第19話 敗者復活戦2 加賀美

 “四天王”バラクーダ井頭いとう

 「アルティメット・カップ」史上初の敗北を喫した四天王であったが、復讐リベンジの機会はすぐに与えられた。


「君を破った一条いちじょうソウを、撃墜したいだろう?」

 大会のオーナー・福馬ふくまサクは自身のオフィスへバラクーダを呼び、そして慈悲の笑みを浮かべながら言った。

「二次リーグはの王国だから、レーサーとして出場させるのは難しい。しかし『お邪魔キャラ』としての参加なら、既に各所が了承済みだ」


 聞けば、「お邪魔キャラ」としても、普通の参加者とは待遇が違う、との事だった。

 なんと、機体は「お邪魔キャラ」と同じ見た目ながら、追尾魔力弾“赤い追跡者レッド・トレッフェン”や攻撃無効化バリア“無敵道化スター”、果ては“雷撃サンダー”といった武装を装備した状態で、参加できると言うのだ。


 バラクーダは、二つ返事で出場を受諾した。




「一条……これで、てめぇを撃墜できるぜ……」

 テンションが上がったバラクーダは、ショップ街を歩きながら独り言をつぶやいていた。

「今度は、完全な不意打ちだ。『お邪魔キャラ』が体当たり以外の攻撃をしてくるとは、まさか思うまい」




 バラクーダは、同じ轍を二度踏まないよう、今回は慎重に考えて戦おうと考えている。




 あれだけの攻撃の雨を浴びせても、かすりもしなかった相手。いくら破格の条件とはいえ、最初の一撃で墜とせる、等という楽観的な観測では無かった。


 ――完全な不意打ちとはいえ、「魔力感知」って奴ができる一条なら、最初の一撃を躱してくる可能性はある。いや、ほぼ確実に回避してくるだろう。


 バラクーダは、一次リーグで魔力弾を回避する一条の姿を思い出しながら、考える。


 ――だが、立て続けに攻撃を浴びせられたら、どうだ? 「お邪魔キャラ」と同じ見た目の機体が、そこまで大量の攻撃を放ってくるとは、さすがに思うまい。奴も焦るはずだ。


 バラクーダは、一次リーグで一切の焦りも無く、全ての攻撃を避ける一条の姿を思い出しながら、考察する。


 ――そこで“雷撃サンダー”だ。いくらなんでも、ここまで回避はできまい。必ず当てられる……


 バラクーダは、一次リーグで“雷撃サンダー”を何発も当たり前のように回避した、一条の姿を思い出した。




 ――……ホントに当てれるか?




 バラクーダに、違和感。


 ――おかしい。当たるイメージが、全く湧かない。


「いや、オーナーが直々に復讐の機会をくれたんだ。そう易々と負けるような条件で俺を出場させるはずがねぇ」


 バラクーダは、オーナー・福馬の顔を思い出した。


 バラクーダは、噂を聞いていた。福馬は、彼が負けた時……




 負けた時……大笑いしていたらしい。




「おい!」


 バラクーダは、近くを歩かせていた荷物持ちに言った。


「は、はい!」

「二次リーグの事務局に伝えろ!」







「え? 井頭君、腹が痛くなって出場辞退?」

 福馬は、二次リーグの事務局から来た連絡を訊き、少し残念な気持ちになった。

「なんだ、勝ち目が無い事にもう気付いたのか。せっかく、もう一度無様に負ける爆笑シーンが見れると思ったのに」


「福馬様、お言葉ですが……」

 偶然その言葉を聞いた“四天王”の男が、言った。

「これ以上“四天王”が負ければ、“四天王”の名折れです」


「問題無いよ、井頭君なら」

 彼の言葉に、福馬は平然とした顔で返した。

「彼は、そろそろ“四天王”から外れて貰おうと思っていたんだ。いい加減、実力不足だからね」

「後任の候補が、いるのですか?」

 “四天王”の質問に、福馬は笑って答える。


「まだ『候補』ではないけどね。なかなか、有望そうな人材が見つかったんだ。“四天王”の再編には、ちょうどいい頃合いだよ」







 加賀美かがみレイ。

 元・一条ソウのチームメイト。


 いや、今も、チームメイトとして大会には登録されている。


 彼は公式戦のレース中、チームに対する裏切り行為をした。

 掲示板の指示に従って、めちゃくちゃな走りをしたのだ。

 それどころか、この「アルティメット・カップ」の運営がそそのかした「仲間を襲え」などというおぞましい要求を、一度は実行しようと考えてしまった。


 ――俺が、あいつらと肩を並べる権利を持てるかどうか、それは分からない。


 加賀美は、「お邪魔キャラ」の機体に乗り、操縦系統を確認しながら、考える。


 ――けど、その前に、俺は俺の負の遺産にケリを付ける必要がある。




 加賀美は、ソウからチームに誘われる前から、「アルティメット・カップ」のオーナー・福馬との因縁があった。


 福馬からの資金援助を受けて、加賀美は自身の機体開発をしたのだ。

 「アルティメット・カップ」へいつか参加する事を、条件に。


 プロになれなかった当時の加賀美は、そうしてでもレースに参戦したかったのだ。


 ――福馬から貰った金は、この大会の賞金で返す。それでこの大会、そして福馬とは、縁を切れる。……お前と向き合うのは、それからだ。ソウ!




 入場ゲートが開く。

 加賀美が「お邪魔キャラ」の黒い機体で入場すると、遠くに、一条ソウの機体が見えた。


 加賀美は公共フリー通信を開き、ソウに呼びかけた。


「ソウ! お前が俺を助けに来てくれたのは、本当に嬉しい!」


 ソウが何か返事を言う前に、自分の想いを全て伝えよう。加賀美は、そう考えた。


「けど、俺には、やる事がある! お前の力を借りるつもりも無い! だから、だから……」




「やり遂げるまで、待っててくれ!」




「加賀美……」

 ソウの声が聞こえる。

 ソウの言葉を聞き、意志が揺らいではいけない。そう思った加賀美は、ソウの返事を聞く前に、通信を切ろうとスイッチに手を掛けた。




「加賀美お前、この大会に出てたのか?」




 ――……ん?




「全然知らなかったよ。元気そうで何よりだ」

「えぇ!?」

「じゃ」

「ちょっと待ってちょっと待って!」


 加賀美は、慌ててソウを呼び止めた。


「何?」

「『何?』じゃねぇよ! お前、俺を探してここまで来たんじゃねぇの!?」

「いや、違うけど」

「なんで!? 皆が聞こえる通信で『待っててくれ!』とか言っちゃった俺、恥ずかしいんだが!?」

「あ、そういえばさ。ニナがこの大会にいると思うんだけど、見てない?」




「いや、俺の話を聞けぇー!」







<アルティメット・カップ 二次リーグ第343試合 出場選手一覧(括弧内は賭けレート)>

1 一条ソウ(1.22倍)

2 “ハイエナ”虎畝星光(2.96倍)

3 ゴリラ(3.33倍)

4 五十嵐五十三(5.13倍)

お邪魔キャラ1 加賀美レイ

お邪魔キャラ2 王・手霊査

お邪魔キャラ3 キソ。

お邪魔キャラ4 “四天王”バラクーダ井頭 → 出場辞退

お邪魔キャラ4(代理)ピコラータ鎖東

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