6話
「私たちの戦法、その基本戦技の名を、『流石だよなシスターズ合戦礼法』と言います」
「相変わらず終わり散らかしたネーミングですよね」
「お堅く表現すると『戦時国際法遵守型戦法』なのですが」
「こっちの方がまだマシ」
「この戦技の基本ドクトリンは、誰にでも出来ることを基本にしています。一定以上の戦闘力を発揮でき、なおかつ極めて強力な個への対抗を主目的とします」
「戦時国際法を合戦礼法と訳すネーミングセンス」
「そのために、極めて広く知られた武術流派の他、軍事訓練を複合し、誰にでも一定の威力が出せる銃火器を主体として戦法を構築しました」
「流石って語句はどこから出て来たんですかね……」
「……やかましいんですよツッコミはよそでやんなさい! よそで!」
カル=ロスがキレた。
「負けたことが気に食わないのは分かりますが、最初から勝てないと分かってたでしょうに!」
「でもでもだって! ワンチャンあるかもって思ってたんだもん! 思ってたんだもん!」
「勝てるかあんなの! 無法過ぎる! 私たちが気合込めて銃撃てば、10式戦車の正面装甲貫通できるのに!」
「だから最初から言ってるでしょうが! うちのお母様のおっぱいは最高に柔らかくて張りがありますが、大和の装甲より堅固だって!」
「なんでおっぱいに限定した!?」
「7.62×51じゃ威力足らないって言うんですか!」
「根本的にカル=ロスのお母さんには46サンチ砲でも通じないんじゃないかと言う疑惑が」
「『空の振り子』の威力は46サンチ砲なんか目じゃないので実際通じないと思います」
「クソゲー!」
「ナーフしろ!」
負けたストレスのせいか、『アルバトロス』の語気が荒く、態度も投げ槍だ。
負けた経験がないわけではないのだろうが、かなり少ないのだろう。
実際、あなた抜きのEBTGメンバーなら人数の利もあって普通に勝っていた強さだ。
こんな感じでふてくされてしまうのもやむなしか……。
「ええい! 話を戻しますよ! 私たちの戦法です! 戦法!」
「私たちの戦法は、個性を抑圧し、画一的な戦法と武器で教科書通りに戦うという最高に日本人らしい戦法です! 個性なんていらなかった!」
「その通りではあるんですけど、言い方!」
「まぁ、基本的には誰にでも出来る軍事教練を主体とした戦術ですね。武器類の輸送にカル=ロスの『四次元ポケット』を使うのと、データリンク代わりにアキラのサイキックを使うくらいで」
「あとは負傷者が出た時、アストゥムの回復魔法を使うくらいですかね?」
あるものは使うのがあなたの基本だ。
他の面々も、なにかしらの得意技術はあるのだろう。
以前にも面識のあるアキサメは特に剣技に秀でている雰囲気がある。
その割に、銃器を主体とした戦法を志向するのだろうか?
まぁ、遠距離戦の方が安全で確実と言えばそうではあるのだが。
やはり、至近距離にまで戦いを持ち込むと、負傷の可能性が上がるので。
「あんまり特殊な技能は使うだけで身元がバレますので。その辺りのリスクを最大限減らしたと言いましょうか」
その割に、カル=ロスは魔法を使うし、アキラはサイキックを使うのだろうか?
「私の身元がバレたとしてですよ。母親の命が惜しかったら、おとなしく投降する事だな……と私が言われるでしょうか?」
あなたが人質に取られた状況と言うことだろうか。
……いったい、どうやってあなたを人質にしたのだろう?
そもそも、それほど強くて人質を取る必要があるだろうか?
あなたを人質に取れるならカル=ロスくらい余裕の瞬殺のはずだが……。
「お母様が人質に取られるなんて、女絡みでしかないでしょう。娼婦100人用意されて自主的に人質になったとかです」
その線はかなりある。しかし、それは人質と言えるだろうか。
なにをどうやっても危害を加えられない人質は人質足りうるのだろうか?
「そうですね。私はたぶんその状況になったら、なにをふざけてるのか真面目にやれとお母様に怒ると思います」
なるほど。そもそも身元がバレても家族に危害が及ぶ心配が少ない。
だからカル=ロスは身元がバレるような技能を平気で使うわけだ。
「そう言うことです。アキラとアストゥムも、身元がバレたところでどうにもなりませんからね」
サイキックは遺伝的要素が強いという。
アキラほど強力なサイキックならば、両親もさぞ強力なサイキックだろう。
アストゥムはいったいどういう感じなのだろうか?
「アストゥムは神格の寵児なので、上級神格を人質に取れる化け物である必要があります」
あなたでも無理だそんなの。
「まぁ、そう言う家族がメチャ強なので心配要らない奴しか身バレが許容できないのです」
「使っても早々身バレの心配はないだろうと言う技能もあるのですが、まぁ、万一のことを考えて、と言うことですね」
なるほど、そのあたりはよく分かった。
しかし、そんな制限ありきであの強さとは。
真の力を発揮したらどれほど強いのか気になる。
「あー、私が真の力を解放すると……あの、なんか……目にも止まらぬスピードで、相手をキルユー出来ます」
「適当なことを言わないように。実際のところ、人によってそのあたりは結構違いますのでね」
「秋雨とかもえぎは真の力を解放すると強くなるんですが、アスマとか睦美は解放する真の力がないので……」
「と言うか、私たちの場合、真の力を発揮するのに必要なのは環境の方なので……」
「たしかに。私たちは市街地戦に特化してるので、平原でヨーイドンで殴り合うのは得意ではないんです」
たしかにそう言うのもいる。市街地向きの戦技も存在するように。
あなたのような冒険者とは違い、市街での戦いを生業とする職業も存在するのだ。
決闘請負人であるとか、仲裁人であるとか、酒場の用心棒であるとか……。
ただ、『アルバトロス』の場合は市街地戦と言うから戦争の形態に関する話なのだろう。
野戦ではなく籠城戦や、掃討戦と言ったようなものが得意と言うことなのだろう。
たしかに、軍隊的な性格の集団であることを思うと納得の傾向ではある。
「お分かりいただけましたか」
あなたは頷く。そちらも知りたいが……さすがに市街地は用意できない。
領内の村でやってもいいが、領民を殲滅してどうしようというのか。
「まぁ……私たちの戦闘力はそんなものです」
あなたは気になっていたことを尋ねる。
つまり、痛覚をまるきり感じていないように見えたのは気のせいかと。
「いえ、ちゃんと痛覚はありますよ。なんと言うか、痛いことに慣れ過ぎて、多少痛いくらいでは堪えなくなってしまっているだけで」
「手足ちょん切られたくらいじゃ今さら喚きもしませんよ」
「首を刎ねられた経験も結構ありますからね」
首を刎ねられたのによく生きてたものだ。
まぁ、首を切られても30秒以内に繋げば割と生還できるのは確かだが……。
「まぁ、そんな感じでして……すみません、正直なことを言うと、あんまりお役には立てないと思います……」
「NAISEIでお役に立とうと思ったのに……!」
「この世界がァ、割と近代だからぁ……! 近代だったからぁ……!」
嘆く『アルバトロス』の面々。
あなたは可愛い女の子が12人も警護してくれるならそれだけで嬉しいよと答えた。
それに、言うほど内政でも役に立たないわけではなさそうだし。
なんか高性能な小麦の種籾を持って来てくれたらしいではないか。
その一握りの種籾だけで万金に値する価値があるのではないだろうか。
その時点で既に内政面では役立ってくれたと考えていいだろう。
なに、内政はまだまだこれからだ。
きっと、『アルバトロス』の面々が役立つ場面もあるだろう。
あなたはまだまだ活躍の機会はあるから期待しているよと促す。
「……なんと言うかほんと、リーダーの素質すごいですよね、カル=ロスのお母さん」
「人を褒めておだてて、エサぶら下げてその気にさせるのが最高にうまいのは認めます」
褒められたのだろうか……?
さて、試合後の講評も聞いて、しばらく。
仲間たちに屋敷の近くで大爆発を起こすなと怒られたりしつつ、仕事をこなす。
この屋敷に関しても、改築が必要なところがあるのでその辺りを進めたり。
根本的に使用人が不足しているという問題もある。
元々は代官が使っていたので、最低限で済まされていたが。
あなたの場合は本拠として使うので、いろいろ必要なのだ。
雇用する女の数を増やす理論武装と言うわけではない。
あくまで、そう……これから我が子を育てることを思うと、使用人が必要なのだ。
いろんな分野の家庭教師とか、将来側近となる同年代の子供とか、そう言うのが……。
それに、あなたのトイネにおける政治的な立場も難しいところがある。
あなたからすると、ダイアの策略で国に縛り付けられているだけだが。
周囲からすると、ダイアの格別の高配で引き立てられたと見えるだろう。
するとやはりダイアの意志はきちんと受け止めなくてはいけないだろう。
ダイアの不興を買ってもそれ自体は怖くもなんともないが。
ダイアの嚇怒の巻き添えを恐れた近隣貴族に断交されたりすると困るわけで。
いざダイア女王が号令を発した場合、軍を率いて参陣する必要もあるだろう。
常備軍とまでは言わないが、従騎士なんかは用意が必要だろうし……。
そんな仕事をこなすうちに夜がやって来た。
「すみません、ご主人様……薬師様の腕を治してもらえませんか?」
「腕の骨が折れました……」
さぁそろそろ夕飯にしようか、と言うところで、腕のへし折れたクロモリが来た。
どんだけ過激なプレイしたんだとあなたは思わず遠い目をする。
もうちょっとこう、なんと言うか、手心と言うか……。
「い、いえ、そのっ、少し腕を掴んで引っ張ったら折れてしまいまして! まるで小枝みたいにポキッと折れちゃったんですよ!」
「はい……サシャ先輩の言う通りです……」
「だからその、わざとではないというか、そう、不幸な事故だったんです! たしかに凄く痛そうに叫ぶ薬師様はすごくよかったんですが! 決してわざとでは!」
あなたはクロモリの両腕を取る。
指先でその肌の表面を撫でて、頷く。
偶然折れたという割には両腕が折れているようだが……。
「……気のせいではないでしょうか?」
絶対に気のせいではない。
「気のせいですよ。ねぇ、薬師様」
「はい……サシャ先輩の仰る通りです……」
どう考えてもサシャに言わされている。
あなたはあまりにもモラルのないサシャのサディストぶりに思わず顔を覆った。
よくもまぁ恩人で恩師のクロモリをここまで痛めつけたものだ。
あなたはクロモリの脇腹を軽く指先で突いた。
「うぎっ……!」
クロモリがうめき声を上げてその場にうずくまった。
やはりだが、あばら骨も何本か折れているようだ。
先ほどから妙に呼吸が浅いと思ったが、呼吸による胸郭のふくらみが苦痛だったのだろう。
クロモリの首元を覆っているスカーフを引き剥がす。
そこには青黒く浮かび上がる、細長い痣。
女性の細い指で、首を絞められた痕跡だ。
あなたは溜息を吐いて、クロモリに『軽傷治癒』をかけた。
その瞬間、全ての傷が一瞬で癒え、真っ青だったクロモリの顔色も回復する。
「あ……ありがとうございます、あなた様」
「よかったですね、薬師様」
「は、はい……」
どんなプレイもさせてくれるクロモリがサシャに調教されている。
これは後でクロモリを丁寧にサシャから寝取らなくてはいけないだろう。
あと、サシャには躾が必要なようだ。さすがにやり過ぎである。
まったく、今夜が愉しみだ……。
EBTGのメンバーと、『アルバトロス』チームの面々。
警護役でこそあるが、あなたの中では娘とその友人たちと言う扱いだ。
そのため、食卓を共にし、大いに食べて飲んでもらっている。
「実家特有のご馳走と言っていいんでしょうかこれ」
「なんでもいいです、タダ飯のチャンスです」
「高性能な肉体の維持には食費がかかりますし、何より量が多くて調理の手間がね……」
『アルバトロス』チームの健啖さは見ていて気持ちいいほどだ。
てんこ盛りの米を、これまたてんこ盛りの肉で消費していく。
飲み物は謎の粉をあなたのミルクで溶いたものを飲んでいる。
「お母様のミルクはやはり最高ですね……濃厚で病みつきになりそうな味わいで……」
「ほんとだ、すごく美味しい。ジャージー牛みたいな濃厚さがありますね」
「北海道ミルク味プロテインが究極の美味と化してます……!」
「リッチショコラ味にゴージャスな甘さが追加されて最高ですね」
よっぽどおいしいのだろうか? あなたはちょっと気になった。
そうしてみていると、カル=ロスがそれに気付いたのか『四次元ポケット』を開いた。
そして取り出したのは、瓶入りのミルクと、謎の粉が入った袋。
それをカップに入れて溶いて、カル=ロスが渡して来た。
「どうぞ。初めての方にも飲みやすいバナナプロテインです。あ、このミルクはお母様に頂いたやつではなく、私のものですので」
なるほど、それでは心して飲むとしよう。
あなたはややどろりとした液体を口に運ぶ。
すると、ミルク由来の濃厚で病みつきになりそうな味わいにバナナのたしかな風味。
ただの粉でしかなかったのに、しっかりとバナナを感じる……。
いったいどうやって調合された薬なのだろうか?
あなたは驚きつつもたまらない味わいのドリンクを飲み干す。
唇に付着したドリンクを舐め取り、とても美味しかったとカルロスに感想を言う。
「それはよかったです。そのドリンク1杯でステーキ肉1枚分くらいのたんぱく質が取れます」
凄い量だ。飲み物でそれほどたんぱく質が取れるとは。
食の細い人間でも筋肉をつけるのに最適な飲料だろう。
まして、健啖な『アルバトロス』チームならばより良い体の材料となる……。
あの世界の優れた技術は肉体の強化にも活用されているわけだ。
よく考えてみると、『アルバトロス』チームの面々のボディバランスは非常に整っている。
あなたの目から見て偏りも狂いもない、均一で均整な美しい鍛えられ方だ。
それが出来るようなトレーニング理論があり、そこに目いっぱい筋肉を搭載できる食事方法がある。
なるほど、『アルバトロス』チームの使いどころが見えてきたかもしれない……。
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