第3話:占い師の館。
好人が悪夢の街に来てから、一ヶ月ほど経っていた。
ふたりは、相性もよく、かなりいい関係になりつつあった。
だけどルシルは好人が人間界に帰る方法をなかなか探してくれない。
そこで好人はルシルに催促してみた。
「う〜ん・・・もうちょっと待ってくれる?」
ルシルは言葉を濁した。
ルシルの中ではヨシトを人間界に帰すことに躊躇していた。
好人のことを好きになっていたからだった。
ある朝、朝食の後、ルシルは思いがけず、好人が人間界へ帰る方法について
話し始めた。
「あのね・・・好人が人間界に帰る方法についてなんだけど・・・」
「え?何か、いい考えある?」
「ひとつあることはあるけど・・・」
「私じゃ無理だけど、ひとりいいアイデアを持ってそうなやつがいると思うんだ」
「ちょっと私と一緒に来て」
そう言うとルシルは好人の手を引いて、そのいいアイデアを持ってるかもって
言う人?悪魔?のもとへでかけた。
また、遅れてきたバスに乗って30分。
忘却の街ってところでバスを降りた。
バスを降りてしばらく歩くと・・・
「ここだよ」
とルシルの尻尾が指したので、見ると
そこはものすご〜く古ぼけた怪しそうな店で、というよりヤカタって感じで
小さな看板に「divination」って書かれてあった。
「この看板なんて書いてあるの?」
「ディヴィナシオン・・・」
「なんて意味?」
「占いって意味」
「あ〜・・・占いね・・・占い師に僕が帰る方法を聞こうってこと?」
店の中に入ると、大きいのや小さいのまで、いろんなシャレコウベがジャラジャラ
吊るしてあったり 夜中に勝手に動きそうな不気味な人形が置いてあったりキミが
悪いったら・・・
なにもしてないのに、ジロってこっちを見る、フクロウとか・・・。
とにかくジャンクな店だった。
悪い夢の世界の占い師の店らしかった。
「じいさんいる?」
うめくような声がした。
でも、姿は見えない。
ルシルはもう一度言った。
「じじい・・・隠れてないで出てこいよ」
すると胡散臭そうな、じいさんが背中を丸めて、店の奥から出てきた。
「なんじゃ・・・ルシルか・・・」
「久しぶりだの・・・」
「まあ、おまえが来ると思ってたわい」
そう言って占い師は好人のことを、ちらっと見た。
そのじいさんは頭はハゲてるのに顎の白いヒゲがやたら伸びて、
池面に擦れていた。
やはりこの爺さんも顔色が悪いったら・・・。
「このおじいさんも悪魔なの?」
「そうだよ・・・みんな悪魔」
ルシルがそのじいさんに近づいて、しばらく何か言いあっていた。
「ねえ、なんて言ったの?」
「今までの状況を説明してヨシトが人間界に帰る方法を教えてくれって言ったの」
「大丈夫なの?胡散臭そうなおじいさんなんだけど・・・」
「胡散臭そうってのは、余計じゃ人間・・・」
「俺のこと人間って分かってるんだ」
「よく分かってるね、おじいさん」
「で、とりあえず一度は人間界に帰りたいんだけど、なんとかなるかな?」
胡散臭そうなじいさんは何か、どこにでも転がってそうないびつな石を取り出して
目の前の古ぼけた机にばらまいた。
「ん〜・・・・・」
「ん〜・・・・・」
「ん〜・・・・・」
「ん〜ばっかじゃなくてさ、なんとか言いなよじいさん」
ルシルが腹立たしそうに言った。
「慌てなさんな・・・」
「ん〜・・・・」
「う〜ん、でたぞ・・・」
「うんこが出たみたいに言うな」
「すまんが・・・ここから西へ4・5キロほど行ったところに黒ガラスっちゅう
飲み屋があるで・・・おまえそこで酒買ってきてくれんかの」
「くそじじい、私をパシリに使う気か?・・・ナメんなよ」
「自分でいけよ・・・」
「足が悪いで・・・」
「僕が買ってこようか?」
「ヨシトはそんなことしなくていいの・・・じじいがつけあがるから」
「じゃあいいわい・・・もしかしてと思ってちょっと言ってみただけ
じゃからの・・・」
「 あのな・・・たぶんじゃがもう一回耳鳴りがしたら、もしかしたら
帰れるかもな・・・」
「なんかさ、無難な答えだな・・・」
「誰でもわかるようなこと言ってんじゃねぞ、じじい」
「じゃが耳鳴りがもとでここに来たんじゃろうが・・・」
「耳鳴りって言われても・・・・いつ起こるか分からないし・・・」
「耳鳴りが始まったきっかけを思い出せば、よかろう」
(耳鳴りが始まったきっかけ・・・サラダが亡くなった時のこと・・・)
「そんな急に言われてもな・・・」
たしかにサラダがなくなったのは悲しいことだけど、急には耳鳴り
なんてしないよ・・・そう好人は思った。
つづく。
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