Phase3. ソウ 二次リーグ二戦目
第23話 交流時間(2)
ハシルにとって二度目の「交流時間」は、その日の二次リーグの試合日程が全て消化された後に、用意されていた。
――今日は、呼ばれなかったな……
前回、共に出掛けた者は一人もいなくなってしまったハシルは、もう十人と残っていない待機部屋から、一人でショップ街へ出て行った。
「お前、結構危ない橋だったじゃねぇか」
ハシルは、率直な感想をソウにぶつける。
「そう?」
「だって最後、場所によっては最初にゴールできなかっただろ」
「別に、そうでもないさ」
ソウは言う。
「最初の攻防で、魔力感知を使ってる奴はいないって分かったからな。先にゴールの位置に気付けりゃ、対策を考える時間が作れる」
「けど、陽動作戦でギリギリの勝利じゃねぇか」
「どうかな。ゲート開きかけの、狭い所をくぐってゴールする操縦技術も皆無さそうだったから。多分、陽動しなくても勝ててた」
「それより、武装を着けといた方が安全に勝てると思うけどなあ」
ソウにとっては余裕の勝利だったらしいが、ハシルは正直、ハラハラした気持ちで試合を見ていた。
「気持ちは分かるけど、リワードはなるべく温存したいんだ」
ソウが言った。
「リワードを? なんで?」
「この大会、上位リーグに行くほど高価なパーツが買えるみたいだ。もっと上へ行った所で、一番速いパーツを確実に入手したい」
「お前でも、今の機体のスペックじゃ優勝はキツいって事?」
「決勝の相手によるけどね。プロ上位レベルが出てきたら、さすがに今の機体じゃキツい」
その時、道を歩く男が、ソウに後ろからぶつかった。
「っと、失れ――」
振り向いたソウを、その男は片手で、思い切り突き飛ばした。
「痛っ!?」
ソウは、背中からアスファルトの地面に倒れる。
「おい、何を――!?」
動こうとしたハシルは、何者かによって後ろから羽交い締めにされた。
「何だ!?」
「一条ソウ……噂通り、片脚なんだな」
ハシルは、ソウを突き飛ばした男に見覚えがあった。
待機部屋で見ていた映像に、出てきていたからだ。
「
虎畝星光は、筋肉隆々の腕を見せつけるようなタンクトップとジーンズ姿で、倒れたソウを怒りの眼差しで見下ろす。
――虎畝は二次リーグで負けた。この二次リーグ専用のショップ街には、いられないはず……
「試合じゃ、よくも俺に恥をかかせてくれたな」
虎畝は、ソウの胸ぐらを掴んで無理矢理持ち上げた。
――なのに、なぜここに!?
「機体に乗ってなきゃあよお」
ソウの顔面に、虎畝の拳が炸裂する。
「テメェが俺に、勝てる道理はねぇ!」
殴り飛ばされたソウは、再び地面へ吹っ飛ぶ。
「やめろ! こんな事して、何になるってんだ!」
ハシルは動こうとするが、羽交い締めにされていてソウと虎畝に近寄る事もできない。
後ろを見ると、二人の男がハシルの動きを止めている。
「何になる? 俺に言わせりゃ、レースで速い事こそ『何になる?』と言いてぇ」
虎畝が指を鳴らすと、彼の取り巻きと思われるガラの悪い男達が、数十人と姿を現した。
「さっさと終わらせて、ショッピング行こうよー」
虎畝の脇に座っていた、露出の多い服装の女が、腕を組んで虎畝の後ろに立っている。
「この世で目に見えて価値があるのは、カネと暴力だ。あとは、いい女」
虎畝は、倒れたソウの脇腹に蹴りを入れる。
「ぐえ!」
ソウが無様な呻き声を上げる。
「カネがありゃ、これだけの人数を呼べる。力がありゃ、気に入らねぇ奴はこうやって!」
虎畝はソウの、一本しか残っていない脚を踏みつける。
「クッ……!」
「……こっちの脚も壊しゃ、もうレースでも俺に勝てねぇだろ」
「やめろ、お前ら――」
声を上げたハシルの腹に、別の男がパンチを撃つ。
「ぐふっ……!」
ハシルは思わぬ衝撃に、膝をついた。
ゴミだらけの路上が、下を向いたハシルの眼前に広がる。
――クソ。ここはショップ街の、中心に近い所だぞ?
「オラオラァ! 助けて欲しけりゃ、土下座して謝れやあ!」
虎畝の、威勢の良い声がショップ街に響く。
――運営の奴らは、こういうイザコザには無関心かよ……!
「オイオイ、何だよこの女」
俯いているハシルの上で、男の一人がこう言うのが聞こえた。
「美人だな。構って欲しいのか……ぎゃぁっ!」
悲鳴の後に、ドサリという誰かが倒れる音。
「ぐああっ!」
そして今度は、虎畝が痛みに苦しむ声が、ハシルの耳に入った。
――……?
ハシルにされていた羽交い締めが、緩くなる。何かに気を取られて、力が抜けた感じだ。
ハシルが顔を上げると、虎畝の腕を掴み、彼の暴力を止める、小柄な美女の姿があった。
「アズサ!」
倒れたまま、見上げたソウが、彼女の名を呼んだ。
「はあ……まったく、相変わらず世話がかかりますね。一条さん」
その美女はそう言うと、呆れた、という表情でソウを見下ろした。
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