破:(1)自罪
私と海兵のジャックは日が昇る前に拠点から出発し、先住民族の住む地域を目指していた。
大陸と聞いていたが、実際の地形は想像と異なるものだった。
出発して約三時間弱。辺りは氷山に囲まれ、どうにもこの先に先住民族が住んでいると思えないのだ。
「船長、あれは......」
突然、前を歩いていたジャックが指をさす。
そこには、何らかの用途で使われていたであろう小屋がひっそりと建っていた。
その小屋の壁はかなり古いのか、崩れ落ちたり風化していたりしている。
「中には特に......いや、地図がある」
その地図には、ここ周辺の情報と例の先住民族の住む村について書かれていた。ご丁寧に緯度と経度、時刻まで記されている。
「......?......裏側にメモが......」
そこには第一回遠征隊の指揮官の記録と名前があった。
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ここ、北緯六十四度五十八分、東経百十一度三十三分より。
1491年9月11日より船体損傷。
1492年3月24日よりマリア号並びにフォックス号を放棄せり。
また、プリンス号一隻を用いて船員五十名を本国へ帰投させり。
『ジョン・ボート・ラック』
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ジョン・ボート・ラック。この人間は、第一次遠征隊の指揮官だった。
遠征隊は、この氷山に挟まれた流氷の上を船で進もうと欲したのかはわからないが、私達の通った進入路から北上し、船二隻が修理不可能な状態となり放棄した。
そして報告のためか、船員をプリンス号に乗せ、帰らせた。
本国で閲覧した資料によれば、たしかプリンス号は大型帆船で六十人乗りだった覚えがある。
大型故に進入路付近で待機させていたのだろう。
尤も、その船員は未だ帰ってきていないが。
ここで得られそうな情報はもうなさそうだ。
海兵と私は小屋から出ると、向かい側の岸になにやら人影が見えた。
「シロクマか!?」
遠くには厚い動物の毛皮を身につけ、弓矢を持った人間とシロクマがいた。
服装と装備から判断して、あの人間は先住民族の猟師といったところだろう。
猟師だからシロクマを討伐するのは当たり前だろうと思ったが、状況は刻一刻を争うようだった。
「海兵!情報を得るチャンスだ。助けるぞ!」
「了解です!」
私とジャックは大河に浮く流氷を経由しながら向こう岸に渡った。
「そこの猟師!頭を低くしろ!」
ジャックは威嚇して二足立ちするシロクマに向けて、ピストルを向ける。
猟師は我々の言葉を理解したのか、はたまたジャックの構えた"モノ"を理解したのかはわからないが瞬時に体を伏せ、低姿勢になる。
すると同時に、ジャックのピストルから白煙が立ち込め、数秒遅れてバンッ!という銃声が響く。
射撃されたシロクマは脳天を撃ち抜かれ、力なく横に倒れた。
うつ伏せの猟師は頭を上げ、状況を理解したのか弓を手に持ち立つ。
先程は緊迫した状況下で確認する余裕がなかったが、その猟師は女性で、更にとても容姿端麗な顔立ちをしていた。
帝国にも美女はいるが、これほど美しい女性は見たことがない。
年は二十前半。そこにいるジャックと同じくらいか。
「貴方たち、まさか軍人?」
私とジャックは少し驚いた顔をする。
先住民族にいらぬ詮索をさせないため、あえて質素な服装をしてきた。
猟師だけあり、相手の立ち姿でわかるようだ。
だが、問題なのはそこじゃない。
「貴様、何故その言葉が使える」
ジャックが行った。
そう。先住民族が我ら帝国の言語を使用している。
「もう忘れたか!?お前らが私達"ディアナ民族"にしてきたことを!!」
一瞬、なにを言われたのか理解できなかった。
全く身に覚えがなかったからだ。
「落ち着いて聞いてほしい。我々は、その軍服を着た兵士に用があるだけだ」
猟師は不思議げな面持ちをする。
「なんだ、貴様らはアイツラとは関係ないのか?」
「いや、恐らく関係なくはないが......とりあえず話を聞かせてくれないか?」
***
猟師の証言でハッキリしたことがある。
我々の認識している先住民族とはディアナ民族のことで、猟師の言う軍人とはやはり第一次遠征隊のことだった。
そして、なせディアナ民族は敵意を向けるのか。
それは第一次遠征隊がディアナ村を占領。つまるところ、植民地にしたのだ。
植民地にされた地域は何を強いられるのか。歴史的に見ればすぐに分かる。
その結果がこれだ。
「そうか......勘違いしないでほしいのだが......」
「あぁ、もうわかってる......あなたらがアイツラとは違うことぐらい......」
猟師は少し残念そうな、ホッとしたような複雑な顔をした。
「あのクマから助けてもらったお礼だ。あなたらの必要な情報を、村の長に聞いてみるといい」
猟師は私達をディアナ村まで案内してくれるようだ。
「後、私の名前は《オフィティカ=ウィン》だ。」
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