クリスマスの日に気がついた。私の頭はハゲている

ソルティーヤ・ポメ

第1話 クリスマスの日に気がついた。私の頭はハゲている


12月25日


こんな悲しいタイミングがあるかよ。

そう呟いたところで「そだね~」と相槌を打ってくれる人もいない。一人暮らしで寂しいと思ったことはなかったけど、流石にこの時ほど寂しかったことはなかった。

街中ではクリスマスソングが流れ(私は出かけず引き籠りなので聞いていないが)、世の中の大半の人間がホールのケーキとチキンを買ってはSNSにアップしていたであろう最中、安アパートの一室でひっそりと絶望して泣いているひとりのアラサー女がいた。私だ。

頭が、本来であればふさふさとたくさんの毛髪で覆われていなくてはならない頭皮が、きれいに丸く禿げていた。


思い返してみれば、前兆があった。

抑うつ状態になって無職に成り果ててから1年間ほど、不摂生のお手本のような生活をしていたし、暫くは風呂にも入れなかった。この「風呂に入らない」は湯舟に浸からずシャワーで済ますという意味ではなく、浴室に一切立ち入らないという意味だ。どんなに気合だあ!と掛け声をかけて体を持ち上げようとしても体が物理的に動かず、布団とトイレの往復だけで一日が終わる日々だった。まだトイレに行けただけ自分は偉いとも思った。


そもそも、メンタルぐちゃぐちゃステータスの人間がまともな食事・睡眠・運動を出来るわけがないんだよ。

「日光を浴びないと鬱になるよ☆」

「鬱には筋トレ!筋肉はすべてを解決する(バンプアップされた二の腕の写真)」

よく目にするメンタルやられた人へのアドバイスも、自分がいざ病んでみてわかったことがある。

「それは動ける気力体力がある人間の話だよなあ!?」

これに尽きる。動けないのに動けと言われましてもねえ……と布団の中でスマホを眺めながら思っていた。


あと、食事。

栄養とか考えられるわけないんだよな!ずっと寝たきりなんだから。こちとら何も食べない日だってあるわ。

心療内科に行っても栄養バランスがどうこう言われて唖然とした。

まさか、自炊をしろと仰っている……?この私に!?

言われた瞬間にそう言い返せなかったのはひとえに私が小心者なせい。チクショウめ。料理出来る元気があったらとっくに働いてます。病院にだって決死の覚悟と徹夜で挑み、ようやく行けたんですよ。

栄養バランスの取れた食事は死にました。

その結果、私はお湯を注げば出来るカップ麺をすすって一年間生き延びていた。


そんなわけで、皮膚のターンオーバーの期間なんて超越する月日をめちゃくちゃな生活で過ごしてきた私は、無事に円形脱毛症になりましたとさ。おめでとう。


「なーんか最近頭が無性に痒くてフケが出るし髪の毛がごっそり抜けるんだよなあ」なんて呑気に考えていた12月24日までの私へ。今すぐ頭皮を確認しとけ。お前の頭、ハゲてっからよ。


一応おめでたい日であるクリスマス当日にハゲている事実が発覚したのは悲しかった。

そして私を更に切なくさせたのが、己の頭皮の状況確認をしようと覗き込んだ全身鏡が曇っていて何も見えなかったことだ。鏡の拭き掃除なんて、最後にいつやったか思い出せもしないもんな。自業自得だ。

そうはわかっていても、割れている手鏡とスマホのインカメラでどうにかハゲの場所を目視しようと無理な体勢を取っている自分の姿は、見ていて痛々しすぎて泣けてきた。10代の頃の私が今の私を見たらどう思うんだろう。情けなくてその場で舌を嚙み切るかもしれない。

30代の私は情けなさくらいで死のうとは思えなかったので、千と千尋の神隠しの釜爺みたいに腕をめちゃくちゃな方向に曲げながらハゲた部分を手でそっと触れてみた。

なんか……しっとりとしている。キモ……。

皮膚というより肉を触っている感じだ。私の頭皮は脂性肌らしい。顔面は乾燥肌なのになんでだよ。せめて統一しろ。


そして、30分ほど釜爺の体勢で格闘してからわかったことだが、円形脱毛は一か所ではなく三か所ほどあった。なんなら後頭部登頂は頭皮が全見えという悲惨な状態だった。泣いた。

昔、父親(ハゲている)がせっせと育毛シャンプーや育毛剤を買い漁っては試していた。その光景がふと脳裏を過ぎる。

遺伝か、環境か。どちらの要素もありますねー。つまりもうダメです。


とりあえず育毛剤買いに行かなきゃ。ただし今日は無理。精神的ダメージが大きい。


次回、育毛剤編。




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クリスマスの日に気がついた。私の頭はハゲている ソルティーヤ・ポメ @umeboshi5

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