11話
カイラはバカになってしまった。
あと、あなたのベッドも使い物にならなくなってしまった。
残念ながら、今夜は自室のベッドでは眠れないだろう。
マットまでグショグショではしょうがない。
「本当に喋れなくなるまでグチャグチャに……癖になっちゃったら、どうしよぉ……」
今は服も着てちゃんとしているカイラだが、少し前まで凄かった。
もはやまともに喋れず、数さえ数えられなくなるほどだった。
あのレベルで前後不覚になるまで可愛がるのはなかなかにないので楽しかった。
「でもすっきりした……ね、私のあなた……大好きです……」
あなたの膝に甘えて、そんなだるんだるんに甘えた声でつぶやくカイラ。
あなたはもちろんカイラに、自分も大好きだよと、とろっとろに甘い声で囁いた。
「ああっ、好きぃ……! その声、好きぃ……!」
カイラはあなたの声に身悶えする。
カイラはあなたの声が大好きなのだ。
特に、甘く囁く声が大好きらしい。
お望みとあらば、好きなだけ囁いて差し上げる所存だ。
カイラの脳味噌をたっぷりと蕩けさせた後、あなたは屋敷を案内していた。
ほんの1週間ほどの滞在とは言え、カイラには快適に過ごしてもらいたい。
そのため、我が家の保有する設備を紹介しているわけだ。
「ふ~ん。へぇ~……」
カイラはいちいち興味深げにすべてを見て回っている。
特に興味深げなのが、使用人たちの服装や所作だ。
「みんな身ぎれいだな~、と思いまして~。下働きのメイドですら身ぎれいじゃないですか~」
この屋敷において、下級使用人はかなり微細に採用している。
そもそもこの屋敷を回す場合、おおよそだが20人もいれば必要十分なのだ。
それですら余裕を持った人数で、最低限に絞れば5人くらいでなんとかならなくもない。
翻って、この屋敷の使用人はすべて合わせて50人以上。通いの使用人を含めると70人近い。
この過大な人数は、いわゆる雑用と言えるものに名前をつけているからだ。
「雑用に名前をつける?」
メイドと言うのは雑用であるから、おおよそなんでもやらされる。
これをハウスメイドと言うわけだが、場合によって細分化されたメイドがいる。
つまり、接客専門のパーラーメイド、料理助手または下働きのキッチンメイドなどだ。
あなたはこれを細分化し、チェインバーメイド、スティルルームメイド、スカラリーメイド、ランドリーメイドなどを新規に雇用したのだ。
既存部署にも複数人の増員を行った上で、上級使用人の補佐専門かつ将来の上級使用人候補のアシスタントメイドも創設した。
さらに最近ではナースメイド、いわゆる乳母のことだが。それを複数人雇用した。
同時に母乳が出せる状態のメイド、ウェットナースメイドも常時1人雇用する規定とした。
そのようにしているので、使用人たちには余裕がある。
また、アシスタントメイドたちにはもちろんうるさ型を配置。
メイド長が増えたとメイドたちが嘆くほどしつけに厳しく、うるさい。
汚れたメイド服を放置など言語道断と口やかましく躾けられるのだ。
もちろん着替えるために、メイド服の予備を4着も支給しているし。
そしてバカンス用建屋の増築をした際に、使用人用の風呂を改装した。
あなたの手によるものなので専門家には負けるがいい風呂になった。
燃料費も5倍にしたし、水汲み専門の下働きまで雇用したのだ。
入浴時間も労働時間とはべつに1時間確保するよう厳命した。
入浴に意欲的になれるよう、入浴用品も支給している。
なので、みんな身ぎれいなのである。
「いいですね~。それ、すっごくいいですよ~」
あなたが力強く頷いた。やはり使用人の風呂を覗くのは最高だ。
覗きをするにはたっぷりじっくり入浴してもらわなくてはならない。
そのためにちょっとばっかり改装したり、出費するくらいは容易いことだ。
改装の際にはあなたにしかわからない覗きポイントも複数用意したし。
そんなことを零すと、カイラのグーがあなたの脇腹に炸裂した。
「衛生的でいいですね~、って言う話だったんですけどね~……その調子だと使用人増やしたの、仕事のクオリティを上げるためじゃないですね~?」
あなたは若いメイドは何人いてもいいんだと主張した。
やはり、メイドはいい。十人十色で一期一会な女の子が楽しめる。
結婚するからと退職していくときの脳破壊度合や寝取られ感もたまらない。
同時に結婚を諦めて、ずっとあなたの下で……と健気な決意をするのも最高。
「はぁ~……まぁ、理屈は分かるので、それはいいです……受付が顔採用なのと同じですよね……ああ、顔採用の源流ってパーラーメイドでしたね」
ドでかい溜息は吐かれたが、理解してもらえたようだ。
「……つまり、この屋敷にいる女は、全部、お手付き……?」
もちろんカイラがいる際はカイラが最優先だ。
この1週間、カイラが滞在する限り、常に優先する。
毎晩だって可愛がろうではないか! あなたはそう宣言した。
「……いえ、それはべつに。むしろ、適度にメイドを可愛がってるのが分かった方が……悲しくて辛くて苦しくて……興奮します!」
なるほど、そう言えばカイラは寝取られ趣味を新規発掘していたのだったか。
あなたはカイラに適度に隠れてメイドを味見することに決めた。
最終的にバレるにしても、隠すことによって旨味が出る。
「……でも、寝るときは一緒のベッドで寝たいです。ダメですか?」
もちろん構わない……ところで、寝るときはシャワーを浴びるのは必須だろうか?
あなたはカイラにそんなことを尋ねた。
「……あなたは普段から身ぎれいだから、きっと要らないですよ」
他の女の匂いをさせて、カイラとベッドに入った方がいいのか。
そんなニュアンスを匂わせての質問だったが、カイラの答えはそうだった。
なるほど、なかなか度し難い性癖になって来たようだ。
あなたはそうした性癖の大半には応えられる。
精々カイラの脳を上手く破壊しようではないか!
あなたは一通りの説明を終えた後、ブレウの部屋へと戻った。
そこではカイラがブレウとティータイムをしている最中だった。
「カイル~?」
「はい、お師匠様」
「くんくん……ああ、なるほど。じゃあ大丈夫ですね~」
なにが? あなたはカイラにそう尋ねる。
すると、カイラが用意されていたティーセットのコーヒーを注いであなたへと渡して来る。
飲めということだろうか? あなたは素直に飲むと、首を傾げた。
見た目はコーヒーだったのだが、コーヒーじゃなかったのだ。
「ダンディライオンの根を焙煎したものと、ルートチコリの焙煎品を混ぜ合わせた代用コーヒーですね~。妊婦向きなんですよ~」
なにがどう妊婦向きなのかは分からないが、独特の味で割とおいしい。
こういう混ぜ物だったら歓迎したいくらいだ。
「妊婦にカフェインは控えた方がよいので、お茶やコーヒーは精々1杯か2杯程度に抑えた方がいいんですよ~」
なんで?
「赤ちゃんの生育不全に繋がります~。元気な赤ちゃんを産むには控えるのが無難ですね。この手の食事指導もしていくのでご安心を~」
「いろいろと控えた方がいいものが多くて大変ですね……」
「まぁ、カフェインは禁忌と言うほどではないので~。昼の一杯とかくらいなら許可しますよ~」
「元気な赤ちゃんを産むためですから、がんばります」
なるほど、ではあなたも屋敷に滞在中は控えることにしよう。
ブレウは気にしないかもしれないが、食べれない人の前で飲み食いは可哀想だ。
あなたが勝手にやることなので、ブレウには悟らせないようにしなくては。
そう言えばと、あなたはブレウにギールについて聞くことにした。
「ギールですか。見つかったのですか?」
あなたは見つかったとは? と思いつつ、とりあえず話を合わせて首を振った。
「そうですか。まぁ、今さらです……もう、旦那様の女にされてしまいましたしね」
などと笑って、あなたに流し目を送ってくるブレウ。
カイラの額が引き攣り、手にしたカップが震えている。
あなたはそれを認識しつつも、元気な子を産んでね、とお腹を撫でた。
「はい……きっと、旦那様似の可愛い子ですよ」
いやいや、きっとブレウ似の家庭的な子に違いない。
特に種族はブレウと同じ獣人だといい。きっと可愛い。
あなたはそんなことを優しい声でブレウに囁く。
カイラの呼吸が荒くなって来て、眼鏡を外してしきりに拭いている。
「そうですね、サシャも獣人の妹の方が喜びそうだし……ふふ、お姉ちゃん似の勉強好きな子になってくれるかしら?」
そう言って嬉しそうに笑ってお腹を撫でるブレウ。
カイラが身を捩って、うなじを掻き毟っている。
それでいて視線はあなたに注がれている。
あなたはちらりとカイラに目線を送った。
バッチリ目線があったところで、あなたはカイラに冷笑を送った。
ついでに鼻で笑ってやった。そして、ブレウに視線を戻し暖かな笑顔を浮かべた。
サシャには読み書きを、あなたは魔法や剣技を、そしてブレウは裁縫を……。
いちばん小さな妹で可愛い子を、たくさん愛してあげようね。とブレウに囁く。
「はい……きっと強くて元気で優しい子に……ああ、楽しみ……」
ブレウと寄り添って、愛おし気におなかを撫でる。
その姿は2人とも女と言うことを除けば暖かな夫婦の姿だろう。
カイラは冷笑された上、鼻で笑われたことが信じられないというような呆然とした顔であなたを見ていた。
まぁ、あなたはそんな侮蔑的なことを女の子にしないので、自然な反応とも言える。
きっとカイラの脳は粉々だ。あなたは笑って、ブレウと暖かな夫婦ムーブをしていくことにした。
しばらくお茶を楽しんだ後、あなたたちはブレウの部屋から退室した。
ブレウはつわりが酷いこともあって、体力的に厳しいようだ。
あまり食事が取れていないので、消耗が激しいのは仕方ない。
そのため、ブレウを休ませるために、カイル氏だけを置いての退室だった。
「…………」
あなたの後を無言でついて歩くカイラ。
ふと、あなたのスカートの裾が引かれた。
後ろを振り向いてみれば、カイラがあなたのスカートの裾をつまんでいた。
あなたは無言でスカートを掴むと、カイラの手からそれを引っ手繰った。
そして、そのまま振り向きもせずに歩いて行く。
「あっ……な、な、なんですか、な、なにやってんですか、カイラ……こ、こんなのっ、ただの演技……演技、ですから……絶望なんかしても……ね……は、はは……ねぇ、私の、あなた……?」
あなたはカイラを無視してそのまま立ち去る。
そして、数歩歩いたところで曲がり角からメイドが出てきた。
見覚えのあるメイドで、あなたはそのメイドに親し気に声をかけ、ソーラスの町の土産を渡した。
「わっ、使用人の私がお土産なんてもらっていいんすか! あざまっス!」
もちろん構わない。そして、あなたはそのメイドの尻を撫でた。
「あっ、ご主人様お尻触ったッスね! 口止め料欲しいっすよ口止め料! メイド長に報告するっス!」
じゃあ、これから部屋でお茶が飲みたい。
厨房からお菓子とお茶をもらって来て、部屋まで来るようにとあなたは告げる。
もちろんお茶とお菓子は2人分だとも。
「へへへっ、言ってみるもんっすね! へへ……ねぇ、ご主人? あたし、さっきお風呂入ったばっかっすけど……」
あなたは笑って、自分もお風呂に入ってくるからゆっくり準備して、と答えた。
このメイドは、元からそう言う趣味があったメイドだ。
そして、あなたと積極的に寝たがるメイドでもあった。
あなたは久し振りにこの豊満な褐色肌のメイドを堪能したい気持ちでいっぱいだった。
汗を流し、部屋でお茶を楽しみ、メイドも愉しみ。
それから土産話などをしてやりつつ、メイドを仕事に戻らせた。
その頃にはもう日も暮れ、夕食時だった。
食堂に向かうと、ポーリンとカイラが待っていた。
EBTGメンバーはいないし、暗黙の了解で着席の権利があるブレウはつわりもあって私室で食事を摂っている。
そのため、同じく暗黙の了解で着席権のあるポーリンと、客人のカイラだけがいるわけだ。
上級使用人でもあるマーサもいるが、こちらは従者としてあなたに給仕をする。
本来はバトラー、執事が大体の場合で兼務する役目なのだが。
マーサがやりたがるので好きなようにさせている。
まぁ、アシスタントメイドのお蔭もあって、マーサの仕事は楽になった。
従者を兼務させてもそこまで問題はないだろう。
「カイラさんはソーラスで冒険者をしながら医師をされているとか……」
「はい……そうです……すみません……」
「いえいえ、医師と言うのは人の命を救う素晴らしい仕事と私は思っております。賎業と見下す者もいますが、昨今ではそう言った風潮もなくなって来ていますし……」
「はい……でも……その、すみません、あまり、お話……したくない……です……すみません……」
「そ、そうでしたか……?」
ポーリンがホスト側としてカイラをもてなそうと会話を振るのだが。
カイラは泣きはらした顔で落ち込んでおり、食事も進んでいなかった。
あなたは体調が悪いようなら、他の医師を呼ぼうかと提案した。
「いえ……なんでも、ありません……すみません……」
ならばお大事にと、あなたはそこで話を打ち切った。
そして、ポーリンにレインについての話を振った。
まぁ、主にカス過ぎる酒癖についてのチクりだが。
「はぁ……あの子は本当に……! ミストレスも、少しはレインに注意をしてくださいな」
それは具体的にはどんな風に?
父親のように厳しくレインには言うべきだろうか?
「ええ、あの子にはそれくらい厳しく言ったほうがいい薬です」
それだと、ポーリンは妻だろうか? あなたは冗談めかしてそんなことを言った。
「ふふふ……もう、ミストレスったら。私はもう少し浮気癖の酷くない夫がいいのですけれど」
おっとこれは手厳しいと、あなたは笑った。
ポーリンも口元を隠してくすくすと笑っていた。
カイラは泣きそうな顔で料理を切り刻んでいる。
口に運ぶ気力もないが、手持ち無沙汰なので料理を微塵切りにしているらしい。
あなたはその後もポーリンと談笑を交わしながら夕餉を終えた。
食堂を出る際に、あなたはマーサにお風呂に入ろうと何の気なしの調子で告げた。
「はい、ご主人様。入浴の準備を整えて参ります」
もちろんいっしょにだ。背中も流して欲しい。
そして、マーサの背中も流してあげようと、ウインクをしながら言う。
「はい……かしこまりました。私も入浴の準備をしてまいります……」
そう言うことをする、と分かったのだろう。
マーサが微かに頬を染めながら頷いた。
カイラがマーサのことをガン見し、あなたを2度見していた。
そして、信じられない、という顔をしてフラフラと歩き去っていた。
その姿を見送って、あなたはマーサと共に風呂へと向かった。
湯船の湯よりも熱い時間を過ごした。
そして、あなたはカイラの客室を訪ねた。
ノックをしても返事はなかった。
もちろんあなたは屋敷の主人なのでマスターキーがある。
マスターキーを用いて鍵を開け、中に入る。
すると、窓際にカイラが立っていた。寝ていなかったようだ。
あなたはカイラの後ろに立ち、後ろからそっと抱き着いた。
「あ……私の、あなた……? いつの間に……?」
どうやらノックの音自体聞こえていなかったらしい。
カイラの頬には涙が伝っており、今の今まで泣いていたらしい。
あなたはその涙を指先で拭い去りつつ、優しく抱きしめた。
「夢なら……5分だけ……5分だけで、いいから……覚めないで……!」
そう言って泣きじゃくりながらカイラがあなたの胸へと顔を埋めてきた。
あなたはカイラを受け止め、そっと背中を撫でた。
「私のあなた……私は、私は、あなたのお姫様なんですよね……? ねぇ……?」
もちろん、カイラは世界で一番お姫様だ。
それは、2人でいる時の一夜限りの夢だが。
夢の世界にはあなたとカイラ、その2人しかいない。
この夜、あなたの腕の中にいる限りにおいて。
カイラは世界中の誰よりも高貴なお姫様なのだ。
5分だけなんてケチなことは言わない。
この夜が明けるまでカイラの夢は覚めない。
「ばか、ばかばかばか! 寂しかった! どうして、あんなひどいこと……! 悲しくて寂しくって……」
なるほど。
カイラの寝取られ趣味は、まだこの程度しか成長していないのか。
あなたは見積もりが甘かったことを理解した。
ちょっとハード過ぎたようだ。もうちょっとマイルドに……。
そう、他の女と寝たのを示唆するだけにすべきだったようだ。
目の前で堂々と浮気、さらに浮気、擬似家族関係の構築などまで見せつけるのは強烈過ぎたわけだ。
「もっと、強く抱きしめて……朝まで、夢を見せて……ほかの、誰よりも優しく、抱いてほしい……」
では、溺れるほどに深い夢をみせよう。
あなたはカイラに口づけをし、そっと甘い夢を紡ぎ出した。
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