18話

 修行に旅行に休暇、それから仕事をちょっと。

 あなたのバカンスはそんな調子である。


 激辛ハーブ大食い大会を開催するリゼラ。

 クソ不味い液体をガブガブ飲まされるチー。

 そんな珍妙すぎる修行をやらされる2人をドン引きしながら見つめるほかの面々。


「もうちょっとこう……ほかにないのか?」


 トキにそのように言われたが、あなたはないと断言した。

 いや、もちろん順当に修行をすれば強くなるわけだが。

 しかしそれはハーブ大食い大会と同時にできないわけではなく。

 リゼラは当然それをやっているので、これ以上どうにもしようがないというか。


「カイラもさ、なにか少しくらいマシなやり方とか……ない?」


「たとえば~?」


「飲むだけで強くなれる薬とか……」


「飲むだけで強くなれますけど~」


 チーがガブ飲みさせられているゲロマズ薬を見せるカイラ。

 あなたは原液で飲んだが、もう2度と飲みたくない。


「それで強くなるのは魔力じゃないか。こう、肉体が強くなる薬とかないか?」


「なくはないですけど~」


「あるのか!?」


「はい~。アナボリックステロイドと言う薬品がありまして~。でも副作用がたくさんあるのでお勧めしません~」


「副作用あるのか……どんな?」


「いろいろありますけど~。トキは女性なので~、男みたいになります~」


「男みたいになる?」


「胸がしぼみ、声がしゃがれ、髪が抜けたり、逆にあちこちに大量に毛が生えたり……可能性として、不妊兆候も否めないのでお勧めできないです~」


「それはさすがにいやだ……」


「これ使うと寿命縮むというのもありますしね~」


「寿命まで縮むのか……何年くらい?」


「平均して50歳くらいで死にます~。アナボリックステロイドを使用しての有酸素運動は基本禁忌なんですけどね~。心肥大を招くので~」


「そこまで生きたら普通に寿命じゃないかそれ……?」


「まぁ、そうかもですが~。80まで生きれるポテンシャルの持ち主でも50で死んじゃうので~」


「ふーん……」


 あなたはそんな話を聞いて、ゴシオラやセルベンの効能はどういう作用なのだろう? と思った。

 あれは筋力を劇的に増強してくれるが、特に寿命が縮んだという話は聞かない。

 単にエルグランドじゃ寿命が来る前に死ぬからだろと言われたらそうなのだが。


「リゼラが食べてるのと違って、美味しく食べれて強くなれるハーブとかは……」


 考えていたら、トキにそう問われた。それに対し、あなたはあると答えた。

 スト=ガスはセルベンと同様の効果がある上に、かなり美味だ。

 普通に野菜的な美味しさと言うか、少なくとも極端な味はしない。


「あるんじゃないか!」


 ただ、メチャクチャ胃の中で膨らむ。

 なので1枚食べたら1日もう何も食べれない。

 つまり、200服食べるのに200日以上かかる。

 セルベンがやろうと思えば1日で200服食べれないことも無いのにだ。


「なるほど、効率が悪いのか……」


「って言うかそれだけ200日間も食べたら栄養失調になりませんか~?」


 それは分からないが、なってもおかしくはないだろう。

 極端に偏った食生活をすると体調を崩すのは知られた話だ。

 スト=ガスだけ食べて過ごせば、必然的に野菜だけで過ごすことになる。

 主食たる米やパン、そして肉類を食べなくなるということだ。


「うぅ、世の中うまい話はそんなにないか……」


「そりゃそうですよ~。どんなものでも基本は努力です~。こういう道具は、その努力を助けるためのものでしかないんですからね~」


「正論だなぁ……」


 世の中そんなものだ。結局努力しないと話にならない。

 超絶の天才であっても、努力しなければ凡人で終わる。

 逆に凡人であっても努力し続ければ超人になれる。そう言うものだ。


 一応、何の努力もしなくても強くなる方法がなくはないが。

 それが出来るようになるのに超絶の努力を必要とするので。

 努力せずに済むために努力する必要があるのだ。

 楽するために苦労する典型と言えるだろう。





 毎日努力して、苦労して、そして体を清めてぐっすりと眠る。

 なにも考えずに目いっぱい体を動かして、それから休む。

 そうした充実感、心地よさと言うのは、他の何にも代えられないものがある。

 実際にやってみないと分からないが、そう言うものなのだ。


 そのため、この訓練の日々はあなたにとっても心地よい。

 苦労するほどの運動強度を引き出すことは出来ないものの。

 それでも訓練をした充実感と、汗ばんだ体を水で清める心地よさは最上だ。

 エルグランドではあまりなかった種類の楽しみ方ではあるが……。


 今日もまた、体を清めた後の夜の時間を過ごしている。

 海辺で満天の星空を鏡のごとく映し出す湖面を眺めている。

 本当にこの光景は何度見ても飽きない。それほどに美しい。

 エルグランドから持ってきた写真機で何枚も写真を撮ったが、肉眼で見る絶景には勝てない。


「いい夜ね。お隣いいかしら」


 絶景に浸っていると、スアラがそう声をかけてきた。

 青白く見える顔だちに赤紫色の髪は、闇の中で一層妖しく輝いて見える。

 物凄く闇の住人っぽいというか、サディスティックな悪女っぽく見えるというか。


 実際のところ、特殊な趣味や性癖があったりはしないし。

 スアラはごく一般的な良識と常識、そして善良さを兼ね備えた善人である。

 酒を痛飲したり、ちょっとばかり女遊びをしたりするくらいの闊達さがあるくらいで。

 なんと言うか、容姿で損をするタイプの人間である。


「闇の中、星明かりを受けて佇むあなたの姿……とてもきれいね」


 そのように口説かれたので、あなたはやわらかに微笑んで頷いた。

 あなたは自分の容姿の美しさの自覚がある。

 そのため、こういう場面では黙って静かに微笑んだ方が神秘的な美しさが演出できると知っている。

 実際、スアラがその頬を紅潮させたので正しい対応だったのだろう。


「ねぇ、気持ちいいことしない?」


 そんな直球のお誘いに、あなたは気持ちいいことってなぁに? と無垢な質問を返した。

 すっとぼけたことこの上ない返事だが、そう言うロールなので構わない。

 幻想的で神秘的な美しさの無垢な少女を、夜の海辺で誘う。

 なんてロマンティックなのだろうか。あなたなら気が狂って襲う。


「うふっ……とても気持ちいいことよ。大丈夫、お姉さんが手取り足取り……ちゃんと教えてあげるわ」


 そう言ってあなたの太ももに手を乗せるスアラ。

 そっと指先だけで表面をなぞるような、もどかしい仕草。

 その愛撫とも悪戯ともとれるような行為に、あなたはかすかに身を震わせた。


「とっても気持ちいいこと……知りたくない?」


 あなたは知りたいなと返した。

 すると、スアラがあなたの顎に手を添えて、そっと口づけをして来た。

 柔らかく触れるだけのキスをして、その直後、再度口づけを。

 深く貪るような口づけに、結構遊び慣れてるなとあなたはスアラの熟練度を理解した。


 世間一般ではあまり褒められたことではないと見られているが。

 女冒険者の場合、妊娠しないために女同士で遊ぶことはそう珍しいことではないらしい。

 もちろん、そう言った行為を一切しない者の方が多いのではあるが……。


「じゃあ、教えてあげる。部屋にいきましょう?」


 あなたはスアラのそんなお誘いにコクリと頷いた。

 さぁ、お愉しみの時間だ!



 部屋にスアラと共に入る。

 そして、スアラがベッドに腰掛け、あなたに隣に座るようにと仕草で促して来る。

 あなたは促されるまま、スアラの隣へと腰かけた。


「一目見た時から、なんて可愛い子なんだろう……って思ってたのよ」


 言いながら、スアラがあなたの肩を抱く。

 スアラの細く繊細な指先があなたの肩を輪郭をなぞる。

 甘やかな指使いはスアラの手先の器用さを物語るかのようだ。


「気持ちいいことしたいなって、思ってたわ。なのに、カイラとばっかり遊んで……ずるいじゃない」


 そう言って笑うスアラに、あなたはニッコリと笑っておいた。

 カイラが怖過ぎて遊びようがなかっただけなのだが、それを言ってもしょうがない。


「だから、今日は私と遊びましょう? たくさんキモチイイ事、しましょう?」


 あなたはコクリと頷いた。

 それにスアラもニッコリと笑って、あなたの服の内側へと手を潜り込ませてきた。

 そっとあなたの胸をまさぐる手はひんやりと冷たい。

 しかし、あなたの首筋をなぞる舌先は酷く熱い。


 スアラの手があなたの服をはだけさせてくる。

 そして、見慣れない下着にぎこちない手付きでそれを外して来る。

 露わとなったあなたの胸に、スアラが陶然とした顔で溜息を吐いた。


「綺麗……すごい……あなたって、本当に生き物なの? 触れると、柔らかい……陶器で出来た人形みたいに綺麗なのに……」


 あなたの胸に優しく触れ、そっと撫ぜる指先。

 そのもどかしい指使いにあなたは身を捩る。

 そして、もっと触って、とおねだりをした。


「ああ……えっちな子ね……」


 あなたの敏感な先端をスアラの繊細な指先が摘まんだ。

 そして、探るような手つきで、スアラの指があなたを弄んだ。

 滑らかな強弱をつけた指先の動きは、痛みと快感の境界線を探っているかのようだ。

 スアラの指先がやがて、あなたに快感だけを流し込んで来るようになる。


 舌先があなたの女性性の象徴とも言える膨らみを舐め回す。

 そして、スカートの中にまで、スアラの手が潜り込んで来た。

 下着の中にまで入り込んで来た指が、あなたの秘所をまさぐる……。


「ふふっ、本当にえっちな子ね。もう待ちきれないの? ドロドロじゃない」


 言わないで……とあなたは恥じらって見せた。

 それにスアラはより一層興奮すると、荷物入れから道具を取り出して来た。

 それは、この大陸では初めて見た、女性同士で愉しむための道具だった。

 なにかの角が素材のようで、柔らかな質感が目に見えて分かる。


「象の牙で作った張り子よ。高かったけれど、すごく……イイわよ」


 象牙はこの大陸ではかなり珍重される素材のはずなのだが。

 そんなもので、こんなもの作っちゃっていいのだろうか。

 まぁ、既に存在するということは、いいのだろう、たぶん。


「さぁ、楽しみましょうか」


 スアラがそれを自分へと。

 そして準備万端整って、あなたへと覆い被さって来た。

 あなたは優しくして……とスアラに甘く囁いた。


「あなたが可愛すぎて……無理」


 スアラがそう零して。

 あなたとスアラは深く繋がり合った。

 そして、おたがいが快楽を求めあい始めた。


 熱い夜がはじまる……。






 熱い夜が終わり、涼しい朝がやって来た。

 あなたは部屋の窓を開けて、外の空気を取り込む。

 淫靡な香りに満たされていた空間に、ひんやりと水の香りがする空気が流れ込んで来る。

 朝焼けに輝く水面が酷く眩しい。今日もいい朝だ。


「ん……もう、朝?」


 差し込んだ朝日にスアラが目を覚ます。

 あなたはいい朝だよと、薄布一枚だけを纏った姿で窓辺から声をかけた。


「そうね……水、浴びに行かない?」


 いいね、とあなたは頷く。

 スアラが着替えなどを手に取り、さらにベッドの上に投げ出されていた道具も手に取る。

 あなたは水浴びにそれは必要なの? と尋ねた。


「ええ、必要よ? そんなえっちな恰好しておいて、タダで済まされるわけないじゃない」


 まったくもってその意見には同意である。だからわざとやったのだし。

 あなたは熱く甘い夜の締めとして、朝焼けの中で愛し合うことを選んだ。

 今日1日の活力をエロいことから摂取しようではないか。


 そうして冷たい水が熱くなるほどに愛し合って、ようやく新しい朝が始まる。

 揃って朝食を摂る中、トキがしきりに揃った面々を見渡している。


「どうしたの、トキ」


 どろりとした粥をスプーンで掬って食べているリーゼが問いかける。

 それにトキがやや気まずそうな顔をして、答える。


「その……こう、アレだ。最初にリーゼだろう。そしてソラ。次にリゼラ。んで、昨日はスアラ……」


 あなたとヤッた順番である。厳密に言えばカイラが最初と言うことになるが。


「えーと……それは、さ……ご飯の時にする話じゃ……ないと、思う……んだよね」


「そう言う話は嫌いじゃないけどさ……食事中はちょっと、うへぇ……ってなるよ」


「そ、そそ、そうだぞ! 朝からけしからんことを言うんじゃない!」


「さすがに食事中はちょっとね……」


 全員からブーイングを喰らったトキがやや怯む。

 が、そこで猛然と持論をまくしたて始めた。


「だ、だがな! だがだ! リーゼは女遊びにはちと否定的だったし、リゼラは断固拒否だったろ! ソラやスアラに対して苦言を呈するのもしょっちゅうだったはずだ!」


「ま、まぁ、そうだけどさ~」


「私はそう言うことはしないが、兄者たちに念友がいたりしたので理解はあったので、橋渡し役と言うか、仲介役をしていた!」


「うむ……それに関してはその、助かっていたぞ。トキがいなければチームに亀裂が入っていたかもしれない」


「じゃあなんでおまえら一気に鞍替えしてんだよ! 突然私だけ1人取り残されてんじゃないか!」


「うへぇ~……そう言われてみると、たしかに仲介役のトキだけ置いてけぼりだけどさ~」


「でも、そう言うのは個人の趣向なわけだから……今までのトキの苦労をねぎらって、この厚切りベーコンを分けてあげるくらいはするけど……」


「そうではなく! 私が勝手にやっていた事なので、報酬など求める気はないが!」


「ああ、そうなの」


「それはそれとしてくれるならベーコンはもらうが! 私が言いたいのはそこではないんだ!」


「じゃあ、なんだ」


「私だけが取り残されたら、その、私だけがビビってヤらなかったみたいじゃないか!」


 それはまぁ、なんとなく気分としては分かるというか。

 全員が穴姉妹になる中で、1人だけ仲間外れはなんか心が荒むと言うか。

 まぁ、なんとなくだが、言いたいことは分かる。


 あなたはそんなトキに対し、優しく笑いかけて言った。

 あ~ら、あなたいい女ね。一晩の夢を見させてあげてもいいのよ、と。


「くっ……び、ビビってたまるか! ヤらせろ!」


 直球なお誘いだ。嫌いではない。

 あなたは朝っぱらからなに言ってんだと袋叩きにされるトキを見つめながら、今夜も熱い夜になるな……などと思った。

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