13話
あなたはとりあえず戦闘力が上から順に高い順に声をかけることにした。
その上で、最もアポイントメントが取りやすい相手、モモロウの下へ。
モモロウら『ハンターズ』は現在、サーン・ランドは冒険者学園の2年生なので所在は明白だ。
「へぇ、訓練ねぇ。いいよ、手伝う。ああ、金? いらんいらん」
申し出たところ、モモロウは即決で了承してくれた。
その上、あなたが約束しようとした報酬についても辞退されてしまった。
あなたはいったいどうして? と首を傾げた。
「いや、前にアトリが詐欺めいた手管であんたから金巻き上げたし……俺ら金に困ってねえんよ」
それはそれ、これはこれだ。
報酬と言うのは働きに対する対価だ。
それを固辞するのはお互いにとってよくない。
「まぁまぁ。参加するのは一番強い俺とメアリだけでいいだろ?」
いい悪いで言えばよくはないのだが。
より上を目指すための訓練、と言うことであれば納得ではある。
アトリ、リン、キヨの戦闘力は決して低くはない。
だが、既にEBTGメンバーはその3人の戦闘力を超えている。
訓練相手として不適と言うほどではないが、よりよい糧になるとは言えない。
そう言う意味では、参加者がモモとメアリだけなのは納得いく人選ではある。
「所詮訓練だから元からそう大した報酬は出ないだろうし、なにより、金目当てだとキモチよくなれないんだよな、俺」
気持ちよくなれない?
「……トモちん置いてくからさぁ、な? ナイショのこと、しようぜ?」
つまりなにか。以前に言っていた、ナイショの浮気えっちを……!?
なるほど、金銭授受があると、浮気えっちを存分に出来ないというならば仕方ない。
「そうそう、不倫とか浮気ってのはさ、欲望ありきじゃん? そこに金って欲望が絡むとさ、ちょっと生臭すぎるだろ?」
モモがそう言う以上はしかたない。
あなたは報酬無しの代わりに、精一杯の待遇でおもてなしすると返事をした。
「そうしよう。多少サボったところで問題ねぇよ。そもそも俺ら、戦士系の授業はほぼ不要だから卒業要件満たしてんだよ」
であれば心配もいらなさそうだ。
あなたは次に、アルトスレアのジルにアポイントメントが取れないかを頼んだ。
「ジルも呼ぶのか? まぁ、あいつ大抵なんでもできるからな。悪くないと思うぞ。えーと……アルトスレアのオベルビクーンって地域に転移で飛べるか?」
アルトスレアに飛ぶことは可能だが、さすがにオベルビクーンに直接は無理だ。
あそこはあなたがアルトスレアを旅したころは人間の領域ではなかったのだ。
ジルがオベルビクーンの地を開拓し、人類の領域と成したというのだから。
「まぁ、それもそうか……じゃあ、現地に行ってから、オベルビクーン伯を尋ねるしかないんじゃね?」
尋ねる際にモモも同行して欲しい。
あなたとジルの面識はあっても、ジルの屋敷の人間との面識はないのだ。
「ああ、なるほど。んじゃいくか」
あなたは頷いて、モモと共にアルトスレアへと転移で飛んだ。
アルトスレアに転移した後、あなたはアルトスレアで両替を行う。
エルグランド金貨をネルー正貨に両替し、次に冒険者ギルドへ。
そこで至急オベルビクーンの地に転移で連れて行ってくれる人の斡旋を依頼する。
すぐさま目当ての人物がやって来て、あなたとモモはオベルビクーンの地へと転送された。
「前に来た時は、あんたをシバくためにジルに頼みに来たんだよなぁ。あん時はアポ取れなかったから、衛兵殴り倒してケイを出せって脅迫したんだよな」
押し込み強盗めいた飛び込みである。
しかし、そこでジルではなくケイなのはなぜなのだろう。
「そりゃ伯爵出せっつって素直に呼ぶやついねぇだろ。でも、お雇いコック長なら割と素直に出すだろ。ケイなら俺の顔知ってるしな」
なるほど、そこ経由でジルを呼んだと。
まぁ、今回はあなたがいるので魔法で連絡を取ることが可能だ。
エルグランドの魔法にそんな洒落たモンはないが、レインに教えてもらった。
「助かるよ」
そう言うわけで、あなたはジルに魔法で連絡を取った。
すると、すぐさまジルがやって来て、あなたたちは屋敷へと招かれた。
ジルの執務室だという部屋に案内され、そこに入る。
すると、そこでは以前も会った角の生えたお雇い料理人のケイと。
よく似た顔立ちのエルフの美女が2人待っていた。
「うん、うん! おいしい! 今日もカレー、すごくおいしい! む、無限に食べれる!」
「ち、チーズ振りかけて、ほうれん草乗せて……半熟卵乗せると……う、うますぎる!」
「今日も勢いすごい……あ、ジル。おかえり~。って、モモに、あんたはこないだの……」
どうやら昼ご飯中だったようだ。
エルフの美女が凄い勢いでカレーをガツガツ食べている。
「ケイさんのことはご存知でしたね。それ以外を紹介しましょう。彼女は我がオベルビクーン領の恥、無様な嫁き遅れにしてオベルビクーン冒険者学園の学園長、ノーラ・グレイライン・アルマンタインです」
「紹介が酷い!」
「そして、その妹であるライルスルーフ・グレイライン・アルマンタイン。彼女には体温があり、脈拍があり、呼吸をしており、魔力があります。彼女は生きています」
「もしかして私の情報それだけで十分とか思ってる?」
ひどい紹介である。
「それで、ノーラ、ライリー。こちらはエルグランドとボルボレスアスの変態です」
あなたとモモロウはひとまとめに紹介された。こっちもひどい。
そこで、あなたとノーラの視線があった。
「ん……? あの、君さ、どこかで会ったことない?」
「大変よ、ケイ。ノーラが初対面の女の子ナンパしてるわ」
「困ったもんだ。いくら嫁き遅れてるからって同性に走るのはなぁ」
「違うよ! ほんとにどこかで会ったような気がするだけだから!」
あなたは以前に会ったことがあるよと答えた。
ノーラはよく覚えていないようだが、轡を並べて冒険したことがある。
当時のあなたはまだまだ未熟で、ノーラと互角くらいの強さだったろうか?
「えー……どうしよ、ぜんぜん思い出せない……顔に見覚えはあるのに……こんなきれいな子、早々忘れないと思うんだけど……」
「大変だわ。まさか結婚する前に呆けちゃうなんてね……呆け封じの護符を買って来るといいわよ」
「たしか、村の神父が呆け封じの儀式できるぞ」
「まだ呆けてないから!」
キーキーと仲良く喧嘩する3人。
それをパンパンと手を叩いて止めるジル。
「そこまでです。黙らないと首の骨をへし折りますよ、カスの姉妹ども」
「過激だよ!」
「手酷い!」
「来客を前に堂々と恥をさらすバカどもには十分な対応でしょう。お2人は私に依頼があって来たのです。食事は食堂で食べなさい」
「は~い」
「へぇへぇ、出ていきますよ」
「ごめんな、ジル。あ、すぐにお茶菓子とお茶持ってくるな」
あなたはそこでストップをかけた。
冒険者学園の学園長なら教えるのは得意かと尋ねながら。
「え? うん。剣と魔法なら。いわゆる魔法剣士だからね、私! そこらの子には負けないよ!」
そう言って胸を張るノーラ。なかなかでかい。
あなたがそれをガン見しつつ、ノーラの力量を思い出す。
かつて会った時点でノーラの力量は相当なものだった。
剣士と魔法使いの技量はどちらも同等程度。
その上で、モモロウに若干劣る程度の剣技の腕前があった。
魔法はレウナと同等、あるいはそれ以上の実力があったはずだ。
つまりメチャクチャ強い。超一級冒険者、国家筆頭戦力クラスだ。
あれからかなりの年月が経っているが、見る限り衰えたようには見えない。
むしろ、より鍛え上がっている気がする。人類屈指の強さだろう。
そう言えば、ジルがノーラを修行させていたとか以前に聞いたような……。
「この大陸でも屈指の魔法戦士なのは保証します。アホですが、強さは本物です」
ジルもそのように太鼓判を押してくれた。
あなたは今回の依頼は、4人の冒険者の訓練であることを伝えた。
その4人をより強くするためなので、指導に秀でた人間の助力が欲しい。
「なるほどー。それならまさに私は適任だね!」
「学園長だから直接受け持ってる授業はありませんし、今は卒業式準備に取り掛かる前頃でヒマですし、ノーラを呼ぶのはアリですね」
であれば、ぜひともノーラも雇わせてもらいたい。
「あ、なぁなぁ、俺も俺も。依頼なら俺も受けたい。指導はできないけど、飯炊きは任せてくれよ。全員分の食事の用意も手間だろ?」
なるほど、そちら方面の人員と言うのもありがたい。
あなたは基本的に自分の手で作ったものしか食べないが……。
他のメンバー分の用意を任せられるのであればありがたい。
あなた1人分ならサッと作って食べればいいだけだし。
「そう言えば、前にバカンスに呼んでくれた時もそんなこと言ってたっけ」
「あれ? でもキヨの作った料理食ってなかったか?」
女の子が作ってくれた料理ならもちろん喜んで食べる。
それがうまいとかまずいとかは問題ではないし。
たとえばそれに猛毒が含まれていたところで関係ない。
女の子が作ってくれた。ただその1点のみで価値がある。
「ははは……筋金入りの女好きなんだな……料理を生業とする以上、空腹の子を放っておくのは嫌だが、さすがに性転換は出来んからなぁ」
あなたは性転換できるならしてくれるのかと尋ねた。
「え? ああ、まぁ……もしかして出来んの……?」
出来る。あなたは『ミラクルウィッシュ』のワンドをケイへと渡した。
「へぇ、これで……よし」
なんとケイが躊躇せずにワンドを振った。
そして、性転換を願うではないか!
「……ぜんぜん変わらないぞ?」
「どれどれ……や、ちょっとだけど胸あるよ?」
「たしかに見た目ぜんぜん変わんないわね。でも、たしかに胸が少しあるわ」
「俺の胸を平然と揉むのはやめてもらえるか?」
「どれどれ、たしかに胸があるな」
「モモまで!」
もちろんあなたもケイの胸を揉んだ。
たしかにちょっとしかない。
「ケイさん、フリーおっぱいでもはじめられたんですか」
「はじめねぇよ!」
ケイが逃げ出し、自分の胸の前で腕を組むおっぱいガードをはじめてしまった。
残念だが、顔を赤くしておっぱいガードをしている姿には大変な栄養がある。
まぁ、ともあれ、この3人を雇えるのであれば、ぜひとも雇いたい。
ジルは言うに及ばず大陸でも屈指の強者であるし。
ノーラもそれは変わらないし、冒険者学園の学園長という職責の経験がある。
そしてケイは貴族家の料理番を務められる腕のある料理人だ。
単純な指導面以外にも、非常に頼れるサポートメンバーを得られたと言える。
「報酬はいくらほどですか」
希望通りの額を払う。物納可。
「じゃあ、以前の装備に音波耐性をつけていただけませんか」
以前ジルに交換条件で贈った、純粋魔法属性への完全耐性装備のことだろう。
それに音波耐性を付け加える程度ならお安い御用である。
「私は、んーと……相場いくらかなぁ?」
「凄腕冒険者を長期拘束と言うことですから、まぁ、10万ネルーくらい請求してもバチ当たらないと思いますよ」
「じゃあ、全期間で10万ネルーで」
その程度でいいのだろうか。
まぁ、適度に色を付けて払うことにするとしよう。
「俺も金がいいかな」
ケイも欲しいのは金らしい。
こちらも同様に10万ネルーを基本に考えておこう。
さて、では……。
「さっそく、あちらの大陸に向かわれますか」
その前にコリントに会いに行こうと考えている。
彼女が指導向きかは不明だが、強いのは確実である。
「なるほど。指導できるかはともかく、仮想敵としては使えますし、いいのではありませんか」
ジルの保証も得られたことだし、さっそく行くとしよう。
以前、バカンス後にあなたの屋敷に滞在していたことがあったりと。
個人的な親交は深めているので、きっと頷いてくれることだろう。
そう思って、コリントの所在する異次元へと魔法で尋ねた。
するとたちまちのうちにコリントがやって来た。
コリントの手によって創造された異空間なので、この空間で起きた大半のことは把握出来るらしい。
「まぁまぁ……大所帯でいったいどうしたの? もしかして、遊びに来てくれたのかしら?」
ウキウキわくわくと言った調子のコリントには申し訳ないが、違う。
今回は依頼をしに来たのだとあなたは依頼内容を説明する。
「ふんふん……以前に会った、あなたの仲間の子たちの指導ね……ええ、お安い御用よ。ただ、私は彼女たちとは戦技の方向性が随分と違うわ。丁寧な指導は少し難しいわね」
たしかにコリントの戦闘技能は武僧のそれに近しい。
剣も使えはするのだろうが、それを主軸にした戦闘技術ではないだろう。
その点ではフィリアとサシャへの指導はできないということになる。
ただ、魔法使いでもあるので、レインの指導は十分こなせるだろう。
「それでもいいなら……ぜひともお受けしたいわ。ヒマだし」
あなたは頷いて、報酬は純粋魔法属性への完全耐性装備でいいかと尋ねた。
結局、あれからあなたとコリントが懇ろになる機会はなかった。
あなたも残念だが、コリントも純粋魔法属性……力場属性とも言うが。
それの対策装備を手に入れていないので、きっと喉から手が出るほど欲しいだろう。
「ええ、ぜひとも欲しいわね。力場属性への完全耐性なんて、神器もいいところだわ!」
とのことなので、契約は成立した。
あなたは揃った陣容に大いに満足した。
以前、あなたを敗北に至らしめた強敵たちの大半だ。
彼女らの力があれば、かならずやEBTGを更なる高みへと引き上げられる。
なお、残念ながら、以前にあなたが対抗演習で戦った相手全員ではない。
エルマとセリアンは、今も冒険者学園の講師をやっている。
冒険者学園での講義がある以上、長期間呼ぶことはできないのだ。
しょうがないので、あなたはそのあたりは妥協した。
あとは適度に不足を感じたら呼ぶことにしよう。
1度サーン・ランドに戻り、メアリを連れてソーラスに戻ることにする。
そのあとは修行を精一杯がんばろうではないか。あなたではなく、EBTGメンバーが。
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