第4話:そもそもの耳鳴りの原因。

好人は少し前までサラダと言うポメヨン「ポメラニアンとパピヨンのミックス犬」

を飼っていた。


好人がホームセンターへ行った折、子犬だったポメラニアンとパピヨンのミックスと出会った。

なにげにペットショップコーナーの前を通った時、そこでポメヨン目に止まった。

他にも犬や猫はいたが、なぜか好人にはその子犬だけが他の子と違って見えた。


これは連れて帰らなきゃ、そう思った好人は迷うことなくその子を買って帰った。


その子犬は女の子だったから好人はその子の名に「サラダ」と名ずけた。

サラダとはサラダが老犬になるまでずっと一緒に暮らしてきた。


好人がサラダを亡くした時は、サラダはすでに「おばあちゃん」になっていて

耳も目も不自由だった。


台風が近ずいてたある日のこと、まだ台風は来ないだろうと思った好人は雨が

降らないうちにと思って、やめておけばいいのに傘を持ってサラダと散歩に

出かけた。


サラダとの散歩から帰ってきた好人はサラダのハーネスを外してやって

いつものように水をあげようと、ほんとにほんの少しサラダから目を離した。


その隙にサラダがひとりでいなくなった。


好人の家の前には幅が4メートルほどある大きめの人工の河が流れていて、

人が落ちないようガードレールが、ほどこしてあった。


好人が、いなくなったサラダを探していると、誰か近所の人が「どこかの犬が

川に流されてるよ〜」って叫んだ。


好人はすぐにガードレールに駆け寄って、あたりを見回すと河口の方に流されていく

サラダの姿を発見した。


サラダは目が見えなかったせいで、ガードレールの隙間から河に落ちたらしかった。


台風が近づいてることもあってか、河の流れはいつもより早くて、流れに逆らって

泳ぎきれるほどの力は老犬のサラダには残っていなかった。


好人はパニックになりそうになったが、自分を落ち着かせて何かサラダを救いだす

方法はないかと考えた。

だが、気持ちが焦るばかりで、サラダが流されていく光景を、なにもできない

まま、ただ見ているしかなかった。


いっそ河に飛び込もうと思った時、 近所に工事に来ていた役所の人が持ってきた

ハシゴを使ってサラダを救いあげてくれた。


助かったサラダは溺れずにすんだが、息絶え絶えだった。

好人は役所の人にお礼だけ言ってすぐにサラダを病院へ連れて行った。


獣医さんの診察では、サラダは肺には水が溜まっているらしいことがわかった。

歳のことも考えると回復は望めないだろうと言うことだった。

今日1日はもたないかもしれないって宣告された。


獣医にも、もうなすすべはなかったようだ。

泣く泣く好人はサラダを連れて家に帰ってきた。


犬用のベッドにバスタオルを数枚か敷いてサラダを寝かせてやって、

なるだけ暖かくしてやった。


サラダは、一生懸命生きようとがんばったが、間もなく苦しい息の中、

好人の腕の中で与えられた命を全うした。

とめどなく涙があふれた。

好人はサラダを救えなかったことで、自分を責めた。


あんなに自分が無力で何もできないことって・・・目の前で大事なサラダ

が苦しい目にあってるのに自分はただ手をこまねいて見ていただけなんて・・・。


こんなに悲しくて胸が詰まる思いはもうは二度としたくない、そう思った。

それ以来、サラダのことを思い出すと好人は耳鳴りがするようになった。


そもそもの耳鳴りの原因はそれだった。

病院へも行ったが、耳鳴りが治る気配はなかった。

その耳鳴りのせいで、好人はコシュマールヴィルへ飛ばされることになった。


サラダのこと思い出していたもんだから占いのじいさんが言ったように、にわかに

耳鳴りがはじまった。

耳鳴りは、またどんどん、ひどくなってきて好人は耐えられなくなった。


「まただ・・・」


「え?なに?」


ルシルはなにが起きたのか分からず、好人の様子をうかがった。


「耳鳴りだよ・・・」


好人は声を出すのも辛かった。


「なんだって?」


「また、耳鳴りが始まった 」


「ヨシト・・・大丈夫?」


耳鳴りは、治るどころかどんどん酷くなりっていってピークを迎えた好人は

しゃがみこんでルシルの足に抱きついた。


「なになに・・・?ヨシト・・・どうしたんの?」


そう言うとルシルは、好人の顔をのぞきこんだ。


「ヨシト・・・ねえ、大丈夫?」


「ルシル・・・」


ルシルは、今にも倒れそうになってる好人の体を支えた。


と、その瞬間だった。


目の前が真っ白になったと思ったら好人は急に気を失った。

歩道橋で起きた出来事と同じだった。


「・・・・・・・」


どのくらいの時間が経っただろう・・・。


「おい・・・おいヨシト・・・ヨシトったら・・・起きて・・・ヨシト」


それはルシルの声だった。

ルシルに名前を呼ばれた好人は、ハッと気がついて周りを見渡した。


「どうなったんだ・・・?」


ゆっくり体を起こすと、またルシルの声がした。


「ヨシト・・・あんた、私を一緒に連れてきたわね」


つづく。

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