18話
あなたはサーン・ランドは冒険者学園を訪ね、モモロウらハンターズを呼びつけた。
「またどうした? こないだの訓練でサボりまくったから、今はあんまりサボれんぞ?」
そう長期間の拘束にはならない。
あなたはモモロウに、ル・ロの討伐について話した。
「ほう……ル・ロが。そうか、やはり実在はするのか……」
そして、それを討伐したのが、どうやらモモロウの後のループらしいとも。
「……俺の後?」
キヨとかアトリとかリンとか、その辺りの名前も知っていた。
時間軸が異なる以上、その辺りの名前を知るには当人でないと無理だろう。
ハウロがアルトスレアに居たことがあって、ハンターズの名前を知っていたという可能性もなくはないが……。
しかし、そうだとするとモモロウらの本名であるシンと言う名を知っていたことに理由がつけられない。
やはり、ハウロはモモロウの後のループの人生であると考えるのが自然だろう。
「らしいな……悪いが、トモちん以外全員連れて行くのは問題ないか?」
問題ない。ただ、手早く準備をしてもらえると助かる。
「10分で支度する。ちょっと待っててくれ」
そのようにモモロウが言うや否や、飛び出していく。
ハンターズのメンバー、トモを除いた面々に連絡をしに行くのだろう。
それから5分と経たずにハンターズのメンバーが揃った。
それら全員を連れて、あなたはボルボレスアスの開拓村、ミズノト村へと飛ぶ。
移動先でハウロの居場所を聞くと、村はずれの方で待っているとのこと。
教えられた場所へと向かえば、ハウロがあなたたちを待ち構えていた。
周囲にはあなたの仲間、EBTGのメンバーの姿はない。
ひっそりと話せる環境を整えておいてくれたらしい。
「うおっ、マジでモモロウじゃねえか……」
「あんたが、ハウロか……フィオーレはまだな感じか?」
「ああ。俺もル・ロを倒してフィオーレのつもりで居たが、そうじゃないらしい。俺でフィ俺と思っていたが、残念なことにな」
フィナーレじゃなく? そう思ったが、いまいち突っ込めそうにない。
モモロウらは独特の言語センスをしていることがあるが、たぶんこれもそうなのだろう。
元来、同一人物であるという異常事態もあって、独特のミームを交えた会話をするのだ。
「……ところで、トモちんはどうした?」
「いなかったぞ。俺が訓練所に入る前に卒業したって話だ。モモロウの名前は聞かなかったが……」
「なるほど……? もしや、訓練用モンスター素手で捻り殺したから特例卒業させられたせいじゃないか」
「ああ、なるほど……トモちんと卒業年数ズレてるのか」
「と言うことは、俺ことモモロウとトモちんがいて……ハウロがいる? 同一時間軸に俺たちが、居る……?」
しかし、それはアルトスレアにおいてハンターズを結成出来た時点で異常ではない。
いや、結集できたことこそが異常ではあるが、既に起きた事態である。
それを思えば、特段に疑問に思うべき内容ではないように思える。
「そう言われてみるとそうかもしれんが……しかし、なぜ?」
「そこは考えてもわかりません。それより、なぜ私たちがループしているのか……ル・ロを倒してもなお終わらないのなら、なぜループしているかの原因究明が……なんですか?」
「いや、なんで丁寧語で喋ってんだ? キッショ……死んだら?」
「ぶっ殺」
「やめるでござる! 話が進まんでござろうが!」
「なんでござるござる言ってんの? ダッセ」
「ブチ殺し確定でござらぁ!」
「落ち着けカスども! ハウロ、私たちにもやむにやまれぬ事情が……」
「うおっ、でっけ……! 他人のメートル超えのバストは揉んでみてぇよなぁ!」
「死ねぇッ!」
「蠅が止まるわカスが」
「黙れあばずれども。首を切り取って糞を流し込まれたいのか? 話を進めるぞ。それでハウロ」
「おう、アトリか。腕あるんだな」
ハウロがメアリとキヨを煽ったり、リンの胸を揉んだり。
喧嘩が始まりそうな空気の中、アトリが無理やり流れを取りまとめた。
なんだかんだ言っても、全員リーダー役の地位は尊重しているらしい。
「まず聞きたいことだが……ル・ロを倒してもなにも起こらなかったんだな?」
「ああ。生憎とな。ル・ロも何も知らんとのことだ」
「虚偽の可能性も否めんが、嘘を吐く理由も感じんのだよな……ループはしたのか?」
「まだだ。さすがに自殺は出来ん……次は虚弱体質になるかもしれん」
「女の体で自殺するとそうなるからな……モモロウから何度後のループだ?」
「間に1つだけ挟んでる」
「そうか。ふーむ……ル・ロが原因でもない、ループ……ここまでくると、完全にお手上げだな……」
あなたはループ中になにか見たりはしなかったのかと尋ねた。
例えばこう、神の声を聴いたとか、あるいは神の恩寵を感じたとか。
「神って見た覚えあるか?」
「そこにいる。エロい女神だ」
「なるほど、神じゃねーの」
ハウロの問いにモモロウが指差すのはあなただ。
あなたは間違っても神格ではないのだが。
神を超える力は持っているが、権能はない。
「……そこでしれっと「神よりも強い」って断言しちゃうのすごいよな」
ハウロがやや困ったような顔で言う。
しかし、ハウロのその態度にはあなたこそ首を傾げたい。
率直に言って、ハンターズのメンバーの多くが神を超える力を持っている。
神と一口に言ってもピンキリだ。
上を見れば果てはないが、下はかなり身近だったりもする。
小神、半神と言った存在ならばそれほどでもない。むしろ弱いのも多い。
それこそモモロウくらいの強さのメンバーがいれば倒せる神格は多いだろう。
つまり、メアリとハウロも普通に神よりも強いと言えるだろう。
少なくとも、神に拮抗することが可能な領域にはある。
「そうなのか?」
「いや、知らんが。神と戦ったことなんか1回しかねぇよ」
むしろ1回はあるのかとあなたはモモロウに尋ね返した。
「ああ、うん、ほんとに1回だけな。マジで何も出来なかったから戦ったと言えるほどの行動はしてねぇけど」
具体的に何の神格と戦ったのだろうか?
「あのほら、レウナちゃんの信じてるラズルって神」
どうしてそんな無茶するの……?
あなたはモモロウの正気を疑った。
ラズル神は疑いようもなく超高位神格である。
あなたですら勝てるかどうか分からない、と言うか、ほぼ確実に勝てない。
ああいうのは抵抗不能、対抗不能、認知不能でありつつ、相手を問答無用で即死させる能力を持っていたりする。
インチキの権化みたいな能力だが、そんなものを気軽に山のように持ち出して来るのだ。
破壊による死を司る神と言うから、凶悪な能力をどっさり持っていることだろう。
視界に入った瞬間即死させる能力と同時、視界に入れると即死する能力とか持っていてもおかしくない。
「手加減してくれてたんだと思う。今にして思うと、あの神様めっちゃいい神様だったんだなぁ……」
そう言いながら、なぜか重たいものを持ち上げるような仕草をするモモ。
手のひらを上に向け、なにか重たく丸いものを持ち上げているようだ。
「こう……すごい……デカかったしな」
あなたはデカかったのかと尋ねた。
やはりこう……重たげなほどに、デカかったのか。
「ああ。すごい……デカかった」
やはり、デカいらしい。
あなたは重々しく頷いて、フィリアくらいか、と尋ねた。
以前、レウナはフィリアくらいあると評していた。
「そうだな……うん、たしかに、フィリアくらい……あるな」
やはり、デカい……!
「なのにさぁ、ウエストめっっっちゃくびれてんの……ヤバいね、あれ。人間のスタイルじゃないって……メアリくらいしかねぇんだもん」
それはヤバい。本当に内臓入ってるのか不思議になるレベルだ。
……いや、神格なら内臓なんか不要なので本当に入っていないのでは?
「なんだかよく分からんが、ゴッドなパワーがヤバいことと、ラズルとか言うののスタイルが激ヤバなことは分かった。それで?」
あなたは頷いて、神は単純な強さではなく、権能が凄まじいのだと説明する。
高度かつ多数の能力を有している、と言ってもいい。
なので、単純な能力的には大して強くない神であっても。
実際に相対して戦おうとすれば、その前に殺されることもある。
高位神格などその典型であり、気付いたら死んでいることがある。
実際、あなたはエルグランドである高位神格と戦ったが、秒殺された。
なんか気付いたら生命力がごっそりと削り取られて即死したのだ。
また、相手の速度に寄らずかならず先手を取る、みたいな能力も持っていたと思われる。
そのせいか知らないが、時の針の速度をいくら上げても絶対に先手を取られた。
あの高位神格……超越の願いの女神は基礎能力も異次元レベルで高いが……。
まぁ、その辺りの強い弱いはともかくとしてだ。
神格はそう言った、異常な特殊能力を数多持っている。
そして、超高位神格の中には時を巻き戻したり、生命を強制蘇生したり、あるいは別の生命に転換したり……。
そう言ったことが出来るので、ハンターズの現状はなんらかの高位神格の介入を感じさせる。
時間を巻き戻しつつ、思った通りの生物に転換させる。
それはまず間違いなく神格ならば実現可能なことだ。
具体的にそれが何の神格かは不明なのだが……。
なので、神格の声とかが聞こえないかと尋ねたわけだ。
「さっきも言ったが、俺は特に聞いた覚えはない……聞いた覚えのあるやつはいるか? いるなら内容も教えてくれ」
ハウロが手を挙げる。挙手制で確認しようということらしい。
それを見て、メアリがスッと手を挙げる。なんと聞いていたらしい。
その流れのまま、リンが、キヨが、アトリが続々と手を挙げていくではないか!
そしてただ一人残されたモモロウが「えっ、俺だけ!?」みたいな顔をし、周囲を伺いながらそっと手を挙げた。
「あ、じゃあ、モモロウ頼む」
「どうぞどうぞ」
「どうぞどうぞ」
「くそったれ! 分かっちゃいたが乗らずにはいられなかった! くそったれ! 聞いてるわけねぇだろボケカスども!」
「で、ござろうなぁ……」
なんかよく分からないが、誰も聞いていないらしい。
じゃあ今の挙手はいったい何だったのだろう……?
「……ま、そう言うわけだ。何も分からんらしい」
なるほど、であればしょうがない。分かる存在に聞こうではないか。
あなたは『ミラクルウィッシュ』のワンドを取り出すと、それを振った。
『さぁ、願いを言いなさい! どんな願いでも、私に可能なことなら1つだけ叶えてあげましょう!』
願いの女神の尊大な録音の声。
絶妙な予防線を張られているが、問題ない。
あなたの願いはやり慣れたもの。
あなたは真摯な想いで希う。
高らかにして溌剌とした音声にて、あなたは叫ぶ。
我が信仰する女神、ウカノの降臨を願う! と。
『……あ、ごめん。そっちの大陸には降臨できないの。他の願いにしてね』
そしてあなたの願いはスカだった。
そんなことある……? あなたは今までにない事態に呆然とした。
無駄になった『ミラクルウィッシュ』のワンドを腹立ちまぎれに握り砕く。
あなたは咳ばらいをして「なにやってんだこいつ……?」と言うハンターズの目線を振り払う。
そして、あなたが発動させたのは『神託』の魔法だ。
神に助言を願う魔法であり、主たる用途は物探しとか行動の指針作りとかだ。
あなたが求めるのはもちろん、ハンターズをループさせている神についての情報だ。
『それは、ボルボレスアスの主神たるパンサラゲアです♪』
『神託』の魔法は便利だが、その制限は非常に強い。
神様だってヒマではないし、特定の信徒を贔屓したりもしない。
あなたと言うお気に入りの信徒であっても、それは平等だ。
まぁ、『神託』の魔法を使うからこそなので、降臨した場合はまた話が違うのだが。
今回のように、特定の事柄について尋ねた場合、聞けるチャンスは1度限りだ。
もう1度魔法を使って尋ねても、帰ってくる答えは同じである。
やや角度を変えた質問をして見ても返答拒否をされて終わることもある。
何回も使いまくって全部聞き取ろうなんて真似は許されないのだ。
しかし、困った。まさか主神クラスがやっているとは。
下級神格なら割と探し当てる手立てはあったりするのだが。
主神クラスは高位神格なので物質界に居ない可能性も否めない。
「今のなんだったんだ? なんかわかったのか?」
モモロウたちのループの原因が分かった。
分かったが、その上で解決する手段が思いつかない。
いや、1つ思いつかないこともないのだが……。
「それはどんな? やってもらうことは可能か?」
可能だ。
あなたは『四次元ポケット』を開き、その禁断の兵器を取り出す。
それは単なる輪っかのように見える。
黄金で出来た、直径1メートルほどの輪っかだ。
一見してみると、それは単なる装飾品に見える。
しかし、高度な看破能力を持つ者ならばわかるだろう。
それがおぞましいほどに強大な力を備えたイモータル・レリックであることが。
その名を『かなたよりこなたまで』。
エルグランドに興った前史文明の崩壊を招いた終末兵器だった。
あなたはこれを使って神を降臨させることを提案した。
「へぇ~。そんなことできるのか」
「神の降臨って興味あるな。どんな感じのことが起きるんだ?」
さぁ? ボルボレスアスの神がどんな感じかは知らないし……。
まぁ、ものすごい壮観な光景なことは保証しようではないか。
「お嬢様、これどう使うんですか?」
地面に投げて、接地させるだけだ。
そうすると後は勝手に『かなたよりこなたまで』が起動する。
起動すると、冥界から天界まですべてが連続的に接続される。
要するに歩いて死後の世界に行けるようになる。それも両方にだ。
「へぇ~……やってみていいですか?」
あなたは頷いて、メアリに『かなたよりこなたまで』を渡した。
「では、とう!」
メアリが輪っかを投げ、それが地面に接地する。
輪が蠢いたかと思うと、一瞬後、そこに不可思議な光が宿された。
そして、地獄から天国まで、すべてが地続きとなった。
この時、ボルボレスアスの生死の理は破綻した。
それが意味するところは単純だ。
ボルボレスアスの神々の嚇怒を招く。
激怒した神々は降臨し、天罰を降すだろう。
そして、あなたの狙い通りに。
その輪から、ぬるりと姿を現した者がいた。
それは褐色の肌をしていて。
数多の黄金の装飾品を纏い。
手には剣を、盾を、槍を、弓を。
3つある頭部が周囲を睥睨し、3対の腕が武具を握る。
エキゾチックな香り漂うボルボレスアスの神格があなたを鋭く睨んでいた。
『咎めようぞ、その増上慢。その罪を金剛杵を以て
あなたは小石を投げ致命傷を与えた。
ボルボレスアスの神格の頭部が爆散した。
あなたは勝利した。
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