15話
カイラの頭が大変なことになってしまっていたことが判明した。
カイラはあなたの母親を自称する異常者になってしまった。
そして、あなたはそんなカイラに対してあまりにも無力だった。
だって、嫌がらないどころか嬉しそうに吸わせてくれるし……!
あなたは率直に言って、女性の乳房が大好きなのだ。
大きくても小さくてもいいが、とにかく大好きなのだ。
まぁ、どちらが好きかと言われれば、大きければ大きいほどにいいとは思うが……。
だが、それよりも重要なのは、味。味こそが大事だというのが持論である。
つまり、舌先で味わうことこそが至上と考えているのだ。
舐めるのもいいが、やはり吸うのもいい。どっちも楽しい。
しかし、舐めるのはともかく、吸われるのは嫌がる者も居る。
あなたはそんなヘマをしないが、乱暴に吸われれば当然痛いのだ。
そのため吸われることを嫌がる女の子と言うのは珍しくない。
そこに来て、嫌がらないどころか、喜んで吸わせてくれるカイラ。
もはや何も文句が言えない。むしろお礼を言わなくてはなるまい。
ありがとう、すべての命に。
ありがとう、この命の星に。
ありがとう、女の子たちに。
あなたは深い感謝と愛を、あなたの愛しい母、カイラへと捧げた。
カイラの方針の是非はともかく、あなたの脳は順調に破壊されていた。
あなたがカイラに脳を破壊されても日常は進む。
酒宴の前に、あるいはその前段階として晩餐の準備を。
大事なお客様がいるということもあって、あなたが腕を振るった豪華な晩餐だ。
「ああ……前回も思いましたが、あなたの家の料理はとにかくすべてが素晴らしいですね……お水ですら美味しい……」
「あら、ほんとに~。このお水美味しい……と言うか、キンキンに冷えてますね~?」
大抵の料理と言うやつは出来立てこそがいちばんうまい。
それはとりもなおさず温度こそが重要だということでもある。
スープは熱い方が美味だし、デザートは冷えている方が美味い。
それと同じように、水は清らかで冷たいほどに美味であるとあなたは信じている。
そのため、今夜の晩餐ではエルグランドの雪解け水を『四次元ポケット』で保管していたものを出している。
キンッキンに冷えていて美味だし、清らかだ。
「ミネラルウォーターと言うわけですか~。なるほど~。この大陸だと極上の名水かもですね~」
「このお水、きっと剣の訓練などをした後にグビーッ! と飲んだらおいしいのでしょうね……」
「思わず呻き声が出るほどおいしいでしょうね~。でも、個人的にはお風呂上りがいちばんだと思います~」
「それも素敵ですね。熱く火照った体には何よりの甘露やもしれません」
「まぁ、私はお風呂上りと言えば牛乳と言うのが信条ですが~」
そう言えば『水晶の輝き』では味付き牛乳が売られていた。
あのあたりはカイル氏やカイラの嗜好が反映された販売物と言うことだろうか。
「ふふ……そうですね~、お風呂上りは……ミルクですよね~?」
などと言いながら、自分の胸を持ち上げる仕草をするカイラ。
お風呂上りの授乳……暖かくて不愉快な気もするが、それ以上に気持ちよさそうだった。
心行くまで堪能しよう……! あなたは決意した。
種々様々の酒をテーブルの上に所狭しと並べる。
そして、それを思う存分、心行くまで飲む。
なにか洒落た作法や、気の利いた飲み方も世にはあるのだろう。
だが、あなたは冒険者。冒険者の酒宴とはこういうものだ。
それに貴族の令嬢であるレインの飲み方がアレでアレだ。
これもきっと貴族基準で見てそれほど下品ではないと思われる。
実際、王族であるダイアがガバガバ飲んで居るのできっとセーフだ。
「それたぶんサンプルにしてる2人が例外中の例外なんだと思いますけど~」
まぁ、たぶんそうなんだろうなぁ……そう思いつつも口には出さない慈悲があなたにはあった。
ともあれ、随分いい飲みっぷりのダイアに続々と酒を注いでやる。
冒険をして来たことだし、酒は控えていたのだろうか?
「ええ、旅路の中で嗜むのはいささか……咎める者がいるわけではないのですが……」
いい警戒心の表れと言えるだろう。
宿で休めるならともかく、野営主体ならば控えた方がいい。
あなたは今日は存分に飲むといいと促した。
「お言葉に甘えましょう。ああ……この深く薫り高い酒……美味しいですね……」
「飲み方がすごく厳つい」
グラスに注いだウイスキーを一息に呷り、それを口内で転がして飲む。
まあ、シンプルかつ順当なやり方ではあるが、一息に全部呷るのはたしかに厳つい。
ただ酔うためにガバガバ飲んでいるわけではないことは分かるが……。
まぁ、そもそもが相当な酒豪なので、そのくらいでないと酒の妙味が味わえないと思っているのかも……。
「カイラ様は、ソーラスの町の冒険者なのでしたね……いずれ、私も迷宮に挑んでみたいものです」
「あら~、とってもよくないところですよ~、ソーラス~。稼げませんからね~」
「あら、そうなのですか?」
「あそこはある程度実績を積んで、資金力に余裕があって、実力もあるパーティーが挑むところですからね~。大迷宮ってそう言うところです~」
大迷宮。深層まで存在する迷宮のことを区別して言う言葉だが。
たしかに、3層に至ってもなおロクに稼げないソーラスは厳しい迷宮だ。
パパッと3層まで切り抜けられる実力と実績あるパーティーならば、4層で稼げるだろうが……。
探索者組合の所属にそれなりの制限があるのも納得と言うべきか。
たぶん、ソーラスに限らず迷宮と言うのは多かれ少なかれ厳しいところなのだろう。
「まぁ、実力に自信があるなら~……すでに活動している実績あるパーティーに加えてもらうとか~、抜け道はありますが~」
「実力……熊くらいなら素手で絞め殺せるのですが、どうでしょう?」
「ものすごい豪傑みたいなこと言い出しましたね~」
あなたはダイアならそれくらいは楽勝で出来ると保証した。
武器があれば大型恐竜だって殴り殺せるし、ワイバーンなどの飛竜も絞め殺せるだろう。
イミテルと組めば、もっとすごい難敵も打倒出来るだろう。
「……この人、トイネのダイア姫なんですよね? お姫様にしちゃマッスル過ぎません~?」
そのあたりは説明していなかったのだが、察していたらしい。
あなたは間違いなくダイア姫だと頷いた。まぁ、今はダイア女王だが。
とは言え、ここにいるダイアはダイア女王ではないのだが……。
「どういうことですか~?」
「今、王座に玉体を預けているのは、私ではなく長兄クローナなのです。私の姿形をしているだけで」
「ははぁ~。魔法か何かで外見を偽っていると~。無茶しますね~?」
偽ったと言えばそうだが……。
実際のところ新しく作ったというべきか。
まぁ、その辺りの細かいニュアンスはどうでもいいだろう。
「口外はなさらぬようお願いいたします。早々信じる者も居はしないと思いますが……」
「はいな~。わざわざエルフの王家に睨まれたくもないですしね~」
「ありがとうございます。それで、どうでしょう? 私は冒険者としては……」
「実際、ワイバーンを絞め殺せるレベルなら相当……少なくとも5層あたりまでは通じますね~」
実際、そのあたりまではいけるだろう。
ただ、6層や7層は特殊過ぎる。
バラケのことを思うと何とも言えない。
「そうですね~。5層まで行ったら、別の迷宮に挑んで力をつけるか、じっくり修行するのが一番いいと思います~」
カイラたちはそのじっくり修行方向で行ったのだろう。
と言うより、今現在もじっくりと修行している最中なのだと思われた。
あなたたちもそうだ。資金に余裕があるなら修行に専念するのが一番伸びる。
「なるほど……いずれ冒険者になった暁には、そうした将来も考えなくてはですね」
「まぁ、冒険者なんてやり方はそれぞれですし~。そう気負わず自由にやればいいですよ~」
「カイラ様はどのように冒険者を?」
「私はまぁ~、今のところは後進を育成しているところでしょうか~。いずれ、その後進が追い付いてきたら、いざ冒険、と言うところでしょうか~」
それはカイラの所属する『エトラガーモ・タルリス・レム』のことだろうか。
そうだとすると、あなたとカイラの立ち位置は似ているのかもしれない。
同じチームに属しながら、他のメンバーの成長を心待ちにしている……。
思うさまに冒険できないもどかしさはあるが。
将来有望な者たちが成長していく様を間近で見ていられる。
それはきっと、とても恵まれた時間だ。
「カイラ様も、あまり一般的ではない冒険者の方なのですね」
「まぁ、そう言われるとそうかもです~」
「ちなみに、カイラ様はなぜ冒険者になろうと?」
「故郷を飛び出してビッグになってやると思って一番近い町に来たら、そこがソーラスだっただけです~」
割と場当たり的な結果としてソーラスにいたらしい。
まぁ、案外と物事の始まりとはそう言う物だ。
と言うか、そうだとすると、カイラはソーラス1本で成り上がったのだろうか?
そもそも、カイル氏が弟子だとして、一体いつどこで育てたのだろう?
やっぱり20歳ではないのでは……?
「素敵な巡り合わせがあったのですね」
「そうかもですね~。そう言う意味では、ダイアさんも不思議な巡り合わせで彼女と出会えたのでは~?」
「そうかもしれません。私は偶然彼女の活躍を小耳に挟んで、なんとなく彼女なら助けてくれるのではと思ったので」
「ふふふ~、いい直感ですね~。彼女なら本気で頼めばなんだかんだ助けてくれると思いますよ~」
「ええ、出会って、共に旅をする中で確信いたしました。彼女こそまさに真の英傑であると。いるものなのですね、英雄とは……」
「たしかにそうですね~」
あなたがカイラの実年齢について訝る中、話題はあなたのことにシフトしていた。
目の前で英雄だの英傑だの褒め称えられると照れくさい。
あなたはもっと酒を飲めとダイアのグラスに酒を注いでごまかした……。
「うふふ~。照れちゃってかわいい~」
「ふふふ、そう照れずともよいのですよ」
そうは言うが、本当に自分が英雄に相応しい人間だと思うのかとあなた真顔で尋ねた。
言ってはなんだが、あなたは人柄こそ善良な部類に入るとは思うが、言動は最悪だ。
女と見たら手当たり次第に口説くし、他人の女は寝取る、男は女にする、幼女にも手を出すと極悪非道だ。
そんなのであっても英雄でいいのかと、あなたは心底尋ねたいわけだ。
「英雄ですよ~。誰よりも強くて、私がたとえば魔王に囚われたら命がけで助けに来てくれる私だけの英雄になってくれるって、信じてますから~」
「英雄は色を好むと言いますし、なにより女同士と言うのは所詮は遊びなのではなかったのですか?」
なるほど、どうやらあなたの方が分が悪いようだ。
あなたはお手上げとジェスチャーで示し、気恥ずかしさに耐えるよう意識をシフトさせた。
「ふふふ……まぁ、あんまり照れさせても可哀想ですし~。ダイアさん、もしよろしければなんですが~」
「はい、なんでしょう?」
「私たち、実はバカンスがてら、修行をしているんですよ~」
「はい」
「その修行、ご一緒してみませんか~? 既に冒険者歴3年を超えるベテランたちといっしょに、ちょっと訓練なんかどうです~?」
「まぁ」
カイラはあそこ、3層の秘境にダイアを招こうと言うらしい。
あなたは少し考えて、悪くないかもしれないと考えた。
人間は学ぶだけではなく、教えることでも成長できるものだ。
ダイアは教えを得られるし、『エトラガーモ・タルリス・レム』のメンバーは教えることで成長できる。
なにより、ダイアの現時点の実力は既に折り紙付き。
将来冒険者になるなら現時点で唾をつけておくことにもつながる。
1粒も2粒も美味しい1手と言えるだろう。
「冒険者志望として、冒険者の先達に教えを授ける機会をいただけるのは実に得難いものですね。もしよろしければ、ぜひとも私に教えをお授けくださいませ」
「そんなに畏まらず~。ちょっと遊びにいってみるか~、くらいでいいんですよ~」
「ふふ、では、そのように」
ダイアも乗り気のようだ。
あなたはもちろんうれしい。
それがどんな理由であれ、周囲に女の子が増えるのはうれしい。
あなたはダイアのグラスに酒を注ぎつつ、自分のグラスにも並々と酒を注いだ。
修行再開までそう日はないので、今のうちに存分に楽しんでおこうなんて嘯いて。
あなたは何度目かもわからない乾杯をダイアと交わした。
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