5話

 飛び出して行った面々を追いかけ、あなたは屋敷の外に出る。

 屋敷の周辺に家屋はなく、整地もされていない野原が広がっている。

 そこでは『アルバトロス』がウォーミングアップに勤しんでいた。


「来ましたね、お母様! さぁ、いくさをはじめましょう!」


「戦だぁぁぁぁぁ!」


「セイコーとかそんなもんより戦の方が楽しいですよ!」


「最後まで生き残っていたチームが一番えらいんです!」


「すなわち、力こそ正義マイト・メイクス・ライト!」


「勝ったチームが晩御飯のおかずを1品多く食べれる!」


 ウォーモンガーとかだったのだろうか?

 まぁ、そのあたりはどうでもいい。

 戦いを愛していようが嫌っていようがなんでも。

 あなたは苦笑しながら剣を抜く。


「開始でよろしいですね!」


 あなたは頷く。


「では……逃げろォォォオ!」


「撤退! 撤退!」


「マッハで逃げるんだぁぁぁ!」


 そして、『アルバトロス』が凄い勢いで逃げ出した。

 あなたは呆気に取られ、その背中を見送る……。

 が、数秒ほどして追いかけなくてはと走り出す。


「お母様、これあげます!」


 カル=ロスがなんか投げつけて来た。

 あなたは思わずそれをキャッチする。

 金属製の筒状の道具だ。なんだろうこれは?

 思わずまじまじと見つめたところそれが炸裂した。

 あなたを強烈な光と爆音が襲い、視覚と聴覚が潰された。


 が、嗅覚と身体感覚は十分に残っている。魔力だって探知可能だ。

 あなたは鋭敏な身体感覚で周辺を探知し、再度走り出す。


「至近距離のスタングレネードの爆破を喰らって平気で走ってるんですけど!」


「普通は体を丸めて苦痛に耐えるはずでは!」


「うちのお母様がその程度で怯むわけないでしょう!」


 しかし、『アルバトロス』の面々は足が速い。

 あなたもかなり足は早いのだが、『アルバトロス』の方が明らかに速い。

 時の針を速めれば楽勝で追いつけるが、それはずるいだろうし……。


「たあっ!」


 なにかが投擲された音。あなたは腕で顔をかばう。

 が、直後にあなたの足に勢いよく何かが絡みつく。

 あなたはそれによって足を縛られ、勢いよく地面に倒れ込んだ。


「今だ! 集中砲火!」


「撃て! 撃て! 撃てぇぇぇ!」


 そしてあなたの体にガンガン直撃する金属の感触。

 どうやら、背負っていた銃で撃たれているらしい。

 なかなか口径は大きめで、皮膚に食い込んで大変痛い。

 が、あなたの防具は貫通不能だし、皮膚も頑張って我慢すれば問題ない。


「銃では威力が足らない!」


「持っててよかった迫撃砲!」


れい距離射撃! いっけぇぇぇ!」


「ぐわっ!」


「あ痛ぇ~!」


「腕の骨が折れた!」


 なぜか向こうから悲鳴。そして、あなたを強烈な爆破が襲った。

 なにがなんだかよく分からないが、砲で撃たれた気がする。

 もちろん、あなたはその程度でどうにかなるほどやわではない。

 立ち上がり、足を縛っていた紐を引きちぎる。


「わ、私たちの必殺技、迫撃砲の水平撃ちが効かない……!?」


「自爆技なのに!」


「やっぱり51mm軽迫撃砲では威力不足ですよ!」


「だったら81mm使えばいいでしょ!」


「それだ!」


「天才!」


 もちろん、撃たれ放題でいるわけもなく。

 あなたはようやく回復して来た視界で『アルバトロス』を捉える。

 4人組……ブラボーチームのようだ。

 あなたは肉薄し、剣を振りかぶる。


「ぬわーっ!」


「気合だぁぁぁ!」


 あなたの剣が短剣で受け止められる。

 あまり長くない、50センチほどの剣だ。

 剣技の心得もあるらしく、こなれた動きだ。

 が、残念ながら、あなたと渡り合えるレベルではない。

 あなたは2人の手から剣を払い落し、鳩尾に蹴りを入れる。


「あ痛ぇ~!」


「ゲロが出る!」


 が、2人ともに怯みもせず、懐から銃を抜いた。

 手のひらに収まる銃、いわゆる拳銃だ。

 それが連続で発砲され、あなたに直撃する。


 脳天に4発、左右の肩に1発ずつ、心臓部に3発。

 狙いは非常に正確で、実にいい腕をしている。

 あなたでなければ普通に致命傷だった。


「うっそでしょ、頭と胴体に3発ずつ入れたのに!」


「モザンビークドリルを当たり前のように耐えないで欲しい!」


 あなたは2人の腕を剣の腹で殴りつける。

 骨の折れた感触がし、2人の手から銃が転がり落ちる。


「まだだ! 私のバトルフェイズは終わっちゃいない!」


「たかがメインカメラをやられただけです!」


 そして、またも怯みもせずに立ち向かって来る。

 さすがにこれはおかしいぞとあなたは眉を顰める。

 そんな中、あなたが腕の骨を折った2人が足を狙ってタックルを仕掛けて来た。


 胴体ではなく足を狙ったタックル。これは対応が難しい。

 蹴り飛ばそうにも、両足に同時にタックルしに来ている。

 軸足の方はどうしても対応不能なので、掴まれてしまう。


 折れた腕も普通に使って、2人があなたの足にしがみ付いて来る。

 なるほど、普通ならばこの状態にされれば動けない。

 が、あなたの身体能力はその程度のことを問題にしない。


「あわあわわあわわわわわ」


「ひぎぃっ、怯みもしないから動きが痛い!」


 2人を足にくっつけたまま走り出す。

 足にナイフを刺そうとしてくるが、もちろん弾き返す。


「うっそでしょ、この人ナイフ刺さんないんですけどマジで」


「この人こんな強かったの!?」


 喚く2人。そんな2人をくっつけたまま、挑みかかって来る残る2人を迎え撃つ。


「でやあああぁっ!」


「命獲ったらぁぁぁ!」


 曲銃床の銃に銃剣が取り付けられている。

 弾丸は嘘を吐くが、銃剣は嘘を吐かない。

 誰かが言っていた言葉だが、たしかに銃剣は嘘を吐かない。

 少なくとも当たる距離まで走れば命中率は高いのだから。

 あなたはそんな銃剣を手で掴み取って止める。

 嘘は吐かないが、真実に辿り着くとも限るまい。


「ウソでしょビクともしない!」


「どういう力してんのこの人……!」


 2人から銃を奪い取る、そして、そのまま銃の銃床で腕をぶん殴った。

 骨が軋み、そのまま折れる感触がした。


「極めて痛い!」


「長女じゃなかったら泣いてた!」


 痛いとか口で言う割には怯みもしない。

 あなたはしょうがないかとため息を吐いて、銃を投げ捨てる。

 そして、剣を再度抜いて、2人の腕を切り飛ばした。


「うっそでしょこの人試合で腕を大根みたいに切り落として来たんですけど」


「腕を2本落とされたら負けだと思うでしょう! だが、アルバトロスチームはここからが違う!」


運命デスティニーを超える!」


 腕から血を流しながら飛び蹴りを放ってくる1人。

 もう1人は頭を振りかぶり、頭突きの姿勢を取る。

 やはり、何かおかしい。痛覚を感じていない節がある。


 あなたは2人をとっ捕まえる。

 そして、2人に向けて囁く。

 無力化されたことにして動きを止めるか。

 このまま本当にもう動けないほど痛めつけられるか選べと。


「アッハイ、もうやめます」


「大人しくしてます」


 それで結構。

 あなたは2人を放置し、残る2チームを探す。

 残るは8人だ。




 ブラボーチームによる足止めはほんの1分に満たない時間だった。

 だが、それだけの時間があれば、全力疾走で十分に距離が取れる。

 距離を取って、遠距離攻撃。『アルバトロス』の基本はそれのようだ。


 あなたの眼球目掛けてカッ飛んで来た銃弾を掴み取る。

 熱いのでそのまま放り捨てると、再度眼球目掛けて弾丸が飛んでくる。

 これもまた同様に掴んで放り捨てるが、すぐまた弾丸が飛んでくる。

 すばらしい狙撃の腕だ。あなたの眼球にクリーンヒットする弾道ばかりである。

 だが、狙いが正確な程度で通用すると思ったら大間違いだ。


 あなたは銃弾の飛んでくる方角へと走り出す。

 連続で飛んでくる弾丸を弾いたり掴み取ったりで無力化する。

 そして、およそ200メートルほどの距離を走ったところで目標を捕捉する。


 膝射しっしゃの姿勢を取り、長大な銃を構えている。

 チームメンバーが銃弾の入っている箱を渡したりなどのサポートをしているようだ。


「対物ライフルを当たり前のように弾いて来るんですけど!」


「せめて避けてくださいよ! 掴み取らないでくださいよ! 時速何キロで飛んでると思ってるんですか!」


「もうさぁ! 無理だよ! 弾当たんないんだから!」


「狙いビタリで当ててんのに弾当たんないのバグですよこれ!」


 4人は勢いよく喚き出した。

 銃を足元に捨て、手を挙げている。降参だろうか?


「ナイフと銃剣も捨てた方がいいですか! 殴られるの嫌なんで!」


「って言うか服脱いだ方がいいですか!」


「全裸土下座とかどうすか!」


「やめてくれカル=ロスのお母さん! 私たちは愛し合った仲だったはずだ! シルクのベッドで朝まで愛し合ってカフェオレをがぶ飲みしたり組み手をしたりして愛を確かめ合った仲じゃないか!! どうしてこんなひどいことをするんだ! 私はあなたのことを愛しているし、あなたも私のことを愛しているはずだ! わかった! 私があなた専用の肉壺になろう! 肉壺の鍛錬欠かさぬ鬼畜兵士になろうじゃないか! だからもうよせやめるんだ! いつもの優しいあなたに戻ってくれぇぇぇ!」


 あまりにも勢いのある命乞いにあなたは呆気に取られる。

 実戦形式とはいえ、これは試合なのだが……。

 ともあれ、あなたは事実無根の虚言を垂れ流す……ムツミに落ち着くように言う。

 いくらなんでも狂乱し過ぎである。ふざけているんじゃなかろうか。


「殴らないですよね?」


 あなたは頷く。降参するなら殴らない。

 それに狙撃をしていた子……アキラがほっと溜息を吐く。

 心底安堵したような顔で、アキラが叫ぶ。


「かかったなバカめ!」


 一瞬の後、アキラと他3名が消えた。

 そして、あなたは爆炎に呑まれた。



 なるほど、足元に爆発物を設置しておいて、敷物で偽装。

 その上で狙撃をし、肉薄されたら命乞いをして勢いを削ぐ。

 その後、アキラのサイキックによるテレポートで離脱し、あなただけを爆破に巻き込む。

 まったく、なんてクレバーなやり方をしてくるのだろうか。


 よくよく考えると、無理とか殴られたくないとかは言っていたが、降参とは一言も言っていなかった。

 偽装降伏……いや、偽装降伏だろうか? あなたが勘違いしただけと言えばそう……。

 ともあれ、よくもやってくれた。うまいこと手玉に取られてしまった。

 

 もう本気でブチのめすとしよう。次は命乞いも聞かない。

 ブチのめして無力化してから聞くことにする。

 あなたは周辺を探知し、8名の位置を確認し、そちらへと駆け出した。




 そこでは陣地が構築されていたが、迎撃はなかった。

 あるのはただひとつ、下着姿のカル=ロスが立っていた。

 黒のセクシーな下着姿で、完全に丸腰だ。

 なるほど、色仕掛けであなたを騙し打ちしようと言うわけだ。

 こんな見え見えの罠にあなたが引っかかると思っているのだろうか。


「お母様……触りたくありませんか?」


 触りたい!!!!!


 あなたは大声でお返事をした。

 天にまで響き渡れと、この世の全てに轟けとばかりに。

 喉も張り裂け、腹も破れよというほどに、力強く叫んだ。

 それくらいあなたはカル=ロスに触りたかった。

 あなたはあまりにも愚かだった。


「じゃあ、触ってもいいですよ?」


 よせ、罠だ! あなたの理性がそう叫ぶ。

 だが、本能が罠でもいいと大音声で叫んでいた。


 あなたはその本能に抗えず、カル=ロスへと手を伸ばす。

 たぶん、触る前に爆破されるとかなんかそう言うアレなのだろうな。

 そう思いながらも、あなたは一縷の望みをかけてカル=ロスの胸に手を伸ばす。


「すみません、罠です」


 知ってた。


 カル=ロスが『四次元ポケット』から取り出したもの。

 それはロ・ラの魔科学文明の破壊兵器、その到達点たるもの。

 『空の振り子』。その発射コントロールキーだった。


 畜生こんなこったろうと思っていた。

 あなたは泣きながら『空の振り子』の破壊半径から逃れようと踵を返す。

 アレの誘導性能はかなり高いが、それでも半径100メートルくらいの誤差は出る。

 逃げておいて損はないはずだ。少なくとも無意味ではないと思いたい。


「あ、触っていいのは本当ですよ? はい、可愛い義理の娘の生おっぱいですよ」


 虚偽ウソじゃないんだよな……!

 あなたは逃げるのをやめ、泣きながらカル=ロスの胸へと手を伸ばす。

 『空の振り子』の投射体が迫ってくるだろう中、あなたの手がカル=ロスの胸に触れる。


「あ、これつけますね。どうぞ」


 あなたの頭に『空の振り子』の誘導ビーコンが突き刺される。

 それを一顧だにせず、あなたは娘の乳房を堪能する。


 柔らかく、弾力があって、暖かい。

 これこれ、おっぱいとはこういうもの……!

 興奮が最高潮に達すると同時、『空の振り子』の投射体があなたの頭に直撃した。


 直径50センチ、長さ7メートル、重量約27トンの金属棒。

 その直撃の運動エネルギーは極めて膨大であり。

 あなたの体が軽々と吹き飛ばされ、地面が砕けた。




 空の遥か彼方、宇宙空間を浮遊し、飛翔し続ける人工物。

 それは月のように地球の周りを浮遊し続けるため、人工衛星と呼ばれる。

 その人工衛星から発射されるのは、アダマンタイト製の金属棒。


 これを宇宙空間で十分に加速させ、大気圏に突入させる。

 それこそが魔科学兵器の到達点、『空の振り子』である。

 唯一の欠点は狙いが大雑把なことだが、それを補う手もある。

 命中させる対象に誘導ビーコンを突き刺せば、極めて正確に着弾させることが可能だ。

 事実、あなたの頭部と言う極めて小さい範囲にアダマンタイト製金属棒は直撃した。


 さすがは究極破壊兵器と言うべきか。

 極めて頑健で、膨大な生命力を持つあなたの生命力ですらゴッソリと削れた。

 直径50センチ、長さ7メートル、重量約27トンの金属棒だ。

 こんなもんが超高速で激突してくるのでそりゃ痛い。


 しかし、模擬戦に究極破壊兵器を使って来るとは。

 いくらなんでもやりすぎではなかろうか……。

 まぁ、あなたにダメージを通そうと言うなら妥当なのかも。


 あなたは頭を掻きつつ起き上がり、悲惨なことになった周囲を見渡す。

 金属棒の直撃に抗わず、自分で跳んだので周辺の被害は小さいが……。

 それも半径数百メートルが吹っ飛ぶほどの破壊が撒き散らされた。


 カル=ロスは大丈夫なのかと探ってみると、無事なようだ。

 おそらくなんらかの魔法でダメージを無効化していたのだろう。

 1度限りとか、ごく短時間のみとか、そう言う制限付きでダメージ無効化の魔法は少なくない。

 あなたの義理の娘と言うこともあり、魔法の扱いは手慣れているのだろう。


「お母様、降参です」


 そして、カル=ロスが降参をして来た。

 本当に? 本当に降参かそれは?


「本当に降参です。これ以上、打てる手がないですから。ほら、あちらも」


 カル=ロスの示す先では、白旗を振っている『アルバトロス』の面々の姿があった。

 なるほど、ここまでやるのならば、たしかに降参のようだ。

 これで偽装降伏だったらいくらなんでもやり過ぎなので説教の時間だろう。


「分かってはいましたが、歯が立ちませんね。まぁ、究極破壊兵器を使ったとは言え、ダメージは通しました。面目は立ったでしょう」


 まぁ、それは言えているかもしれない。

 『アルバトロス』の面々の強さはおおよそだが分かった。

 かなり高度な戦闘技能もあるし、カル=ロスの魔法の習熟度、アキラのサイキックの威力……。

 そう言ったものを加味すると……EBTGのメンバーとそう変わらない強さではないだろうか?


 つまり、大陸でも屈指の戦闘力の持ち主と言うことだ。

 義理とは言え、娘がこうも逞しく成長しているとあなたも嬉しい。


「では、戻りましょうか。私たちの戦法なんかもお話しますよ」


 独特な戦闘スタイルなのでたしかにそのあたりは気になる。

 戻ろうと、あなたもまた頷いた。

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