第22話 ソウの二次リーグ一戦目 顛末

 二次リーグに参加したレーサーの一人、ゴリラ。


 彼はゴリラであるが、虎畝とらうね星光せいこうにうまく言いくるめられ、共に一条いちじょうソウを倒す共闘関係になった。




 しかし最終的に、彼は自力での勝利を目指す。




 正確には、運に頼るだけの「運任せ」である。能動的な選択でもない。他に選択肢が無かったのだ。


 その戦い方は、「30分間生き残り、ゴールゲートが自分の近くに開いたならば、最初にゴールする事で勝利できる」という物である。


 一条ソウが墜ちる事は現状、考えられない。七人がかりで攻撃しても、全く意味を為さなかったのだから。

 そしてもう一人、生き残っているレーサーは、ゴリラと同じ選択をしたようだ。一条ともゴリラとも距離を取り、人を避けて走っている。


 危険なのは、三人残っている「お邪魔キャラ」だ。

 彼らは虎畝が撃墜された後、一条ソウ以外のレーサーを狙って走り回っている。妥当な判断だ、自分でも同じ立場ならそうする、とゴリラは評価する。

 彼らは虎畝の退場により、虎畝から予定通りの報酬が貰えるか疑わしくなった。報酬が貰えなければ、奴隷オークションから逃れる事が出来ない。当然、必死で自力での「敗者復活」を狙っている。

 ただ、彼ら「お邪魔キャラ」の機体は、性能が低い。彼らだけが相手であれば、冷静に対処すれば問題は無い、とゴリラは判断していた。


 ――幸い、一条は自分から攻撃する武装は持っていない……生き残るのは、そんなに難しくないウホ。




 一条ソウを除いた二人のレーサーは円形のフィールド上を、沿延々と走っている。


 30 分後に開かれるゴールゲートは、、ランダムに開くからだ。


 ――いくら高度な操縦技術を持っている一条にも、運だけはどうにもならないウホ。







 そして、一条、ゴリラ、そしてもう一人のレーサーは無事 30 分間、生存を果たす。




 ――……ゴールゲート……どこウホ!?




 ゴールゲートが開くには、実は予兆がある。三人のレーサーは、その事をこれまでの試合観戦により、知っていた。


 まず、魔力レーダーに表示されている外周の一部が、鈍く点滅する。最初は、目を凝らさないと見えないくらいの、微かな光。

 その光が徐々に大きくなり、ハッキリとした点滅になる頃、ゴールゲートは完全に開かれる。


 勝負は、見えづらい鈍い点滅の時。

 多少離れた位置にいても、先に気付いてゴールゲートへ迎えれば一番乗りが可能だ。


 ――さあ、どこだウホ……?







 その時、一条ソウの機体が加速し、ある方向へ猛スピードで走り出した。







 ――え!?




 ゴリラは、レーダーに目を凝らす。しかし、ソウが向かう方向の外壁は全く点滅していない。


 ――一条が、見間違えた? ……いや!




 ゴリラは“大加速ブースト”を使い外壁に沿ってソウと同じ場所めがけて走る。

 その判断にはある意味、一条ソウというレーサーへの信頼があった。


 ――奴は一次リーグで、誰も予知すらできないはずの“雷撃サンダー”を、回避してみせた。


 ソウが向かう外壁には、ゴリラも今から向かえばほぼ同時に着く。


 ――気付いたんだ。おそらく、何らかの方法で。あの外壁に、ゴールゲートが開くと!




 もう一人のレーサーはゴリラと反対側の外壁にいる、もう間に合わない。


 そして、一条ソウが目指している外壁。

 凄まじいスピードで向かっているが、しかし走り出した場所が悪かった。


 ワンタッチの差で、ゴリラの機体の方が先に着く。


 ――貰ったウホ!




 そして、一条ソウの機体は――




 外壁に着く前の分かれ道で、進路を変えた。




 ――……え!?


 ソウが目指すは、ゴリラが先程、通り過ぎた外壁。

 魔力レーダーで、その位置の外壁が鈍く点滅を始めた。




 ――だ……騙されたウホォ!




 距離としては、ソウからもゴリラからも同じ距離にゴールゲートが開く。

 しかし、既に通り過ぎた外壁へUターンして戻るのと、ドリフトを挟みながらも常に前進して向かうのでは、到達する時間は全く異なる。




 ――っていうか、普通に走ってたら、ちょうど真横にゴールが開いてたウホーッ!




 ソウの機体は、細く開いたゴールゲートをするりとくぐり、一番乗りのゴールを決めた。






「い、いちじょおーっ!」


 ゴリラは、「お邪魔キャラ」を含めた全ての機体が失意の内に動きを停止した後、公共フリー通信でソウに呼びかけた。


「なぜ分かった!? ゴールゲートの位置が!」


「え? まだフィールドから出てないの?」

 ソウがとぼけた声で返す。

「いいから、教えろウホ!」


 ゴリラは、タダで一次リーグへ戻されたくなかった。何かを学んでから、一次リーグへ戻りたいのだ。


「なぜって、ルールブックに書いてあったろ。『ゴールゲートはゆっくりと魔力を注入される事で動く』って」


「へ?」

「だから魔力レーダーも、ゆっくりと反応するんだ。けど、レーダーは一定以上の魔力にしか反応しないから、きっとレーダーより先に魔力感知で分かると思ってた。実際、予想通りだったよ」


 ――魔力……感知?? 何それ?


「ルールを作った奴は、よっぽど運勝負が嫌いみたいだな」


「えーと……ルールブックなんて、あったかウホ?」

「あったろ。待機室の隅に、隠れるように」


 ――あー……そうだったウホ? あったような気もするけど、その前にルール説明があったから気にしてなかったウホ。







「ルールブック?」


 公共フリー通信の二人のやり取りを聞いていたハシルは、自身のいる「敗者」用の待機部屋の中を見回した。


 ――少なくとも、二次リーグが始まる前は無かったよな。あるのはレーサーの待機室だけか?


 するとハシルは、待機部屋の片隅に、それまでには無かった小さな書架があり、小さな本がいくつか並んでいた。


 手に取って見ると、「アルティメット・カップ二次リーグ:ルールブック」とある。


 ――置いたなら、言ってくれよ……


 見ても、「お邪魔キャラ」には大して役には立たないか、と思いつつ、ハシルはルールブックを開き、読んでみることにした。




 そしてハシルは試合に呼ばれる事無く、次の「交流時間」を迎える。







<アルティメット・カップ 二次リーグ第343試合 最終結果(括弧内は賭けレート)>

1 一条ソウ(1.22倍):1位ゴール(勝利)

2 “ハイエナ”虎畝星光(2.96倍):リタイア

3 ゴリラ(3.33倍):2位ゴール(敗退)

4 五十嵐五十三(5.13倍):3位ゴール(敗退)

お邪魔キャラ1 加賀美レイ:一次リーグ復帰

お邪魔キャラ2 王・手霊査:敗者復活失敗

お邪魔キャラ3 キソ。:敗者復活失敗

お邪魔キャラ4 “四天王”バラクーダ井頭 → 出場辞退

お邪魔キャラ4(代理)ピコラータ鎖東:敗者復活失敗

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