24話
あなたたちは意気揚々と砂漠を進行していく。
まぁ、あなたを除いたEBTGメンバーは葬式もかくやと言うレベルで気鬱そうな様子だが。
「大丈夫、大丈夫だよ~。ジルくんはね、乗り越えられる試練しか課さない人だから! だからきっと、みんなもがんばれば乗り越えられる範囲なんだよ! 私も何百回も死ぬかと思ったけど、こうして生きてるしね!」
「それは……乗り越えられる範囲ならなにをしてもいいと思ってることを意味してませんか?」
「いい天気だねぇ。あ、見て見て、鳥が飛んでるよ!」
「ごまかし方が恐ろしくへたくそなんですけど」
まぁ、戦う以外に手立てはないので頑張って欲しい。
残酷なようだが、戦わなければ生き残れないのだ。
逃げて今この瞬間を生き延びたところで、いずれその日が来るだろう。
訓練で流した汗と血の量だけ、実戦で取りこぼす命を拾えることだろう。
「訓練でも命を取りこぼしそうなんですがそれは……」
たぶん、気のせい。
あなたはそう断言した。
「気のせいってことはないと思いますけどね……」
なるほど、ならば思い過しだ。
とやかく言っても戦うことに違いはないので頑張って欲しい。
「うう、ご主人様が遠い……」
ぼやくサシャ。まぁ、頑張って欲しいものだ。
歩を進めるうち、遠目に白い石材で出来た宮殿が見えてきた。
あなたの知るいずれの文化圏の様式とも異なる宮殿で、異国情緒を感じさせる。
時折、毒蛇を使役する獣頭の人型や、やはり同様に獣頭ながらハーフリングのような矮躯の小型生物などと遭遇する。
決して弱くはないものの、現在のEBTGでは鎧袖一触に薙ぎ払える程度。
しかし、並みの冒険者くらいならば容易く屠ってしまえるほどの強さはある。
これほどの敵がゴロゴロ出て来るならば、宮殿にいる敵の強さはどれほどか……。
ジルが語っていた脅威度20と言うマハラジャなる者も期待できるというものだ。
あなたたちはそれらを薙ぎ倒しながら侵攻し、やがて宮殿前へと到達する。
近付いてみればわかるが、宮殿はなんと総大理石製の凄まじく立派なものだった。
この宮殿に住まう王の権勢の強さと言うものを物語るかのようだ。
そして、その宮殿の城門前にて屹立し、あなたたちを睥睨する者たち。
3メートル半ばを超える巨躯に、青い肌をした奇怪な野獣染みた顔つきをしている。
雄々しく盛り上がった筋肉といい、硬く錬磨された拳と、腰からぶら下げた刺突用の独特な短剣。
以前、あなたが散々嬲ってから殺した……タ、タ……なんとかと同様の特徴を持った女の武僧だ。
ラセツ・アヌシャラ。信仰に生きる者を嘲笑う、信仰の敵たる悪。
門の両脇に立つ姿は、正しく門番である。門番であるがゆえに、攻勢には出てこない。
だが、あなたたちが門を超えようと試みたその瞬間、その恐るべき武威を容赦なく振りまくことだろう。
あなたは『魔法の矢』を放ってブチ殺したかったが、ぐっと我慢した。
その代わり、EBTGの面々にさぁ殺せ、今すぐ殺せ、可及的速やかにこの世から消し去れと頼んだ。
「はい! 信仰を穢す者、嘲笑う者! それらのいずれをも私は許容しません!」
「愚かなり、蒙昧なりや、ラセツよ。神の愛を知らぬがゆえ、貴様らは神なしなどと妄言を吐く。その命、天に帰すがよい!」
「拾い集められないくらいバラバラに切り刻んであげますよ!」
強火の宗教的観念を持つ者たちが気炎を上げる。
神の愛を知る者、その偉大なる信仰の頂を知れば、誰もが祈る。
フィリアもレウナも、その信仰に身を捧げて生きてきた存在だ。
あなたはザイン神もラズル神も、その教義を知っているとは言えない。
だが、どちらの場合においても、その信仰が人々の道を照らしていたことは分かる。
それだけあれば十分だ。信仰を否定する者たちとの戦いに挑むには必要十分と信徒たちは知っている。
フィリアとレウナのみならず、サシャもまたウカノ神の愛を知っている。
奉ずる教えは違えども、その愛を知り、よりよく生きようとする者たちである。
教えの道においては仲間ならずとも、この世界に生ける
「……レインよ、彼女らがとても怖い。どうしたらいい?」
「……あなたもウカノ様信仰する? 一応私も信徒よ……」
温度差のひどいイミテルとレインも、ようよう戦う準備を整える。
そして、サシャが常と異なり、腰に下げていた短剣を抜き払う。
東方様式の短剣、その銘を
あなたとサシャ、そしてレインが信仰する神、ウカノが敬虔なる信徒に授ける宝剣だ。あなたも持っている。
まさか、2刀流……? あなたが訝る中、サシャが空を見上げて叫ぶ。
「ウカノ様、ウカノ様! どうか我が剣に加護を!」
その叫びに、天から光が降り注いだ。
バチバチと強烈な音を立てて雷光を
あなたは目を見開いて、むっあれは! と思わず叫んだ。
「知っているのですか、あの雷電を」
ジルの疑問にあなたは頷く。あの瞬く紫電、そこに含まれる
あれこそは、ウカノ神の教えに身を捧げる者に許されたる
武具に属性エネルギーを付与する魔法と同様のそれであるが。
信仰の深さに伴い、その威力を際限なく上昇させる特性が存在する。
サシャの信仰は教えに身を捧げた年月の短さもあって、それほど深くはない。
それゆえ、その威力自体はあなたの使う『
だが、『雷切』がこの大陸のものと
とんでもないバケモノがゴロゴロいるエルグランドでも超一級の技と評価される代物だ。
サシャの信仰の深さであっても、恐ろしい強さを発揮してくれるはずだ。
なんせ、発動できる時点でその信仰の深さが並大抵でないことは保証されているので。
しかし、まさかサシャが神技を使えるほどにまで信仰心を深めていたとは……先達として鼻が高い。
「殺す!」
感慨深くサシャを見つめていると、サシャが殺意を漲らせて剣を掲げる。
右手にパペテロイのファルシオンを、左手に瑞穂狐と言う独特の2刀流。
順手のファルシオン、逆手の瑞穂狐。いったいどんな剣技を使うつもりなのか……。
あなたが目を細めて注視する中、サシャが猛然と駆け出した。
その動きに呼応し、前へと出るアヌシャラ。
鋭くコンパクトな動作で繰り出される貫手。
それをサシャは一顧だにしなかった。
捨て身も捨身、喰らうことを前提にしての突撃である。
サシャに貫手が叩き込まれる直前にアヌシャラが気付くも既に遅い。
アヌシャラの貫手がサシャの胸を抉る中、退がろうとするアヌシャラ。
だが、喰らいながらもなお踏み込んでいたサシャの剣が襲う。
サシャの渾身の双撃は、愚直そのものの刺突だった。
踏み込みの勢いのままに放たれたファルシオンがアヌシャラの腹部を貫く。
続けざま、瑞穂狐が太ももに深々と抉り込まれていた。どちらも急所だ。
「あはっ!」
きっと、物凄く悪意と殺意に満ちた笑顔をしている。
見なくても分かるくらい嬉しそうにサシャが笑い声をあげていた。
そして、サシャがその剛力を振り絞って、全力でファルシオンを捻り切った。
同時、弾ける紫電。アヌシャラの臓物を紫電が焼き払う。
「がふっ」
内臓を焼かれ、抉り抜かれ、アヌシャラが血反吐をぶちまける。
まず間違いなく致命傷と言うか、即死しないだけラッキーなくらいの傷である。
魔法を使う能力のあるアヌシャラなら自分で回復もできるだろうが……。
親切にも魔法を使う機会を与えるわけもないので、絶命は必至だろう。
いい交錯だった。
どこまでサシャが考えていたかはやや謎だが……。
アヌシャラはサシャの強さをある程度推察していたと思われる。
サシャの剣を雑多な抵抗とでも考え、軽く捻ってやるつもりだったのだろう。
サシャはその油断を、真正面からぶち抜いた。
技量に不相応の頑強さをアテにしての捨身。
つまり、正面からの不意打ちをやってのけたのだ。
痛手は負ったものの、相手を1人始末出来たのは大きい。
それも、サシャよりも明白に格上の相手だ。
「私もまいります!」
「どうやら負けてはおれんようだな!」
フィリアとレウナも負けじと突貫する。
フィリアとレウナはごく普通に戦闘能力がアヌシャラと同等かそれ以上にある。
2人で囲んで好き放題ぶん殴れば負ける余地もない。
目の前で仲間を秒殺され、殺意溢れる格上の相手に挑まれるアヌシャラ。
残念ながら生き残ることは不可能だろう。
そして、予想通り20秒足らずでブチ殺された。
1分たらずの交錯でアヌシャラを2体仕留めた。
実に幸先の良いスタートと言えるだろう。
「見せてみろ。少し押すぞ」
「ひーっ……! 痛い、です……!」
「あばらが折れている。苦しくはないか?」
「ど、どうでしょう……痛みもあって、呼吸が荒いかなって感じはしますが……」
「少し耳を当てるぞ……うん、雑音がする。肺に血が入っている。重傷だ。手早く治すのでじっとしていろ。『傷害治癒/キュア・インジャリー』」
レウナの魔法によってサシャの負傷が癒される。
現状、EBTGで最も魔力量が多いのはレウナだ。
そのため、その時の魔力量にもよる回復担当はレウナと決まっている。
「宝石のちりばめられたコピスに……なにかしらこれ? 変わった剣ね」
「ジャマダハルだな。武僧の武器として使われることがある」
「流通はしてるってことね。悪くないわ。魔法による強化もされてる」
レインとイミテルによって戦利品の検分が手早く済まされる。
基本、魔法の気配がするものは片っ端から回収し、金目のものも剥がす。
やってることが追いはぎに近いが、アヌシャラが先に殴って来たので自衛戦闘だ。問題ない。
「なにあのバチバチ言う剣……かっけぇ~……」
「俺もやってみてぇ~……
「心底しびれそうですね……」
「強そうだね!」
「武器に付与するタイプとしては無法なくらいの威力出てたわね……」
「ですね。推定強化幅が最低でも30くらいあるんですよね。許されていいんでしょうか、そんな無法なエンチャントが」
観戦していた者たちはサシャの使った『雷切』の無法な威力にビビッている。
単純にビジュアルのよさに興奮している者も居る。
「あの呪文はあなたが教えたの?」
コリントに問われたので、あなたは教えていないと答えた。
アレはウカノ神が授ける祝福による力であり、教えられるものでもないとも。
親交を深めれば深めるほどに使えるようになる力でしかない。
「……つまり、ウカノ神専用上級クラスで生えて来る能力ってことかしら」
「まぁ、聞く限りは……しかし、サシャさんはファイターとウィザードの2本柱で、信仰系クラスは……」
「あなたが言うところの、システムが違う、と言うやつかしら」
「まぁ、おそらくは……後ほど検証させてもらいましょう」
ちなみにウカノ神を進行すると使える神技はもう1個ある。
大抵の神の授ける神技は2個だ。稀にもう1個授けてくれることもあるが、ウカノは2つだけである。
もう1つは『影分身の術』であり、自分の分身を7体作れる。
「……その分身と言うのは、どういう感じなのでしょう?」
装備以外は基本的にすべて同じだ。
残念ながら強化魔法の類もかかっていない。
なお、素手というわけではなく、高品質な武器くらいは持っている。
それ以外はなにもかも一緒である。
「つまりなんですか、『分裂/フィション』を7回使ったのと同じってことですか」
「時間制限はあるわよね?」
信仰の深さにもよるが、ざっくりと10分くらいだ。
「強過ぎる……」
「インチキ効果もいい加減にしてちょうだいね」
「棄教したくなってきますね……」
「私もしちゃおうかしら……領域と属性の都合だけで信仰を選んだところあるから……」
その時にはもちろん歓迎しようではないか。
ウカノ様の信徒が増えることはいいことだ。
いつだってどこだって教えを求める者には授ける。
それが敬虔なるウカノのしもべたるあなたの使命だ。
まぁ、そのあたりの入信の儀式をこんな砂漠のど真ん中でやるのもなんだし。
さくっと信仰を穢すラセツとか言うゴミどもを片付けて、家に帰ってからやろうではないか。
信仰を捨てるというのは重大な決断なので、しっかりと考えて欲しいところだし。
「……そうですね。やはり、今まで散々擦り倒して来た特殊神聖魔法を捨てるのも惜しいですからね」
「たしかにね……愛用の領域があるかを確認してからでも遅くないわ」
討伐中はともかく、家に帰りつくまではしばらくかかる。
その間、じっくりと考えて欲しい。
あなたはそう言葉を結んで、周囲を見渡す。
戦利品の回収と、サシャの治療は終わったようだ。
では、進むとしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます