12話
翌朝、あなたはベッドの中でぼんやりと考え事をしていた。
昨晩のブレウとの会話で、ギールと言う名について言及した際の反応。
あの感じからすると、どうもギールと言うのはブレウの夫にしてサシャの父の名のようだ。
未来のあなたの義娘からの伝言は、ギールはブレウよりも愉しめるらしい。
バカンスが終わる前に助けろとはどういうことなのか。
城壁を砲撃したことで工期は伸びていると思われるが……。
あなたは疑問に思いつつも、まぁ早めに助けるかと助けるための準備を整えた。
家に滞在中の大工に話をつけ、再度城壁の見学へ。
その際、同行者としてカイラとカイル氏を模したメディシンフォージを連れていく。
その3人と大工の4人でそろって馬車に揺られ、ハワフリアエ宮殿へ。
「へぇ~。城壁の建築ですか~。先例を見るに、永久築城は死亡フラグですけども~。まぁ、モンスターの脅威を思うと、火砲には無力でも存在価値はありますね~」
「ええ、まさにまさに。その通りでして。謎の砲撃事件によって城壁は破壊されましたが、モンスター相手には未だ有効ですので」
「謎の砲撃事件~? と言うと、夜半のうちに突然各種の大砲が設置されていて、それが一斉砲撃して城壁を叩き壊したという~?」
「ご存知でしたか。普段はソーラスにお住まいとのことですが、情報通でいらっしゃるのですね」
「まぁ、なんでもは知りませんが~。主要なニュースくらいは仕入れてるつもりです~」
カイラと大工がそんなことを話し込んでいる。
あなたはメディシンフォージドにセクハラをして愉しんでいる。
細い太ももを撫でるだけで天国が見えて来るのだ。たまらない。
セクハラは反応を楽しむものでもあるので、いい反応も欲しいが……。
ニコニコ笑ってあなたを見るだけで、それ以外にロクな反応はない。
まぁ、これはこれで。全肯定されているのだと思うと興奮できる。
そうでなくとも、少女の滑らかな柔肌を思うさまに指先で味わい尽くすのはじつに楽しい。
しかし、見れば見るほどにカイル氏は男にしておくのがもったいない。
このメディシンフォージドは女なので、まさに最高と言うべきか。
どことなく少年らしさを残していながら、たしかに少女なのがいい。
纏っている服装も、なんとも言えない程度に中性的なのがそそる。
セーラーカラーのついたキャンバス地のコートはカイラとほぼ同じものだ。
少年らしさと言うべきか、その下に履いているのはショートパンツ。
上半身には味もそっけもないシンプルなシャツを着ている。
少年だと言われたら少年だ。しかし、少女だと言われたらそうだなとも思う。
この2要素がなんとも言えない旨味を醸し出している。実にいい。
あなたはメディシンフォージドの太ももを飽きることなく撫で続けていた……。
建築現場に到達し、あなたは散々に打ち砕かれた城壁の見学をした。
「やはり、3カ月は余裕で工期が伸びてしまいましたね」
以前は完成していたはずの場所の見晴らしがよくなっている。
あなたは散々に砲撃したやつはとんでもないやつだと適当なことをほざいた。
「ええ、まったくです。丹精込めて作った城壁を壊すなんて……」
などと大工が零す中、あなたは作業に従事している大工を眺める。
以前に見た、獣人の大工がどこにいるだろうかと真剣に探す。
そして、それほど苦労することなくあなたは獣人の大工を見つけた。
まじまじと見てみると、顔の各要素がサシャに似ている。
娘は父親似になりがちとは言うが、まさにその典型だろう。
「あれ、あなたは以前も見学に来られていましたね」
相手もあなたに気付き、そんな声をかけて来た。
ブレウのコサージュのせいか、あるいはあなた自身が爆裂に目立つからか。
相手もあなたのことを記憶していたようだ。
あなたは砲撃事件は災難だったね、などと返事を返す。
「ははは……まぁ、報酬は週払いですのでね。妻と娘に、たくさん土産を買って帰れると思うことにしますよ」
などと言って、嬉しそうに懐から膨らんだ革袋を取り出して見せる大工。
まぁ、その妻はあなたが孕ませたし、娘のはじめても全部もらい受けたのだが。
そのあたりを説明して騒がれてもなんだし、あなたは城壁に目をやる。
そして、なんだか奇縁があるようだし、いずれ仕事でも頼みたいなと零して名前を聞いた。
「ええ、自分はスルラの町に居を構えるギールと言います。仕事はいつでも歓迎です」
なるほど、やはりギールだったようだ。
あなたは頷くと、『ミラクルウィッシュ』のワンドを取り出した。
そして、それをギールへと見せつけてから渡す。
「え、ええと……?」
あなたはギールに、この建築現場から逃がしてやろうかと告げた。
「え? そ、それは、なぜ?」
宮殿を建てるという名誉ある仕事だ。家に帰れないのも当然と言える。
だが、本当は今すぐにでも娘と妻のところに帰りたくて仕方がないはずだ。
先日、あなたがつけていたコサージュを見て声をかけて来たのだって、そうだったのだろう?
あなたがそんなことを言うと、ギールは切なく悲しそうな顔をした。
「お、お分かりになりますか……はい……も、もう、5年も帰れていないんです……あと少し、あと少しと信じてやってきましたが……」
ギールの瞳から涙が零れる。
あなたが巨人族の脅威を盛大に振りまいたり。
在庫処分として壁に砲撃しまくったり。
そんな真似をしたものだから、仕事がいつまで経っても終わらない。
って言うか終わったところで消されるだけなのだが。
「帰りたい……!」
そこでそのワンドの出番だ。
あなたはそのワンドを用い、性転換を願うのだとギールに告げた。
性転換すれば姿形は変わる。誰もギールとは気づくまい。
あとはすべてあなたに任せれば、無事に家まで帰してやる。
「ほ、本当ですか……な、なぜ、そんな施しをしてくださるのですか……?」
あなたはサシャには世話になっているからね、とだけ告げた。
実際のところはあなたが生活面で世話を焼いているわけだが。
まぁ、下半身的な意味でとんでもなく世話になっているので……。
「サシャの……娘のお知り合いだったのですか?」
驚いた、という顔をするギール。まぁ、驚きもしようが。
とは言え、そのあたりは些事だ。早く性転換を願って欲しい。
人目を盗んでいるとは言え、長く話し込んでいると注目する輩も出て来る。
「は、はい! ……性転換!」
ギールが『ミラクルウィッシュ』のワンドを用い、性転換を願う。
すると、あなたの見ている前でギールが見る間に女性へと変じていく。
数秒の変化の後、ギールは成人したサシャがこんな感じだろう、という外見に女性へと変わった。
なるほど、これはいい……サシャといっしょに食べたらどれだけ美味しいことか!
未来のあなたがわざわざ伝言をするのも分かるというもの……母娘丼の醍醐味がここに詰まっている!
あなたは狂喜した。
さておいて、あなたは背後に連れていたメディシンフォージドを『ポケット』へと放り込む。
そして、ギールにはローブを取り出して、これをしっかり被るようにと命じた。
「は、はい」
メディシンフォージドとギールを入れ替えて連れ出すわけだ。
仮に怪しまれたところで、メディシンフォージドをそんなにしっかり見ているやつもいないだろうし。
ギールがいなくなっていると騒ぎになっても、ここにいるギールは女だ。
なにも問題ないと、あなたは気楽な調子でギールを連れだした。
結論から言うと、まったく問題は起こらなかった。
だれもギールとメディシンフォージドの入れ替わりには気付かず。
来た時には着ていなかったローブは少し怪しまれたが……。
日に当てられたのか具合が悪くなってしまったようだ、と説明すれば誰も怪しまなかった。
夏の最中であるいま、日光にやられないようローブを被っている者は少なくないのだ。
馬車に揺られながら、あなたたちは家へと帰還した。
御者をしてくれた大工を労いながら、馬車置き場へと共に馬車を置きに行く。
そして、馬車置き場で使用人らに馬車の清掃と馬の世話を頼んで、屋敷へと戻る。
「結構楽しかったですね~。ところでメディシンフォージドを出してくださいな~。ブレウさんにつけてあげないと~」
あなたは言われるがままメディシンフォージドを取り出す。
そして、なぜかカイラしかいないエントランスを見渡し、先ほどの獣人の女性は? と尋ねる。
「家に帰るって言って出て行きましたよ~? スルラの町に住んでるそうじゃないですか~」
そうだけど。たしかにそうだけども。
あなたはギールが何者かについては説明をしなかった。
まさか大工を連れだしているんだ、などと堂々と説明できるわけもなし。
そのため、ギールの家族はギールのことなどもはや待っていないし、スルラにもいないなどと伝えていなかったのだ。
「助けてもらった恩は必ず返すって言ってましたし~、またいつか訪ねて来るんじゃないですか~? 義理堅そうな顔してましたしね~」
などと気楽に言うカイラ。
あなたは先ほどの獣人の女性が何者か説明した。
彼女はブレウの夫でありサシャの父である人物だと。
本来の姿では連れ出せそうになかったので性転換で姿を変えたのだと。
「…………え~と。つまり、なんでしょう~? スルラで帰りを待ってる妻子はいないと~?」
あなたは頷いた。
ギールなどもう帰って来なくてもいいと、ブレウは見限っていたし。
サシャはお父さんはもう死んだと思っています、などと諦めていた。
そして、もはや2人ともスルラには住んでいない。この王都の民だ。
屋敷の使用人たちの市民税はあなたが払っているので、たしかに王都の民である。
「……どうやって探しましょう?」
あなたは諦めて首を振った。たぶん見つけられない。
王都の人口は凄まじい数だし、出入りする数も凄まじいのだ。
王都から脱しようとする1人の人間を見つけ出すのは困難極まりない。
探すなら、スルラの町に繋がる街道を張るべきだろう。
あなたは冒険者ギルドに依頼をしに行くことにした。
自分で探してもいいが、こういう事態なら人手が必要だ。
まさか屋敷の使用人を危険な町の外で動かすわけにもいくまい。
となると、暇をしている冒険者どもを金で動かした方がいい。
「魔法で探す手もあるんですけどね~……私たち彼女のことほとんど知らないですからね~……」
そう、特定個人を探す魔法は存在する。
存在するのだが、その個人をよく知らないと探せないのだ。
仮にギールを探すとすれば、ブレウかサシャでなければ無理。
が、今のギールはあなたが性転換をさせてしまった。
その状態のギールを魔法で見つけられるかは分からない。
そして何より、ブレウは魔法が使えないし、4階梯魔法なのでサシャもまだ使えない。
一応、スクロール経由なら何回か失敗すれば使えるかもだが……。
まぁ、冒険者が無事見つけ出してくれればいいのだ。
どうせ相手はただの大工。旅慣れはしているだろうが、隠密活動など出来はしない。
すぐ見つかるさと、あなたは冒険者ギルドに依頼をしに出向いた。
家から勝手に出て行った使用人の家族の捜索。
そのように銘打って、あなたは探索参加者に金貨10枚の報酬を約束した。
無事に見つけ出した者には金貨500枚と太っ腹な報酬。
あなたの描いたギールの似顔絵と共に、あなたはギールの探索に冒険者を向かわせた。
3日と経たずに見つかるだろうと、あなたはタカをくくっていた。
それが、5日経っても見つからず、遂には10日経っても見つからず。
もう、物理的な手段で見つけ出すのは絶望的だった。
いったいどうやって探索網から脱したのか。
あなたは首を傾げたが、答えが出ることはなかった。
まさか、ギールを見つけ出した冒険者が、ギールの身の上話に……。
つまり、故郷で帰りを待っている家族に5年ぶりに会えるんだ、という話に絆されて、探索参加の報酬だった金貨10枚を路銀に渡して逃がしたなど知る由もなかった……。
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