第20話 ソウ VS 加賀美レイ

 公共フリー通信は、レースの参加者全員で回線を共有しており、その会話も全員に伝わる。

 こと二次リーグにおいては、観戦者にも会話が筒抜けだ。


「お前、俺が心配じゃなかったの!?」


 我を忘れた加賀美かがみレイは、その公共フリー通信で堂々と一条いちじょうソウに呼びかけていた。


「俺が言うのも何だけどさ、元チームメイトが突然、姿を消したんだぜ!?」


「別に、何も気にしてなかったわけじゃないさ」

 ソウは、至って冷静な声で言葉を返す。

「ただ、お前の事だ。考えあっての事だろ? 事情を知らない俺が詮索するのも野暮だ」

「……まあ、そうだけどさあ。でも、アレだぜ? 万が一、さらわれたりって事も……」


「ニナは、ここへさらわれて来てる」




 突然、ソウの声のトーンが変わった。


 加賀美は、思わず息が詰まった。




「それって――」

「ぶっちゃけ、お前とこういう形で会えてホッとしてる」

「え?」




「その声。一次リーグで負けても、闘志は消えてないんだろ?」




「ああ……ああ!」

 再び柔らかいトーンで語りかけるソウに、加賀美は、力強く返事をした。

「また、後で話そうや!」




「二次リーグ第343試合を開始します」

 アナウンスに続けて、円形のフィールド中央に設置されたシグナルが、赤く点灯する。


 ――良かったよ。変に気遣いされたら、俺は余計な感情を持ってたかもしれねぇ。


 シグナルが、青に変わる。


 ――これなら、俺は……







 ――俺は、お前を容赦無く攻撃できる。







 開始と同時に、加賀美は正面のソウに向かって一直線に向かっていく。


 ――どうせお前は、武装を使わないだろ?


 加賀美の体当たりを、ソウはアッサリと避ける。しかし加賀美はソウを追うように方向を変え、執拗にソウに迫る。


 ――なら、反撃される心配はいらねぇ。狙いたい放題だ!




 ソウの機体は、加賀美の物よりも速い。ひとたび加速すれば、加賀美の機体を置き去りにして走る。


「回り込め!」


 誰かの声が、公共フリー通信から聞こえる。


「加賀美!」




「おうよ!」

 加賀美は勢いの良い返事をすると、ソウとは別のルートへ移動。

 別ルートからの、ソウとの鉢合わせを狙う。




 加賀美と離れたソウの機体は、さらに他の「お邪魔キャラ」に狙われていた。


 一機、また一機と、ソウの機体に向かって、「お邪魔キャラ」の黒い機体が迫る。


「喰らえ、ソウ!」


 加賀美はソウの動揺を誘うかのように、わざと公共フリー通信に声を乗せながら、ソウの機体へ挑む。


「いいぞ、加賀美!」

 先程の声が、加賀美を鼓舞する。

「どんな気分だあ? 元チームメイトから、何の気遣いもして貰えず、狙われる気分はよぉ!」




 瞬く間にソウの機体は、一機の機体と、「お邪魔キャラ」に取り囲まれた。




「ショックで、手元が狂っちまうんじゃねぇか? 可哀想になあ!」








「……おかしい」


 待機部屋で観戦していたハシルは、独り言をつぶやいた。


 誰がどんな顔で走り、誰が公共フリー通信で話しているか。それらは、各参加者のコクピットを映すモニターにより、一目瞭然だ。

 加賀美を鼓舞し、ソウを煽るレーサーは、虎畝とらうね星光せいこう。“ハイエナ”の二つ名を持つレーサーだ。


 ハシルは、この男の事をよく知らない。しかし、虎畝が「お邪魔キャラ」を従えている事に、ハシルは違和感を覚えていた。




 ――一機の「お邪魔キャラ」とレーサーが結託するのは、珍しい事じゃない。レーサーは自分が勝つ事、「お邪魔キャラ」は自分がターゲットを墜として敗者復活する事。利害が、完全に一致するからだ。


 ――けど、四機の「お邪魔キャラ」がレーサーと結託するのは、変だ。「お邪魔キャラ」同士でターゲットの取り合いになる。ましてや……




 「お邪魔キャラ」四人目であった“四天王”バラクーダ井頭いとうは、試合出場を辞退し、別の「敗者」と入れ替わっている。




 ――急遽参加が決まった「お邪魔キャラ」と虎畝が手を組む暇なんて、無かったはずだ!




 それにしても、加賀美レイは一体どういうつもりだ? 信頼してくれている風だったソウを普通に攻撃するとか、やっぱりクズ野郎なのか?

 そう思いながら、モニターで各レーサーの表情を確認したハシルは唖然と……というより、呆れて、少し笑ってしまった。


「一条、お前……」

 ハシルは、再び呟く。




「こんな状況なのに、なんて楽しそうな顔、してやがるんだよ」







「さあ、どうする!? お前は一対五だ!」

 虎畝は、息継ぎも忘れているかのように、絶えずソウを挑発する。

「一人が五人に、勝てると思ってんのか!?」


 四機の黒い機体が、次々とソウの機体めがけて体当たりを仕掛ける。


 しかし、ソウは全ての体当たりを軽々と避け、円形のフィールド内を自在に飛び回る。


「よく耐えてるな! しかし、一人が五人に――」

「勝てない理由があるのか?」


 ソウが、虎畝の言葉を短く遮った。


「人数じゃないだろ、強さを決めるのは」




「ああ、そうだな」

 ソウの煽り返しに、虎畝は意外にも、否定で返さなかった。


「ぶっちゃけ、俺も思ってた。おっせぇ『お邪魔キャラ』が四機いても、テメェに当たる気はしねぇ。一対五じゃ、勝てるかどうか分からねぇな。




 悠々と、ゆっくりとフィールド内を動いている虎畝の機体。その背後から、別のレーサーの機体が迫る。

 ソウを煽るのに夢中な虎畝の背後は、がら空きだ。


 その、狙いたい放題な虎畝を背後から……




 背後から追い越した機体が、追尾型魔力弾“赤い追跡者レッド・トレッフェン”を発射した。




 さらに別の機体が、“無敵道化スター”のバリアを機体に張った状態で、ソウの機体に向かって体当たりする。


 “赤い追跡者レッド・トレッフェン”を機敏なターンで回避し、体当たりしてきた機体も軽く避けるソウ。

 しかしその間にソウの機体は、虎畝を含めた三機の機体と、四機の「お邪魔キャラ」に取り囲まれた。




「ひゃっははははぁ!」


 虎畝が、大きな笑い声を上げた。




「一対五じゃねぇよぉ! だ!」




 嘲笑いながら、虎畝の機体が“赤い追跡者レッド・トレッフェン”を発射した。




「一人が、七人に勝てるわけねぇだろぉ!?」







<アルティメット・カップ 二次リーグ第343試合 途中結果(括弧内は賭けレート)>

1 一条ソウ(1.22倍)

2 “ハイエナ”虎畝星光(2.96倍)

3 ゴリラ(3.33倍)

4 五十嵐五十三(5.13倍)

お邪魔キャラ1 加賀美レイ

お邪魔キャラ2 王・手霊査

お邪魔キャラ3 キソ。

お邪魔キャラ4 “四天王”バラクーダ井頭 → 出場辞退

お邪魔キャラ4(代理)ピコラータ鎖東

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