第12話 ソウ VS “四天王”バラクーダ井頭 決着

 一条いちじょうソウの機体は、バラクーダ井頭いとうの想定より遙かに早く、一周してバラクーダの後ろからやって来た。


 ――速い! あんなレンタルのボロ機体で、なんでこんなに速く走れるんだ!?


 バラクーダは驚きながらも機体のエンジンを始動させ、冷静に、一条に向けて攻撃を開始した。


 まず、浮上したバラクーダの機体の真後ろまで、一条が迫った時。

 バラクーダは機体の背部から“赤い追跡者レッド・トレッフェン”を発射。正面から、一条の迎撃を狙う。


 一条は当たり前のように、左右の動きでそれを回避。


 追尾弾はUターンして再び一条へ向かう。その間、一条はバラクーダの機体を追い抜かし、前へ。




 バラクーダは、一条の機体が目の前に来た瞬間、大量の魔力弾を発射した。


 何発もの追尾弾が一条の機体を猛スピードで追う。だが、一条は上下左右、そして緩急差で軽々と避けていく。




 ――だが、エンジンを切っている余裕は、無い!




 何発もの追尾弾が一条を追う最中、バラクーダは“雷撃サンダー”のスイッチを押した。




 稲光が、光る。


 一条の機体付近で、爆発が起こる。




「やったぞ! ざまあみろ!」

 バラクーダは、勝利の雄叫びを上げた。

「墜ちるに決まってんだろ! 攻撃と雷、同時に撃たれたらよぉ! 当たり前だよなぁ!」




 バラクーダは嬉しさのあまり、一条の機体の残骸が墜ちていくのを見るため爆煙の中へ突っ込んでいく。


 視界が悪く、一条の機体は見えない。ソワソワしているうちに、爆煙から抜けてしまった。


 ――ちっ、機体を停めて、もうちょっと待つか……ん?




 ところが、一条の機体は既に、爆煙の中にはいなかった。

 爆煙を抜け、バラクーダの機体の遙か先。

 一条の機体は、平然と走行を続けていた。




 「……はあ?」




 ――俺は、幻覚を見ているのか?


 バラクーダは、魔力レーダーを見た。

 レーダーからは、魔力弾の反応だけが消え、バラクーダの機体と、そして、憎き一条の機体が、反応していた。





「なんでだよおおおおおおおおおおおお!」




 バラクーダは、怒りのあまり操縦席で叫んだ。


 先程の爆発は、“雷撃サンダー”が魔力レーダーで反応した魔力弾に落とされ、爆発を起こしただけなのだ。


「なんでだ! あり得ねぇ!」


 バラクーダは、怒りと共に大量の魔力弾を発射した。


「勝負を決めるのは、武装だ! 操縦技術の差が、武装の差を超える事なんてあり得ねぇ!」

 バラクーダは公共フリー通信をオンにして、思いの丈を叫びながら攻撃を続ける。


 公共フリー通信は、レース中の全ての機体に声を届けられる。

 バラクーダは一条に怒りをぶつけるため、そして、一条を動揺させ隙を作るために、叫ぶ。


「さっきので終わりじゃねぇぞ、一条! まだ魔力弾もあるし、“無敵道化スター”を使ってる今の俺なら、体当たりでもテメェを墜とせる! “雷撃サンダー”だって……“雷撃サンダー”だって、もう撃てねぇわけじゃねぇ!」




 叫びながら、バラクーダは“雷撃サンダー”のスイッチを押した。限界を超えた、四度目の発動だ。スイッチが反応するかさえ、バラクーダは知らない。

 だが、バラクーダの意志に応えてか、“雷撃サンダー”は四度目の発動をした。




 稲光。爆音。白煙。

 バラクーダはレーダーを見る。


 消えたのは、自身が撃った大量の魔力弾だけ。




「なんでだよおおおおおおおおおおおお!」


 叫ぶバラクーダ。


 しかし、その威勢に反して、機体の走る勢いは、みるみるうちに弱くなっていく。


「……あ?」

 バラクーダは、エンジンの魔力残量を見た。


 ほぼ、ゼロ。もはや、機体を動かす魔力も、エンジンには残っていなかった。




「なあ。バラクーダって、言ったか?」

 動きを停止し、墜落していく機体の中で、バラクーダは一条の声を聞いた。


 公共フリー通信で、一条が言う。


「レースに、恨みでもあるのか?」




 地面に墜ち、大きな揺れを感じながら、安全装置の作動音を聞きながら、バラクーダは虚ろな意識で声を聞いた。


 ――ちげぇよ、レースに恨みなんてねぇ。武装だ。武装が弱かった頃は、勝てなかった……今は強い武装があって、勝てるんだから文句は無い。そう、何の文句も……




「そんな気持ちで走って勝っても、苦しいだけだろ」




 ――……そういや、勝てて楽しかったのは、最初の数回だけだったな。







「ははは!」


 ソウとバラクーダの戦い、その一部始終を見終わると、紺スーツの男・福馬ふくまはソファから腰を上げ、笑い声を上げた。

「ほうら、言った通りだろう? 一条ソウが負けるなんて、万に一つも無いって」


 呆然と結末を見届けるハシル達を前に、福馬は笑顔で語る。

「一条ソウの強さは、自在な走行ルート構築だ。彼はコース内の全ての魔力を感じ取り、攻撃の回避ルートを見つける。そして卓越した操縦技術で、穴に針を通すようなルートも正確に走り抜く! 彼に攻撃を当てるには、走行可能なあらゆるルートを予測し、かつ、それら全てを潰す必要がある!」

 福馬の笑い声が、部屋中に響く。


「そんな芸当、井頭君にできるわけないだろう? 操縦の練習も、ろくにしていないのに!」


 福馬は、部屋の出口へゆっくりと歩いていく。


「まあ、仮に井頭君が真面目に練習していたとしても、勝てたとは思えないけどね」




「一条は……優勝するかもしれない」


 ハシルが、つぶやくように言った。


「マズいんじゃないか? アンタにとっても」




 福馬は、足を止めた。




「レース中にも関わらず、バラクーダと簡単に連絡を取れる。……アンタ、運営の人間だろ? それも、かなり上の人間」




「それで?」

 振り向いた福馬は、相変わらず顔に笑みを浮かべている。


「一条ソウは優勝して、この大会の運営組織を潰そうとしてる」

 ハシルは言った。

「余裕ぶってる場合じゃ、ないんじゃないか?」




「ハハ……確かに、私は運営組織のオーナーだ」

 福馬は鼻で笑った。

「そして、一条ソウの仲間をさらい、彼がこの大会へ来る目的を作ったのは……」




「一条ソウをここへ招待したのは、私だよ」




「オーナー……!? 招待したのも……」

「それより、そろそろ自分の事を考えた方がいい。まさか、自分の戦いはもう終わった、なんて思ってないよね?」

 福馬は、再びハシルに背を向ける。出口の扉が開くと、その先には数人の黒服の男達が控えていた。

「君の運命が本当に決まるのは、次の『敗者復活戦』だ」

 福馬は背を向けたまま、手を振った。慣れ親しんだ友人に、するかのように。


「活躍を期待しているよ、庵堂あんどうハシル君」







<アルティメット・カップ 一次リーグ第1108試合 結果(括弧内は賭けレート)>

1位 一条ソウ(1.50倍)二次リーグ進出

リタイア(機体破損) “四天王”バラクーダ井頭(1.50倍)

リタイア(機体破損) キソ。(20.74倍)

リタイア(機体破損) 太刀宮陽太(13.22倍)

リタイア(機体破損) ピコラータ鎖東(19.64倍)

リタイア(機体破損) 槍谷平帆(11.59倍)

リタイア(機体破損) 亀垣九郎(9.15倍)

リタイア(機体破損) 運ゲー太郎(25.12倍)

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