4話
あなたの魔法による覚醒の促しで、薬師クロモリは目を覚ました。
「こ、ここは……サシャ、先輩……」
「おはようございます、薬師様。服をどうぞ」
「これは、ありがとうございます」
サシャが『ポケット』から取り出したローブを受け取り、クロモリがそれを羽織る。
しかし、よくサシャだと一目でわかったものだ。
あなたが買った時からサシャは随分と風貌が変わっている。
身長は20センチ近く伸びたし、体格も随分と立派になった。
乳房はたわわに実り、腹はギュッと締まり、尻はグビビと締まって大きい。
まぁ、顔の造形が変わったりしているわけではないし。
髪色や目の色、尻尾や耳も変わったわけではない。
そう言う部分から以前のサシャの面影を見出したのだろう。
「えっと、どうしましょう?」
そんなことを考えていたら、サシャが困った風に訪ねてきた。
どうしましょうって、何がだろうか?
「きっとなにかしらの心残りがあって、その心残りがお酒で表面化したから、実際に対面したら何かしらあると思ったんですが……」
実際には何もなかったと。
「はい……」
じゃあ……このまま返すしかないんじゃない?
まぁ、スルラの町までの旅費くらいは用立ててあげよう。
そのくらいは蘇生後のアフターケアとして必要だろう。
あなたは革袋に多少の金貨を詰め、クロモリへと差し出した。
スルラの町までの路銀と、生活の再開のための資金として使って欲しい。
もちろん返済は不要だし、礼も不要だ。笑納して欲しい。
「お待ちください! どうか、どうかお待ちください!」
そのように伝えたところ、クロモリが速攻で土下座して来た。
あまりの勢いと躊躇のなさにあなたは思わず呆気に取られる。
「私はクロモリ。薬師をしております。ですが、以前は冒険者をしておりました! あなた様のお役に立ちます! どうか、私をあなたのチームメンバーにしてください!」
あなたはあまりの超展開に気が遠くなった。
意味が分からない。なんでこうなる?
そもそもこんな歳喰ったオッサン欲しくない。
あなたは土下座するクロモリの肩に手を置き、優しく語り掛ける。
あなたの仲間は女の子じゃないと嫌なのだ。
それもできれば若くて可愛く、それでいてエロい。
その上であなたのことが大好きで、あなたの命令なら拒まない。
どんな変態プレイでも喜んで応じてくれる都合のいい女。
その上でEBTGの先輩たちを立てられる弁えた後輩。
そんな都合のいい女の子じゃないと奴隷には出来ない。
そして、EBTGは今のところイミテルとレウナが戦線離脱しようとしている。
そのうちのどちらかの穴を埋められる技能がないと。
「どうしようもないほどにクズ」
サシャに呆れられたが、実際このくらいは欲しいのでしょうがない。
「私は見ての通り、40過ぎの男です」
そうだね。そう言うわけだから無理。諦めて。
そのようにあなたがにべもなく切って捨てる。
「ですので、『ミラクルウィッシュ』のワンドと若返りの薬をご用意いただければ、かならずや使用いたします」
たしかにそれをやったら若い女の子にはなる。
なるほど、そこまでの覚悟があるなら、あなたも真剣に応じよう。
「あなた様の命令に絶対服従いたします。どんなことでも喜んで応じます。皆様の後輩として弁えます。だから、どうかあなた様の奴隷にしてください!」
地面に額をこすりつけるクロモリ。
なるほど、その上で女の子になってどんなプレイにも応じてくれる。
ならば、ひとつ試してみてもいいだろう。
あなたはクロモリに『ミラクルウィッシュ』のワンドを渡した。
そして、さらに若返りの薬を10服ほど渡した。
では、早速やってみて欲しい。
「はい、お任せを!」
そして、クロモリはあなたの要望通り、性転換した。
ガリガリにやせ細った、儚い姿の少女。
今のクロモリはそのような姿になり、あなたは満足していた。
容姿はほどほどだが、十分に可愛いと言える範囲。
体格はそれなり、出るところはガッツリ出ている。
ガリガリに痩せている上、元々の骨格が細く、薄い体。
それでいながら、たぷんとついた乳房。妙にやらしい。
レインのようなスレンダーながら出るとこ出た体ともまた種類が違う。
貴族的な体型と言えばそうかもしれない。
なるほど、これは実にうまそうだ。
あとは戦闘能力だが、まぁ、これは追々だろう。
見たところ、それほど弱くはなさそうだ。
一線級でこそないがそれなりの腕だろう。
訓練は必要だろうが、足手まといにはなるまい。
「あなた様の旗下に加えていただけるでしょうか?」
そこまで言うなら許可しよう。あなたはそう答えた。
なんでこういう展開になったのかは分からないが……。
まぁ、あなたの下に女の子が来てくれるならそれでいい。
それが元は40過ぎのオッサンであっても。
今が女の子なら、あなたには十分なのだ。
「サシャ先輩。これからは冒険の先達として仰がせてください。どうぞよろしくお願いします」
「あ、はい……??? んん……?」
サシャが首を傾げている。あなたもちょっと謎である。
本当にサシャ先輩がサシャ先輩になってしまった。
以前、薬師クロモリはサシャのことをなぜかサシャ先輩と呼んでいたと言うが。
実際にそう呼んでいて、そして今はそれにふさわしい立場になってしまった。
いったいこれはどういうことなのだろうか?
「疑問を抱いておいででしょう。お話いたします」
「私も気になります。どうして私をサシャ先輩と呼んでいたのか……」
「はい、そちらもお話いたします」
そのように頷いて、クロモリが話しだそうとする。
が、その前にあなたが落ち着いて話せる場所でやろうと促し、あなたの私室へと2人を連れ込んだ。
そこで2人に椅子を薦め、お茶とクッキーを出して、話を聞く体勢を作った。
「お二方とも、困惑されていらっしゃるでしょう。順を追って説明させていただきます」
あなたは頷いた。
「前提条件として、私は不治の病を患っております」
そんな感じはしていたので、特にリアクションは返さずに頷いた。
サシャはと言うと、驚いたような顔をしている。
「私には、未来を知る特別な力があるようなのです。私は、あなた様がスルラの町に訪れることを、サシャ先輩が産まれる前から知っておりました」
「ええっ!? 未来予知ですか!?」
「はい……ですが、それほど便利なものではありません。これから何が起きるかのあらすじを知ることが出来るだけで、自分の身に何が起きるか知れるわけではありません」
そのように断ってくるが、なにやらよく分からない力である。
未来を知れるのにも関わらず、自分に何が起きるか分からない。
体感ではなく、知識として知るとか、そう言う形なのだろうか?
「未来に記される歴史書を読むのに似ているでしょう。大陸の歴史を俯瞰するような未来予知なのです。私のような歴史の潮流の一滴に過ぎない存在の詳細など分かりはしません」
そう言う感じであれば、まぁ分からなくもないと言える。
名声を轟かせている薬師が歴史書に記されないかと言うと首を傾げるが……。
まぁ、歴史書と言っても様々で、貴族以外は記すに値しないとでも言いたげなものもある。そう言うことなのかもしれない。
「私は自身の患った病を知り、その詳細も知りました。そして、治療の手段が存在しないことも、知りました」
その辺りは分かった。そして、その上でなんとなく分かった。
クロモリはあなたと言う存在に賭けたのではないだろうか?
あなたは基本的に懐に入れた存在には非常に甘い。
病になれば何とか治してやろうとするだろう。
そう言った心の機微を見透かして、奴隷になろうとした?
「お察しの通りでございます、あなた様。『ミラクルウィッシュ』のワンドならば、私の病を癒せる……!」
先ほど渡したものを使って癒そうとは思わなかったらしい。
まぁ、そんなだまし討ちのような真似をしていたら、取り上げた上でひどい目に合わせるが。
そのあたりは誠実というか、ちゃんと誠意は見せてきたらしい。
「どうか、お慈悲を……! このままでは、あなた様のお役に立つ前に死んでしまいます! タイムリミットは近付いております!」
そんなに急かさなくても。
タイムリミットと言っても、具体的には?
「あと半日ほどで死にます」
思った以上に残り少なくてあなたは驚いた。
そりゃ急かしもするだろうほどの残り少なさだ。
たしかになにやら患っている感じではあるが、そこまで?
「厳密に言うと、あと半日もしないで意識を喪失。それから数日以内に死にます。それまでの間に、どうか私の病を癒してください!」
まぁ、奴隷として受け入れると決めたのだ。それは構わない。
たぶん、魔法ではどうにもならない種類の病なのだろう。
あなたは『ミラクルウィッシュ』のワンドを取り出し、それをクロモリへと渡した。
クロモリは狂喜して杖を振ると、健康を願うのだった……。
健康を取り戻したクロモリだが、ガリガリに痩せこけた姿はそのままだった。
だが、病が治った実感はあるらしく、実に嬉しそうにしている。
具体的に何の病だったかは知らないが、これからは快復に向かうのだろうか?
「はい。すぐに肉もつくと思います。体力も回復するはずです。この健康な体の恩義に必ずや報います」
なるほど、大変結構。
じゃあ、次だ。
「次、ですか?」
あなたはベッドを指差し、今からキモチイイコトしない? と提案した。
「は、はい……その、はじめてですので、お手柔らかに……」
「えと……私は、出てますね」
立ち去ろうとしたサシャを引き留める。
そして、サシャも一緒にクロモリを虐めようと提案した。
「えっ」
「えっ、いいんですか!」
「え?」
クロモリは何をしても許してくれるらしい。
じゃあ、いつもはなかなか出来ないようなハードなやつをやろうではないか。
最近悪化する一方のサシャのサディスト癖を受け止めるのも頑張って欲しい。
さすがのサシャも恩人のクロモリにそう無体はしないだろう。
それに、死んでいなければ回復するし、死ねば蘇生する。
そう言ったアフターケアもしっかりとするつもりはある。
「……がんばります」
クロモリが蒼い顔で頷いた。
前言を翻しはしない覚悟はあるらしい。
どこまで頑張れるかは分からないが、頑張って欲しい。
「なにしてもいいんですね。なにしても……! しかも、ご主人様がアフターケアもしてくれる……! なにしてもいいんだ……!」
サシャは喜びに打ち震えている。
この調子だと相当な無体を働く気がする。
しばらくは様子見をしないといけないだろうか……?
まぁ、あなたも早々は出来ないハードなことをしたいつもりはある。
サシャのような凶悪なサディズムはないが、あなたにもそう言う欲求はある。
あなたはエルグランドの媚薬を取り出し、それをクロモリへとかけた。
「あっ、それは!」
「うわ、媚薬……はじめての相手に容赦ないですね、ご主人様」
これで乱れ狂う姿を見るのは実によい。
クロモリのなかなか立派な胸を堪能させてもらうとしよう。
他の面々が仕事中なので、軽く1発だけ。
さぁ、はじめるとしよう。
「ふふふ、2度と忘れられない初体験にしてあげますね、薬師様!」
「さ、サシャ、先輩……ゆるして、ゆるしてください……」
「大丈夫! 許してますよ! さぁ、たくさん虐めてあげます!」
その後、あなたとサシャはクロモリをいじめた。
ベッドの上で悶え狂うクロモリは実によかった。
あなたは1発楽しんだところで抜けて、後はサシャにバトンタッチだ。
さすがに仕事をほっぽり出して女と遊ぶのは申し訳ない……。
そう言うわけで、先ほど会議をしていた部屋に戻ってみる。
すると、テーブルの上にお菓子と飲み物を広げて未だ議論は続いていた。
「農業チートするなら、もっと難易度低いとこがよかったぁ」
「それ。この大陸、イネもコムギもトウモロコシもジャガイモもあるんですよね」
「そしてマフルージャは肥沃な国土と豊富な水があると」
「特に肥沃な川沿いあたりなんか、コムギの収穫倍率20倍超えてるらしいですからね」
「エデンの園かってんですよ」
「やはり、革命が必要ですね」
「プロレタリアを吊るしますか」
「赤い革命じゃなくて緑の革命をしろ」
「半矮性種の導入とかですか? それよりは単純に多収量品種にした方がいい気が」
「それは肥料の大量供給が出来ないとけし粒みたいな米になりますし……」
「もうアレです、よその穀倉地帯にアボカドとミントをばら撒けばいいのでは?」
「他をダメにすることで相対的にこちらをよくする案ですか」
「トイネに飢餓の時代が訪れますね……」
なにやらあんまり実りある議論にはなっていないようだ。
「あー、そうですね……19世紀から20世紀となると、素人の浅知恵ではどうにもこうにも」
「近代品種を持ってくると言うサルでも出来るチートしか、私たちには出来ない……!」
「もっと原始的な農業をやっててくれればよかったのに……」
「原始的な農業だったら改革なんか簡単ですからね。まずシカの血に種もみを浸け込むのを止めます」
「ちょっと意味分かんないですね」
「播磨国風土記に、シカの腹を掻っ捌いて流れ出た血に種もみを蒔くと一晩で芽吹いたとか書いてありますよ」
「なんて?」
「あとは、イノシシの血を田んぼに撒くので川の水なんかいらないぜ、ともありましたね」
「思ってたのと方向性がかなり違う米作りしてますね」
「なんでそんなデスメタルな感じなんですか?」
「デスヴォイスで田植え唄を歌ってそう」
そこで一度議論が途切れ、それぞれが溜息を吐いた。
そして、カル=ロスが心底申し訳なさそうに、絞り出すような声で溢す。
「ごめんなさい……お母様……私たちは、なんの知恵もないくせにちやほやされようとする、カスのような転生者もどきでした……!」
「知恵があるなんてうぬぼれていました……私たちに知恵があるんじゃない! 社会に知恵があるんです!」
「考えがあるからと言って、私たちの愚かさが否定されるわけじゃなかったんです……」
「3人寄らば文殊の知恵なんて嘘なんですよ! 12人寄っても烏合の衆なんです!」
「私たちの愚かさは救いようがありません……なので、家波戸部聚楽と薬袋秋水が腹を切ってお詫びいたします」
なにやら関係のない人物2名の命が無意味に浪費されようとしている。
あなたは全員を宥め、考え過ぎで頭が茹っているのがいけないのだと諭した。
ここはひとつ、体を動かしてスッキリしようではないか。
「お母様、さすがに14Pはちょっと……」
違う、そうじゃない。
あなたは警護してくれる『アルバトロス』の実力がどんなものか知りたいのだ。
少なくとも弱くはないと思うが、ちょっといまいち分からない。
たぶん、あなたとはあまりにも戦闘スタイルが違うのだろう。
そして、この世界ではまず存在しない独特な戦闘スタイルでもある。
つまり、比較対象が存在しない。なので相対評価ができない。
ならば、肌感で理解するしかない。
実際に戦えば、全部後からついてくる。
なので、ちょっと試合しようではないか。
「なるほど。試合ですか、いいリフレッシュになりそうですね」
「つまり……
「いえ、試合です……でも、実戦形式の試合ですよね」
「やはり、戦ですか!?」
「実質的に、戦ですね!」
「戦ですか!」
「戦だぁぁぁぁ!」
「いくぞぉぉおおお!」
『アルバトロス』の面々がいきり立って飛び出していく。
……試合相手であるあなたを放って。
あなたは呆気に取られたまま取り残される。
「追いかけんでいいのか?」
唯一残っているのは、マイペースにお菓子を食べていたレウナだけ。
なんだか思っていたよりもエキセントリックな集団のようだ……。
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