第11話 武装>操縦技術 を証明したい男

 公共フリー通信と違い、個別通話用の通信機には発信者の名が表示される。


 その名を見たバラクーダ井頭いとうは、慌てて通話状態にした。




 発信者は優しい口調で、バラクーダに告げる。

「“雷撃サンダー”が当たらなくて、困ってるんじゃないかい? 井頭君」


 その正体は、バラクーダをアルティメット・カップに誘った男、福馬ふくまサクである。




「お……オーナー!」

「まずは、君の考えを聞かせてよ。なぜ、当たらないのだと思ってる?」


「それは……“雷撃サンダー”の不具合ッスかね」

「いいや。君が二度撃った“雷撃サンダー”は、どちらも正常に動作した。だが、一条いちじょうソウはそれらをした」

「回避? バカな……雷を避けるだなんて、そんな。いや、それ以前に奴は“雷撃サンダー”の発動を予測する事も出来ないはず」

「出来るさ。発動の予測も、そして、回避も」

「はぁ!?」

「正確に言えば、雷を避けるのはさすがに無理だ。だが、


「一体、どういう事ッスか……?」

「その前に機体をどこかへ停めなよ、井頭君。どうせ君の操縦技術じゃもう、一条には追い付けないだろう?」







「“消失ゴースト”という技を、聞いた事はあるかい? ハシル君」


 二度目の“雷撃サンダー”直後。

 部屋で、観戦中の福馬がハシルに問うた。


「“消失ゴースト”?」

「知らないようだね。なら、“雷撃サンダー”の仕様は?」


 ハシルは、質問に答えかねた。

 なぜなら、“雷撃サンダー”の事を調べたのは今日、“雷王”我田がだ荒神こうじんと対戦する直前に、何とか防御方法を調べたのみ。

 使う側の都合である「仕様」など、考えた事も無かったからだ。


「“雷撃サンダー”は『、無差別に雷攻撃を撃つ武装』だ。発動の直前、大きな魔力がコース中へ飛ぶから、発動の予測は難しくない。……勿論、魔力感知ができる前提だけどね」

「……つまり一条ソウは、魔力の動きで発動のタイミングを予測……いや!」


 ハシルは首を横に振る。

「予測した所で、雷が避けられるとは思えない。そもそも、アイツは回避行動をしていたのか?」


「彼が回避のためにした行動は、一つだけ。回避するため、

 福馬は、趣味の話をする時のように、ニコニコとした顔で話す。


「エンジンを……切った?」

「重要なのは、“雷撃サンダー”が物体に攻撃する事だ。当てる対象をレーダーで捕捉する仕様上、


「そうか……」

 ハシルは、ようやく合点がいった。


「機体で魔力を発する部位は、反重力エンジン。だから、一条は“雷撃サンダー”を撃たれる直前にそれを切る事で、レーダーの捕捉から外れたのか!」


「気付いたようだね。悪くない理解力だ」

 福馬は微笑んだ。


「でも、そんなのは賭けだ。機体の操縦中にエンジンを切るなんて」


 地を走るガソリンエンジンの自動車でも、運転中に突然エンジンを切るのは自殺行為だ。

 速度の調節が不能になるだけでなく、パワーステアリングのハンドルは重くなり、左右の制御もままならない。


 宙を飛ぶ機体の制御は尚更、困難となる。


「魔法攻撃のタイミングに合わせ、エンジンのオフとオンを挟んだ機体制御。トッププロでも難度の高い技だ。だから、最初に伝説のレーサー“神威カムイ”が成功させた時、この技には名が付けられた」

 そう言って、福馬は微笑んだ。




「レーダーから機体を『消す』技術、“消失ゴースト”」




「ソウは数ヶ月前に一度、“雷撃サンダー”を使う相手とレースしてる」

 ハシルの近くにいた青年が、言った。

「公式戦じゃない、闇レースだけどな。その時に“雷撃サンダー”の仕様を見抜いたんだ」


「井頭君も、これくらいは知ってると思ったんだけど……二発も無駄に撃ったって事は、残念ながら、何も知らないんだろうね」


 言いながら、福馬はスマートフォンを取り出し、どこかへ連絡を始めた。


「……何をしてるんですか?」

「何って、教えてあげるんだよ。井頭君に、一条攻略のヒントをね」


 ハシルの質問に、福馬は不気味な笑みを浮かべながら答えた。




「このままじゃ、つまらないレースになってしまうだろう?」







「さ……“雷撃サンダー”に、そんな回避方法が……」


 バラクーダ井頭いとうは、福馬ふくまから「“雷撃サンダー”の回避法」を聞かされ、戦慄した。


 ――撃たれる瞬間に、エンジンを切ってレーダーの捕捉から逃れる……そんな事で、俺の“雷撃サンダー”を簡単に避けられるなんて……


「分かったかい? 適当なタイミングで“雷撃サンダー”のスイッチを押したって、一条いちじょうソウには当たらない。絶対にね」


「クソ、小賢しいマネを……しかし、奴に当てるにはどうすれば……」

「分からないなら、ヒントをあげよう。走行中に一瞬でも反重力エンジンを切る事は、非常に危険な行為だ。それくらい、プロの君なら分かるだろう?」

「……き、危険、ですか?」

「……」

「いや、そ、そうだ! エンジンを切っている時に魔力弾を撃たれれば、一条は回避行動ができない!」

「エンジンを切ると言っても、ほんの一瞬だ。レース開始時のように闇雲に撃っても、一条には当たらないよ?」

「つまり……“雷撃サンダー”と追尾型魔力弾……“赤い追跡者レッド・トレッフェン”のタイミングを合わせて……」


 バラクーダは、コース脇に停車した状態で深く考え、答えた。


 一条が一周して再びやって来た所で、撃墜する。

 このレースで勝つにはもはや、他に方法は無い。その事を、バラクーダは既に理解しているからだ。




「……出来そうな気がしてきたッス。ありがとうございます」


「タイミングはシビアだ。一条に、攻撃を喰らう隙を作らせるんだからね」

 上機嫌な福馬の声が、バラクーダにとっては、挑戦状を叩きつけられているように感じられた。




「……やってみせますよ。必ず、当ててみせます」

 バラクーダは、力強く返事をした。




「ああ。健闘を祈るよ」


 福馬からの通信は、向こうから一方的に切られた。




 ――そうだ。奴に攻撃は、当たる。当たらなきゃならねぇ。


 バラクーダは、自身の両頬を平手でパチンと叩き、気合いを入れ直した。


 ――操縦技術なんて物でレースに勝てるなんて、あっちゃならねぇ。勝つのは常に、より強い武装を持った奴なんだ!







<アルティメット・カップ 一次リーグ第1108試合 現在順位(括弧内は賭けレート)>

1位 一条ソウ(1.50倍)

2位 “四天王”バラクーダ井頭(1.50倍)

リタイア(機体破損) キソ。(20.74倍)

リタイア(機体破損) 太刀宮陽太(13.22倍)

リタイア(機体破損) ピコラータ鎖東(19.64倍)

リタイア(機体破損) 槍谷平帆(11.59倍)

リタイア(機体破損) 亀垣九郎(9.15倍)

リタイア(機体破損) 運ゲー太郎(25.12倍)

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