15話
あなたはギールを抱いて抱きまくった。
処女を相手にする時のように、優しく淡い、切ないほどに優しい行為をして。
妻と同衾するかのごとく、愛情を確かめ合うような慣れた行為をして。
娼婦と楽しむかのように、快楽だけを求めた激しい爛れた行為をして。
そのすべてに順応して、貪欲に快楽を呑み込んでいくギールを楽しむ。
やはり、元男はそのあたりが違う。快楽を求めることへの躊躇がない。
女は絶頂することを怖がることがある。未知の感覚に恐怖するのだ。
男はその点バカなのでとりあえず突っ込んでしまう。
ギールもそうだ。ものすごい快楽の予感に抗わない。
訪れる快楽を貪欲に求め、それに晒され、楽しみ、耽溺する。
あまりにも激しい行為の連続に壊れそうになるまで、あなたとギールは愉しみ続けた。
「……オーナー。私は……」
至った後の、けだるく甘い余韻の時間。
それに晒されて、ぼんやりと天井を眺めて居たところで、ギールが声をかけて来た。
「私は、これから、どうしたらいいのですか……?」
どうしたらいいのですかと言われても。
その選択がどうであれ、あなたはそれを肯定しよう。
応援するかどうかは、まぁ、話がべつではあるが。少なくとも否定はしない。
人類は生まれて来たことが消せない罪なので全て抹殺するとか言い出したらさすがに否定するが。
「私は、ブレウの夫であり、サシャの父です……ですが、あなたの情婦でいるという誘惑に、抗えそうにないのです……」
あなたは意味がよく分からず首を傾げた。
それらは対立する要素だったろうか? べつに並立させてよいのでは?
ブレウの夫であり、サシャの父であり、あなたの情婦。何か問題が?
「……???」
ギールが、なに言ってんだこの人? と言う顔をして固まってしまう。
そんなに変なことを言っただろうか……?
「あの、今の私は女ですよ」
そうだね。それがなにか?
「いえ、あの、女だと夫にはなれないし、父にはなれないですよ」
女でも夫になれるし父になれる。当然ではないか。
少なくとも、あなたはこの大陸においても父になる予定だ。
あなたが娶った妻、イミテルのおなかには今あなたの子がいるのである。
まぁ、妊娠初期も初期なので、なにかしらの自覚症状が出るのはしばらく先だが。
イミテルも飲酒と激しい運動を控える以外は特になにもしていないし。
「?????????」
ギールが頭上に100個くらい疑問符を乱舞させていた。
あなたはそんなギールにさらに言葉を投げかける。
故郷であるエルグランドでは、いずれあなたの最愛のペットが捨て子を拾うだろう。
そうなった時、あなたの最愛のペットは父となり、あなたは母となる。
捨て子を拾い、養育するというのは大変に男らしい行為だ。
少なくとも、エルグランドの社会通念ではそのように見られる。
そのため、捨て子を拾って養う場合、拾った者が父と言うことになる。
であるからして、例えばブレウが捨て子を拾ったとしよう。
その場合、ブレウは父親になり、ギールは母親になる。
「すみません、ちょっと意味が分かりません……」
父親の逆だから母親。それだけのシンプルなことなのだが……。
「はぁ、まぁ、そう言うことであれば……いやでもおかしいですよそれ」
そうかもしれないが、そう言うこともある。
それと同じように、男が情婦になることだってありえるし。
そして逆に、女が夫であり父になることだってあるのだ。
「?????????????????????」
疑問符で全てが埋め尽くされたような顔でギールが固まる。
異文化って難しいなぁ。あなたはそんなことを思った。
ギールをメチャメチャに可愛がりまくった後のこと。
あなたはウルディア子爵家に滞在中のブレウを王都屋敷へと連れ帰って来た。
EBTGメンバーの家族と言うこともあって連れて行ったが。
あなたがトイネに属すると旗色を明確にしたこともあり、ひとまずは安心だろう。
サシャが自由民ならまた話が違うが、サシャは現在でも奴隷のままだ。
あなたの意志に寄らずサシャが所属を変えることはできない。
そう言う意味で安心できるので、ブレウは連れ帰っても問題ないと判断した。
「あらあら……随分可愛くなっちゃったのね、ギール」
「そ、そそ、そうかな、そっ、そっ……そうかな……?」
「スカートがとても似合うわね。変態」
「ぐっ……!」
ブレウに冷たい目で罵られて呻くギール。
まぁ、異性化願望は割と冷たい目で見られがちだ。
探せば同種の人間はかなり居るという擁護の要素はあると言えばあるのだが。
それを大っぴらにしている者がまずいないので、説得力が……。
「まぁ、あなたの趣味について、とやかく言うつもりはないわ」
「そ、そうかい? あ、ありがとう……」
「あなたは好きにする。私も好きにする……そう言うことでしょ?」
「ぐぅっ……!」
大きくなったお腹を撫でて、そう言い捨てるブレウ。
残念ながら、ブレウとギールの夫婦関係は破綻していた。
まぁ、普通は5年もほったらかしにされていたら破綻もする。
ギールにやむにやまれぬ事情があったのはたしかだが。
そうだとしても、娘を奴隷として売るまで追い詰められたほど困窮していたのだ。
その貧困の苦しみはあなたにはとてもではないが想像がつかない。
ギールを憎んで侮蔑しないだけ、まだしもブレウは理性的かもしれない。
「ど、どうしても、許してもらえないのかな……」
「何度も言ったじゃない。あなたのことを憎んでいるとか、許さないと怒ってるわけじゃないの」
「なら……」
「もういいや、ってなっちゃったの。あなたがどこで何をしてるのか、どうでもよくなったの。許すけれど、前みたいに戻れるわけじゃないわ」
「ぐうぅぅ……!」
これはつらい。
あなたはギールを苛むおつら過ぎる事情に思わず瞑目した。
5年の間にすっかり愛想を尽かされ、もはやどうでもいい存在にまで格下げされてしまった。
嫌われ、罵られるよりもよっぽど堪えることだろう。
「せ、せめて、せめて教えてくれ、ブレウ……その、おなかの子は、一体だれの子なんだい……?」
「知ってどうするつもり?」
「それは……私は……そう、納得。納得、したいんだ。君が心を許し、体を開いた男が誰なのか……そして、その男がどれほど君に尽くしたかを知って、私は納得したい」
かなり後ろ向きな動機である。
要するに、相手が自分より格上の男ならまだ納得できるとか、そう言う論理だろう。
ブレウに愛想を尽かされたことに自責の念があるからだろうか?
どうにせよ、自分が負けたことを半ば認めているような発言だ。
「んー。そうね、ものすごいお金持ちよ。それでいて、とても優しくて素敵な人。信じられないくらい美形でもあるわね」
「そ、そうなのか……お金持ちで、性格がよくて、美形なんだね……」
「さらにはすごく強くて、学もあって、王都に立派な屋敷を構えられるような地位もあるわ」
「強さも学もあって、王都に屋敷を……ま、まさか、貴族なのかい?」
「ええ、そうね。子爵様よ」
「……き、貴族が、庶民を本気で相手にするかな? もしかしたら、遊ばれてるだけじゃ……」
「そうかもしれないわね。でも、それでもいいの。あの人が私に授けてくれた愛の証がいてくれれば、私にはそれで十分だわ」
そう言って自分のおなかを優しく撫でるブレウ。
その姿はまさに母と言うほかない母性愛に満ち溢れていた。
なんて美しい光景なのだろう……あなたはブレウの姿に見入った。
「あの人は優しく囁いてくれたわ。苦しかった時に助けてくれた。拾い上げてもくれたわ。私が綺麗な服を着て、おいしいものを食べれる生活を手に入れたのも、全部あの人のお蔭……あの人を、愛してるの」
そして、母の姿をしながら、その顔はたしかに女だった。
自分を愛してくれる者の愛を貪欲に求める、女と言う姿そのもの。
その2つが混じり合った、成熟した女の姿……やはり大人の女はたまらない。
年若い少女の瑞々しさもいいが、熟れた女のしたたかな魅力も最高……!
「――――ああ。君に、そんな顔をさせる男なんだね……私には、できない……」
そんなブレウの姿に、ギールはすっかりと敗北を悟っていた。
意気消沈したギールの心は折れていた。いや、心の男性性をへし折られたのだ。
ギールが心の支えにしていた妻と娘、それを愛し、守っていたという独占欲。
言うなれば、心に生えた男根。それが去勢されてしまったのだ。
「……最後に、教えてもらえないだろうか」
「なにを?」
「君を孕ませた男の名前を……私が今さら何を言うのもおかしいだろうが……せめて、君を不幸にしないようにと釘を刺しに行くことにするよ」
そう言って、壊れそうな顔で笑うギール。
ブレウの夫だった者として、最後にできる愛情表現。
愛する者を最後まで愛してくれと頼みに行こうとする。
そのあまりにも切ない姿にあなたの胸は締め付けられた。
「旦那様、よろしいですか?」
問われて、あなたは頷く。
あなたの許可を得て、ブレウがあなたを手のひらで指し示す。
「おなかの子の父親は、旦那様よ。サシャも私も平等に可愛がってくれるのよ」
「…………???????????????????????????????」
ギールは頭上に疑問符を1000個くらい浮かべてフリーズした。
そんなギールの肩を抱いて、あなたは優しげな声音で囁く。
君の奥さんと娘さんは最高においしかったよ、と。
「あ、え……は……?」
意味が分からないと固まり、混乱するギール。
そんな彼女の服の中に手を潜り込ませ、あなたは優しく愛撫をする。
「えっ。お、オーナー、そのっ、ブレウが……」
「あらあら……そうじゃないかとは思ってたけどね……ごゆっくりどうぞ」
ブレウは察したもので、立ち上がると部屋を出て行った。
2人きりになったところで、あなたはさらに愛撫の手を強める。
「あっ……! そんなっ、待って……ど、どういう、ことなんですか……?」
どういうこともこういうこともない。
ブレウの心を射止め、サシャを買ったのはあなただ。
出稼ぎから帰って来ない夫を待ち続けるブレウ。
爪に火を点すような生活を送る姿は本当に可哀想だった。
そんな彼女を慰め、高給で雇い入れ、衣食住を保証したのは誰か?
出稼ぎから帰って来ない父のせいで、身売りしたサシャ。
奴隷に身を落とさねばならなかったサシャも可哀想だった。
そんな彼女を買い上げ、冒険者としてやっていけるよう教育したのは誰か?
それはどちらもあなただ。
いつまでも出稼ぎから帰らなかったギールに出来なかったこと。
ブレウの夫としての役目、サシャの父としての役目を代わってやったのだ。
感謝して欲しい、と言うのはあなたの身勝手な言い分だろうか?
「ど、どうやっておなかの子を……」
先ほど教えたではないか?
あなたはこの大陸でイミテルを孕ませた。
それと同じようにブレウを孕ませられないとでも?
「う、うう……ひどい、ひどいです……オーナー……! 私から、全部奪っていくなんて……」
そう言って涙するギール。その誹りは甘んじて受け入れよう。
一応、ギールに対して酷いことをした自覚はあるのだ。
だが、それはべつにギールに酷いことをしたくてしたわけではない。
ブレウもサシャも本当に可哀想だった。
それはありふれた悲劇のひとつだったろうが。
そこから2人を救い出せる力があるのならば。
それを使ったことまでもが酷いことだろうか?
「わかってるんです! なにもかも私が悪いことくらい! でも、でも……!」
やるせない気持ちがあるのだろう。
ギールが涙を流して、あなたの胸に縋りついて来る。
あなたはそんなギールを優しく抱きしめる。
そして、その耳元で全部忘れさせてあげると囁いた。
「忘れさせて、ください……オーナー……ぜんぶ、ぜんぶ……ギールと言う男のことも、忘れさせて、ください……」
お姫様の望むままに。
あなたはそう囁いて、ギールをソファへと押し倒した。
さぁ、お望み通り全部忘れさせてやろうではないか。
30半ばのケモ耳のオッサン、ギールはもういない。
あなたのことが大好きな15歳のケモ耳少女ギールちゃんになるのだ。
「あなたの情婦にして……いっぱいいっぱい、抱いてください……女の子に、してください……」
ギールの甘えた懇願にあなたの理性が蒸発した。
なんやかんやとあったが、ギールのあれそれは一応の解決を見た。
ギールの精神と脳を粉々に破壊した挙句に、全員から全員を寝取っただけと言えばそう。
当初予定とはだいぶ違う展開だったが、まぁ、これはこれで。
いずれ一家まとめてベッドの中で美味しくいただけるかと思うと、いまから脳が沸騰しそうだ。
ギールとサシャの心理ハードルはそれほど高くなさそうだ。
なので、ブレウ側の方のハードルをなんとか取り払わなくては。
なかなか難しい問題だが、やりがいのある問題である。あなたは奮い立った。
まぁ、そんなわけでマフルージャ王国におけるギール一家の悲喜交々はひと段落した。
2日も留守にしてしまったので、ボルボレスアスに戻って旅行を再開しなくてはいけないだろう。
まだボルボレスアスの女の子は両手の指で足りる程度しか味わっていない。
短い旅行期間中、出来る限り堪能しておかなくてはいけないだろう。
さぁ、旅行の再開といこう。
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