10話

 あなたはメディシンフォージドの常駐費用について話し合った。

 専属の医師、それもカイラの言によれば世界最高の医師の直弟子だ。

 その辺りを踏まえると金貨200枚は妥当と言えばそうなのだが。


 あなたは友人価格と言うことで、5割増しの料金を提示した。

 つまり、カイラとのお友達料金で金貨300枚だ。


「普通、友達価格って割安だと思うんですけど。金貨180ですね」


 割引は許可できない。あなたは断固として金貨300枚を払うと宣言した。

 むしろもっと払いたい。金貨500枚、いや、1000枚でどうだろうか?

 世界最高の医師の直弟子を拘束し続けるのだ。無理筋の額ではない。


「なんで私が提示した額の5倍になってるんです~?」


 あなたはそこで閃いた。そして、閃いた疑問について尋ねた。

 あのカイル氏を模したメディシンフォージドは、もしや女性型ではないかと。


「え? ああ、そうですよ~。医療助手に使う予定だったので~。メディシンフォージドだと性差ないので、女性型にしておいた方が汎用性高いんですよね~。女性相手でも問答無しで使えますから~」


 やはり。

 あなたはそこで手をワキワキと動かして、提案した。

 あのカイル氏を模したメディシンフォージドでお楽しみをするつもりだ。

 なので、その使用料金も含めて払いたいと。


「……あのですね~。医療助手ですよ~? 穴はないし、そもそも感覚自体ないです~。あれは人間のフリした人形なんですよ~」


 なにも問題ない。あなたは女性型のマネキンでもイケる。

 まぁ、さすがに木目そのままのマネキンでは厳しいが……。

 あそこまで完璧に人間を模してあれば問題ない。


「……マジで言ってます? あの、マジですか?」


 あなたは真剣な表情で頷いた。

 元々あなたはゴーレムだろうが女の形状をしていれば口説く。

 あそこまで完璧に人間を模していたらもうヤれる。間違いない。


「ええ~……いえ、もう、わかりました……あの、使った後はちゃんと洗ってくださいね?」


 もちろん。では、使用料含めて金貨1500枚でどうだろう。


「金貨300枚です~。なんでどんどん値上げするんですか~?」


 それはなぜか。

 あなたはカイラなら理解してくれるだろうと説明した。

 高い金を払うと、カイラに貢いでいるようで興奮できる。

 そして、メディシンフォージドを使うに当たっても罪悪感をゼロにできる。

 どころか、高い金を払ったのだから元を取らねばと本気になれるのだ!


「なるほど、バカですね?」


 あなたはそこに一切反論できる要素を持たなかった。

 むしろ、バカと言われて清々しいくらいだった。

 そう、あなたはバカなのだ。あなたは力強く開き直った。


「いえ、もう、いいです……考えてみればパペテロイで壮絶な額払ってますもんね……今さらですね……金貨1万枚でいいですよ~」


 あなたは喜んでカイラに金貨1万枚を払った。


「…………ねぇ、私のあなた?」


 払った後、カイラが少し考えてあなたへと身を寄せて来た。

 カイラから香る女の子の匂いと、独特の油のような香り。

 あなたはそれを堪能しつつ、なにかなと甘い声で応えた。


「お小遣い欲しいな……ね? ここに、金貨いっぱい入れて欲しいの……」


 そう言ってカイラが胸元を開いて来るではないか!

 あなたは興奮して金貨を取り出すと、そこへと金貨を十数枚まとめて捻じ込んだ。

 もちろんその際、不自然でない程度にカイラの慎ましい膨らみに触れて堪能する。


「やん♪ ねぇ、もっと欲しいな~?」


 あなたは大喜びで金貨を追加で支払った。

 こんなかわいいおねだりをされては、いくらでもお小遣いをあげてしまう!

 そうしていると、なんと今度はカイラがあなたの膝の上に乗ってくる。


「いっぱいお小遣いくれたお礼にぃ……触らせてあげますよ~?」


 あなたは脳が焼き切れそうな興奮に支配されながらも、優しくカイラの服の中へと手を差し込んでいった。

 いつも好きなだけ触って揉んで吸ってるだろうと言われそうだが、これは違うのだ。


 触っていいよ、ではないのだ。触ってよいは許可ではあるが、認識の調整だ。

 つまり、発言者は触ってよいという認識でいるため、これを相手に認識させるための発言。

 発言者の意識としては、それを許すに足る関係性を前提としている。

 元よりそれがあり得る関係性で、現状の状況が許されると提示しているわけだ。

 それは同時に、更なる行為の示唆でもある。ダメと止められるまではよいのだ。


 だが、触らせてあげる、というのは上の立場からの許可なのだ。

 その発言が為されるまで、あなたに許可されていたことは何もない。

 そこに居ることだけが許され、カイラとあなたの間には不可侵の拒絶が横たわっていた。

 そして、カイラの許可によって、ようやくあなたは触れる権利を得た。

 それだけだ。触らせてあげるとは、同時にそれしか許されないのである。

 制限されているからこそ、興奮の炎が強く燃え上がることもある。


「あ、ん……や、ばぁ……なん、でこの人……あっ、胸を揉んでるだけでっ、こんなっ、気持ち……いいのっ……! あっ!」


 耳元に直接届く興奮の声。あなたはクラクラして来た。

 カイラは快感を貪っているのに、あなたは与えることしか許されない。

 あなたは気持ちよくなってはいけないのだ。生殺しだ。だがそれがいい!


「はぁ、あっ……やば、本気に、なっちゃう……! も、もう、そこまで……です……」


 あなたは無視してカイラの胸をまさぐり続けた。


「だめ……だめ、です……そこまで、ですからぁ……!」


 カイラがあなたの膝の上から脱出する。残念。

 あなたは先ほどまで堪能していたカイラの柔らかさ、暖かさを思い返す。

 まったく、じつによい。カイラは本当にかわいい。

 もちろん可愛くない女などこの世にいないわけだが。

 やはり、触れ合った女の子は特別可愛いものだ。


「はぁ……私のあなたって、もしかして指先から媚薬とか、接点復活材とか……なんかそう言う怪しいもの出てます?」


 媚薬。漬け置きするくらいの勢いで使ったことはある。

 だが、さすがに体から染み出して来るような特異体質ではない。

 強いて言えば媚薬が染み出して来る剣なら所有しているが、あれは濃度が低いし。


「何ですかその意味不明な剣」


 知らない。なんか拾った。

 この大陸に来る前に探索していたナラカと言う迷宮で拾った剣だ。

 あそこではなにやら独特なエンチャントのついた武具が拾えたりした。


「えええ……」


 カイラがドン引きしていたが、あなたも普通に意味は分からない。

 いや、冷静になって考えてみると媚薬が染み出して来る剣って一体なんなのだ。

 相手に塗り込めるとかではない勢いで染み出すので、あなたの手も媚薬でビショビショになるし。

 あなたも発情するし、相手も発情するしで最高ではあるのだが、普段使いしたいかと言うと否である。


「エルグランド、混沌過ぎて分かんないですねもう……ブレウさんのおなかの子も正常でしたし……あれ本当にあなたの子なんですよね?」


 もちろんそうだ。


「女同士で、身ひとつで子供を作れるなんて……異種交配はできますか?」


 もちろんできる。


「男同士でもできるんでしたよね。そして、子宮がなくとも可能……私のあなた」


 カイラが筒を取り出した。それは口がついている。

 そして、あなたの予想通り、その筒はカイラの声でおねだりをし始めた。キモ過ぎる。


「これ、孕ませることって出来ますか?」


 同意さえ取れれば出来るかもしれないが、やりたくない。

 なにが悲しくてこんな気色の悪い存在を孕ませなくてはいけないのか。


「お願いです~」


 やりたくないし、そんなに軽々しくできない。

 これを孕ませてなにが生まれるかは分からないが。

 少なくとも半分の確率でハイランダーが産まれる。

 それを思うと、無責任なことはできないのだ。


「……あなたと同じ種族が産まれるんですか」


 少なくともエルグランドならばそうなる。

 なので、軽々にそんなことはできない。


「…………同意さえ取れれば、出来るんですね?」


 それは間違いない。

 エルグランドにおいて婚姻とは意思の誓いだ。

 そして、後継を成し、遺伝子を残すとは意思の交わりだ。

 意志と意思がたしかであれば、それは必ず伝わる。

 エルグランドにおけるもっとも優しき奇跡と言えるだろう。


「……わかりました~。では、そろそろ戻りましょうか?」


 あなたは頷くと、ブレウの下に戻ることにした。




 ブレウの下に戻ると、ブレウとカイル氏……を素にしたメディシンフォージドが話し込んでいた。

 医療助手、とのことだが、看護師もできるらしい。

 しかし、見る限りは本当に人間にしか見えない……。


「仲良くなれたようですね~」


「ああ、先生。カイルさん、とてもいい人で、たくさんお話をしてくださったんです」


「それはよかったです~」


「特に、先生のお話を……先生は、ソーラスの町から病気の人をなくすために、無償で医療を施すなんてこともしてらしたんですね」


「まぁ、医術の実験のためでもありますから~」


「とてもすごいことです……きっと、先生みたいな人が聖人と呼ばれるんですね……」


 などと涙ぐむブレウ。あなたもカイラはすごいと素直な気持ちで零した。

 まさか金も取らずに医療を施していたなんて。

 医療とは大変なものなのだ。薬師だってそう。

 それを値無しに誰にでも与えるなど、普通出来ることではない。


「あの、いえ、本当に医術の実験のためで。効果の怪しい薬なんか飲ませてますし。成功率低い手術とか平気でやってますし」


「ですが、本気で人を救おうとしてらっしゃるのですよね」


「そりゃ医療技術の実験で殺してたら意味ないですし……」


「たとえそれが、貴族であろうと、浮浪者であろうと……人の身分が、医の分け目であってはならない……先生はそうお考えになられてたなんて……!」


「あの、いや、ちが……私は、そんな国境なき医師団みたいなことやってるのではなくて。見境なき臨床試験してただけで……」


「ご謙遜なさらないでください……私、先生に診てもらえてうれしいです」


「ほ、ほんとうに、違うんです……私はそんな、聖人みたいなのではなくて……」


 カイラは戸惑っている。

 そして、あなたへと顔を向けて、違うよね? とでも言わんばかりの顔をした。

 あなたはそれに対し首を振った。

 カイラはいい人だ。間違いない。

 感動で涙が出そうなくらいだった。


「ち、違うんです! 本当に! マジですよ! 無償の施しとかのつもりじゃないです!」


 だが、人々に値無しに医療を施していたのはたしかなのだろう。


「それは、あの、ホラ、アレです! そう、実験台! 浮浪者なんかゴミ同然じゃないですか! いくら死んでも構わないでしょう!」


 なんだかすごいことを言い出した。


「そんな浮浪者のゴミのような命で医療技術を向上させ、それを貴族に施して金を巻き上げていたんですよ! 貧乏人の命を浪費して得た技術は最高ですね!」


 あなたはカイラの頬を叩いた。平手とは言え、それは暴力だった。

 女に激アマのあなたが、親しい相手に暴力を振るうなどまずありえない。

 だが、それでも、しなければならないと思ったから、あなたはそうした。

 そして、心を傷つけるようなことをしないで欲しいと涙ながらに訴えた。


 恥ずかしいから、照れくさいからと言って、そんなことを言ってはダメだ。

 それは、自分自身の行いを自分で否定する、悲しき行いだ。

 あなたはカイラにはその善き行いを誇って欲しかったのだ。


「否定じゃなくて肯定なんです~!」


 カイラのしていたことは、いいことだ。それは絶対だ。

 値無しに、見返り無しに施す。それは尊い行いだ。

 謙遜する必要はない。カイラは善き人だ。

 あなたは真剣なまなざしでカイラにそう諭した。


「ああああぁぁぁ……もぉぉおお……!」


 なぜか地面に転がって嘆き、悶え苦しみだした。

 まさか、カイラがここまで恥ずかしがり屋さんだったとは。

 まぁ、今の今まであなたにバレずに施しをしていたのを思うと納得か。

 恥ずかしいからこそ、必死で隠していたというわけだ。


 カイラには正当な報酬を受け取ってもらいたいと思う。

 善き行いには、善き報いがあるべきだとあなたは思う。

 だが、部外者のあなたが報酬を渡すなどすべきではないだろう。

 なによりもカイラはそんなものを求めてはいないのだろう。

 あなたはただ称賛し、いずれカイラが助けを必要とする時に助ける。

 きっと、そうした善き行いの輪こそが人々の善き営みなのだ。


「やだもう……! なんで突然聖人扱いされたの……! カイル、あなたなにしてくれてるんですか……!」


「私も立派な師匠の下で学べてうれしいです! 私もいずれ、師匠のような立派な医師になって、たくさんの人を助けたいです!」


「あの野郎、私が一番嫌がることするようにインプットしやがりましたね……! なんてことを……!」


 カイル氏のメディシンフォージドとは言え、殊勝なことを言う。

 あるいは、カイル氏の人格を転写したという通り、これもカイル氏の本音なのだろうか。

 だとすれば、善き師匠に善き弟子がついたということか……。

 あなたは世の中とはこうあって欲しいものだなと切ない思いを抱いた。


「もうっ……もうっ……! カイルッ!」


「はい、お師匠様」


「フォトニック・レゾナンス・チャンバーに、クアンタム・ハーモナイザーを入れる必要があります!」


「はい」


「ですので、しばしブレウさんの応対、および看護を任せます! いいですね!」


「はい、おまかせください」


「よし!」


 カイラがあなたへと目線を向けて来た。


「分裂特異性の放射線不安定化を引き起こすことがなにを意味するか分かりますね!」


 なんだかよく分からないことを言いながら迫って来た。

 あなたは意味が分からず、どういうことかを尋ねた。


「つまり、膝に矢を受けます」


 大怪我である。どういうことなの?


「では、いきましょう。手伝ってください」


 なんだかよく分からないが、手伝って欲しいというなら手伝おう。

 あなたは言われるがままにカイラに促されて部屋から出た。

 そしてカイラは先ほど来た道順を戻っていく……つまり、あなたの部屋へと向かっていく。

 そして、あなたの部屋に入ると、カイラが服を脱ぎだすではないか!


「もう! もう! もおおお! 何もかも全部! 嫌になりました!」


 あなたは意味が分からないが、とりあえずガン見した。

 カイラのほっそりとした肢体の滑らかさと言ったら……。

 特に、色素の薄さがたまらない。黒髪に黒目で色素は濃そうなのに、各所はじつに綺麗なピンクで……。


「私のあなた!」


 アッハイ。あなたは間抜けな返事をする。


「全部忘れたいので、メチャクチャにしてください! 壊してください!」


 なるほど最高ではないか。

 あなたは先ほどお預けを喰らったのだ。

 早々にご褒美が来るなんて!


 あなたは喜んでカイラをベッドに押し倒した。

 さぁ、カイラがバカになるまで可愛がろう!

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