第27話 敗者復活戦3 ナナ 終了

 爆発。


 爆発。

 爆発。爆発。爆発。爆発。爆発。




 ケッパは、試合処刑をすぐに終わらせはしなかった。


 AI制御で狙った機体をまっすぐ狙うはずの“棘の鉄槌ニードル・ハマー”は、あちらの機体へ向かったり、こちらの機体を追ったり。

 五十機の棘だらけの爆弾が、フィールド内を右往左往する。

 目に見える地雷が五〇個、目の前を動き回っているようなものだ。


 翻弄される三人のレーサーと三人の「お邪魔キャラ」は、阿鼻叫喚の地獄と化した。


「わあああ!」

 一人のレーサーに棘が命中し、爆炎を上げる。

 追い打ちで、二発、三発。

 モニターには、そのレーサーが爆発の衝撃でコクピットの外まで吹き飛ばされる様子が映った。

「きゃああああ!」

 レーサーの一人が悲鳴を上げる。

 見えてしまったから、かもしれない。

 吹き飛ばされたレーサーの腕が、爆発により残骸と成り果てた機体の中から、血まみれの状態で伸びているのが。


「殺さないで! 殺さないでください!」

 女性のレーサーが通信を通し、悲鳴混じりで懇願する。

「私の負けでいいです! 降参します! リタイアします!」


「ひゃはは! いいねぇ↑」

 ケッパの裏返った笑い声が、公共フリー通信で観客モニターまで響く。

ポクの試合は、リタイア不可! 死にたくなきゃ、もっと懇願したまえ↓!」

「助けてください! 助けてください!」


 元来、攻撃側ではない「お邪魔キャラ」。

 しかしケッパは「お邪魔キャラ」に対し、攻撃面で最高性能を持つ“棘の鉄槌ニードル・ハマー”を何発も、撃墜へ向かわせる。

「やめてくれえええ!」

 「お邪魔キャラ」の一人の男が、情けない悲鳴を上げる。

「レーサーと俺達は違うんだ! 墜とされたら奴隷おわりなんだ! 助けてくれ!」

「堕ちるところまで堕ちて、それでも尚、無償での助けを請う愚かなゴクツブシ……」

 ケッパは、キーボードを華麗に指で弾く。まるで、楽団を操る指揮者のように。

 キーボード操作の度に、一機一機の“棘の鉄槌ニードル・ハマー”が狙いを変え、方向転換する。

「助けて、助け――」

 助けを請い続ける男の元へ、十数機の“棘の鉄槌ニードル・ハマー”が向かう。

「あああああ!」

 男は、正面の目の前に“棘の鉄槌ニードル・ハマー”を見たのだろう。恐怖に歪んだ顔が、爆発の炎に消えていった。




「哀れな、そして生きるために歯を食いしばる健気な『お邪魔キャラ』達……チャンスを与えよう」

 ケッパは急にしんみりと通信で語りかける。

「ここに、愚かなにえが一匹」


 “棘の鉄槌ニードル・ハマー”が二機、何かにぶつかる前に、空中で爆発した。

「きゃああ!?」

 近くにいた女性レーサーの機体は、爆散はしなかったものの爆発に巻き込まれ、装甲に大きな損傷を負う。

 煙を上げ、その機体は地面へ墜落した。


「二次リーグにおける『撃墜』の定義は、ルールブックを読まねば完全に理解できまい。『撃墜』とは『機体の動力が全て停止し、如何いかなる方法でもゴールゲートの通過が不可能な状態』を指す」

 女性レーサーの機体は、煙を上げながら、わずかずつではあるが動いている。

「この女はエンジンを大きく損傷しているが、動ける以上『撃墜』ではなく、すなわち『リタイアではない』。生きた、まな板の上の鯉さぁ↓」


「や、やめて……」

「『お邪魔キャラ』達。誓うなら、『敗者復活』させてたすけてやろう。この女のと誓うなら」




「ほ、本当ですか……」

 一人の男が、いち早く反応した。


 その早さは、先を越されてはならない、という生存本能からか。


ポクが信用できないのかい?」

「い、いえ! 私は誓います!」

「できるの? 可愛い女の子だよ?」

「できます! 必ず、コクピットの正面からぶつかります!」

「そうかあ。絶対できるかあ?」

「絶対! 絶対できます」


「ガチクズやん。引くわあ↓」


 五機の“棘の鉄槌ニードル・ハマー”が一斉に、その男の機体へ群がり、爆破した。

「ぎゃああああああ!」

 「お邪魔キャラ」が一機減り、残りはナナともう一人の男、二機になった。




「まだ、邪魔なレーサーがいるねぇ↓」

 “棘の鉄槌ニードル・ハマー”の嵐を“無敵道化スター”で凌ぎ、ケッパの機体へ勇敢にも攻撃を仕掛けるレーサーが一人。




 <特殊武装・“無敵道化スター”>。


 機体の外部装甲全体に強靱な魔力のバリアを張り、“迎撃ミサイル”をはじめとする魔法攻撃のほとんどを無効化する。

 “棘の鉄槌ニードル・ハマー”の強力な爆発も防ぐが、膨大な魔力を消費するため長時間の耐久は難しい。




 追尾性ではない魔力弾“迎撃ミサイル”を、しかし的確にケッパの機体を狙い、放つ。

 数発撃たれた“迎撃ミサイル”のうち二発が、ケッパの機体に見事命中した。

 しかし、ケッパの機体の装甲はびくともしない。

 装甲の、魔力弾の当たった箇所だけが、“無敵道化スター”のバリアの輝きを放っている。




 <特殊武装・“変容性無敵道化バリアブルスター”>。


 外部からの攻撃に反応し、攻撃を受けた装甲のみ、瞬間的に魔力のバリアを張る、最新鋭の“無敵道化スター”。

 防御力を維持したまま、従来より持続性を大きく向上させている。




ポクに勝ちたきゃ」

 ケッパは、“棘の鉄槌ニードル・ハマー”をレーサーの機体へ向かわせる。

 爆弾の棘が機体の“無敵道化スター”のバリアにぶつかり、ガリガリと削り、そして突破し装甲に到達する。

「人間辞めるレベルで強くなりたまえ」


 バリアは、厳密には「無敵」ではない。

 一点突破で、狭い範囲にバリアを超える強力な攻撃を叩き込めば、突破する事ができる。


 “棘の鉄槌ニードル・ハマー”にバリアを突破されたレーサーの機体は、爆散した。




「僕は……屈しない」

 「お邪魔キャラ」の一人が、言った。

「んん?」

 ケッパの眉が、ピクリと動く。

 実は、ケッパの機体は観戦モニターと同様、全出場者のコクピット内が見えるディスプレイが装備されている。

 その青年が恐怖に怯えず、芯の強い眼差しで正面を睨んでいたのが、ケッパのしゃくに障ったのだ。


「媚びたところで墜とされるのがオチだ。なら、僕は最期まで戦うぞ」

 ケッパの機体のコクピットを見る方法が無い彼は、気付いていなかった。


 その時、既にケッパは自身の機体に、乗っていない事に。




 青年の頭上。

 搭乗口が開いた。


「え?」

 戸惑う間も無く、頭上から青年の顔面に向かい、拳が飛ぶ。

「ぶっ!」

 息つく間もなく、搭乗口から乗り込んできたケッパは、何発も何発も青年にパンチを喰らわせる。

 青年の機体は、止まっていたわけではない。棘の爆弾の脅威から逃げるため、常に動き回っていた。

 それでも、通常の機体より動きの遅い「お邪魔キャラ」の機体めがけて飛び移るだけの身体能力を、ケッパは持っていた。


「ぶっ! やめ――」

「やめてほしいねぇ↓。キミみたいなのは、配信映えしないからさあ」

 執拗に顔面を殴られ、涙を浮かべる青年をさらに執拗にケッパは殴る。喋る間も与えず執拗に殴る。

「やめ……ぶっ」

「ほら、こうやって普通に墜ちてもらうしか無いじゃん」

 ケッパが青年のコクピットから姿を消す。

 間も無く、コクピットが爆炎に覆われた。


 青年の「お邪魔キャラ」機体は、ケッパの機体にぶつかっていた。

 ケッパの機体は体当たりされ、爆発に巻き込まれたが、しかし。


 爆煙が晴れ、青年の機体が残骸になった姿が露わになっても、ケッパの機体は当たり前のように無傷だった。


「そもそもさ、勝負にならないのよ。ポクの機体の装甲、『お邪魔キャラ』の爆発くらいじゃ傷、つかないから」




 フィールド上に残ったのは、三機。


 ケッパ、ほとんど動けない女性レーサーの機体、「お邪魔キャラ」であるナナ。


「さあ、どうする、『お邪魔キャラ』のお姉さん↑?」

 ケッパが、優しい口調で語りかける。

「女を殺して生きるか、奴隷になるか?」




「わ、私は……」

「奴隷に人権は無い」

 ナナに喋らせる前に、ケッパは言う。

「性的搾取はマシな方だ。五体満足でいられるのも大分マシ。生きたまま皮を剥がれるかもしれん。身体をゆっくりとバラバラにされるかもしれん。世の中には、想像もできないへきの持ち主など、腐る程いるからな」


 ナナの唇が震える。


「試合前に各機体のディスプレイに送った、奴隷の映像は見たね? アレもマシな方だ。、寛大な方の提供映像だからね」




「私は……奴隷になりたくないです」

 ナナの瞳から、涙が零れた。


「助けてください……」




「じゃあ、女レーサーを殺せるね?」

「……はい」

「正面からぶつかるんだ。それ以外の方へ行ったら、すぐに墜とすからね?」

「……はい」

「じゃあ、やってみな?」




 ナナは、震える手でハンドルを握る。

 黒一色の機体をゆっくりと動かし、今も少しずつだけ動いている女性レーサーの機体の、正面に来た。


「アクセルは、全力で踏みたまえよ? でないと、機体がちゃんと爆発しないからねぇ↓」




「……ごめんなさい」




 ナナの機体が、全速力で走り出した。




「オーケー♪」




 “棘の鉄槌ニードル・ハマー”がナナの機体へ何機も飛び込み、爆発を起こした。


 驚愕に引きつるナナの姿が、炎に消えた。




「試合前の配信で言った言葉、忘れた? 『全員墜とす』って言ったでしょ」


 棘爆弾が飛び交い、僅かに動いていたレーサーの機体も吹き飛ばす。




「さあVIPの皆様! 本日の試合はいかがでしたか!?」

 爆発の音に彩られながら、ケッパの愉悦に満ちた嬉しそうな声が響く。

「“四天王”ケッパ呪崎のろいざき監修、二次リーグ! 高クオリティの試合を心がけて参りますので、今後ともよろしくお願いします! ははははぁっ↑!」




「お楽しみ試合、これにて終↑了↓」







<アルティメット・カップ 二次リーグ第365試合 結果(括弧内は賭けレート)>

1 “四天王”ケッパ呪崎(1.00倍):今後も二次リーグに君臨

2 ラフ定道(100.00倍):リタイア(機体損傷)

3 バンギーア・バンギール(100.00倍):リタイア(機体損傷)

4 ののめ めな(100.00倍):リタイア(機体損傷)

お邪魔キャラ1 鈴木留:敗者復活失敗

お邪魔キャラ2 槍谷平帆:敗者復活失敗

お邪魔キャラ3 太刀宮陽太:敗者復活失敗

お邪魔キャラ4 屋雲寺ナナ:敗者復活失敗

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