3話
あなたたちは前回とは違う経路を辿ることにした。
最短経路自体はフィリアの『経路探知』で把握できる。
だが、金になるものを手に入れる手立ては『経路探知』では分からない。
やはりそうなると、足で探るしかないのが正直なところだ。
お宝を探知する魔法自体も存在するとは言うが、やはり完璧ではない。
普通、宝物庫などは占術防御を施すのが普通であるし。
だからこそ、わざわざ前回通らなかった経路を意図的に通ってみるわけだ。
「4層の霜巨人の集落を探って襲ってもいいんだけど……ほら、誰でも強ければ稼げる、いちばん最初の階層でしょ?」
「ソーラスでは買い叩かれるか」
「そう言うことね。王都まで運べばいい話ではあるんだけど……巨人サイズなのがね」
魔法の道具にはサイズの調整機能が標準でついている。
しかし、巨人の装備と言うのは巨人用のサイズで作られている。
それは標準の人間サイズで言うと、大型サイズと言うことだ。
魔法で補正したにしても、人間にしてみればデカいことに変わりはないのだ。
するとやはり、需要と言うものがどうしても少なくなる。
大きい武器を使うことを好む人間も世の中にはいるので絶無ではないが……。
「いずれ売れはするけど、現金化に時間がかかるのは面倒だわ」
「まぁ、それはそうだ」
「そこであのタルパーシャの持ってたコピスよ。あれは純粋に宝飾品としての価値があったわ」
「そうか」
「そして、それを下げ渡すような金持ちが居たら、きっと宝物庫にはすごいお宝がザックザクよ!」
「典型的な金に目が眩んだ
「金なんていくらあったっていいのよ!」
「まぁ、そうではあるんだが」
あなたたち『EBTG』は今のところ、稼いだ金の粗方を冒険費用に突っ込んでいる。
特に指示してそうなっているとかではなく、自発的にそうなっている。
全員それなりの冒険馬鹿どもと言うことだ。
まぁ、今回のアタックで高収入が得られなければ、そのサイクルは破綻するだろう。
なんたって、『空白の心』のスクロールは1枚金貨300枚もするのだ。
前回無事だったレウナとあなたに不要だとしても、1日3枚で900枚である。
それが5日も続けば、今まで得て来た収入の全てが吹き飛ぶだろう。
また同じだけの収入を手にしない限り、再攻略は無理と言うことだ。
レインはそのあたりが分かっていて高収入を狙っているのだろう。
「なにかこう、最高に冴えた金策とかあればいいんですけどね……ご主人様みたいに無限かと思えるほどの財布が欲しい……」
「ふむ。その無限に金の出て来る財布の持ち主のあなたなら、どう稼ぐ?」
あなたはかつてエルグランドでやっていた金策について話した。
ずばり、金を持ってそうな女を見つけ、体を売るのである。
女とヤれる上に、金までもらえて最高。まぁ、たまに性病をもらうが。
「……だ、そうだ」
「私は嫌です……」
「だろうな……」
のちには娼婦ギルドに属したことで、その金策はさらに捗った。
金持ちの下に派遣されたり、金持ちが家にやって来たり……。
今は完全に趣味だが、あなたが未熟だった頃は本当にいい稼ぎになった。
「他にないか」
魔法使いなら『ハーヴェスト』の魔法を使うとか。
「なんだその『ハーヴェスト』と言う魔法は」
端的に言えば、金銀財宝が手に入る魔法だ。
あなたはちょっとやってみようと言うと、『ハーヴェスト』の魔法を唱えた。
あなたが魔法を発動させると、どこからともなくあなたの周りに金貨が降り注ぐ。
金貨が小山を成す。ザックリ数万枚分くらいだろうか。
あなたはそれをサッと『ポケット』に放り込んだ。
「ふーむ、そう言う魔法もあるのか。知らなかったな」
「知らなかったな、じゃないけど!? お金が降ってくる魔法って何よ!?」
ちなみに確率こそ低いものの、プラチナコインもたまに降ってくる。
そして、あなた的に1番の目玉と言えば『ミラクルウィッシュ』のワンドである。
とは言え、『ハーヴェスト』の使用難易度、消費魔力は相当なものだ。
並みの魔法使いではあっと言う間に爆散する。レインなら1回使えるかも、くらいだ。
だからこそ『ミラクルウィッシュ』のワンドは大変な貴重品として珍重されるわけだ。
「しかしな『祈り/プレイヤー』や『奇跡/ワンダー』と言った現実改変魔法では、金銀財宝を願うこともできるだろう。『ハーヴェスト』とやらは金銀財宝限定と思えばさして不思議でもないぞ」
「そ……そう、言われると……たしかに、そうかも……?」
「難易度にもよるが、そんなに便利な魔法ではないのではないか」
「だとしても、これが使えるなら……そ、その無茶苦茶な魔法、教えなさいよ!」
教えてもいいが、相当危険なので気を付けて使うように。
そう言いながら、あなたはレインに『ハーヴェスト』の魔法書を渡した。
大分以前にも説明したが、呪文回路を心内に強制転写できる道具である。
これを上手く読んで、呪文回路を心内に転写したら、あとは宣言詠唱だけで瞬間的に発動できる。
「ふんふん……」
レインが『ハーヴェスト』の魔法を読み耽る。
やがて、1回分の転写に成功したのか、レインが『ポケット』に魔法書を放り込む。
「うん……とんでもない消費量ね……魔力が全快状態でも、1回使えるかどうか……」
「そんなにですか」
「ええ。フィリアなら1回は無事に使えるかも……?」
ちなみに『ハーヴェスト』の魔法書は貴重品なので早々手に入らない。
そして、うまく転写出来ても使えるのはいいところ十数回程度だろうか?
「なるほど、中々うまくはいかないわね……」
なお、金貨数万枚も降って来たのはあなたが凄腕だからだ。
普通はいいところ数百枚程度ではないだろうか。
1日に1回、金貨数百枚が手に入るのはすごい収入ではあるが……。
魔法を商品として売った方が、遥かに儲かると思われる。
「世の中そう旨い話はないわね……はぁ……」
まぁ、実際のところ、あなたの愛剣や本気装備のように。
魔法の威力を増強する効果のあるエンチャントを使うと違うのだが。
本気装備を使えば1回唱えただけで金貨で平原ができるくらい降ってくる。
残念ながらプラチナコインや『ミラクルウィッシュ』のワンドの数は増えないが……。
「なにか、いい金策とかないかしらね」
「あったら、既にみんなやってますからね……」
「それもそうなのよねぇ……」
あなたたちは金策について活発に意見を交わしながら先へと進む。
こういう風に仲間と話し合うのは、ただそれだけで楽しいものだ。
ひとつの目的に向かって邁進する一体感と言うか。
そう言うものを感じられる心地よさもある。
あなたたちは砂丘の熱さにも負けない熱意で金儲けについて語り合った。
結局それから、あなたたちはラセツの主君であろう存在と遭遇することはなかった。
というか、仮に居宅があったところで、強盗めいたムーヴをかましていいのだろうか?
「ま、まぁ、たしかに悪性の存在であろうと、問答無用で先制攻撃していいかと言うと……その、アレなんだけども……」
「たとえ悪性の存在であろうと、疑わしきを罰するのは傲慢だろう」
あなたにしても、それはさすがにどうなんだ? という想いはある。
まぁ、やるとなったら特に躊躇せずにやるのがあなたでもあるが。
「ラセツの親玉とは会えなかったけれど、マンティコアとの遭遇戦はあったし、多少の戦利品はあったから少しは足しになるといいんだけど」
「究極的には、私たちはもっとレベルアップが必要なんでしょうね……レインさんが『空白の心』を使えればいいわけですから」
「まぁ、そうなんだけど……使える位階を上げるって、そんな一朝一夕で出来ることじゃないのよ」
「それは分かってはいるんですけど……」
『EBTG』も特訓合宿でもするべきだろうか?
レインを重点的に鍛えまくって、8階梯まで使えるように鍛え上げる……。
そのレベルまで達すれば、一気に冒険費用を圧縮できるわけだが……。
「って言うか、使える位階が上がるって、どういうことなんでしょうね? 自分でもよくわからないんですよね……」
「こう、なんと言うか……自分の心の中に、それを許容するスペースみたいなのがあって……力量が上がっていくと、やがてそのスペースが解放される……みたいな?」
「あー、なんとなく、分かる……ような……?」
あなたはその辺りの感覚はさっぱりわからない。
エルグランドの魔法には位階や階梯と言う概念がない。
純粋に呪文の構築難易度で使えるか否かが決まる。
「まぁ、今考えることでもないわ。さぁ、先に進みましょう」
「ですね」
あなたたちは5層『大砂丘』の攻略を完遂する。
ここはさすがに短縮できる要素がほぼなく、前回よりも1日早いだけの4日での攻略となった。
そして、次なる6層『熱気林』は、もはや何も語ることがない。
バラケのせいで生命の気配すら感じられない、死の領域なのだ。
まぁ、その辺りを踏まえて周辺の啓開も警戒も不要と言うことで、僅か2日で攻略に成功したが。
そして、問題の領域、7層『岩漿平原』。
レインが張り切って『空白の心』のスクロールを用い、あなたとレウナを除いた3名に魔法をかける。
あなたはなぜか不明だが効かないので不要だろう。
「私はよく考えたら不要だった。いや、かけてもらって損があるわけではないが。少なくとも洗脳状態になったりはしないので不要だ」
「そうなの?」
「うむ。精神作用が一切効かん体だ。気にしなくとも大丈夫だ」
「まぁ、節約になるからありがたいわ。私たち3人だけでいいわけね」
そうして準備を整え、あなたたちは『岩漿平原』を進む。
赤々と燃え、煮え爆ぜる岩礁の川。
いったいどこから熱が産まれ、この岩を溶かしているのだろう?
あなたたちは飛び石のように突き出た白い岩場を飛んで渡っていく。
時折弾ける岩漿に焼かれ、全員に小さなやけどが絶えない。
それでいながらバラケを警戒しながら進まなくてはいけないとは……。
「レインさん」
「どうしたの、フィリア」
「この魔法かかってる状態なら、このハーブを食べてもつらくないです」
「そう。本当だ。そんなにつらくないわね」
「ちょうどいいのでハーブを食べてしまいましょう」
「そうね」
「はい」
あと、なんか情緒が平坦になったメンバーが怖い。
全員表情がぼんやりとしているし、声音も平坦だし、眼もどこ見てるんだかわからないし。
こう、精神が磨滅し切ってしまった類の人間みたいだ……。
「なんと言うか、こう、本当にあの魔法は人間に使っていいものなのか不安になる……」
そう言えば、ジルも同種の魔法をかけっぱなしにしているとか言っていたような。
「そう言えば言っていたな……もしやあいつ、アレのせいであんな性格なのか?」
可能性は否めない。しかし、たぶん違うと思う。
ジルが派遣してくれた分身は特に魔法がかかっていなかった。
それでいつつ、性格や人格はほぼ一緒だった。なので、たぶん素だ。
素であの人格や精神の希薄さは拙いのでは? と思わなくもないが。
そこで、あなたは今なら衝撃的な告白をしても平気なのでは……? と思い至る。
サシャに伝えなくてはいけないが、タイミングを見計らっていた告白。
それをするならば、今この瞬間こそが最高のチャンスかもしれない。
あなたは意を決すると、全員に話があると足を止めさせた。
「なにかしら、話って」
「手短にお願いします」
「私は周辺を警戒します」
こほんと咳ばらいをし、あなたはサシャに目線を合わせて告げる。
いま、ブレウは妊娠4か月だ。可愛い女の子が生まれる予定である。
サシャは妹として、そしてあなたは父として、たくさん可愛がってあげようね! と。
「そうですか」
「おめでとう」
「おめでとうございます」
全員ショックも狂乱もしなかった! ヨシ!
って言うかほとんどスルーされているくらいだ!
あなたは勝利を確信した。
「…………????? ん……ん? いや……あなたは女……だよな?」
1人だけ『空白の心』がかかっていないレウナが混乱している。
あなたはエルグランドの民は、同性だろうが子供を作れるのだと答えた。
「ほう……単なる強さ以上に無茶苦茶だな。まぁ、そう言うこともあるのか。処女懐胎なんてことも世にはあるのだし、それに比べればまだしもな」
うんうんと頷くレウナ。
「話は終わりですか」
「行くわよ」
「出発しましょう」
やっぱりこの呪文、人に使っていいものではない気がする。
あまりにも淡泊な3人の態度に、あなたは人の心を操る呪文のおぞましさに震えた。
なにがおぞましいって、こちらの大陸の最上級冒険者はこれをかけっぱなしにしているというのだから……。
英雄とは、いったいなんなのか……そう考えさせられる光景だ……。
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