37話
サシャとぐちゃぐちゃになるまで楽しんだ。
やはり、ケモ耳は強い。どれほど食べても飽きない。
攻守交代をするのも実にいい。最高である。
これからもたくさんサシャとは仲良くしたいものだ……。
そんな激しく甘い夜が明けて、あなたはゆっくりと体を休めた。
一晩中ヤりまくった後に冒険に出る無謀さはあなたにはない。
ちゃんと体力気力が充実した状態で冒険には出発したいものだ。
常に体力気力が充実した状態で冒険ができるとは限らないものの。
叶うことなら、そうして体力気力を充実させておきたいもの。
ならば、せめてものこと、出発時くらいはそうしたいものだった。
その目論み通りに体を休めて、あなたたちは迷宮へと向けて出発した。
最後になるかもしれない挑戦、ラストダイブだ。
あなたたちはソーラスの迷宮、その深奥へと挑みかかっていった……。
いつものように1層、ソーラス大森林を抜けていく。
ソーラスベアが襲ってくることもなく、もはや無人の野を往くがごとし。
まぁ、それでも時たま毒撒き蝶が襲ってくることはある。
アレは虫と言うこともあって、そう言う敵の強さを判断できる知能がないのだ。
なので、最低限の警戒は怠らずに『大森林』を進んでいく。
「思えば、この冒険のはじまりは地味なものだったわね」
そんな最中、レインがなんとなしの調子でつぶやく。
いよいよ終わりかということもあって、そんな気持ちになったのだろう。
「ほう? そう言えば、レインと我が鼓動の馴れ初めは聞いたことがなかったな」
「大した話じゃないのよ。まだ駆け出しの冒険者だった頃、行商人の護衛で同道したの。種類で言えば、彼女も当時は駆け出しだったもの」
「ううん? ああ、そう言えば別大陸出身だったか……そうか、こちらに来たばかりの頃だったというわけか」
「そう言うことね」
懐かしい話だ。
あの時に依頼を共にした……なんか男と、生足魅惑の少女セアラは元気だろうか?
あの依頼を共にしたことで、あなたの道は開けたとも言える。
あるいは逆に、自由気ままな冒険をする道が閉ざされたとも言えるが。
まぁ、今でも十分気ままに冒険はやっているが、王都の家を買い受けた都合上、比較的マフルージャに縛られてはいる。
「でも、あの時に出会えてよかったわ。ええ」
そう、懐かしむようにレインが言う。
その笑みに、サシャとフィリアが微妙な顔をする。
レインの言う「よかった」は。
たぶん、父であるザーラン伯を暗殺せしめたから、と言うことなのだろう。
そこまで父親を嫌っていたのかと普通の人間なら思うことだろう。
特にサシャはごく一般的な家庭で両親に囲まれて育ったわけだし。
そして、フィリアは仲間たちを皆殺しにされて、辱められたわけだし……。
なんでザーラン伯の暗殺に巻き込まれなきゃならんのだと言うのが本音だろう。
「ふむ……我が鼓動との冒険か……フフ、それはさぞかし心躍ったのだろうな。叶うことなら、私も共にありたかったものだ」
「しかしな、イミテル。私が思うに、女と言う女を引っかけまくるさまを目の前で見せられるのではないか?」
「それを言うな、レウナ……」
「寝取られは脳が粉々に破壊されるとモモロウあたりが言っていたように思うが、それが癖になるらしいぞ?」
「あまり愉快ではない未来だな……」
そんな話をしているうちに、あなたたちは第2層『石窟』の前へと辿り着いた。
実に平和な旅路だった。戦闘のひとつもなかった。
あなたたちはそのまま気楽な調子で迷宮へと足を進めるのだった。
第2層『石窟』。
ひんやりと冷えた空気に、湿った空気、そして光源ひとつない暗闇。
あまり愉快とは言えない環境に、レインがひょいと道具袋から『光棒』を取り出す。
それをガツンと壁にぶつけると、それがまばゆい光を放ちだした。
錬金術の道具である『光棒』だが、使い捨てである。
それは逆に言うと、粗末に使ってもさほど問題でないということでもある。
そのため、放り投げて壊したり出来ないランタンと違い、光源を広げる用途で投げるなどして使えると、意外と便利である。
ランタンもさして高いものではないので壊しても惜しくはないのだが。
壊したら当然光が消えるので、壁をぶん殴っても消えない明かりはなんだかんだ便利なのだ。
「最初の時はおっかなビックリ進んでいたものだけど、今となっては慣れたものね」
「そうですね。あの時は暗視の手段も少なくて、色々と困りましたしね」
あなたは生得的に暗視能力があるので困らなかった。
だが、レインやサシャはそうもいかないので、その辺りは色々と頭を悩ませたものだ。
「今じゃ手段は色々あるわ。そして、闇の中で戦う手立ても少しくらいはある。強くなったという自負が湧いて来るわね」
「まぁ、この階層のモンスターがさほど強くないから言える……と言うのもあるとは思いますけどね」
「それもあるわね」
まぁ、油断は大敵だ。気を付けて進もう。
あなたはそのように促すと、闇の中をイミテルとサシャが先導して歩いていく。
イミテルはエルフなので、生得的に夜目が効くのだ。獣人のサシャもそうだ。
「そう言えば……イミテルさんって、トイネの王宮との連絡係なんですよね?」
「ああ、そうだが?」
「それですと、長期に渡る冒険にあたってはイミテルさんには些かの不都合があるのではないかと思いますが、いかがでしょう?」
「ふむ。まぁ、そのあたりは些事だ。気にするな」
言いつつ、イミテルが顎を撫でる。
「以前から思っていたが、民草とは思えんほどまともな言葉遣いをするな、おまえは。言葉が荒い程度で目くじらを立てるほど狭量でもないゆえ、あまり気負わずに喋って構わんぞ」
「ああ、いえ……そう言う風に教育されたので、慣れていますから」
「そうか? まぁ、私としても、その方が気楽でいいので助かるが……」
思えば、たしかにサシャは当初から言葉遣いが非常に丁寧だった。
たしかに庶民にしてはおかしいと言ってもいいくらいだろう。
その教育を施したクロモリ氏は、サシャを貴族と接する仕事に就かせるつもりだったのだろうか?
亡くなった人物なので尋ねることもできないので真相は闇の中だが……。
まぁ、どうしても気になったら蘇生を試みるつもりだが。
時たまゴブリンやらオークと遭遇したが、雑に蹴散らした。
レインもハーブで身体能力が増強されたので、やろうと思えばオークくらいなら剣で斬り倒せる。
多少の戦技のつたなさは身体能力で多少はごまかせるのだ。
肉弾戦に最も劣るレインでそれなのだ。苦戦するわけもなかった。
そして、あなたたちは3層は『大瀑布』に到達した。
「常通り、アンカーを打って昇るとしよう」
あなたは頷いて、アンカーを打ってはどんどんと昇っていく。
やがて、頂上に着いた頃、あなたは昼食にしようと提案した。
そろそろ昼時だ。ちゃんと食べて休もう。
「我が鼓動よ。滝壺に大きい魚がたくさんいるな」
イミテルの言葉にあなたは頷く。
そして、今日は滝壺の魚を獲って食べようと提案した。
イミテルがいかにも食べたそうな顔をしていたからだ。
マフルージャ王国は水に恵まれた土地柄だし、臨海国でもある。
しかし、トイネは水に恵まれぬ土地柄な上、内陸国だ。大きな魚は珍しいのだろう。
「うむ。それで、どうやって魚を獲るのだ?」
あなたは湖を指差した。
そして、指先から『サンダリングボール』を放った。
位置指定されて放たれたその魔法は、強烈な音波の波動だ。
音の波動では、聴覚神経を破壊し脳に強烈なダメージを与える。
そして、それ以外にはほとんどダメージを与えないという特徴がある。
つまり、爆発物を用いたように魚を殺傷しつつも、浮袋は破壊しない。
結果、大量の魚が水面に浮いて来て、非常に簡単に漁ができる。風情はゼロだが。
「こんなに魚がいたのか……我が鼓動よ、どれが美味なのだ?」
あなたはサーモンを拾い上げた。サーモンは脂が濃厚で実にうまい。
これを豪快にグリルして、ジャガイモといっしょに食べるだけで抜群にうまい。
懐の深い素材なので、濃い目の味付けをしてもうまい。
魚特有の匂いがダメな時にリカバリーが効くのは強い。
あなたは1メートル級のサーモンを2尾ほど取り、それを調理することにした。
サーモンを捌き、内臓を抜く。
その後、胴体を卸すことなくそのままぶつ切りにする。
そして盛大に焚いておいた焚火が落ち着くのを待ち、熾火になったら調理開始だ。
網を用い、塩と香草を振りかけてグリルをする。
その主菜にするべく、ジャガイモも一緒にグリルしておく。
その横では鋳鉄製の鍋を用いて、オーブン焼きにする。
各種のキノコとタマネギ、そしてオイル漬けのトマトを鍋に敷き詰める。
その上にサーモンを置いて、味付け兼用のバターをたっぷりと添える。
これをじっくりと加熱してやれば、最高のサーモンができる。
20分ほどの調理時間の後、鍋を開けてみる。
すると、立ち上るのは濃厚な旨味を含んだ香り。
タマネギから出た水蒸気で加熱され、サーモンもふっくら仕上がっている。
これは抜群にうまいぞと、あなたは皿代わりの平焼きパンにサーモンのオーブン焼きを乗せていく。
それと共に、サーモンのグリルとジャガイモもたっぷりと取り分ける。
サーモンを食べると知恵がつく、なんて伝承もある。
さぁ、たくさん食べて、これからの冒険に弾みをつけよう。
「なんと贅沢な……そして、うまい……トイネの食生活が貧しいのもあるが、やはりうまい……腕の違いだな、これは」
しみじみと料理を味わってため息を吐くイミテル。
たしかに、トイネの料理は割と微妙だった。
戦争中、もてなしで出された伝統料理類は特に微妙だったが。
王宮の料理もかなり微妙だった。食材の質そのものが微妙だったのだろう。
「タマネギが甘いですね。そしてサーモンがふわっとしてて……んん……!」
「この添えられたマスタードソースをつけて食べると……酒のつまみだわ、これは……」
「呑まないでくださいね……?」
「くう……飲めないのが悔しくなるわ……!」
「うむ、うまい。サーモンは最高だな。塩をたっぷりと振って焼くだけでもうまいのだがな。米の消費が捗るぞ」
全員に好評だった。
あなたは嬉しくなった。
食休み後、頂上に存在する湖を移動する。
以前までは氷結ボート、ハバクックを用いて移動していたのだが。
人数が増えたし、全員強くなったので、水上歩行の呪文での移動に切り替えた。
こっちの方が遥かに楽だし、いざ戦闘になっても対処しやすい。
湖の上を歩いて目的地の上まで来たら、呪文を解除して潜水。
4層への入り口を守る怪物、巨大なイカを呪文を主体に用いて討伐する。
以前にサシャと2人でも倒せたので、呪文主体で戦闘できるメンバーが4人いて苦戦する要素もなく。
あなたたちはさらっと巨大なイカを撃破し、4層は『氷河山』に到達するのだった。
「さ、さっ、寒い……!」
「は、早くテントを……! テント……!」
「さ、ささ、寒ぃ……! ご、ごしゅじんしゃま……」
ずぶ濡れ状態で寒風吹きすさぶ雪山に放り出され、みんな震え上がっている。
あなたも普通に寒い。このくらいの気温には慣れていても、体が濡れていたらつらいことはつらい。
あなたは歯を食いしばって、他のメンバーに手伝ってもらいつつ野営の準備をした。
無事にテントを張り終えたら、内部に入り込んで火を焚く。
ポットを使ってお湯を沸かし、全員に暖かいお茶を配っていく。
それで人心地ついたら、今日はこのまま野営にすると宣言した。
現時刻は午後3時過ぎくらいだ。
迷宮内は一部の例外を除いて日が暮れないが、人間は疲れる。
これ以上無理しても意味がないので、このままゆっくりと休もう。
雪山では気温の低さもあって、休息の効率が悪いのもある。
「うむ、それがいい。やはり、寒い時は過剰なくらいに体を温めるべきだからな」
「そ、そう言うものか……レウナは寒冷地出身で、その辺りに詳しいのだったな」
「私に言わせれば、この大陸が酷暑地帯と言うべきだがな。まぁ、寒い場所には慣れている。そこの女たらしの故郷ほどではないがな」
「そんなにか?」
あなたはイミテルに頷き、バナナを外に置いておくと凍り付いて釘が打てるようになるよと教えてやった。
「まさか、そんなことがあるわけがない」
一笑に付されてしまった。ほんとなのに。
「寒い場所は色々とつらくて大変なこともあるが、景色の美しさは比類するものがないと私は思う。なによりも、音だ」
「音?」
「雪は音を吸う。深く降り積もった雪に閉ざされた山奥は酷く静かで、静寂に満ちた空間で自分の鼓動の音すらも聞こえてくる……それは恐ろしくも美しい世界だ」
「ほう、自分の鼓動の音すらも……」
この寒風吹きすさぶ階層では望むべくもない景色だろう。
つねに風の音が聞こえてくるので、風情もなにもあったものではなかった。
あなたはいずれ、みんなでいっしょにエルグランドで冒険をしたいなと零した。
エルグランドならば、レウナの言うような光景も見られる。
マジでバナナが凍り付くほど寒い場所もあるし、氷に覆われる海もある。
このひどく蒸し暑い大陸と真逆の、すべてが凍り付く寒い大陸の冒険も知って欲しいものだ。
「う~ん……その、エルグランドを悪く言うつもりはないんですが……お、お姉様みたいな方、ばかりがいると思うと……ちょ、ちょっと二の足を踏みますね……」
「ですね……当たり前のことにマジかよ聞いてない! みたいな顔したりしますからね……」
「常識と倫理の墓場ってのが触れ込みの大陸なんでしょ……行きたくないわ……」
「あそこに行くくらいなら別次元を探した方がマシだ」
「私は冒険よりもまず、貴様の両親に結婚の挨拶をしたく……」
みんな否定的である。
唯一イミテルは肯定的だが、目的が冒険じゃない。
あなたは悲しくなった。
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