3話

 アルファチームの面々とレウナを交えてお茶をする。

 お茶とちょっとしたお菓子を出す。

 ラチの実入りのクッキーを1人数枚ほど。


「もうちょっと欲しいです。はい、もうちょっと。ええ、ええ、もうちょっともうちょっと。さらにもうちょっと。はい、あと一声」


 最初の20倍くらいの量のクッキーを皿に山盛りにする。


「肉系のものがあればそれも欲しいです」


 お茶とは? と思いつつも『四次元ポケット』からステーキやローストを取り出す。


「コーラ……はさすがにないので私が。ポテチもあります」


 カル=ロスが『四次元ポケット』を発動し、奇妙な水筒を取り出す。

 透明で薄っぺらい水筒で、ぺらぺらとした柔らかい奇妙なラベルが貼ってある。

 中には真っ黒い液体が入っており、非常に奇妙な見た目をしている。

 そして、トドメとばかりに大きな袋に入ったイモのチップスを出して来た。

 お茶会と言うより、軽食みたいになってしまったが……まぁ、構うまい。


「完璧ですね」


「1つ言えることがあるとするなら、これはもうお茶会ではない……」


「どうして私たちは22にもなってバカの中学生のような食卓を広げているのですか」


「それは……私たちが子供の頃から成長していない証と言う……」


「お母様のミルクを所望する私は0歳の頃から変わっていないと言いたいのですか?」


「まぁ、そうですね」


「すんなりと肯定するのをやめてもらいましょうか」


 まぁ、いいではないか。22歳なんて働き盛りの女盛りだ。

 激しい肉体運動を伴う仕事をしている以上、軽食をガッツリ食べるのは当然とも言える。

 むしろ、最初にクッキーを数枚なんてシケた軽食を出したあなたの配慮が不足していたのだ。

 次からはちゃんとおなかに溜まるような軽食を用意しよう。


「うう……! カル=ロスのお母さんからしたら初対面なのは分かってますが、こうまで優しいと面識あるんじゃないかと思ってしまいます……!」


「お母様は初対面でもこんくらいはデフォですから……」


「しかも外見は年下の美少女なんて気が狂いそう! 美魔女過ぎる!」


「カル=ロス、お母さんの実年齢っていくつなんですか?」


「さぁ……?」


「さぁ? じゃないでしょう。何年生まれとか分からないんですか?」


「シ・エラ522年6月22日生まれですよ」


「生年月日分かって何歳か分からないなんてあります? 今はシ・エラ何年なんですか?」


 以前エルグランドに帰省した際は、シ・エラ516年だったはずだ。


「…………???」


「カル=ロスは何年生まれなんですか?」


「シ・エラの488年5月ころです」


「……??????」


 あなたとカル=ロス以外の面々が首を傾げている。

 まぁ、そのくらいの暦のズレはよくあることだ。

 年下の母親とか、同い年の実の母娘とかよくあるよくある。


「思った以上に意味が分からないですね」


「時が未来に進むと誰が決めたのですか?」


「さすがに暦くらいは未来に進めてくださいよ」


 あなたもそのあたりは同意ではあるのだが。

 でも実際、時が巻き戻ったりするのはよくあることなので。

 そのあたりは頑張って受け入れてもらうしかないだろう。



 お茶と言うか軽食を腹いっぱい食べ……腹いっぱい食べたらもう軽食ではないのでは?

 ともあれ、和やかな時間を過ごしていたところ、チャーリーチームが戻って来た。

 全員服装も装備も同じで、容姿も意図的に似せているのでパッと見では区別がつかない。

 もちろんちゃんと見れば区別はつくが、なかなか手こずらせてくれる。

 

「では、現地調査についての報告を行います。申し訳ありませんが、資料の用意が叶いませんでしたので、ホワイトボードでの掲示で勘弁願います」


 カル=ロスが『四次元ポケット』から取り出したホワイトボードなる道具。

 それにアキラがペンで記述を行っていく。見慣れない字だが……。

 これはたしか、以前にジルとカイラと共に向かった世界、ニッポンで見た字だ。


「まず、この土地における主たる資源ですが……」


「あの、アキラ。お母様は日本語読めないと思うんですが」


「あっ。す、すみません。ついうっかり。エルグランド語でいいですか?」


 あなたは口頭で教えてくれればいいと答えた。

 どうせあなたは大した内政の知識なんぞないのだ。

 カル=ロスら『アルバトロス』が提案する政策を承認するだけのハンコ押し女でしかない。

 ならばカル=ロスらが分かりやすい文字を使う方が賢いだろう。


「そうですか? では、続けます。まず、事前の連絡の通り、岩塩鉱山と穀倉地帯、つまりは水資源の存在が確認されました」


「事前情報の裏取りと言うことですね」


「はい。岩塩鉱山の規模ですが、推定でおよそ2500万トンほどです。言うほど小規模ではありませんが、たしかに大きい鉱山ではありません」


「将来的には廃坑になりそうですね」


「その可能性は高いと思われます。また、岩塩鉱山に伴う油田が確認されました。現物の採取が出来ていませんので厳密な調査はまだですが、比較的軽質のようだとは分かっています」


「埋蔵量はいかほどですか?」


「どうやって採掘したらいいのかわかりません。よって0リットル」


「ああ、そうでしたね。原油の埋蔵量は採掘技術の兼ね合いでしたか……あれ、待ってください。この大陸、油田採掘技術あるのですか?」


「と言うか、もっと言うと採掘した原油の精製・利用技術ってあるのですか?」


 あなたはその辺りは知らないが、少なくとも原油とか言うものが使われているとは聞いたことがない。


「ですよね。私も石炭専焼の船しか見た覚えがありませんし……いえ、別大陸はそこまで見分していないのでなんとも言えませんが……」


「少なくとも、石油を精製できる基礎技術は存在するはずです。なんなら鍋で煮込むだけでもいけるはずです。常圧蒸留でも灯油くらいならなんとか」


「鯨油の精製用の竈を使えばどうにでもなりそうですし、利用しているところはありそうですね」


「どうにせよ、現状では利用技術が大して存在しません。そのため、利用の主体は灯油程度かと思われます」


「エンジンがなければ、ガソリンなんか軽質過ぎてすぐ爆発する危険物でしかありませんからね……」


「一応、エンジンができる前からガソリンも商業利用はされていましたよ。クリーニング屋の染み抜き剤として」


「たしかに油汚れは落ちるでしょうね。後はロッドワックスと、その生成物のワセリンくらいですか」


「ああ、ワセリンはいいですね。薬品としての価値があります。傷の保護、やけど治療、保湿と利用用途は多岐にわたりますし」


「あと、男同士の友情も育めますね」


「ちょっとやめないか」


「あとはまぁ、ワセリンは防水だったり、靴擦れ予防だったりと用途はいくらでもあります」


「石油の話は終わりにしましょう。次、水ですが、まぁ、乾燥地帯ですのでね」


「やはり、これ以上の農地の拡大は難しいですか」


「難しいというか、無理です。領内を流れる川……ちょっと名称が分かりませんでしたが、現時点で流量の大半を利用済みですので……」


「大規模な浚渫しゅんせつ工事をして流量を確保でもしないと、農地拡大は不可能ですか」


「仮にそれが出来たところで、水源からの水がね……水源のある領地に侵攻して、そっちも浚渫しますか?」


「やったらまず間違いなく勝てますが、王家に睨まれますね」


「それにも勝てますが、たぶんお母様は勝ちたいとも思っていないのでナシです」


「でしょうとも。すると、農業改革は純然に農業技術の新規導入と、商用作物への転作を想定しましょう。近代品種は幾種類か持ち込んでますし」


「すると、税制面からも考慮を入れる必要がありますね。現状、税って何で収めてるのでしょう? 小麦? 金? 家畜?」


「そのあたりの資料が必要ですね。そちらは追々」


「窒素肥料の導入ですが、どの程度までやりますか?」


「普通に肥料として利用可能なものを教えて、その利用について指南するだけでいいでしょう」


「塩水選の導入だけでも随分と違いますが……そもそもここらの農業って? 天水農業ですか?」


「資料がまるで足りていませんね……」


 議論が活発な上に、多角的な視野からの意見が飛び交っている。

 そして、あなたではさっぱり分からない知識を前提とした話。

 やはり、ブレーン集団として『アルバトロス』は頼りになりそうだ。

 あなたは娘と、その友人たちの知性の輝きに満足げに頷いた。




 『アルバトロス』のディベートはまだまだ続いている。

 あなたは役立てそうにないので、べつの仕事をすることにした。

 領主としてやらないといけない仕事の1つ、外交だ。


 と言っても、領主自身があちらこちらに出向くのにも問題がある。

 あなたは新興とは言え子爵であり、領地も規模こそ適度だが、岩塩鉱山があるなど優良地。

 軽々に頭を下げてはならないし、まして気軽に挨拶に出向くなど許されない。

 そうなると手紙であいさつをしなくてはいけないが、あなたに貴族向けの手紙を書く技術などあるわけもなく。


「そこで私の出番と言うわけですね。おまかせください!」


 そこで、極めて高度な筆記技能を持つサシャに頼ることとなる。

 貴族相手に使っても恥ずかしくない高度技能があることは分かっている。

 問題があるとすれば、ここはエルフ王国トイネだと言うことだ。


「ああ、エルフ語での筆記が必要と言うことですね。大丈夫ですよ。貴族向けの筆記もできます」


 そう言って胸を張るサシャ。なんて頼れるペットだろう。

 エルフ語の読み書きが出来るのは知っていたが、そこまで出来るとは。

 まさかこんなところで活躍してくれるとは思わなかったが、サシャを買ってよかった。


「私もまさか、奴隷になってからこんなふうに技能を使うことがあるとは思いませんでした。ただ、ご主人様、筆記用具が足りません」


 筆記用具が足りない?

 サシャは割と豊富な筆記用具を持っていたような。


「基本的なペン類はありますが、やはり貴族向けの手紙には装飾が必要ですから。金粉や宝石粉、特別なインクなども必要です」


 なるほど、そう言うやつ。

 であれば、買いに行くしかあるまい。


「では、ベランサに行きましょう。アラナマンオストでも買えるとは思うんですが、店が分からないので」


 たしかにあなたもトイネの王都たるアラナマンオストはよく知らない。

 そもそも散策すらしたことがない。やったのは襲撃である。

 さておき、あなたはサシャと共にマフルージャ王国の王都ベランサへと向かった。



 王都ベランサでアレコレと筆記用具を買い漁る。

 そして、その流れでスルラの町へと向かう。

 サシャの実家、その近隣住民にギールが見つかったので伝言がもう必要ないことを連絡。

 その際にはちゃんと礼を言って、多少の金を握らせた。


「薬師様は名士でしたからね。ちゃんと遺産から埋葬場所を買ってあったんです」


 そして、スルラの町の墓地へと向かい、薬師クロモリの遺骨を回収した。

 以前、サシャと約束した薬師クロモリの蘇生、その約束を果たそうというわけだ。


 あなたやフィリアの蘇生魔法ならば、肉体がなくとも蘇生はできるのだが……。

 その場合は生年月日と場所、あるいは死亡年月日と場所が必要になる。

 生年月日を知っている者はいないし、死亡年月日もサシャは正確には知らないらしい。

 まぁ、1週間以内には絞り込めるというから、10回も試せばいけるだろうが……。

 それよりも、死亡時の肉体の一部を回収し、それを媒体に蘇生するのが速い。


 そう言うわけで遺骨を回収し、あなたとサシャはアノール子爵領へと戻る。

 そこであなたは手早く薬師クロモリを蘇生することとした。


「蘇生には儀式が必要なんですよね。いつやりますか?」


 あなたの場合は不要なので、今すぐやる。

 そのように答えて、あなたはパッと『復活』の魔法を発動させた。

 これはエルグランドの蘇生魔法で、別大陸の最高位蘇生魔法と同種の効果を発揮する。

 さらには詠唱時間も短く、戦闘中に味方を蘇生することも容易い。

 そして蘇生されたものは生命力も魔力も充実した完全な状態で蘇生する。

 内容を見てみれば、究極の回復魔法であるとも言えるだろう。


 問題があるとしたら、凄まじい発動負荷だろうか。

 たぶんフィリアでも使えない。使った瞬間爆散して死ぬ。


「蘇生魔法が必要な人が増えそうな蘇生魔法ですね……」


 それは言えてる。サシャの呆れた声での発言にあなたは頷く。

 そうしている最中にも、あなたが回収して来た遺骨から人間が創り出されていく。


 それは40から50ほどの年齢の壮年の男性だ。

 ガリガリにやせ細った骨と皮同然の姿をしている。

 医者の不養生とは言うが、これはちょっと病的過ぎるのでは。

 眠るように死んでいたとの話だが、なにかしらの持病があったのかもしれない。


「間違いなく薬師様ですね。薬師様、薬師様?」


 サシャが優しくクロモリを揺り起こす。

 すぐに手付きが荒くなり、クロモリの頬を平手が襲った。

 クロモリがうめき声を上げるが、目を覚まさない。

 って言うか、今ので気絶したのかもしれない。


「薬師様? 起きてください」


 今度は拳を握り出したので止める。

 さすがにサシャが殴ったら死ぬ。


「やだなぁ、ご主人様。そんなに思いっ切り殴りませんよ。ちゃんと加減します」


 あんまり信用できない……。

 あなたは魔法で薬師クロモリの覚醒を促した……。


 ちょっと最近、サシャのサディスト癖が酷いような気がする。

 出来る限りあなたが受け止めているが、この調子ではEBTGメンバーを甚振る日も遠くないかもしれない。

 あまり考えたくないが、その時は少し隔離も考えなくては……。

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