7話
地面に崩れ落ちたドラグーンの残骸を見下ろす。
頭部とも胴体ともつかぬ部位を叩き壊し、あちこちを寸断してようやく停止した。
「すごくしぶとかった上に、強かったですね……」
たしかに強かった。スピード、パワー、テクニック、いずれも高水準の相手だった。
超大型サイズの巨人に匹敵する体躯でありつつ、高度なテクニックとスピードを兼ね備える。
最高にインチキ極まりない戦力である。そんなんアリかと叫びたくなるくらいには。
それでいつつ、超高品質の鎧を全身に隈なく纏っているくらい堅固な体。
レウナはこれを量産型のゴーレムと言っていたが、こんなもん量産しないで欲しい。
量産と言っても程度があるが、100もあれば国1つくらい平らに出来てしまう強さだ。
「ベストセラー……つまり一番売れたやつが4000機売れたとかくらいしか聞いた覚えがないな」
そんなに作って何と戦うつもりだったのだろう……?
あなたはアルテミスなる場所の異常さに首を傾げた。
さておき、これはいったいどこが高く売れるのだろうか……?
装甲の堅固さから超高品質の金属なのは間違いないが、再利用できるのかは不明。
あちこちぶっ壊してしまったので、高く売れる物を壊している可能性は高いし。
なんだか得体の知れない部品が大量に入っており、何が何やらである。
魔法によるゴーレムなら素材がそのまま売価で丸ごと持って帰る必要があるのだが。
これは科学技術によるゴーレムのようで、魔法のニュアンスはほとんど感じない。
科学技術によるゴーレムってなんなんだよ、とは思うが。
「うーん……この目の部分とか……うーん……」
「この胴体のところ、空洞なんですね。なんか椅子みたいな部分がありますが……」
「あ、この上のところにナイフが。あ、これも取れる」
サシャが内側に潜り込んで中身を検分したところ、ナイフを引っこ抜いてきた。
片刃の堅牢そうなナイフで、手に持ってみるとバランスが悪い。
武器ではなく、日常生活用のナイフに近い構造をしているようだ。
そしてもう1つ渡されたものは、L字型の金属部品で造られた物体だった。
エルグランドではピストルとか拳銃と言う名で流通している、携帯型の銃器だった。
「それが、ピストル? 随分とスマートね。単発式かしら?」
「不思議な形態の銃ですね」
なんでか知らないが、この大陸の銃火器の発達は妙に遅い。
普通に今でも前装式の銃が主流な上、点火方式もマッチロックしか見ない。
たぶん、高火力が出せるフリントが採れないのだろう。マッチロックは信頼性が高いし。
あなたは金属製カートリッジを利用した連発銃だと説明した。
カートリッジに弾丸と発射薬がまとめてぶち込まれており、連射可能なのだ。
威力が技量に寄らず一定なので抜群の安定感がある一方、威力の追及が難しいという特徴がある。
あなたはたぶんこれがそうかなとあたりをつけて、マガジンリリースボタンを押した。
ぼろりと落ちてきたマガジンをキャッチすると、やはりそこには金属製カートリッジが何発も押し込まれていた。
「へー……で、強いの?」
そんなには……。
あなたは端的にそう答えた。実際そんな強くない。
そもそも、こんな小型の銃では命中精度が出せない。
確実に命中させたいなら、至近距離で使う必要がある。
そんな至近距離だったら武器を抜いてぶん殴った方が速いし強い。
ただ、携帯しやすいので護身用としては非常に便利だ。
より大型の銃なら命中精度も出せるので冒険者向きでもある。
まぁ、そちらでも威力に限界があるので一定程度の冒険者しか使わないが。
が、逆に、速度を鍛えるまでに至った冒険者は使うことがある。
自己速度を乗せて発射すると威力が簡単にブチあげられるので。
「ふうん。まぁ、高く売れるかもしれないから、使いにくいなら売りましょうか。連発銃なんて好事家が喜ぶかもしれないわね」
「斉発銃とかオークションに出てたりしますからね。何に使うんだか知りませんけど」
「そりゃあ……賊が10人くらい同時に攻めてきたのを、1人で迎撃する時に使うのよ」
「使う状況が限定的過ぎる……って言うか1つ1つ装填する必要がありますけど、賊が自分のところに来るまでに装填終わるんですかね……?」
「さぁ……?」
銃はともかく、ナイフは特に不思議なものではないようだ。
分解してみても、堅固になるようにフルタング構造なだけ。
フルタング構造であることからわかるように、柄にギミックなども無い。
本当にただひたすらに堅固なだけのナイフだ。
「まぁ、使い心地はよさそうね」
誰か使う? と尋ねてみても、特に返事はない。
じゃあ、せっかくなので自分で使うかとあなたは『ポケット』にそれを突っ込んだ。
後々適当にエンチャントをかけて、日常使いにしよう。
その後、しばらくドラグーンの見聞をしたものの、高く売れそうな部位はわからなかった。
なので、ストロングスタイルの解決方法を取った。
つまり、あなたの手により『四次元ポケット』にぶち込む、である。
反則と言えば反則だが、まぁ、これくらいはセーフだろう。
あくまで他のメンバーの成長に繋げるために実力を制限しているのだ。
ガラクタを持ち帰って辛酸を舐める経験は別になくても良い。
そうして一通りの戦闘後処理を終えたあなたたちは、次へと進む。
入ってきた場所とは反対側にある、入り口と同様の扉。
そこへと取りついて、一応罠がないかを確認して内部を覗き込む。
内部には、奇妙にのっぺりとした鎧を纏った人型が立っていた。
肌の露出が一切なく、目鼻の露出すら存在しない、異様な鎧だ。
なにかしらの魔法の効果か、あるいは科学の力で外界を認識しているのだろう。
腰にはエルグランドの東方様式の刀剣に似たものを提げている。
反対側の腰には、拳銃と思しき銃をホルスターに入れて保持している。
体躯は立派なもので、中身は男性だろう体型をしている。
とは言え、先ほどのドラグーンよりはよほど組みしやすい相手に見えた。
少なくとも、人間型である以上は超重量を持たない。
あなたを押し出せるほどのパワーというか衝突力は出せないのだ。
「玄室型ダンジョンの類型だな」
敵の報告をすると、レウナがそう溢した。
たしかに、各種存在するダンジョンのうち玄室型と言われるものだ。
いくつもの部屋が連なったダンジョンで、その玄室には必ず敵がいるというもの。
戦闘を避けることができないのと同時、戦闘力さえあれば確実に稼げる。
そういう意味で初心者向きとも、安定感のある収入の期待できるダンジョンだ。
「敵は人形。その上、単独。強さは未知数だけど、なんとでもなりそうな相手ね」
油断はよくないが、それは言えている。
少なくとも突然得体の知れない粘液を発射するとか、第4の腕を出してくるとかはしなさそうだ。
絶対にとは言い切れないものの、中身が人間ならそうなる。
あなたは自分とサシャでまずひと当たりすることを提案した。
ハーブの増強もあって、サシャの肉体的頑強度は随一だ。
そして、それを上回るあなたであれば、初手即死ということはまずない。
そこからは臨機応変に動いてほしい。事前に厳密な指示出しをする必要もなかろう。
そのように取り決めて、あなたたちは次なる玄室へと足を踏み入れた。
『敵襲!
意味の理解できない言葉で人型がそう叫ぶと、腰の銃を抜いて発砲して来た。
あなたはその軌道を見切って、剣を抜いて銃弾を弾き飛ばした。
凄まじい衝撃が手の中で弾ける。思っていたよりも随分と大きい弾丸のようだ。
弾いた弾丸があなたの後方で炸裂し、金属片を飛ばした。
携行火器に炸裂弾とは。これは迂闊に後ろに通すわけにはいかないようだ。
あなたはサシャと共に駆け出し、人型へと向けて肉薄する。
連続発砲される弾丸をあなたは片っ端から弾く。
サシャもまた同様に銃弾を弾くが、あなたほどうまくはいかない。
それを膂力と剣の性能で捻じ伏せて肉薄していく。
人型の手にした銃からの発砲が止まる。即座に銃をホルスターイン。
人型が腰の剣を抜刀すると、眼に見えるほどの力強いエネルギーの迸りが剣を覆った。
『シュプリームブレードをドライブ!』
あなたは先手必勝と、右肩に剣を掲げる姿勢を取った人型に肉薄すると、左肩めがけて切り付けた。
そして、人型が目にも留まらぬすさまじい速度で剣を振り下ろした。
あなたの剣を叩き伏せる軌道だ。どうやら後の先を取りに来ていたらしい。
あなたは腹に力を込めて叩き伏せられるのを耐えようとした。
だが、あなたの剣は、相手の剣になんらの抵抗も示さずに両断された。
そして、勢いを減じさせることなく剣があなたの肩に食い込む。
装備を引き裂き、その下の神話の城壁よりもなお頑健なあなたの肉体が切り裂かれる。
剣は留まることを知らずに突き進み、勢いよく剣が振り抜かれた。
「ご主人様!?」
サシャの悲鳴のような声があなたの耳朶を打つ。
見た目は剣戟のようだが、これは剣戟ではないな。
あなたはほとんど真っ二つにされた状態ながらもそんなことを考えた。
おそらく、剣の表面に展開されたエネルギーになにかカラクリがある。
左肩から股間あたりまで一刀両断された。
常人と言うか、超人でも普通なら即死なわけだが。
あなたはそのくらいの致命傷なら慣れている。
気合で生にしがみ付き、姿勢を飛行能力で維持。
あなたの飛行能力の基点は背中なので、飛行能力の及ばぬ左半身と左足が地面に転がる。
さっさと魔法で治そうとしたが、魔法は制限中だった。
使おうとした魔法『ジュステアトのまなざし』は階梯で言うと3階梯どころではない。
そのため、あなたは背後のレウナの位置まで飛んだ。
「うっ、うわぁぁぁぁ!!」
「ひぃっ!」
レウナとレインが悲鳴を上げ戸惑っている。なんで?
あなたは早いところ回復魔法をくれと頼んだ。
「あ、ああっ……『復元/レストレーション』!」
アルトスレアにおける最高の回復魔法、『復元/レストレーション』。
それは名の通り、怪我を癒すというより、本来の形に対象を復元する。
相手の生命力の如何を問わず、全快にまで持っていける超絶の魔法であった。
あなたの左半身が生え、零れ出していた内臓も胴体内に収まっていく。
スカートと下着が切られたせいで下半身丸出しだが、これはしょうがない。
とりあえず適当な布を『ポケット』から取り出し、腰に巻いておく。
あなたは万全な肉体と、万全じゃない服装のまま戦闘に復帰した。
サシャは及び腰で戦闘を継続していた。
剣戟をなんとか避け切ろうと、かなり無茶な動きをしている。
まぁ、相手の剣を剣で迎え撃つこともできず、全て完全回避しろとは大変な事この上ない。
「はぁ、はぁっ! あっ、ご主人、様!」
あなたは地面に転がっている自分の左半身を蹴飛ばして退ける。
そして、よくも一張羅を台無しにしてくれやがったなと怒りを漲らせる。
あなたが着ている服は、心血を込めて作り上げた珠玉の耐性装備。
火、冷気、電撃などの主要なものも、幻惑や闇、光、音波と言ったマイナーなものまで。
10を超える種々様々な属性を完全に無効化できる服なのだ。
いったい作るのにどれだけ苦労したと思っているのか!
ついでに言えばカイラに頼んだ剣も真っ二つで、もはやガラクタである。
サシャの剣とセットで550万枚だったので、ザックリ275万枚も台無しにされた。
冒険者の装備とは大事な資産なのだ。
それを台無しにされるのは、どれほど莫大な財貨を得ても業腹なことこの上ない。
あなたは溢れる怒りを表現すべく『ポケット』より新たな武器を取り出した。
取り出されたハルバード、『ゲヘナベルテ』を人型へと勢いよく叩きつけた。
『ぐわっ! エクゾスケルトン、損傷甚大!』
一応ギリギリ反則ではなかろうと選んだイモータル・レリック『ゲヘナベルテ』。
ハルバードに分類されるそれはリーチに優れるため、剣しか持たぬ相手と優位に戦える。
そして、地獄の斧の名を持つ『ゲヘナベルテ』は、刃の形をした地獄そのものがヘッドに取り付けられている。
刃の形をした地獄ってなんだよとあなたでも思うが、なんかそう言うものらしい。
極めて強力な悪の来訪者を召喚し、これを使役する能力があったりするが……。
召喚したやつをそのままついでに『
まぁ、かつてなら強力だったが、今ではそれなりに強めの魔法の付与がされたハルバードと言うだけ。
今回は破壊不能かつリーチが長いというだけの理由で持ち出した。
「私も!」
あなたのハルバードの一撃で後ずさる人型。
それに追撃するべく踏み込むサシャ。
鋭く下方から捻じ込まれた剣戟が、人型の足を切り裂く。
それに反撃するように振り下ろされる人型の剣。
それを抑え込むように、あなたは人型の腕へと鋭い刺突を放つ。
腕を穿つハルバードの槍部。抑え込まれた剣戟に、サシャが嗤う。
「死ねぇっ!」
みぞおちに勢いよく抉り込まれる剣。
渾身の力でねじりながら突き込まれた剣が、人型の背部へと突き抜ける。
『……ミッション、失敗……か、神よ……
なにか祈るような仕草を見せて、人型が崩れ落ちる。
これで戦利品がゴミだったら泣きたくなるが……。
あなたはせめて戦利品が最高であってくれと祈った。
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