36話

 ジャンゴと言う異国情緒漂う友人が出来た。

 朝まで飲んで、色んな音楽を演奏しては紹介し合った。

 アレはアレで楽しかった。でも次は『トラッパーズ』の美女と知り合いたい……。


 

 さて、その翌日、あなたは家に帰ってのんびりとだらけていた。

 昨晩は夜更かししたのでやや眠いので、ソファーでまどろみを弄ぶのが心地よい。

 そんな夢うつつの中で考えるのは、今日の夜、誰と遊ぼうという問題だ。


 遊んだら、明後日にはもう迷宮に挑みたいところだ。

 さすがに明日、と言うわけにはいかないだろう。

 仲間たちへの告知も必要だし。最後の準備も必要だし。

 しかし、それを除けば、訓練も終え、準備も終え、後は挑むのみ。

 9層に巣食うランベント・ドラゴンたるドゥレムフィロア。

 その討伐を成した時、あなたたちを待ち受けている光景はなにか……。


 それを思うだけで、興奮してたまらない。

 今すぐにでも飛び出して行ってしまいたくなるような。

 ああ、この先になにが待っているか、楽しみでならない……!


 あなたはその焦燥を性的欲求に変える。

 普通逆じゃね? と度々突っ込まれるが、あなたにはそっちの方がいい。

 いま発散できない冒険欲より、発散できる性的欲求になった方がいい。


 たっぷり遊んで発散したら、そのままぐっすり眠る。

 それはきっと、信じられないくらい気持ちのよい眠りになるだろう。

 あなたは夜への期待を胸に、そっと微笑んだ。


 それまでなにをしていようか。

 あなたはソファに転がって、ぼんやりとヒマつぶしの手段を考えた。




 ……ふと、気づくと、あなたは暮れなずむ夕日に照らされていた。

 体を起こすと、窓の外に真っ赤に燃える太陽が見えた。

 あなたの部屋の窓から見える草原は赤々と照らされて燃えるかのようだ。

 それはまるで燎原の火のように、夕焼けが草原を埋め尽くしていく。


 どうやら、随分と寝入ってしまっていたらしい。

 ぐっすり眠ったおかげで、気分は爽快だ。

 本当は夜まで起きていて、えっちなことをしたら眠るつもりだったのだが……。


 まぁ、こういうこともある。しょうがない。

 休みを満喫するぞ! と思っていたら、夕方に起きてしまって休みを無駄にした気分になることが。

 度々あることなので、今日は運がなかったと諦めるほかにないだろう。


 気を取り直して、まずは誰とイイコトをするかを改めて考え……。

 そう思っていると、部屋の戸がノックされることなく開けられた。

 あなたに隠すものなどないが、さすがに不躾ではある。

 一言注意しようと思いながらそちらを見れば、そこにはサシャの姿があった。


「フフフ、ご主人様は完全に寝入っているようですね……私がモーニングティーを用意して、そこに媚薬を入れているだなんて、ウカノ様もシェバオ様も想像もしていないに違いない……! これを飲んだご主人様は体が熱くてたまらなくなり、私に抱いて欲しいと懇願して、熱い夜が幕開けるというわけですよ……!」


 そして、やたらと説明口調でペラペラ喋りながら入って来た。

 手にはなぜかティーカップとソーサー。

 呆気に取られたあなたが思わずサシャを見ている。

 サシャはソファに転がるあなたを見下ろして微笑む。


「やはり完全に眠っているようですね! 私の計画は完璧です……!」


 いや、起きてるけど? そう突っ込もうと口を開くあなた。

 だが、そこであなたはハッとして、口を閉じてソファに横たわった。

 そして、いかにも寝ていますよ、と言わんばかりに深く息を立てる。


「ご主人様、ご主人様。もう夕方ですよ? そろそろ起きませんか?」


 サシャがあなたの肩をゆすり起こしてくれる。

 あなたが目を開けると、すぐ傍に微笑むサシャ。

 そして、手にしていたティーカップを寄越して来る。


「はい、モーニングティーですよ、ご主人様。しゃっきりして、晩御飯にしましょう?」


 あなたは渡されたお茶を飲む。

 特に何も入っていないブラックティーだ。

 ごく普通の紅茶であり、普通にうまい。

 変な淹れ方をしていないが、気取ってもいない。

 気楽に飲める、日常のお茶と言った感じである。


 あなたはそれを飲み干し終えたところで、なんだか体が熱いような……などと零した。

 寝入っていたせいで、熱が籠っちゃったかな? などと付け加えながら立ち上がる。


「まぁ、夕飯を食べた後に、なにか冷たいものでも食べましょう。そうすれば火照りも収まりますよ」


 言いながら、サシャがあなたの肩を押す。

 あなたはそれにピクリと反応したフリをしながら階下の食堂へと向かった……。




「ねぇ、次の冒険、いつ挑むの?」


 レウナの用意してくれたロースト肉主体の夕食を食べていると、レインがそんな質問を投げかけて来る。

 あなたはぼんやりとしたフリをしながらそれを無視する。


「おーい? ちょっと?」


 そこであなたはようやく気付いたような仕草を見せて、なにかな? と尋ね返した。


「? だから、次の冒険、いついくの?」


 いつもなら即応するあなたの奇妙な反応にレインが首を傾げる。

 だが、言及するほどではないと見たのか、そのまま質問を繰り返す。

 あなたは可能ならば明日にでも、と答えた。

 実際には無理なので、3日以内には出発するつもり……と付け加えた。


「3日以内、ね。ちょっと急ね。まぁ、準備は万端よ。いつだっていけるわ。それに、スクロールも必要ないし」


「まぁ、スクロールを使う分には魔力を消耗しないので、予備として持っておく価値はあると思いますけども」


「それはそうね。売ったりはしないわ。ただ、叶う限りは自分で使うわ」


 飛躍的に向上したレインの技量は、もはや究極の領域にまで至った。

 つまり、9階梯呪文の行使までもを可能とし、レインは今や最高位の魔法使いとなったのだ。

 まぁ、その最高位になった上でも、さらに上の領域はあるのだが。

 まだまだ魔力の増強の余地はあるし、呪文構築の向上の余地もある。


 最高位にこそ至っても、最強の魔法使いには程遠い。そう言うことだ。

 そう言えば、この大陸の魔法使いにはそう言う位階みたいなものはあるのだろうか?

 9階梯が使えれば、何か特別な称号で呼ばれるようになるとか……。


「ああ、一応あるわよ。9階梯呪文が使えるようになれば、グランド・マスター・オブ・ナインゲートって言われるわね。まぁ、魔術師ギルドの称号だから、未所属の私がそう呼ばれることはないけれど」


 やはりあるらしい。まぁ、分かりやすい区切りと言えばそうではある。

 この分だと、使える階梯別に位階分けされた称号が存在するとかもありそうだ。

 あなたはそんな調子で話を逸らして会話を打ち切ると、再度また上の空で食事を進める。


「……? ねぇ、フィリア」


「はい。お姉様、お加減でも?」


 さすがに気付かれたか、そんな風に尋ねられた。

 あなたは体が火照っているような気がすると答えた。

 どうも昼寝をし過ぎたし、陽を浴び過ぎたようだとも付け加える。


「なるほど。具合が優れないようであれば、魔法で治療しますのでいつでも言ってくださいね。お姉様には……いらないかもですが」


「自前で出来るものね。まぁ、次から昼寝はカーテンを閉めてやりなさいよ。にしても、あなたも体調を崩すことがあるのね」


 そんな調子で注意をされて、言及は終わった。

 よしよしとあなたは頷いて、そのまま静かに夕食を進めた。



 夕食後、あなたは『四次元ポケット』からアイスクリームを取り出して振舞った。

 冷たい氷菓は、夏に食べると最高の味になり、天国が見える。

 まさに天上の美味としか思えないほどに、それは甘美な味わいだ。

 特にアイスクリームを好んでいるフィリアは小躍りせんばかりに喜んでいる。

 あなた風アイスクリームが大好評なようで、鼻が高いやら気恥ずかしいやら。


「ああ、おいしい……おいしいですね、お姉様……」


 陶然とした心地のフィリア。

 あなたは頬を染めて、おいしいならよかったと頷いた。

 砂糖とミルク、バニラ。そして冷却用の氷か硝石。

 そんなシンプルな材料なだけあり、素材の良し悪しが如実に出る。

 そして、主役と言えば、やはりミルクになる。主成分だから当然だ。

 それを褒められると、なんとも言えない気持ちが湧き上がる。


「フフ、いい贅沢だな。やはり、夏はアイスクリームに限らず氷菓が美味だ。しかも、このアイスクリームは実に濃厚で病みつきになりそうだな」


 貴族なだけあって、贅沢に慣れ親しんでいるイミテルからも好評だ。

 硝石を使った冷却とか、工業生産した液化二酸化炭素とかで氷は作れるが。

 やはり金がかかるので、庶民が夏に氷菓を食べられる時代はまだ先だろう。

 いずれそんな日が来たら、屋台でアイスクリームが売られるようになるのだろうか?

 想像してみると、それはなんとも未来的な光景に思えて、あなたは少し笑った。



 アイスを食べて、風呂に入って身を清め。

 それから就寝の時間になると、あなたは早々に部屋に引っ込んだ。

 服をかなりの勢いで乱しておき、下着も脱ぎ掛けの状態にする。

 そして、ベッドの中でサシャが来るのを待った。


 しばらく待ち、部屋のドアがノックされた。

 あなたは飛び起きて乱した服を直し、入室を許可した。


「あれ、ご主人様。もう眠っていましたか? すみません、起こしてしまいましたか?」


 まだ寝ていなかったから大丈夫だよ、とあなたは応える。

 すると、サシャがにやにやと酷薄な笑みを浮かべ、あなたへと近づいて来る。

 そして、サシャが突如としてあなたの下着の中に手を潜り込ませて来るではないか。


「ふふ……えっちなご主人様……自分で慰めてたんでしょう?」


 と、言うことにしておく。

 言葉を交わさずとも、あなたとサシャの間にそんな見解が産まれた。

 あなたはしどろもどろになって、サシャの推理を否定する。

 いつもなら堂々と肯定した上で、本番がしたいとそのままベッドに誘うが。

 今日はそう言うプレイなので、ちゃんと恥じらいと隠匿を駆使しなくては。

 サシャの一服盛っての卑しい手籠めプレイが楽しそうだったのでしょうがない。


「そんなにしたければ、私が可愛がってあげます。さぁ、楽しみましょう?」


 ベッドに押し倒されるあなた。

 そして、サシャの手で乱暴に服が脱がされていく。

 コレコレ! こういうのを待ってた!

 あなたは大興奮でサシャを受け入れる。


 もちろん、表面的には恥じらって脱がされるのに抵抗する。

 しかし、やがてあなたのブラウスが乱暴に引き剥がされ、その下の下着がずり降ろされる。

 露わになったあなたの裸体に、サシャが生唾を呑み込む。


「きれい……コレを、私のものに……! フフ……!」


 サシャの指が、あなたの乳房にめり込む。

 乱暴に揉まれ、形を変えるあなたの胸。

 痛いだけのそれは、むしろこの状況には相応しい。

 あなたは酷いことしないで……としおらしく涙を見せる。


「フッ……フフッ……可愛いですね。ひどいことされたくなかったら……どうすればいいか分かりますか?」


 あなたは涙を流して、もう抵抗しないから……と抵抗を諦めて見せる。


「くふっ……! 分かればいいんですよ、分かれば……なら、優しく可愛がってあげますよ、特別にね」


 そう言って、キスをしてくるサシャ。

 熱い舌が侵入して来て、あなたの舌を貪る。

 いやらしく、ナメクジが絡み合うようなえげつない行為だ。


「ぷは……気持ちいいですね? これからぐちゃぐちゃになるまで、犯しまくってあげますからね、ご主人様」


 今日のサシャは積極的で、いやらしい。

 なんとなくレナイアを彷彿とさせる……これは暴言に相当するだろうか?

 まぁ、他の女のことを考えるのも失礼なので、あなたはその考えを棄却する。


「じゃあ……挿れますね」


 そして、サシャが本番にいこうと提案して来た。

 あなたはせめて優しくして……とか細い声で泣く。

 その声にサシャはますます興奮する。


「今日は寝れると思わないことですね。朝まで寝かせませんよ……!」


 まったくその通りだ。

 今夜は眠れないな!

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