12話

 サシャとレインが蘇生され、EBTGはとりあえず立て直された。

 ただし、死の淵からの復活には恐ろしいほどの消耗を強いられる。

 これは命が紙きれ同然の軽さのエルグランドでも変わらない。

 具体的に言うと、基礎生命力の減少と言ったようなことが起きる。

 訓練し直せば補える類の消耗ではあるのだが、早々簡単に取り戻せるものでもない。


 そのため、一時撤退し、再訓練を行うことをあなたは提案した。

 まぁ、提案と言っても、その実はほとんど強制のようなものだ。

 このまま続行してもいいけど、そのたびに蘇生するから消耗は積み重なる一方だ。

 あと、レインの蘇生代金は建て替えておいたので、金貨1000枚払ってもらおう。


「実は私、あなたのことをご主人様として仰ぎたいと思ってたのよ!」


「ああっ、レインさんが金のためにプライドを売りました!」


「レインさん、それはちょっと……どうかと思いますよ……」


「私はいま素寒貧なのよ! 金貨1000枚なんて払えるわけないじゃない! 『空白の心』のスクロールを買うのに有り金使い果たしたのよ!」


「まぁ、それは私たちも出したので同じことではあるんですが」


「ですが、レインさんの場合は酒食に金を注ぎ込んでるというのも関係していると思うんです」


「やかましいわよ! 私には大金持ちの激アマご主人様がいないのよ!? 飲食費も遊興費も研究費も、冒険のための装備費も! なにもかも全額自腹なのよ! なによ読みたい本があれば予算無制限で買ってもらえるって! 嫉妬で髪の毛がハゲ散らかすわよ!」


 頭を掻きむしりつつ、のけぞって七転八倒するレイン。

 蘇生魔法の影響だろうか? 猛り狂いようがすごい。


「う、うーん……たしかに、それを言われると……」


 サシャが弱ったような顔をする。

 実際、サシャがすごく甘やかされているのは事実だ。あなたにも自覚はある。

 ただ、甘やかそうとしてやっているわけではないのだ。

 訓練の効率、成長性を考えると自然とこうなるというか。


 予算にも寝食にも煩わされず、ひたすら強くなるのに打ち込む。

 これが結局のところ一番強くなるのに対して近道なのだ。

 なのでペットたちにその環境を与え、最大限強くなる努力をしてもらう。

 そして、息抜きのための遊興も基本的には大いに認める。

 これが精神と肉体を健全に保ちつつ強くなれる一番の方策なのだ。


「じゃあ私にもその環境ちょうだいよ! 私だって研究費とか装備代とか気にせず強くなることに打ち込みたいわよ!」


「私が口を出す権利もないとは思うのだが、これはいささかレインの言うことに分があると思うぞ」


 そのようにレウナが口を挟んで来た。

 あなたはその心は? と真意を問うた。


「叶う限り早く強くなって欲しいという要望は当然のことではあるのだが。ただ要望するだけでは実現可能性が低いことくらいは分かるだろう。生きるのには金が必要で、上等な装備や経験にも金が必要なのだ」


 もちろん分かってはいる。無い袖は振れないのだから。

 しかし、あなたが金を出しては筋合いが通らないだろう。

 レインのプライドに配慮するというのも理由としてはあるが。

 金の貸し借り、授受を適当にすると、関係が破綻することもある。

 あなたはレインのことは大切な友人だと思っているので、その関係は大事にしたいのだ。

 たかが金とあなたは思っているが、されど金でもあるのだ。


「そうか、なるほど。たしかにあなたの言うことは至極もっとも。正しい意見だと思う」


 レウナが大いに頷く。その上で、レインに向けて言う。


「レイン。あなたも無償で金をもらうと言うのは気が咎めるだろう? 遠慮なく酒が飲めなくなる」


「そ、そうね。他人の金で飲むお酒は美味しいけど、気兼ねする部分はあるものね」


「だから、どうだろう。あなたとレイン、2人の対等な冒険者にして友人である間柄だ。通常ならばしないような依頼を融通することもあってよいと私は思う」


 通常ならばしないような依頼?


「うん、つまりだ。ふつう、冒険者を長期拘束するような依頼と言うのは少ない。報酬の持ち逃げであるとか、報酬の未払いと言う問題が起きやすいからだ」


「そうね。そう言う問題が起きやすいから長期の依頼は避けた方がいいとは言われるわ」


「だが、あなたたちは仲間であるし、大抵の場合で傍にいる。そう言った問題は起きないだろう。それに、そんな小銭に拘泥するようなしみったれでもあるまい」


 もちろんだ。

 エルグランドの金貨の価値が低すぎるというのも理由としては大きいが。

 金相場の壮絶な差によって、あなたは壮絶な金持ちとなっている。


「具体的には、どうすると?」


「あなたは強くなるという依頼をレインに出す。それにあたって必要な金は経費として支給する。その上で、訓練期間1日あたり、そうだな……酒を思うさま飲める程度の額、金貨10枚ほどを報酬として払うというのはどうだ?」


 なるほど。分かりやすいやり方と言えばそうである。

 サシャとフィリアを相手にやっていることを、依頼として賄うわけだ。

 依頼である以上、あなたにもレインにも打ち切る権利があり、強要する権利がない。


 サシャとフィリアの待遇は一見夢のようではあるが、同時にサボタージュが許されない。

 訓練を詰め込んでも精神が磨滅するので休日はちゃんと取るが。

 サシャを相手に拷問めいた訓練を強要することもザラなのだ。

 レインはそれから逃げる権利があり、あなたにはそれを強要する権利がないわけだ。

 そうなった時に、依頼を打ち切るかどうかは互いの意見を交わす必要があろうが……。


「私はいいと思うわ。あなたはどう?」


 あなたもいいと思う。

 では、契約は合意と言うことでいいのだろうか?


「ええ、強くなるための費用を全額支給してもらえるなら文句はないわ……あと、蘇生費用も負けてもらえると……」


 元々、ちょっと特殊なプレイとかでチャラにしようと思っていたのだ。

 こう、女教師レインの秘蜜の授業とか、生意気メイドのおしおきえっちとか……そう言う捗る感じのを。

 そのあたりはおくびにも出さず、あなたは蘇生費用はタダにしておく、と答えた。


「助かるわ……」


 さて、話もまとまったことだ。

 とりあえず休んで体力を回復させたら、脱出に移ろう。




 あなたたちはゆっくり休んで体力を回復させたのち、脱出に移った。

 7層『岩漿平原』はともかく、それ以外の階層は何度か通った道だ。

 もはや苦戦することはなく、ほんの10日程度であなたたちはソーラスの町へと帰り着いた。


 1日休んで探索の疲れを癒したら、訓練の準備をする。

 まずフィリアには探索者ギルドに報告をしてもらい、8層について報告する。

 今回は証言者がいないが……まぁ、既に7層まで探索してはいるのだ。

 8層についてもある程度は信じてもらえるだろう。たぶん。


 次にサシャとレインには、魔法の研鑽に必要な道具類を金に糸目をつけず買い集めてもらう。

 魔法の訓練にはとにかく金がかかるものだ。しかたない。

 安いところでは文房具、高いところでは魔法のスクロール。

 この辺りのスポンサーはもちろんあなただ。


 あなたとレウナは食料の調達に出向いた。

 ソーラスでも食料は調達できるが、肉類が貧弱なのだ。

 野生動物は町近辺では粗方狩り尽くされているし。

 ソーラスベアの存在から、畜産はほとんどやっていない。

 養鶏が細々と行われている程度で、養豚に養牛は一切やっていないようだ。

 なので、スルラの町で肉をたっぷりと買い込んだ。


 そして、レウナと共に野山を駆け巡り、2日かけて大量の獲物を狩った。

 放血さえしてしまえば、魔法で冷凍して保存ができる。

 あとは『四次元ポケット』に放り込んでしまえばいつでも美味しく食べれる。

 あなたたちは狩り過ぎて肉を粗末にすることはない。


 それが終わったら町に戻り、あなたたちは集中訓練を始めた。




「うぅ、ああ……お、終わらない……終わらないわ……」


「どうして魔術師ギルドで片っ端からスクロール買っちゃったんですか……?」


「総合術師の強みとは……圧倒的な魔法の収蔵量による対応力が強みだからよ……!」


 レインはまず手始めに、一般的な呪文すべてを網羅することを目論んだ。

 サシャは自分の剣技を補助する呪文と、メジャーな攻撃呪文に習得を絞っている。

 ただ、この習得を絞るというのは、憶えないということではないし、使えないということでもない。

 そもそも、この大陸の魔法使いたちが、どのように魔法を準備するのか、と言う話だ。


 魔法使いたちは、呪文書とか魔導書と呼ばれるものを持っている。

 これはこの大陸でも、エルグランドでも変わらない。

 あなたも持っているし、サシャもレインも持っている。


 呪文書は魔法の呪文回路を記録したものだ。

 内実を言うとスクロールと同じものだが。

 呪文書はそれを本の形で綴じて、呪文を保管する。

 そして、必要とあらばそこから読み出す。


 呪文回路と言うのは複雑なものだ。

 すべてを覚えておくのは無理がある。

 頻繁に使うものは暗記していられるだろうが……。

 たまにしか使わないものは、どうしても忘れる。

 なので、たまにしか使わないものは呪文書を使うのだ。

 呪文書から事前に心内に転写して記憶するか。

 あるいは必要時に呪文書を見ながら使うか。


 レインはその呪文書を絶大に充実させようと目論んだ。


 今まで覚えていなかった種類の魔法を全て記録し。

 ありとあらゆる状況に対して使える魔法を網羅しようとしている。

 魔術師ギルドであらゆるスクロールを買い漁り、それを呪文書に転写している。

 その転写作業に悶え苦しんでいる。まぁ、スクロール作るのと内容はいっしょだし……。

 スクロールの作成は高度な魔法ほど時間がかかるので、作業量はなかなかとんでもないものらしい。


「まぁ、今までコツコツと魔法を書き溜めて来たから、そう記録する数は多くないけれどね……そうじゃなかったら年単位だったわよ」


「レインさんの呪文書、もう5冊くらいあるんでしたっけ」


「そうよ」


 先ほど言っていた総合術師の強みは対応力と言うのは以前からの信念らしい。

 その信念に従って、レインはいままで片っ端から呪文書に呪文を納めていたらしい。

 学園在籍中も、図書館で片っ端から呪文を書き留めていたし。

 あなたが図書館でエロ本がないか探っていたのとは大違いである。


「あるわけないでしょ」


 禁書棚があったから、そこにならあると思って……。


「う、うーん……基本的に禁書棚って危険な魔法とか知識が収蔵されてるんだけど、たしかに発禁本が入ってることもあるのよね……」


「まぁ、それも危険な知識と言えばそうではありますね……」


 マジかよ! もっとちゃんと探せばよかった! あなたは悔しくなった。





 魔法の訓練で頭とか手が疲れたら、次は体を動かす。

 レインもハーブのドカ食いによって随分と体が強くなった。

 いまや酒瓶を握りつぶすことも可能だ。手がズタズタになって泣いていたけど。

 あなたは早急に鍛えなくてはいけないので、いつもより厳しく行くことにした。


「今までは生易しくやっていたつもりなんですか」


「冗談ですよね?」


「ねぇ、私は? 私に手加減は? ねぇ?」


「うーむ。剣は基本程度だからな……覚えて損はないか……」


 あなたはまずサシャからやろうと告げ、試合を始める。

 始める前に、あなたはサシャにこれから嬲り殺しにするので必死で抵抗しろと命じた。


「え……?」


 つまり、以前にトイネでエルフ戦士団にやったのと同じことだ。

 少なくとも1日10回くらいは丁寧に嬲り殺そうと思うのだ。

 エルフ戦士団と違って、人数も随分と少ないことだし。


「ウソですよね? あの、ご主人様? その、殺すって……」


 ちゃんと死ぬ寸前では回復して上げるし。

 万一死んでも、フィリアが蘇生してくれる。

 でもフィリアに蘇生されると弱体化する。

 つまり、もっともっと嬲らなくてはいけなくなる。

 出来るだけ必死で抵抗することだ。


「ご、ご主人様が、ご主人様が久し振りに遠い……!」


 サシャが久し振りに涙目になっている。かわいい。

 あなたはすらりと剣を抜いて、がんばってね! と応援した。


「やりますよ! やってやりますよ! ベッドの中では私が滅茶苦茶に虐めますからね!」


 などと気の早いことを言い出すサシャ。

 あなたはそれから3分かけて丁寧にサシャを嬲り殺した。

 根折こんせつ丁寧に心折しんせつ対応を心掛けた。


「マジでサシャを丁寧に嬲り殺したんだけど」


「もう心が折れそうです……」


「う、うーむ……た、たしかに、効きそうでは、あるんだがな……!」


 では次、フィリア。


「くう……! がんばります! たしかに、実戦さながらの戦いの方が身になるはず!」


 そう叫んで勢いよく挑みかかって来るフィリア。

 なかなかいい気迫だ。あなたは丁寧にフィリアを嬲り殺した。

 その後、あなたはレインとレウナも嬲り殺した。


 嬲り殺したらもちろん全員回復するのですぐに次に移れる。

 あなたは軽く10週ほど全員を嬲り殺した。



「こんなのが毎日続くの……?」


「冒険者ってこんなにつらい稼業でしたっけ……」


「まぁ、以前ボロ負けしたのに比べればまだ……」


「なんか我が神の顔が見えた気がする」


 訓練が終われば、もはや夜だ。

 あなたたちは『水晶の輝き』に風呂に入りに行く。

 それが済んだら家に帰って夕食を食べ、後は休むだけだ。

 もちろん、休む前には甘くエロティックなお愉しみタイムの時間だ。



 休む前には激エロパーティーナイト。

 そのはずだったのだが、あなたは自室で待ちぼうけを喰らっていた。

 気配を探ってみると、全員就寝しているような気がする。

 たぶん、サシャはあなたの部屋に来ようとしたが、疲労が限界で倒れるように眠ってしまったのだろう。

 まぁ、よくあることと言えばそうではある。


 あなたは窓に腰掛け、ぼんやりと空を眺めていた。

 訓練をするのはいいが、やはり人数が少なすぎるというか……。

 以前、ダイアやイミテルに訓練を施した際はもっと人数が居た。


 エルフ戦士団たちは、自分を鍛える傍ら、ダイアやイミテルに教えを施してもいた。

 それがどういう意図の下の行いだったかは不明だが、それはたしかにダイアとイミテルの糧となった。


 サシャたちも相互に教え合ってはいるのだが……。

 考えてみれば、このパーティーに純戦士と言える者はいないのだ。

 強いて言えば、かつて純戦士だったあなたがそれとなる。


 しかし、サシャに剣の教えを施したのはあなたであるし。

 フィリアが剣を学ぶようになってから主に訓練相手をしたのはあなた。

 つまり、おたがいの手の内は粗方知り尽くしてしまっているのだ。

 訓練の能率はあまりよくないし、新しい技や戦法を覚えるのにも不都合だ。


 ここはひとつ、知己の誰かを呼び寄せたいものだが……。

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