第2話 太陽神の使いとかいう比喩表現
(学校かぁ。小学校か、中学校くらいかな)
準備と言われても何をすればいいか分からず、
その机の引き出しを開けると、見たことの無い言語が書いた本が数冊あった。
これが異世界文字かぁ。と1人で納得する妃奈だったが、
「読める。読めるぞっ?!」
なんと驚くことに、妃奈の脳はその文字を理解していた。
(この女の子の身体が記憶しているんかな?)
その後もパラパラと数冊
右に行くべきか左に行くべきか迷ったが、なんとなく、人の気配を感じるままに短い廊下を歩き開けた部屋にたどり着く。
勘は当たっていたようだ。恐らく、ここがダイニングなのだろうな。と、いう部屋にたどりつけた。
「ほらほら。早く食べちゃいなっ」
先程の声の主が現れ彼女を急かす。
母親は声から想像した通りのTheママと言った感じの容姿で、金髪と赤色の瞳以外はあまり妃奈に似てなかった。
というか、大きい。
ママンは天井ギリギリまでの身長で、少なく見積っても3mは間違いなく超えていた。呆気に取られているとまた急かされたのでパン?を1
「え、待って。めっちゃ美味しい!」
「?いつものフェカロじゃないの」
母親が、まるで初めてパン、もといフェカロを食べたようなリアクションをする妃奈ーー実際初めてなのだがーーを不思議そうに見る。
しまった。もっと日常的な会話をしなければ、と頭を巡らせたが、そもそも異世界の日常会話なんて分かるはずもない妃奈は、とりあえず
「えっと、昨日学校の授業で、毎日の
「へえ〜。あの先生、厳しそうなのに意外といいこと言うわね」
上手く切り抜けられた喜びと同時に、『あ、うちの担任、厳しいんや…』と判明し何とも言えない表情になる妃奈。
元々、陰寄りのキャラクターと自称するだけあって学校教師という存在に良い思い出はあまりない。
というか、学校自体毎日イヤイヤ行っていた気がするなぁ。と、学生時代の頃を回想する。
「まぁとにかく魔霊車来ちゃうし、食べちゃいなさい」
(まれいしゃ??)
が、せっかくの初めての異世界の食事なのでゆっくり味わいたいという気持ちが勝ってしまい、結局母
「いってきまーす」
「はいはい。頑張ってね」
笑顔で手を振り合う母娘。
雲ひとつない空。
そんな朗らかな空気。
を、一瞬で崩壊させるような轟音が、辺りに響いた。
「ブルルルバァッ!」
「へ!?なになになに」
鳴き声を上げながら猛スピードで何かが近づいてくる。
あ、これが魔霊車か、馬車みたい。と、思う間も無く、あれよあれよと馬みたいな生物に
「ブルルルルンバァ!」
「は、はい。よろしくお願いします?」
魔霊車は、走行時のけたたましい駆動音と振動にさえ目をつむれば、まあまあ快適な乗り物だった。
まだ学校に着くまで時間がありそうなので、妃奈は今までの事や朝食時に母から聞いた話をおさらいする。
「えーと、私はお母さん「ブルルルァ!」と二人暮しの学生で、お母さんの名前はサリアン。私は多分ぬいぐるみが好きで、魔法は今の所使えんくて、「ブルルバァ!」今から行く学校は朝「ブバルルルルルル!」からおやつの間まで。うん。ちゃんと覚えて…ていうかうっさいわ!」
独り言の最中にもずっと聞こてえくる魔霊車の
「んー。学校かあ。魔法とか勉強するんかな。私、魔法の才能とかちゃんとあるんかなぁ」
仮に、魔力ゼロでチートもないとすると、今現在の自分のスペックは謎の関西弁を話す金髪ロリという属性だけの、ほぼほぼモブキャラに近いモノしかなく、妃奈の心配は募っていった。
むしろ転生なんかじゃなく、大掃除の疲れで見ている夢なんじゃないだろうか。というか、そうであってくれ。と、頭を抱えだした彼女を知ってか知らずか、魔霊車は軽快に街を進んでいき、やがて1つの大きな建物の前で止まった。言葉が理解できるのか分からないが、一応魔霊車にお礼を言ってみる妃奈。それに応るように馬っぽい生き物は機嫌良さげにしっぽを振り轟音で去っていった。この音さえなければ、かなり好感度の高い生き物なのにな。と、ひとりごちたあと、改めて建物を見る。
「…うわぁ。おっきい」
到着した学校は、学校と言うより某テーマパークのお城に近い見た目で、少し古びた感じはあるが、それが逆に威厳のようなオーラを放っていた。
その荘厳さに圧倒されて、妃奈はしばらくポカンと学校を見上げていた。
「よっ」
それもあってか、声をかけられても妃奈は自分が話しかけられていることに気が付かなかった。
が、声の主がこちらに近づいてくるのを感じ取り振り向いた。
「なんだよ。ムシするなよなー」
そこには、もしここが異世界でなく、現実世界なら会えた勢いでそのまま推し活をしてしまいたくなる程に完全無欠の美少年が立っていた。
例えるなら、絵画や寓話の世界からそのまま出てきた王子様。と言ったところか。
無論、美男美女に耐性の無い妃奈が直視できるはずもなく。
「ひいぃ、眩しい!」
まるで目を焼かれたように手で
「え、どうした?太陽神の使いを直視しすぎたか?」
「なにその独特な例えっ。ていうか声もイケボやなっ」
心配する美少年をよそに、妃奈は深呼吸を繰り返し平常心を取り戻そうとする。落ち着け自分、いくら今の私が金髪美少女でも、中身はどう足掻いても陰キャ成人女子なのだ。
こんな幼気な少年にトキメいてるのはさすがに重罪すぎる。死刑でもいいくらいだ。
そう言い聞かせるが、今まで彼氏はおろか男性との交流すらほぼ経験のない妃奈にとって、目の前の少年は先程の言葉を借りるなら
今の彼女には、異世界に迷い込んだことも、唯一の長所だった他人より少しふくよかな胸が無くなってしまったことも学校の敷地内の蝶のような生き物が不思議そうにこちらをじっと見ていることもどうでも良くなっていた。
段々と呼吸が荒くなる妃奈に対し、少年はさらに心配した声でこちらを見つめてくる。
「なあ…先生呼んでこようか?ミカリー」
(あ、私の名前ミカリーなんや…)
平常心を保とうと続けていた深呼吸で、酸欠になり過呼吸気でゆっくり意識を失っていく妃奈には、そんなことをボンヤリと考えるのが精一杯だった。
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