Phase2. ソウ 二次リーグ一戦目

第18話 一条ソウ、二次リーグに登場

 ハシル達は、モニターで試合の一部始終を観ていた。

 その戦いも、駆け引きも、断末魔も。

 「お邪魔キャラ」を含む、出場者全員のコクピット内の様子が映されたカメラにより、細かな表情の変化まで、全てが観戦者に伝えられた。


 時折、遠くから笑い声が聞こえた。

 どうやらVIPの観戦席が、この部屋の近くにあるらしい。

 これだけの設備を作れるのだから、部屋の壁を防音にも出来ただろうに。あえて、そうしなかったのだろう。




 ハシルにとっての救いは、高田たかだが最後まで悲鳴を上げる事も、苦悶の表情を浮かべる事も無かったという事だ。




 ――高田が、何をしたって言うんだよ。




 ハシルは憤りを覚えると同時に、不安になった。


 自分が試合に出た時、一体どんな醜態を晒す事になるのか。




 ――……今は、自分だ。俺まで負ける事に意味は無い。自分の敗者復活戦を、どう戦う?




 ハシルはその後も、いくつかの試合を観戦した。

 試合の合間、扉から部屋の外へ、次々とレーサーが出て行き、部屋の中の人数はどんどん減っていく。

 高田や我田が、この部屋へ戻ってくる可能性もあるか? と、ハシルは内心、ドキドキしていた。

 だが、この部屋を出て行った人間は、敗者復活の成功・失敗に関わらず、誰一人として戻ってくる事は無かった。




 観戦していて、ハシルは二つの事に気付いた。


 一つ。レーサーと「お邪魔キャラ」が結託しているケースは、意外と少ない事。

 二試合に一ペア程度、といった所だ。

 二次リーグの詳細と対戦予定を知った上で、狙いの敗者を見つけ、近付く。ここまでの準備を出来るレーサーは、少ないらしい。


 一つ。レーサーが“雷撃サンダー”を使用した場合、


 「お邪魔キャラ」の機体にも、魔力を使用したエンジンが使用されているからであろう。

 他のレーサーに防がれた場合のデメリットが大きいためか、一〇試合程度がおこなわれた中で、“雷撃サンダー”が使用されたのは一度だけだった。

 コレに関してはもはや、「お邪魔キャラ」側にとっては運でしか無い。

 爆発する黒い機体へ強制的に乗せられる「お邪魔キャラ」が、“無敵道化スター”を使用する事は、不可能なのだから。

 神業かみわざ消失ゴースト”が出来れば、話は別だが。







 ある試合の出場選手一覧が表示された時、ハシルはドキリとした。




 「一条いちじょうソウ」の名が、あったからだ。




 ――一条……お前はどうせ、攻撃する武装は持ってないんだろう?


 ハシルは、ソウの戦い方を想像する。


 おそらく、ソウは 30 分間、いかなる攻撃も回避し続けるだろう、とハシルは思った。

 それは、困難な戦いであろう。しかしハシルは、ソウが被弾する姿を想像できなかった。




「さて」


 ハシルの隣に腰を下ろし観戦していた青年が、立ち上がった。


 加賀美かがみレイだ。




「行ってくるわ」


 加賀美はハシルに一瞥いちべつもせず背を向け、部屋の出口扉へ歩いていく。




「え?」

 ハシルは呆気にとられ、そして、もう一度モニターに目を遣った。




 ハシルは、「一条ソウ」の名に気を取られて、「お邪魔キャラ」の名を見ていなかった。




 そこには、彼の名が記されていたのだ。







<アルティメット・カップ 二次リーグ第343試合 出場選手一覧(括弧内は賭けレート)>

1 一条ソウ(1.22倍)

2 “ハイエナ”虎畝星光(2.96倍)

3 ゴリラ(3.33倍)

4 五十嵐五十三(5.13倍)

お邪魔キャラ1 加賀美レイ

お邪魔キャラ2 王・手霊査

お邪魔キャラ3 キソ。

お邪魔キャラ4 “四天王”バラクーダ井頭

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る