17話
お昼を食べ、お腹が落ち着くまでゆっくり休憩した。
お腹いっぱい食べた後に急に動くと具合が悪くなることもある。
クラリッサの提案した1時間の休憩も、そのあたり込みだろうし。
「あー、おいしかった。無限に食べれる味だったわね」
「ええ、デブの味がしたわ」
「欲を言うなら、サラダ的な付け合わせが欲しかったね」
「ここらで一杯、お味噌汁が怖いのです」
あなたの提供したカラアゲも好評だった。
ケイ推薦のメニューはハズれ無しと考えてよさそうだ。
あなたのレパートリーにあるカレーも、ライスとの相性抜群との太鼓判が押されている。
今夜はカレーライスを出すので、ぜひとも食べに来て欲しいと提案してみる。
「カレー! 今夜はカレーを食べさせてくれるの!?」
「ジューンの移動商店で材料全部買わないと食べれないカレーが!」
「カレーと聞いては引き下がってはおれないのです!」
「金曜日にカレーを出してくれないタイトとはおさらばだよ!」
思った以上の激しい反応に面食らう。
そんなにカレーライスが好きなのだろうか?
「もちろん、カレーライスはみんな大好きだよ」
「カレーを食べれないと気が違ってしまうのです」
「週に1回はカレーがないとよね!」
「10人前のレディーが100人前のレディーになっちゃうわ!」
なるほど、この調子だとよっぽど食べるらしい。
ライスは多目に炊いておくことにしよう。
まぁ、今晩のメニューはともかく。
ゴキブリの大群も粗方焼け死んだようなので、行くとしよう。
「そうね! カレーのためにお腹を空かせないと!」
「唐揚げを全部消化するのです!」
「デルタチーム、いくわよ!」
「最高の晩餐のため、最高のコンディションにしておかなくちゃね」
みんなも意気軒高だ。気合はバッチリ。
解除された先ではうず高く灰が積もっている。
燃え尽きたゴキブリの残骸だ。
特段不衛生でもないはずだが、気分はよろしくない。
あなたは吸い込まないよう口元を手で覆いながら進む。
ゴキブリがみっしりと詰まっていたのだろう玄室。
そこへと入り込んでみると、壁一面にびっしりとゴキブリの卵鞘が。
身の毛もよだつ光景にあなたは思わずぶるりと震える。
これが孵化したら、一体どれだけの数のゴキブリになるやら……。
「ひえ……あとで焼却処分しましょう……」
「ぞっとする光景なのです……」
「ナパームをたっぷりと持って来て、念入りに焼かないとね……」
「この光景だけで拷問として効果がありそうなくらいだね」
あなたも処分には賛成だ。
あまりにも悪夢的な光景過ぎる……。
ゴキブリ部屋の先。
続く部屋への扉に姉妹たちが取りつく。
そして、そっと扉を開けて中を覗く。
先ほどのゴキブリ雪崩の悪夢が脳裏を過ぎるのだろう。
先ほどまでのような無策での突撃はしていない。
「ん~……よく見えないのです」
「暗視装備なんて持ってないわよ」
「今までの部屋は最低限の照明はあったけど、ここはないね」
「照明が必要ね」
あなたは『光棒』を取り出し、それで壁を殴りつける。
衝撃によって埋め込まれた金片が光を発しだす。
それを玄室内へと放り込むと、内部がまばゆく照らし出される。
「なるほど、完全にギミック型玄室ダンジョンね。2~3の玄室がありそうだわ」
「こっちが入るまで内部のモンスターは反応しない、しかしこっちも干渉できない。そう言うタイプみたいだね」
ドロレスの言う通り、玄室の内部にはモンスターの姿。
光で照らしだされているにもかかわらず、まるきり無反応。
そしてモンスターはと言うと、屈強なオークの姿が3つ。
「とりあえず確認してみましょうか」
言いつつ、アンジェリカが今まで背負っていた銃を手に取る。
そして、それを扉の隙間から差し込んで発砲する。
放たれた弾丸がオークに直撃するが、全く通用せず弾かれる。
やはり、ドロレスが言うように内部に入るまで不思議な力で干渉が弾かれるのだろう。
「まるでゲームなのです」
「そうだね。まるで将棋だね」
「は?」
「あ、そうだね。お姉さんに分かりやすく言うなら……そう、まるでチェスだね」
「は?」
たしかに、ドロレスの言う通り、まるでチェスのようだ。
ゲーム開始までは、お互いの駒に干渉することはできない。
そんな当たり前のルールが、現実に適用されたならば。
こういう異様な光景として見られることになるだろう。
まるでチェスと言うのも言い得て妙だと言えるだろう。
「…………」
「ドロレス、なんだか気恥ずかしいからって全身を掻き毟るのはやめた方がいいわよ」
「なのです」
「もう、肌が荒れちゃうわよ! やめなさい!」
なぜか全身を掻き毟り、それを止められるドロレス。
なんだかよく分からないが恥ずかしかったらしい。
悪いことを言ってしまっただろうか? あなたはごめんねと謝った。
「違うんだ……悪いのは全部私なんだ……うおおおおお……!」
「もう、落ち着きなさいドロレス!」
「いい加減にしないと勝負下着履かせてお姉さんの部屋に放り込むわよ!」
「それが嫌ならマイクロビキニと選ばせてやるのです!」
すばらしい。実に滾る。
どっちも最高においしそうだ。
「はぁ、はぁ……さすがに勝負下着は辛いからやめておこう……」
「とりあえず行くわよ。アンジェリカ、ドロレス、あなたたちはバックアップ」
「わかったわ。ドロレス、援護射撃よ」
「うん。がんばるよ」
「では、私とクラリッサで突撃なのです!」
あなたも剣を抜き払って突入の準備をする。
「行くわよ。3、2、1……ゴー!」
「突撃ぃぃぃい!」
「皆殺しだぁぁぁ!」
「私たちの勇気はやつらの比じゃないわ!」
4人が一斉に突っ込み、アンジェリカとドロレスが扉の左右に展開。
しゃがみこんでの射撃姿勢、
バララ、バララと3連射の発砲音は非常に大きく強力。
かなり強力な弾丸を使っていることが分かる。
その援護射撃を受けつつ、クラリッサとブリジットが突撃していく。
普通に誤射されそうな突撃だが、たぶんそれも織り込み済みなのだろう。
どうせ不死身で死なないから、誤射されてもまぁいいかという……。
あなたは誤射されたら嫌なので、『魔法の矢』を使うことにした。
エルグランドの『魔法の矢』なので狙いを定める必要もない。
手にした剣を向けた先、部屋の一番奥にいたオークに直撃。爆散する。
「死ねぇぇぇぇ!」
「なのですぅぅぅ!」
鈍く重い、獣の唸り声のような騒音。
それはクラリッサとブリジットの手にした銃から響いている。
銃口の下部分に配置されている刃が高速で駆動しているのだ。
振り下ろされたライフルの一撃。
オークがそれを手にした槍で受け止める。
が、一瞬で槍の柄を叩き切り、その先のオークにライフルの刃が直撃。
「ぎゃあぁあぁぁぁぁあ゛あ゛ア゛ア゛ア゛ァ――――!」
壮絶な悲鳴が響き渡る。発しているのはオークだ。
それもそうだろうと、あなたの顔が引きつる。
ライフルについている刃は高速で駆動している。
そんなもんを叩きつけられたらどうなるか。
そんなのは火を見るより明らかだ。
刃によって肉が削ぎ飛ばされ、血肉が飛び散る。
オークの屈強な肉体が削り飛ばされ、臓物が飛び散る。
あまりにも悲惨な死に様だった。
いくらなんでも残酷すぎるだろう。
噴き出した血に塗れる2人は不愉快そうに眉を顰めている。
「うええぇ……弾の節約にはなるけど、相変わらず最悪だわ……」
「なのです……でも、今日は調査報酬もらえるのです。お風呂いけるのです」
あなたは2人に水をぶっかけてやった。
さすがに不衛生過ぎる。病気になってしまうだろう。
まあ、あの不死身っぷりを思うと病気も一瞬で治るのかもだが……。
「わ、ありがとう。さっぱりしたわ!」
「ふわー、血が流れるだけでもさっぱりするのです! ありがとうなのです、お姉さん!」
しかし、なんと言うかすごい銃だ。
独特の形状をした銃は見慣れているので不思議にも思っていなかったが。
まさか、駆動機関を備えた銃剣みたいなものを装備しているとは。
物凄く面白そうなので、あなたも一丁欲しいくらいだった。
「あら、お目が高いわね。装備班のロールって子に言えば融通してもらえると思うわ」
「この銃自体は量産品なので、そんなに高いものではないはずなのです」
それはいいことを聞いた。
地上に出たら融通してもらうことにしよう。
血まみれの2人を軽く水で流してやり、一応戦利品の確認。
まぁ、残念ながらと言うべきか、予想通りと言うべきか。
オークはロクなものを持っていなかったので報酬はほぼナシだ。
大した品質でもないファルシオンやスピア。
粗末な作りのジャベリンやら、粗雑なレザーアーマー。
そして本当に効果があるのかも怪しいポーション。
「しけてるのです」
「まぁ、所詮オークだものね。弾使うのがもったいない程度の敵だし」
まぁ、めぼしいファルシオンやスピアだけは回収しておく。
武器としての価値はなくとも、素材としての価値はあるだろう。
大した値段にはならないが、弾代くらいにはなればいい。
「そうね。ポジティブに考えましょう。少なくともマイナスじゃないわ」
「本命の報酬はタイトからの調査報酬なのです。これはお小遣いみたいなものなのです」
そう言うわけだ。では、次に進むとしよう。
あなたたちは次の玄室へと進む。
次の玄室も今の玄室と同様、真っ暗な部屋だ。
先ほど回収した『光棒』を投げ込んでみる。
すると、ぼんやりと浮かび上がる黒い人影。
だが、それは光によって照らしだされても黒くぼんやりとしている。
つまりそれは光の不足によってそう見えるのではない。
光の下でもそのように見える存在なのだ。
「レイスと来たわ。こりゃ参ったわね」
「レイスはアンデッドで……非実体だったわね」
「私たちは純粋物理攻撃しか使えない」
「つまり完封されるのです!」
そう、レイスは非実体の存在である。物理攻撃は通じない。
クラリッサら4姉妹の攻撃手段は純粋物理攻撃のみらしい。
銃火器を主体として使っているのでそうだろうとは思っていたが。
彼女らはレイスを相手に戦闘となった場合、完封されるのだ。
「50発で片付くでしょーか……?」
「1体だけだし、うまく行くことを祈りたいけれど……」
ブリジットが手にしているでかい弾倉。
同時にポーション瓶……いや、オイル瓶を持っている。
中身はどうやら『上級魔法武器化』のオイルのようだ。
『上級魔法武器化』ならば矢玉にも効果を発揮させられる。
効果を発揮した矢玉は魔法の武器になるのでレイスにも通じる。
純粋物理攻撃しか持っていないという難点への対策はちゃんとしているらしい。
そんな彼女らに対し、あなたは自分のことをお忘れじゃないかと呼びかけた。
「はい? と、言いますと?」
あなたは『ポケット』から呪文書を取り出す。
そして、随分と前に記載して以来、1回も使っていなかった魔法を探す。
見つけた魔法の呪文回路を構築し、それを自身の内面へと転写。
あなたの高度なチャージ技術は並ではない。
だいたい200回分くらいのチャージが出来た。
あなたはブリジットの手にしている弾倉に触れ、魔法を発動させる。
つまりは『上級魔法武器化』。レインに教えてもらった魔法だ。
ブリジットの手にしているオイル瓶の中身にかかっているのと同じ魔法である。
「おおおお……そうでした、魔法使いの同行者がいるのです!」
「と言うことは、魔法での援護してもらい放題!」
「最高。私のにもおねがいするよ」
「頼りになるー! お姉さん最高!」
お安い御用だ。
あなたは次々『上級魔法武器化』を弾倉へとかけて行った。
4つの弾倉に魔法をかけ、あなたたちは部屋へ突入。
そして、4人からの一斉射撃を受けてレイスは瞬く間に粉砕された。
50発で片付くか不安でも、その4倍の200発ならば確実に片付く。
まこと、数とは力である。物量の直線運動は分かりやすい対処だ。
「最高ね!」
「本当ならこれだけで金貨300枚もかかるのです」
「それが、タダ! お姉さん最高! 大好きー!」
「魔法使いの援護は最高だね。だって、タダ、だし」
好評なようでなによりだ。
あなたはどんどん進もうと先を促した。
「そうね。リロードして進むわよ」
「なのです」
「よっしゃ、最高だね」
「やってやろうじゃない!」
各々が新しい弾倉を装填する。
しかし、先ほども思ったがデカい弾倉だ。
クラリッサたちは小柄なので余計にデカく見える。
重量が嵩むことは妥協して、威力と弾数を取ったのだろう。
『アルバトロス』チームは弾数は妥協して軽量さを取っている。
性格が出るというか、運用場面でうまく選定しているというか。
こういった武器を使う者たちの考え方は一種独特だ。
冒険者のスタイルも、時代を下って増えたというべきか。
いずれあなたもこうしたスタイルに適応しなくてはいけないだろう。
老害と呼ばれるようになるのは、つらいことだ。
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