2ー4 つばさファッションショー
服屋に入ると早速、ガーリーな可愛らしい衣装がお出迎えしてくれた。
フリルに彩られたピンクのワンピース、黒のプリーツスカート、チェック柄のセットアップ。
それ以外にも、厚底靴などのアイテムが並んでいる。
「こ、ここが……つばさてゃ御用達のお店……っ!」
「あっ、新しい服もある! こっちはこの前買いそびれた限定モノ! すごいですよヒビキさん、お宝の山です!」
数々のアイテム達に興奮を隠せない翔に、ヒビキは微笑む。
その心の中は、ついさっきの興奮していた状態から引き続き、高ぶりつつあった。
(ヤバい、こんなに目キラキラさせてるつばさてゃ見たことない! かわわわわわわぁぁぁ!)
「ハッ! すみませんヒビキさん、ボクってばつい、興奮しちゃって……」
「そんな。つばさちゃんが楽しそうなら何より、ご馳走様……じゃなくて、眼福です!」
思わず本音が出てしまったが、ヒビキは何とか誤魔化す。
翔は少し頰を赤らめながら、頭を掻く。
「そ、それよりつばさてゃの新しい服選びに、付き合わせてください」
「はいっ!」
そう言うと翔は、気に入った服を手に、試着室へと入っていった。
***
(ううう……すっごい見られてる……)
着替えまで待っている間、ヒビキは悶々としていた。
何故なら……
「ねえ、あの人めっちゃカッコ良くない!?」
「嘘嘘! めっちゃイケメンなんだけど! 身長高っ!」
「モデルさんかなぁ。ていうか、どうしてこんな可愛いお店に?」
「どうしてって、決まってるじゃない。彼女とのデートでしょ?」
「いいなぁ。あんなに身長高かったら、押し倒された時絶対心臓止まっちゃう~」
ガーリーな衣装に囲まれた店内で、今の綾音、もといヒビキの存在は良くも悪くも、目立っていた。
高身長、モデル体型、そしてクールなイケメン顔。
古来から「カッコイイ」と言われてきた特徴を持ち合わせたヒビキのオーラに、買い物客達は皆目を引かれてしまう。
更に、翔を待っている時のポーズも、普段のコスプレの癖が出ているのか、図らずもその格好良さを際立たせていた。
「あ、あの、写真とかって撮っても……」
「すす、すみません。今はちょっと……」
「お願いします! SNSにはアップしたりしないので、お願いします!」
ついには、ハートを射貫かれた女子が声をかける始末。
コスプレをしているときはまだ対応できたが、オフで男装していた時を想定していなかった。
あたふたしているうちに、買い物客の中からハートを射貫かれてしまった乙女が次々と増えていく。
どう騒ぎを止めればいいか分からず、ヒビキは完全に固まってしまった。
「あ、その、今日はオフで、普段はコスプレしてるからそっちで――」
(ヤバイヤバイヤバイヤバイ! こんなことになる普通!? う、嬉しいしめっちゃ照れるけど、けどこれ以上は流石にお店の迷惑になっちゃうし……! 助けてつばさてゃぁぁぁ!)
心の中で必死につばさへの助けを求める。
と、その時だった。
「ヒビキ君、ちょっといい……」
翔は更衣室のカーテンから、手だけを出してヒビキを呼ぶ。
振り返ると、翔は心配そうな目でひょっこりとヒビキと目を合わせ、
「背中のファスナーに手が届かなくって……お願い、閉めて?」
と、まるで彼氏に甘えるように言った。
続けて、鏡越しにパチパチと目を瞬かせて、ヒビキに合図を送る。
それを受け止めたヒビキは、多分そうだろうと察し、目を瞑りながら背中のファスナーを上げる。
「あ、ああ。全く、しょうがないなぁ、つばさちゃんは。ほら、できた」
そして、彼女とイチャイチャしている風に演技をしつつ、両肩に触れる。
熱烈なその光景に、乙女達は思わず頬を赤くしながら、しかし彼女がいることに少しばかりショックを受けつつ、ヒビキから離れていった。
「……大丈夫でしたか、ヒビキさん」
「はい。お陰で助かりました。それじゃあボクはここで失礼……」
「待って、これで着替え終わったので」
その時、更衣室から二歩離れた足が止まり、再び二歩進む。
心拍数は急上昇、今にも破裂しそうになっていた。
「そ、それじゃあ……」
カーテンの奥から声が聞こえてくる。それだけで、ヒビキの心臓が飛び跳ねる。
そうして、ゆっくりと開くカーテン。
その奥に新しい服を着たつばさてゃがいると思うと、気が気ではなかった。
「どうですか、ヒビキさん」
試着室から現れた翔は、ゴシックロリータ系にも似た姿に変身していた。
元々の地雷系メイクで彩った顔はもちろんのこと、黒と銀色のアクセサリーがよりダークなイメージを印象付けている。
しかしこれまでの翔のイメージは病みカワイイ系、清楚系と「カワイイ」を主体としたものが多かった。
その分、ダークな雰囲気を纏って変身した翔の姿は、まさに激レア、SSRの称号を与えてもいいほど希少だった。
「か、カッコかわいいです! これはバズりますよ!」
「ほ、本当ですか? ボク、ゴスロリはあまり着たことないので……」
「そんなことないですよ! むしろ珍しいから、ハネ友たちはギャップで萌え萌えになりますって」
「ヒビキさんがそう言うなら、決めた。これ、買います!」
翔はそう言って、再びカーテンを閉じる。
一方、先行で翔の珍しい姿を生で鑑賞したヒビキは、破壊力のある可愛さにガッツポーズをしながら、立ったまま気絶してしまった。
(ゴスロリの 推しをこの目で 捉えたり 我が生涯に 悔いはなきかな)
***
「ありがとうございました~!」
店から出た後、ヒビキは翔の持っている大量の紙袋を見ながらそう言った。
翔は両手に大きな紙袋を抱え、少し重そうにしている。
だが、翔は優しい笑顔で答えた。
「大丈夫ですよ。いつもたくさん買いますし」
「そう言わずに、オレはいつだってつばさちゃんの荷物持ちにだってなりますよ」
「気持ちは嬉しいですけど、友達なら尚更、荷物持ちは頼めないですよ」
翔は謙虚な姿勢で答える。
その考えはまさに育ちの良さから来る、つばさてゃの純粋な優しさだと、ヒビキは思った。
「それにほら、さっきはボクに付き合ってくれたので、次はヒビキさんの番ですよ?」
「オレのやりたいことは……」
やりたいこと。ヒビキもこの日のために色々なことをしようと考えていると、ふと通りかかった女子高生たちの会話が耳に入ってきた。
「これはめっちゃ映えるくない?」
「ね~。やっぱりプリクラだよね~」
(プリ……クラ……)
刹那、ヒビキに電流が走る。
そして、閃いた。
「……クラ」
「え?」
「つばさちゃんと、プリクラを撮りたい、です!」
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