ボルボレスアス旅行記

1話

 あなたたちはソーラスの迷宮から離脱し、ソーラスへと戻って来た。

 そして、あなたたちは探索者ギルドへと報告を行った。

 すなわち、ソーラスの迷宮の完全踏破を。


 これにあたって、ソーラスは沸騰した。

 なにせ、長年に渡って成せていなかった偉業だ。

 建国以来とのことだから、350年以上に及ぶことになる。

 騙りの可能性も否めず、その精査は厳重に行われることとなる。


 実際のところ、町の人間に確かめる術などあるわけもなく。

 あなたたちに依頼を出して、10層まで連れて行ってもらうくらいしか手立てはない。

 そのため、あなたが単独で10層までギルドの人間を連れて行って証明した。




 あなたたちはトイネに逃亡していた。

 まぁ、あなたはべつにマフルージャの民と言うわけでもない。

 自由民ではあっても、王都ベランサの市民と言うわけでもないし。

 逃亡と言うよりは、単純に旅行をしている、と言うべきか。


「この国暑い……! 酒、飲まずにはいられないわ! キンキンに冷えたラガーがたまらないわね!」


「この子は……母として恥ずかしいわよ、レイン……」


「お母さん、体は大丈夫? 冷たい水とか必要じゃない?」


「大丈夫よ、サシャ。最近はつわりも随分とよくなったから」


 今はチームメンバーの親族を連れて、イミテルの実家であるウルディア子爵家に滞在中だ。

 なんでって、まぁ……勧誘とか結婚の申し込みとか、舞踏会の招待とかがめんどくて……。

 あなたは冒険がしたいのであって、欲望渦巻く宮廷闘争なんかしたくないのだ。

 ソーラスでの踏破記念の式典も当然のようにブッチした。

 ヒャンの銅像落成式もブッチしたあなただ。その程度は楽勝だった。


「まぁ、こうなっては手早く結婚を済ませたほうがいい。トイネの紐付きと分かれば、そう迂闊なことはしてこないはずだ」


 イミテルは常の動きやすい武僧風の装束と異なり、きらびやかな装飾の施された布を幾重にも纏っている。

 このトイネにおいて、貴族の少女が纏う一般的な装束だとか。

 異国情緒がむんむんとして最高に可愛い。今夜はこの装束でイイコトをしたいところだ!

 早く結婚をしないといけないのであれば、今晩は結婚後の予行演習をしよう!

 円満な結婚生活のために、十分な予行演習が必要なはずだ! そうに違いない!


「な、なにが予行演習だ。今まで散々、その……わ、私を……と、時には、私の方が上になって……」


 などと恥ずかしがってもじもじとするイミテル。かわいい。

 長身の美女が恥じらう姿は最高に可愛い。実にいい栄養が染み出して来る。


「ところでだが」


 イミテルの可愛らしさに悶えていると、レウナが思い出したように声をかけて来た。

 どうしたのだろう?


「チームメンバーの親族とのことで、サシャとレインの母親は分かるのだが……サシャの父親はどうした? 存命なのだろ?」


 ……そう言えばそうだった!

 あなたは今になってようやくサシャの父、ギールのことを思い出した。

 いやまぁ、いまは女になっているが、ブレウにサシャを産ませたのはギールだ。

 エルグランドにおける婚姻周りの慣例からすると、父と呼んで間違いない。


「忘れてたって……早く探しにいってやれ」


 あなたはしょうがないなと立ち上がる。

 そして、サシャも一緒に行くかと声をかけてみた。


「んー。そうですね、せっかくですし」


 実の父親に対し、せっかくだから探しにいく。

 扱いが随分とおざなりである。まぁ、なおざりにするよりはマシか……。

 

 しかし、ギールはいったいどこに行ったのだろうか?

 スルラの町に到達し、家に帰り付けば近隣住民から言伝を受け取れるはずなのだが。

 王都の屋敷に来い、と言う内容のそれを聞いていれば、ポーリンとブレウを迎えに行った時にはすでにいるはずなのだが……。



 あなたはサシャを伴ってスルラの町に『引き上げ』の魔法で移動する。

 そして、サシャの自宅周辺の住民に聞き込みをするが……やはり、ギールは帰り付いていなかった。


「どうしちゃったんでしょう、お父さん……」


 サシャが首を傾げるが、あなたもさっぱりだ。

 まぁ、ここはひとつ魔法に頼ってみるとしようではないか。

 あなたは『ミラクルウィッシュ』のワンドを用い、前回も使った『生物探知』を発動する。

 発動し、その魔法の効果に意識を向けると……ギールは王都側の方にいるようだ。


「前回も王都側って言ってませんでしたっけ?」


 そう言えばそうだ。

 すると、王都にいるのだろうか?

 あなたは再度『引き上げ』で王都に移動して『生物探知』を使ってみる。

 すると、スルラの町方面にいることが分かる。


 と言うことは、スルラと王都の間のどこかにいることになる。

 何個か町はあったはずなので、そのどれかにいるということだ。

 あなたとサシャは、やむなくそれらの町に向けて移動をはじめた。


 魔力を潤沢に用いて高速で移動し、まず初めの町に。

 そこでも『生物探知』を用いて……そう言う虱潰しのやり方だ。

 そして、2つ目の町で、ギールの所在位置が明らかにズレた。


「と言うことは、この町のどこかにいるということですね」


 あなたは頷いて、探知した方角へと向かう。

 『生物探知』の効果時間は長くないので手早く探す必要がある。

 そう思って移動していくと、歓楽街と言うか、爛れた雰囲気の街並みになって来た。

 余所者が流入する先となると、こういういかがわしい場所になるのは自然ではある。


「あー、娼館ばっかり……お父さん、どこかで住み込みで働いてるのかな……」


 かもしれない。なんて返事をしたところで、『生物探知』の効果時間が切れた。

 しょうがないのでもう1度……と『ミラクルウィッシュ』のワンドを取り出すと、サシャが止めて来た。


「ご主人様、そろそろ夜ですよ。今日は休みませんか?」


 言われて時計を見ると、たしかに午後7時を回っていた。

 しかし、空にはカンカンと太陽が照っている。日暮れではあるが、まだまだ明るかった。

 この大陸は非常に陽が長いので、日没感覚がどうにも狂う。

 エルグランドならとうの昔に真っ暗なので。


 あなたは時計を仕舞い、今日はもう休もうと答えた。

 どこぞで宿を取って、サシャとお楽しみタイムか。

 いや、せっかくこんなところにいるのだし……。


「ご主人様、あの店、2人でも入れるらしいですよ」


 そう言ってサシャが指差す先は、ややボロけた気配の娼館。

 どんなプレイもOK! と言ったニュアンスの看板が立っている。

 娼婦を殺すの禁止、武器を使うの禁止、危険薬物禁止と、普通は断る必要のない文言が幾つも並んでいる。

 つまり、この娼館は過激なサービスが売りのところだ。

 武器と薬物を使わなければ、娼婦を死ぬ寸前まで殴ってもいいということになるし……。


 娼婦の質が低いところでは、こういうところで差別化して客を呼び込むことがある。

 あんまり褒められたところではないし、あなたは好まない類の店だが……。


「?」


 傍らのサシャは、度を越したレズのサディストだ。

 良識があるからまだいいが、無かったら今ごろ猟奇殺人鬼になっていたのではなかろうか。

 そんなサシャにはこういう店の方が合っているのかもしれない。

 なにをしてもOKなところではなく、殺しNGと明言されてるところが……。


「ご主人様とイイコトするのもいいですけど、ご主人様といっしょに誰かを虐めるのも楽しそうだなって思いまして……レインさんを2人がかりで可愛がったの、すごく楽しかったなぁって……」


 たしかに、あれはすごくよかった。最高の光景のひとつだった。

 なるほど、この娼館でそれをいっちょやってみようというわけか。

 たしかに悪くない。どんなプレイもOKなら女3人で同時プレイもOKのはずだ。


「じゃあ、いきましょう!」


 あなたは頷くと、その娼館へと向かった。

 オーダーはもちろん3人プレイだ。

 そのように店員に告げると、店員は頷いた。


「もちろん3人での行為も問題ありません。どのような嬢がお好みで?」


「え、うーん……私は特に希望は……こう、虐めて楽しい感じの人なら……」


「なるほど。でしたら、傷の少ない嬢の方がよろしゅうございますか? それとも傷だらけの方が?」


「そうですね……傷の少ない方が。私は他には特には……」


「そちらのお客様は……」


 あなたはちょっと考え、サシャの頭と言うか、耳を指差した。

 獣人がいい。年齢とか体格とかは一切問わない。獣人ならそれでいい。


「なるほど、ちょうどいい娘がいます。6番にどうぞ」


 差し出された鍵を受け取る。

 どうやら、外鍵のある部屋に嬢がいて、そこの鍵を渡されて入るシステムのようだ。

 そう珍しいシステムでもないので、特に違和感はない。

 あなたは6番とでかでかと銘打たれたドアに向かい、その鍵を開けて中に入った。


「い、いら……あ、あなたは……」


 そこにはなんだか見覚えのある獣人の女性が待っていた。

 40手前くらいと言った外見の女性で、とてもサシャに似ていた。

 そう、待っていた女性は、あなたが以前に助けたギールその人だったのである。




 死ぬほど重苦しい沈黙が立ち込めていた。

 サシャにしてみれば、実の父がなぜか女になっている上、娼婦をやっているし。

 ギールにしてみれば、実の娘がなぜか自分を買っているし、ヤる気満々で来てるし。

 そして、あなたにしてみれば「コイツ自分の血縁者になにやってんだ……?」と2人に見られてつらい。


 あなたは決断的な速度で立ち上がる。

 そのまま流れるような勢いで膝を折って地面に座り込む。

 そして、あなたは深々と頭を下げた。地面に額を擦り付ける姿勢だった。


 すべて自分が悪いので許してください。


 サシャとギールに対し、100%の降伏と謝意を示す姿勢だった。

 この状況になったら、もう弁解のしようなんぞあるわけもなく。

 実の父に「あんたの娘さんゴチでした」なんて言った刃傷沙汰だし。

 実の娘に「あんたの父親は私が女にしてやる」なんて言ったら病院沙汰だし。

 とにもかくにも、謝罪して許しを乞うしかできることはなかった。


「なるほど。まぁ、許すかは聞いてから決めます。ご主人様、具体的に説明してください」


「さ、サシャ……?」


 ぐりぐりとあなたの頭を踏みつけるサシャ。

 何の遠慮もない、全力の踏み付けだ。

 あなたの頭蓋骨が軋み、大変痛い。

 実の父親の前でも容赦も躊躇もないサディズム。

 さすがのレズのサディストぶりであった。


「どうして、お父さんが女になってるんですか?」


 工事現場から連れ出すために容姿を変える必要があり、女にした。

 幻術だと見破られる危険があり、変身魔法の類は低位のものは理性を失う危険がある。

 そのため、性別を変更して、あなたの同行者と偽ることで連れ出した。


「なるほど、正当な理由があるんですね。納得いきました。で?」


 パチンとサシャが指を弾くと同時、空間の歪む感覚がした。

 そしてあなたの頭蓋骨にかかる荷重が一気に増えた。これはきついとあなたは思わず呻く。

 どうやら『四次元ポケット』から何か荷物を取り出して『ポケット』に入れたらしい。

 あなたを痛めつけることに対して余念がなさ過ぎる。


「すぐに戻さなかったのは、そう言うことですよね?」


 そう言うことである。あなたは弁解せずに肯定した。

 いやまぁ、あなたが女にした上で戻すつもりがない以上、やることは明白だし。


「悲しいなぁ……私たち一家を手籠めにしようなんて、ひどいですよ。なんでそんなことするんですか?」


 おいしそうだったから……?

 思わずそう答えたところ、あなたはサシャに蹴り飛ばされた。

 なんの躊躇もない力強い蹴りだった。

 あなたが常人だったら頸椎がへし折れていたところだ。

 って言うかなんなら、首がもげるか、頭が爆散するくらいの威力があった。


「逆に私がご主人様を手籠めにしてあげますよ。お父さんも手伝ってくれるよね?」


「え……?」


「元々男なんだから、そのくらい出来るよね。ほら、ご主人様はまずおねだりしてください。いくら女と見たらよだれを垂らして追うばかりの駄犬でも、その程度はできるでしょう?」


 サシャは絶好調だ。そしてあなたも絶好調だった。

 サシャの力強い女王様的態度に、あなたの胸はドキドキと高鳴った。

 父のいる所でこのレベルのサディズムを発動出来るなんて……信じられん!


 あなたは言われるがままに、サシャに一生懸命おねだりをした。

 もっと虐めて、可愛がって欲しいと。かわいいペットに虐められる無様なご主人様でごめんなさいと謝った。

 サシャのサディズムは普通に度を越しているが、あなたはイケる。

 毎日はちょっと勘弁してほしいレベルで度を越しているが、たまにならまぁ……。


 この特殊な環境でのプレイ、なかなか滾るものと見た。

 早々はないだろう機会だし、変則的母娘丼だ……楽しませてもらおうではないか。


「フフ……今夜は寝かせてあげませんよ、ご主人様」


 どうやらそのようだ。

 あなたは今夜は眠れないことを覚悟して、笑った。

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