第2話 一人目:佐伯姫花②
「誰だ!?」
俺の登場にいち早く気づいたストーカー君が大きな声でそう言った。ストーカー君の顔をよく見てみると、とても赤くなっており今すぐにでも怒鳴りつけてきそうなほど怒っているように見える。
逆に肝心の佐伯さんは俺の姿を見て大きく目を見開いている。どうやら俺との約束を思い出して気まずいらしい。
そもそもストーカー君がここにいなかったら面倒なことにはならなかったのだが。もし前からストーカー被害にあっていたのなら警戒していて欲しかった。
ストーカー君の正体は同じ学年の生徒だった。時折問題行動を起こし以前、出席停止処分をくらったことがある男だ。
「えーっとな…」
こういう場合、どんな行動を取れば穏便に済むんだっけ。そうだ、良いこと思いついた。
「先生呼んだけど、お前としては大丈夫なのか?」
「は、先生だって?ちっ、仕方ない。覚えてろよ」
ストーカー君はアニメや漫画で聞いたことしかない言葉を吐いて屋上を去っていった。つまり屋上には俺と佐伯さんだけということになる。
告白にはうってつけのタイミングになるわけだが…佐伯さんが言っていた彼氏がいるという話が本当なら告白は避けるべきだ。
どうしようかと俺が思案していると…
「ありがとう湯浅くん」
「ああ、俺の名前知ってるんだな」
「当たり前でしょ。私をここに呼んだ張本人なんだから」
「そりゃそうか」
なにしろこの学年の俺の知名度は致命的に低い。クラスメイトでも俺のことを知らない奴がしばしばいるのだ。こんな質問をしてしまうのも仕方ない。
「質問なんだが、さっきの男にはずいぶん前からストーキングされてたのか?」
「ええ、彼は室来 伊那っていう男の子で。多分湯浅君も知っていると思うけど少し問題を抱えている男なの」
優しいな、怖い思いをさせられているはずなのにオブラートに包んで紹介するとは。
「告白してきたのは一か月くらい前、気持ちは嬉しかったんだけどお断りさせてもらったの」
「そしたらストーキングされちまったと?」
うん、と佐伯さんは肩を少し震わせながら頷いた。その挙動から色々と大変だったのがひしひしと伝わってくる。
「それは災難だったな。あんな追い払いからしたからまたしつこく絡んでくるかもしれない。また絡まれたときは俺も協力するよ」
「ありがとう」
それで、と俺は続ける。
「ここに佐伯さんを呼んだ理由なんだが、どうやら出来ないらしいんだ」
「どういうこと?」
「いや、佐伯さんにしてしまったことが広まってしまえば俺の命が危ないんだよ」
佐伯さんの彼氏がどんな人かは知らない。今まで誰かと付き合っているなんて話は聞いたことなかったし、きっと他校の人なんだろう。
友達に話していない感じも鑑みるに内密にしたいものだろうし。
「命?湯浅君は危険なことに私を巻き込もうとしているの?」
「違う違う。俺だけがそうなるだけだから気にしなくていいよ」
そろそろ時間が危なくなってきた。この放課後の時間だけで俺は七人の女の子に告白しなければいけないのだ。
時間を守らないなんてご法度。十分おきに告白するつもりだったから佐伯さんにかけれる時間はあとちょっとしかない。
「じゃ、そういうことで。またストーカー君に絡まれていたら応援に入るよ」
俺が屋上から去ろうとしたところで、待って、と佐伯さんに服の裾を掴まれた。
「ど、どうしました?」
「ごめん、もしかしてだけど湯浅くんの用事って告白だったりする?」
「え、あ、一応そうだけど…」
「ならいいよ。告白してよ」
佐伯さんは何を言っているんだ。あなたには大好きな彼氏さんがいるのだろう?二股するような不純な人ではないはずである。
「いや、彼氏いるって」
「まあいいから、告白してよ」
鬼畜か。彼氏がいるのを承知で告白してくれと彼女は言っているのか。
気のせいだろうか、佐伯さんの瞳に光が宿っていないような気がした。
仕方ない。きっと告白しないとこの場から出ていくことは出来ないのだろう。ささっ、っと告白を済ませて次の現場に向かおう。
俺は佐伯さんの方に身体を向き返して視線を合わせた。俺の人生初の告白は彼氏持ちの女性か。
しかも彼氏がいるって分かった状態で告白なんて、どれだけ特殊だよ。
「佐伯さん、俺と付き合ってください」
「えーっと…」
「あ、返事はいいです。もしオッケーなら明日の放課後またここに来てください」
俺は次の人が待つ家庭科室へと走り出した。
彼女が欲しいので誰彼構わず告白したら全員ヤンデレで無事詰んだ minachi.湊近 @kaerubo3452
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