして応援せざるを得ない。彼らの弱みを強みに変えた戦略でアイドルの第一線をひた走るシャイボーイズをこれからも注目していこう。


 いや、注目すれば彼らの負担になる。傍目に見ていこう。

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