20話
翌朝、あなたはサシャを伴って王都屋敷へと帰還した。
そして、すぐさま出迎えてくれたメイドの1人にポーリンの所在を聞き、そちらを訪ねた。
「ミストレス、おかえりなさいませ。ですが、その……ギールと言う獣人は、来ておりません」
「え? 来てない?」
あなたは首を傾げ、冒険者ギルドからの報告はどうかとも尋ねた。
「それが、王都近辺の探索網すべてに捜索依頼のあった人物はかからず、街道を逸れて移動したのではないかと……」
冒険者ならばともかく、一般人が街道を外れるのは自殺行為だ。
普通に街道を移動してさえ野盗などの危険性があり、何よりメリットがない。
街道を外れれば、野生動物や異種族の襲撃の危険性すらあるのだ。
よほど健脚で、道を熟知していない限りは街道の方が速く移動できるし。
常識的に考えれば街道を外れることはありえない。
すると、純粋に冒険者を振り切るほど素早く移動したのだろうか。
ギールは多少金を持っていたので馬を使った可能性は否めない。
それなら徒歩が主体であったろう冒険を振り切る可能性はある。
しかし、そうだとすると、往路はかなり高速で移動したことになる。
すると復路は徒歩だとしても、帰ってきていないのは遅すぎるだろう。
「お金を多少持っていたら馬を購入した可能性は否めませんけど……」
あなたはやむを得ないと、『ミラクルウィッシュ』のワンドを取り出した。
そして、サシャに『生物探知』の呪文を発動するよう言った。
本来は4階梯呪文らしく、サシャには使えない呪文だ。
だが、『ミラクルウィッシュ』のワンドを使えば、ある程度の呪文を再現できる。
最高で8階梯呪文ですらエミュレート可能であり、4階梯ならば楽勝である。
まぁ、たかが4階梯呪文のために『ミラクルウィッシュ』のワンドを使うのはもったいないが、やむを得ないだろう。
「ありがとうございます、ご主人様。では……『生物探知』を!」
簡潔な願いの言葉に、あらゆる工程を凌駕して『生物探知』の呪文が起動した。
その効果により、サシャは指定した存在のいる方角を察知することができる。
しかし、呪文発動からしばらくして、サシャが顔を歪めた。
「……ご主人様、探知に反応がありません」
それが意味するところはつまり、そう言うことだ。
『生物探知』の呪文は「生物」の探知しかできない。
そう、「物体」を探知することはできないのだ。
しかし、ギールが性転換してるせいでうまくいかなかった可能性もある。
あなたはダメで元々と、自分も『ミラクルウィッシュ』のワンドで『生物探知』を再現してみた。
すると、スルラの町のある方角にギールがいることが探知出来た。
「え? ご主人様の方は探知出来たんですか?」
一番最後に会ったのはあなただ。
そのため、サシャより正確にギールを把握できていると言えばそう。
その差ではないだろうか?
「なるほど。成人していれば変化は少ないとは言え、皆無ではないですからね……」
まぁ、たぶん性転換させたせいだが。
ともあれ、あなたはスルラの町の方にいるようなので迎えに行こうと提案した。
「はい、ご主人様」
そう言うわけなので、あなたは再度転移でスルラへと向かった。
スルラの町へと到着し、あなたとサシャはサシャの家へと向かう。
一応、近隣の家に金を払って家を維持管理するようには頼んでおいた。
見知らぬ輩が勝手に住み着いていたら、適当に追い出す必要があるだろう。
あなたとサシャが家を訪ねてみるも、特に変わりはなかった。
近隣住人にギール、またはギールを名乗る不審者が来なかったかとも尋ねてみる。
しかし、やはりこちらに関してもなにも答えは得られなかった。
「う~ん? まだ帰り着いてないってことでしょうか?」
あなたはこの事態に想像力を働かせてみる。
ギールは5年ぶりに帰れると勇み足で移動した結果、冒険者を振り切ってしまった。
しかし、その勇み足の代償は大きく、ギールは足を痛めてしまった。
その結果、本来の旅程よりも大幅に遅れて40日以上もかけてスルラに帰りつくことになってしまった……。
まぁ、あり得なくはないような気がしないでもない。
考えてみると、女に性転換させられているせいで体格が変化している。
そのせいでギールがうまく移動できていない可能性は否定できない。
あなたはやむを得ず、もう1度『生物探知』を発動してみた。
すると、今度は王都側の方にギールがいることが分かった。
どうやらまだスルラの町に到着していなかったらしい。
「うーん、ご主人様の予想通りっぽいですね……そんなにはしゃいで……」
まぁ、5年以上も建築現場から離れられなかったわけだ。
すると、歩き回ることはあっても歩き通しの生活ではなかった。
大幅に行き足が鈍ってしまうこともあるだろうとあなたはサシャをなだめた。
「まぁ、そうかもですね。こっちから迎えに行きますか?」
あなたはもう少し待ってみようと提案した。
この呪文の効果時間はそれほど長くないのだ。
本来は術者の力量次第で呪文の効果時間が変わるタイプの呪文だが。
『ミラクルウィッシュ』のワンドで再現すると、使用可能な最低限の効果時間になる。
そのため、ほんの10分しか効果時間がなく、探索しながら使うには不向きなのだ。
「はぁ……しょうがないですね」
仕方ないなとため息を吐くサシャ。
「でも、皆さんを待たせてるわけですし……待つのは今日だけにしましょう」
帰って来なかったらご近所さんに伝言を頼んで、自分たちはソーラスに帰還する。
そして、ギールのことは屋敷のポーリンらに任せると。
まぁ、それが妥当な選択ではある。では、そうしよう。
「まったくもう、ご主人様に迷惑をかけて……それに『ミラクルウィッシュ』のワンドなんて、一生かかっても買えないほど高価なものだし……そうでなくとも多額の費用をかけて冒険者を動員して……いったいどうやって償わせたら……」
ブツブツとギールに対しての文句をぼやくサシャ。
そんなサシャに、あなたはそっと腕を絡める。
そして、あなたは囁くような声で、久し振りにサシャと遊びたいなあ、と提案した。
「……も~、ご主人様ったら。えっちなんですから!」
なんて言いつつもうれしそうなサシャ。
あなたは部屋に行こうと提案すると、サシャはちょっと気恥ずかしそうにしながら部屋に案内してくれた。
その部屋はほんの小さな部屋だった。
窓際に置かれたライティングデスクと、壁に設置された小さな本棚。
寝具の省かれた簡素なベッド。それ以外の家具は何ひとつ置かれていない。
本棚には不揃いな形状の紙をまとめた本が幾つか置かれている。
羊皮紙の切れ端や、古紙の余白部分を集めた手製の本のようだ。
表紙に記された字は酷く整っており、おそらくサシャの自作なのだろう。
机上にはインク壺と、羽根ペン、そしてそれ専用のクイルナイフ。
羽根ペンは使ううちにペン先が潰れるので、それを整えるのに使うのがクイルナイフだ。
ブレードはともかく、ハンドルは銀製のようで、ひどく黒ずんでいる。
これ1つだけ妙に高級品のように見受けられ、思わずそれを見つめる。
「ああ、それは薬師様がくれたものですね。初めて読み書きを教わりに行ったとき、これでペンを整えるようにって」
そこらへんの貧民の子供に与えていいようなものではない気がするが……。
サシャを先輩と呼んでいたという情報もそうだが、薬師クロモリの情報は聞くほどに奇妙だ。
薬師クロモリはいったいサシャに何を見ていたのだろう……?
まぁ、それは今はどうでもいい。
あなたはベッドの上にいくつものクッションを放り込む。
そして、その上で白く清潔なリンネルのシーツを敷いた。
あっと言う間に出来上がった柔らかなベッドにあなたは腰かける。
誘うまでもなく、そのすぐ隣にサシャが腰かけて来た。
この部屋で育ったんだね。あなたはそんな風に零した。
サシャはこくりと頷きながら、あなたと手を重ねた。
「小さい頃からずっと、このお部屋で私は育ってきました。そのお部屋で……しちゃうんですね……」
サシャが子供時代を過ごした懐かしい部屋。
15歳のある日から、ずっと帰らなかった部屋。
この部屋は、夢を見ていたのかもしれない。
いつの日か、サシャが帰ってくる日のことを。
あるいは、幼き頃のサシャを夢を。
この部屋で勉強に励む小さな少女のことを。
この小さなベッドで眠る幼い子供の夢を。
自作した本を読んで物思いに耽る学徒の姿を。
そんな過去の夢を見ていたのかもしれない。
その部屋で……子供部屋で、大人になったサシャとエッチなことをする。
うまく説明できないが、それはすごくやらしい。
「ご主人様……はじめての時みたいに……優しく、私を可愛がってくれますか……?」
あなたはもちろんと頷き、サシャのはじめての日を思い起こすような、優しい行為をすることにした。
手と舌だけで甘く蕩けさせられる、ひどく優しい行為。
今のサシャには、もどかしいとすら思えるのではないだろうか。
だが、この部屋ではそれくらいがちょうどいいのかもしれない。
あなたは手始めにサシャに触れるように優しいキスをして、柔らかで淫らな行為を始めた。
丹念にサシャを可愛がり、蕩けさせた。
そして、こんなのじゃ満足できないとサシャがおねだりをする。
あなたは望まれるがままに行為をエスカレートさせていく。
やがて、あなたとサシャが深く繋がり合って。
お互いの鍛錬で強化された無尽蔵の体力で際限なく求めあって。
昼が来て、夕焼けが町を染めて、空が闇に染まっても。
あなたとサシャは貪欲にお互いを求めあった。
行為の合間、けだるい余韻に浸りながら軽食を齧ったり。
冷たく澄んだ水を荒っぽく飲み干したりする以外は、ひたすらに求めあった。
バカンスの間たくさんの女の子たちと遊んだというのに。
サシャと触れ合うと、それだけで底なしに欲望が湧き上がってくる。
耳と尻尾がいけないのだ。ふあふあくにくにの耳があなたを狂わせる。
またお互いに昇り詰めて、ベッドに隣り合って身を横たえる。
荒い吐息を吐いて、体を流れる汗の雫を感じながら、見つめ合って微笑む。
窓からうっすらと払暁の光が差し込んで来ている。
いい加減、帰らなくてはいけない。それは分かっている。
だが、まだ欲しい。もっとサシャを鳴かせたいし、鳴かされたい。
「どうしましょう、ご主人様……私、まだご主人様が欲しいです……ねぇ、まだ帰りたくないです……」
お互い、気持ちは同じだったようだ。
あなたは自分も同じ気持ちだとサシャに応えた。
「うれしい……今度は、私が上になりますね……」
そう言ってサシャがあなたの上に覆いかぶさる。
そして、あなたへと奥深くまで、愛し合うための道具を突き込んで来た。
激しくも甘い腰使いで、サシャは貪欲に快楽を求め、与えて来る。
あなたはサシャの欲望の滾りを受け止め、それを肯定する。
激し過ぎる快楽は苦痛にもなる。そのギリギリを攻める腰使い。
あなたのことを知り尽くしているサシャだからできることだ。
「ああ、気持ちいい……! ご主人様、かわいい……! 好き……! 好きぃ! ご主人様、大好きぃ!」
ストレートな好意を叫ぶ声に、あなたも応じる。
あなたもサシャが好きだ。大好きだ。愛している。
心の底からの言葉を叫び、あなたはサシャを求める。
「あっ……!」
やがてサシャが高ぶりの果てへと至る。
それに少し遅れて、あなたもまたそのように。
狙ったわけではないが、ほぼ同時に至った。
あなたとサシャは激しく波打つ快感の余韻に打たれる。
言葉を交わすことなく、ただ熱と昂りだけを共有した。
サシャが顔を近づけて、仕草で口づけを求めてきた。
あなたはそれに応じ、熱い吐息を感じながら貪るような口づけを交わした。
「はぁ、はぁ……だいすき……」
愛おしさを視線に乗せて。
あなたとサシャは、ひたすらに愛し合った。
日が昇っても、そして、また日が暮れても……。
結局3日ほどギールを待ったが、帰って来なかった。
あなたは近隣住民に金貨を振る舞ってギールへの伝言を頼んだ。
ちゃんと、サシャに似た壮年の獣人女性が来たら、と特徴も告げてだ。
まぁ、ギールは生きてるわけだし、そのうちなんとかなるだろう。
あなたとサシャはそのままソーラスに帰還した。
転移の反応による次元の揺れを感じつつ、ソーラスの居宅の庭にあなたたちは出現する。
「遅かったな。何かトラブルでもあったのか?」
冒険準備万端! と言った調子のレウナが樹上であなたたちを出迎えた。
あなたは目当ての人物が、往復どころか往路すら踏破出来ていなかったと答えた。
そのため、往路の到達点であるスルラの町で待つことにしたのだが……。
さすがに3日以上もみんなを待たせるわけにはいかないので戻って来た、と。
「む、そうか……心配なようならば、もう少し待ってもいいのだぞ? そうだ、私は狩人だからな。獲物の追跡はお手の物だ。推定の到達地点近辺まで行けば足跡も辿れるかも……」
「いえいえ、そんな、レウナさんにお手数かけるわけにはいかないですよ」
実際のところ、サシャと3日間ヤりまくっていただけである。
でもギールを待っていたのもウソじゃない。問題ない。
「そうか? しかし、おまえの実の父親だろう」
「いいんです。生きてるならそのうち帰って来ますよ。子供じゃないんですから」
「そうか。まぁ、おまえがいいというならいいのか」
レウナが一応納得したそぶりを見せて頷く。
あなたは他のメンバーにも帰還を告げて、冒険に出発しようと促した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます