13話

 あなたたちは東部地方に到着した……と言っても、端っこだが。

 港町で一息吐いて、おか酔いのことも踏まえて3日ほど滞在する。

 その後、主目的である東部地方は中部の開拓村まで向かう予定だ。


 主目的はハウロの新天地探しである。

 あなたは……特に理由はない。ぶらぶら旅をするだけだ。

 いや、ぶらぶらすることこそが主目的である。

 前回は東部地方をサクっと通過しただけだった。

 そこできちんと見分し、東部を堪能するのだ。

 期限は特に決めていないが……さすがにあんまり長く旅をしてもよろしくないので、長くても半年をめどにしよう。




「そろそろ血を見ないと死ぬぜ! 血! 見た過ぎるだろ! 血!」


 港町に到着し、適当に宿を取って一息つく。

 その後、まずは一風呂浴びて潮気を流そうか。

 そんな相談を始めたところ、ハウロがそう叫び出した。

 あまりにも物騒な雄叫びだった。


「そう言うわけなんで、俺はちょっと依頼を探して来る。近場で済ますから1日くらいで帰ってくる」


「狩人の仕事ね……興味あるけど、狩人以外は規制があるのよね」


「規制? まぁ、たしかに狩猟にこそ規制はあるが、基本的に狩猟場への立ち入りに規制はないぞ」


「そうなの?」


「あくまで規制は狩猟そのものだ。それにしたって、狩人の依頼によりサポートとして帯同したって体なら大体問題ないぞ」


 そうなの? あなたは初耳な情報に尋ねた。

 あなたがボルボレスアスを旅したのは随分と昔だ。

 それを思うと、それから規制が変わったのだろうか?


「いや、どうだろうな。かなり前……10年以上前からそんな規約のはずだが……パートワンとかパートニャーは知ってるだろ?」


 そのあまりにも直球すぎてダサいネーミングの存在は、ボルボレスアス特有の犬猫たちのことだ。

 非常に知能が高く、人語を喋り、さらに二足歩行すら可能とし、人間と同様に道具までも使う。

 そんな彼らの中には狩人に憧れ、狩場までついて行って狩猟のサポートをする者たちがいる。

 そうした者たちを、パートワン、パートニャーと呼ぶのだ。

 なお、名前からお察しの通り、パートワンが犬でパートニャーが猫である。


「あいつらもそう言う……狩人のサポートが可能な専門技能者として帯同してるんだ。人間にそれが適用できない道理もねえさ」


 言われてみればそうである。

 以前の旅では、狩人の友人を作って狩場まで連れて行ってくれなどと殊勝に頼んだことはなかった。

 狩猟したいわけでもなかったのでべつに困ってはいなかったのだが。

 襲われれば普通に反撃として狩猟していたので、それが問題になって刺客を送られたものだ。まぁ、全部返り討ちにしたけども。


「サポートに関してはなんらかの専門技能を持っているって証明が必要だからな。あんたらみんな魔法使えんだろ?」


「いや、私は使えん」


「ああ、イミテルは使えねえのか。まぁ、それ以外のやつらは魔法使えるんだろ。その魔法が使えりゃサポート役としちゃ十分通る。行きたきゃ行くか?」


 あなたはべつにいいかなと断った。

 狩人の仕事のおおよそは把握しているし、べつに狩りたいモンスターがいるでもなし。

 未知の強大なモンスターならぜひとも会いたいし、狩ってもみたいが……。


「いや、さすがにそんな危ねぇ仕事請けねぇよ……そもそもないだろうし」


 そう言うわけなので、あなたはパスだ。


「あの、私は興味あるのですが。よろしいでしょうか」


「あ、私もおねがいします」


「サシャとフィリアか。フィリアはなんか回復魔法が使えて、サシャは……」


「私は秘術系……攻撃したりとかですね。探す対象の情報があれば、その位置を探り当てる魔法とかも……」


「そんだけあれば十分だな。よし、書類の用意が必要だから、協会までついてこい。2人借りてくぞ」


 ハウロの言にあなたは頷き、以前にもプレゼントしたワンドを渡す。

 中に込められた魔法は前回とは違い、生命賦活の魔法が込められている。

 ハウロの生命力量でもかなりの傷を癒してくれることだろう。


 依頼に必要な道具類があったら2人に買い与えて欲しい。

 その代金分として渡しておく。また、死亡した場合は体の一部だけでもよいので持って帰って来て欲しいとも。

 ワンドはその代金なので遠慮なく受け取って欲しい。


「おう、分かった。任せときな」


 ハウロは力強く頷いて、サシャとフィリアを連れて去って行った。



 残されたあなたたち4人は、とりあえず身を落ち着ける。

 宿にあった風呂で潮気を洗い落し、航海中に着た服を洗濯し。

 そんな作業を終えたところで、あなたはヒマになった。


「あー、お酒が美味しい! 今日はとことん飲むわよ!」


 飲むと船酔いをするということもあり、酒をっていたレインは酒盛りで忙しい。

 実際のところ、船酔いしてでも飲む気満々だったレインだが、あなたが止めた。

 飲酒時もそうだが、船酔いは酔いの影響が出るのが遅れることがあり、就寝中に嘔吐することがある。


 すると、吐瀉としゃ物で息の根が止まってしまうことがあるのだ。

 船酔いだけでも危険なのに、飲酒なんかしたら余計に危険である。

 仮に死んでも蘇生はしてやるが、また金貨1000枚の借金を背負う羽目になる。

 そんな脅しをかけたところ、さすがのレインも酒を断ったわけだ。


「シカだのイノシシなら狩っても構わんのだな。今夜は焼き肉だ!」


 こいつはレウナ。動物を殺し、その血を啜るのが大好きな女だ。

 いや、血料理が好きな者などがいるので、血が好物なのはまだわかるのだが。

 獲物の傷口に口をつけて、直接啜るのが大好きというのは、ちょっとおかしい。

 いや、理屈は分からなくもない。外部に、それこそ空気に触れた血液は劣化し、不衛生になる。

 対して血管内の血液は衛生的であり、そこから直接啜れば安全な賞味が可能にはなるが……いや、やっぱりおかしい。


「体が鈍ってしまう……鍛え直さなくては……」


 イミテルは訓練に余念がない。

 船上でも訓練はしていたのだが、さすがに本気で動けば船が壊れる。

 そのため、自重していた訓練を本格化させている。


 レインといっしょに酒を飲むか、レウナといっしょに狩りに行くか、イミテルと訓練をするか。

 どれも魅力的だが、どれもそんなにやりたいと言うほどでもない。

 あなたはちょっと考えてから、一旦マフルージャに戻ると告げて、転移で王都屋敷へと戻った。

 しばらく留守にしていた王都の屋敷が気になったのだ。



 王都屋敷に戻ると、あなたが現れるのはマーキングポイントである中庭だ。

 屋敷内に入って、メイド長のマーサと、スチュワードのランザーに屋敷の状況を確認する。

 普段、屋敷の維持管理を統括しているポーリンは、あなたが下賜された領地の方にいる。


 アノール子爵領はいままで代官が統治をしていた元王領だ。

 そこをあなたの領地にするにあたって、いろいろと煩雑な事務処理が必要だ。

 そのあたりの作業を可能な限り代行してくれるとポーリンが申し出てくれたのだ。


 まったくもってありがたい話である。

 ポーリンの意図としては、自分の有能さのアピールのため。

 また、自分に仕事を属人化させることで切られるリスクを低減させるためとか色々と目論見はあるのだろうが。

 内容がどうあれ、面倒なアノール子爵としての仕事が減るならありがたい限りだ。

 あなたはトイネ王国の貴族、アノール子爵である前に、名も無き自由な冒険者なのだから。


 さておいて、マーサとランザーに諸々の報告を受けて、些末な仕事をサッと片付ける。

 屋敷の維持にあたっての決済の事後承認などの本当に些末な仕事だ。

 そして、あなたはこちらの屋敷にギールが来ていることを知った。


「屋敷の庭に家を建てる許可を戴いている、とのことですでに建築に取り掛かっております。委任状もお持ちでしたが……」


 あなたはその件に関しては許可を出しているとマーサに頷いた。

 建築資材の購入代金や人件費等もすべて屋敷の支出として組み込んでいる。


「さようでございましたか。ああ、建築で思い出しましたが……庭の図書館はつい先日に完成いたしました」


 それは朗報だ。ボルボレスアスから帰ったら、サシャに図書館のお披露目だ。

 サシャが喜ぶ顔が楽しみである。そして感謝の念で夜には大サービスしてくれるに違いない。

 よっぽどすごいことをさせてくれるに違いないのだ。2度と忘れられないくらいの!

 こう……ブレウといっしょか、ギールといっしょか……あるいはブレウとギールといっしょ、とか……!


 今から考えるだけで脳が蕩けそうだ。

 あなたはサシャが購入する本の代金をお小遣いとして用意してあげなくてはと張り切った。


「引き渡しも完了しておりますが、掃除などは……」


 今のところものが入っていないので不要だろう。

 メンテナンスに関しては大工らに委託することになっているし。


「畏まりました。他になにかございますでしょうか?」


 特に何もない。新人のメイドなども居ないので、仕事ぶりの確認なども不要だろうし。

 あなたはちょっと考えてから、マーサにこれからイイコトしない? とお誘いをかけた。


「申し訳ございませんが、これから見回りでして……夜に、お待ちしております……」


 そのようにマーサが余裕のある微笑みを送ってくれる。

 あなたは年輪を感じさせるセクシーな対応に、自分もそうしなくてはと言う気持ちになった。

 マーサの手の甲を優しく撫ぜ、素敵な夜にしよう、と優しく甘く囁いた。


「はい……」


 まったく、いまから今夜が楽しみだ。




 計らずしも夜まで滞在することになったが、まぁいい。

 どうせ3日ほど余裕はあるし、サシャとフィリアの帰りも明日になるだろう。

 1日くらいこっちで泊まって何か問題が出るでもなし。

 とりあえず夜までなにをしようかとあなたは考えながら廊下を歩く。


「あ、ご主人様。お帰りになられていたのですか。おかえりなさいませ」


 すると、出くわしたメイドに帰りのあいさつをされた。

 あなたはただいまと答えつつ、美しく整った身なりのメイドに深く頷いた。

 屋敷の生活環境改革のお蔭で、メイドたちはみんな美しく身ぎれいになった。

 こんなおいしそうなメイドを見せられては手を出さなくては無作法と言うもの……。

 あなたはメイドに、トイネ土産があるからお部屋にいかない? と誘った。


「わぁ、いいのですか? では、ぜひ。ベッドの上で土産話も聞かせてくださいな」


 メイドも心得たもので、そんな返事をして来た。最高だった。



 部屋でメイドを可愛がり、ピロートークに土産話をし。

 メイドが服を整えて部屋を辞していった後、どうしようかと考え込んでいると来客。

 他のメイドたちが、土産と土産話があると聞いて自発的にやって来たのだ。

 もちろんみんな、それを名目として行われる行為に理解がある。

 1人ずつやって来たメイドを、あなたは丁寧に全員食い散らかした。


 この屋敷のメイドたちは、何度も募集をかけて、最終的に残った者たちだ。

 つまり、メイドに手を出しまくるあなたに適応した者たち。

 それは翻って言えば、そう言う趣味のあるメイドたちと言うことだ。

 全員が好意的かつ積極的なのにはそう言うからくりがあった。


 夜には入浴中のメイドを窃視して楽しんだ後、あなたも入浴する。

 入浴を共にしたメイドと風呂の熱気に負けないほど熱い行為をしたり。

 就寝前に冷たいものでも、と言うことで厨房に行って明日の仕込みをしていたコックを手伝ったり。

 そのお礼として、コックの豊満で熟した肢体を堪能させてもらったり。


 そうして就寝の準備を整えて、マーサとベッドインした。

 溺れるほどに深く愛し合って、共に少しだけ朝寝坊をして……。

 いつもと違ってあなた1人で食堂で食べるのは寂しいからとマーサと共に朝食を食べた。

 思う存分に楽しみまくって、あなたは気力と体力が充実しまくっていた。




「メイドの方たちがなんだか妙に元気だなと思いましたが、こちらにお帰りになっていたんですね」


 そして、自宅の建築に取り掛かっていたギールとようやく出会った。

 サシャと親子であることがありありと分かる容姿なのはそのままに、若返っている。

 先日の約束通り、あなたは5年分の若返り薬を提供したのだ。


「家の建築は順調です。いい家になります。お庭に住まわせてもらっておいて変な話ですが、いずれ食卓にご招待できればと思います」


 それは素敵だ。ぜひとも手料理でもてなしてもらいたい。

 その時にはいい酒でも土産に持っていくとしよう。

 いや、甘くて美味しいデザートの方がいいだろうか?


「ブレウとサシャが喜ぶので、デザートの方でお願いできればうれしいです」


 自分よりも妻と娘の喜びを取る。まったく理想的な夫である。

 そんなギールに、あなたはなにか困っていることはないか、欲しいものはないかと尋ねた。

 ギールは疑いようもなく善き人だ。あなたも便宜を図ってやりたくなる。

 便宜を図ればサシャとブレウの歓心が買えて、もっとサービスしてくれるかもと言う下心はちょっとしかない。


「欲しいものですか? 建築資材や道具はすべてお金で済みますし、人も図書館を建てた方々とのツテがありますから……」


 特になにもないような気がする、と言う顔をするギール。

 しかし、直後になにか思いついたのか、遠い目をして考え込むような仕草をする。


「……はい、そうですね。やはり、なにもない……と思います」


 が、それを呑み込んで、ギールはそんなことを言う。

 あなたはそれを見逃さず、本当はなにか欲しいものがあるのだろう? と尋ねた。


「い、いえ、これは本当に、仕事に関係ないものですから。単純に、個人的なものですので……」


 個人的な要望でもまったく構わないので、教えて欲しい。

 そのように言うと、ギールが困ったような顔をする。


「しかしですね……」


 まぁまぁ、用意するかどうかはこちらで判断するから。

 だから、ダメで元々言うだけ言ってみなさいとあなたはさらに促す。


「はぁ……それでしたら、その……実は、若返りの薬をもう少し、融通していただければなぁ、と……」


 若返り。古今東西――エルグランドは北なのでノーカンなのだろう――の人々が求める奇跡。

 なるほど、求めるものとしては自然なものと言えるだろう。

 用立てるのはもちろん構わないが、なんでまた?


「そ、そのう……ブレウ……妻は、20くらい、でしょう? 私は、その……」


 たしかに今のギールは30そこそこくらいだろうか。

 ブレウに釣り合うくらいの年齢になりたい、と言うのも分かる。

 しかし、若返りの薬は貴重と言えなくもないニュアンスの存在だ。

 はいそうですかと簡単に用意するわけにはいかないな、などとあなたはギールに言う。


「私にできることならばなんでもします」


 ギールがなんでもしてくれるらしい。

 あなたは喜んで、以前に用意した時はなにをしたのだっけ? と促す。


「……そ、そうですよね、以前と同じこと……はい……」


 よく分かっているようだ。あなたは満足し、部屋に行こうと促した。

 あなたの性欲は無尽蔵なので、昨日散々ヤったとかそんなことは関係ないのだ。


「はい……」


 ああ、そうだ。一応訊ねるとしよう。


「な、なんでしょう」


 それは手荒くか。それとも優しくか。

 あなたはそんな言葉をギールの耳元で囁く。


「……乱暴に、手酷く、おねがい、します……好きに、なって、しまいますから……」


 大変結構。

 あなたは笑って、ギールをさらに雌にするため可愛がることにした。

 王都ベランサの朝は、まだまだ熱かった……。

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