第2話 不思議な出会い

倒れたボタンの元にすぐに駆け寄りましたが、ボタンは血まみれで、子供の私が見てももう死んでしまうのだと分かってしまうほどです。でも...それでも...

「ボタン!お願い死なないで!」

言っても無駄って、むしろ困らせるだけだって、頭ではわかっているんです。それでも、心がそれを否定してしまう。私に出来ることは何も無いのに、ただただ、「死なないで」と繰り返しながらその場で泣くことしか出来ないのに。

あぁ、神様お願いします。もっといい子になるから、パパやママの言うこともちゃんと聞くから、嫌いななすびも残さず食べるから、だからボタンだけは助けて下さい。

その時です。ボタンにゆっくり近づく影が見えました。近くに来るまで涙で良く見えませんでしたが、先程の緑の子供たちがいじめていたゼリーのようなクラゲのような物体がボタンに覆いかぶさろうとしています。

「ダメ!やめて!!お願いボタンを食べないで!!!」

必死に引き剥がそうとしてみますが、そのゼリーのようなぶよぶよは掴むことができません。

すぐにボタンを包み込んでしまいました。

きっとボタンは丸呑みにされて助けるどころかお墓を作ることさえできなくなってしまうのだ。そう思えば思うほど、また涙が出てきます。

しかし、予想とは裏腹に不思議なことが起こります。ボタンを包み込んだゼリーが少し発光すると、少しづつボタンの傷が塞がっていきます。

「もしかして、治してくれているの?」

思えば結果的にボタンはこのゼリーも助けたことになります。きっと恩返ししてくれているのでしょう。

「ありがとう、ゼリーさんあなたは命の恩人よ」

ところが、ホッとしたのもつかの間、草むらがガサガサと激しく音を立てて、中から褐色のお姉さんが飛び出してきました。

「嬢ちゃんどいてな!そいつを倒せばいいんだろ!!」

そう叫びながらボタンにナイフを突き下ろそうとしています。

「ダメーーー!」

考えるよりも先にあやめはお姉さんの足に飛びつきました。今日は、訳の分からないことばかりです。本来なら、恐怖で動けなくなっていたかも知れません。でも今は、ボタンを失うことの方が恐怖です。勇気があるとかそういう訳では無く、それでも反射的に飛びついてしまうくらい、恐かったのです。

褐色の人も驚きます。

「何やってんだ!嬢ちゃん!早めに処理しないと、マナを吸収したスライムは厄介になるんだよ!!」

「この子はボタンを治そうとしてくれてるの。悪い子じゃないの。いじめないであげて!」

私も咄嗟に叫びます。

「何言ってんだ!スライムが他のモンスターを助けるわけねぇだろ!よく見てみろ!こうしてる間にもマナを吸って...いや...これはヒールだ!他のモンスターにわざわざヒールしてるってのか?おい嬢ちゃん、これはどういうことだ!!説明してもらうぞ!」

お姉さんが、困惑しながらもすごい勢いでまくし立ててきます。


私は今までのことを話しました。話しているうちに気がついたのですが、このお姉さん頭に猫のような耳が付いていて、しっぽがあって、筋肉がすごくて、お腹丸出しです。

時折動いているので本物なんだと思います。

「つまり...ここ...供が....食べ.. 泣き...ってことか?おい!聞いてんのか!」

ハッとしてお姉さんの顔を見ます。

「ごめんなさい」

「まぁいい、とりあえずお前は別の世界からそこに倒れてるやつと来てて、緑の子供、おそらくゴブリンだが、そいつにやられて、その傷をスライムに治してもらっているってことでいいんだな?」

「そうだよ。このゼリーはスライムって言うんだね。」

いつの間にか発光をやめて、眠っているボタンの上にいるスライムを見ながら言った。

「スライムも知らんのか?まぁいい、スライムって言うモンスターはな子供でも倒せるくらい弱いモンスターなんだが、獲物からマナを吸うとあらゆる属性の魔法を使ってくる厄介なやつになるんだ。とは言っても、普段はスライムなんかに捕まる間抜けなやつが、いるはずがないけどね。」

「モンスター?ポケ○ンってこと?魔法は、プリ○ュアが使うやつよね」

「何言っているのか全然分からないけど、モンスターって言うのは、さっき見たであろうゴブリンやそこに居るスライムなんかを指すんだよ。あんたが言うペット?の犬?ってやつはモンスターじゃないのかい?」

つまり動物ってことなのかしら?

「魔法はマナを使って使うことが出来る技だ。大きくわけて火、水、土、風、雷、闇、光の属性がある。人やモンスターによって使える魔法は違うんだ。」

やっぱりよく分からないけど、多分ポケ○ンとプリ○ュアを合わせたような世界ってことで大丈夫だと思う。

「ところが、スライムってやつは何故か全ての属性の魔法を覚えるんだ。これが結構厄介でね。近づきにくくなるし、こちらの魔法を打ち消そうとしてきたり、回復されたりと面倒なんだ。」

「つまり、このスライムが1番強いってこと?」

「いや、そんなことはない。むしろ1番弱いんだ。スライムは魔法を使うためのマナを自分で作れないから、他の生き物から奪うしかないんだ。魔法無しじゃ何も狩れ無いし、さっきも言ったが子供でも倒せるほど弱い。運良くマナを手に入れても、消費量も多いらしく低級魔法数発でおしまいさ。」

言っていることがどんどん難しくなっていきます。10歳の小さな脳みそは、もうパンク寸前です。

「1番弱いならどうして殺そうとしたの?」

お姉さんがバツの悪そうな顔をして答えます。

「お前の悲鳴と泣き声が聞こえてきたからだよ。スライム人間が殺られた話は聞いたことないが、子供が対処できないレベルまで強くなっちまっていてその上ほかのモンスターのマナを吸収してるなら対処は早い方がいいからな。」

それを聞いて気が付きました。お姉さんは私を助けるために、来てくれたのだと

「お姉さん、助けようとしてくれてありがとう。」

その言葉に反応して、お姉さんの猫耳がピクッと動きました。

「ところでお姉さんも、モンスターなの?」

お姉さんが急に立ち上がります。

「何馬鹿なこと言ってんだ。どっからどう見たって人間だろ、お前も獣人を差別すんのか!?」

「待って、ごめんなさい。バカにした訳では無かったの。」

お姉さんは座り直してくれました。

「そうだよな。獣人見るのもそりゃ初めてだよな。急に怒鳴って悪かったな。」

突然の大声に反応したのか、ボタンが起き上がりました。

「ボタン!良かった!もう痛いところはない?動いて平気?」

ボタンは、元気よく「ワン!」と答えてくれます。

「ようやく目が覚めたか。なら急いで出発しよう。村までは遠くないが、日が暮れる前に向かった方がいい」

「村まで送ってくれるの?」

「いや近くまでだ。村が見える所までしか案内しないよ。」


こうして、不思議な2人と2匹は村を目指して歩き始めました。

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犬とスライムとそれからわたし @komedawara88

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