2話

「綺麗ですよね~。ウユニ塩湖みたいで~」


 絶景に心打たれていると、カイラがそんな風に声をかけて来た。

 カイラには同様の光景に心当たりがあるらしい。

 信じ難いことだ。こんな美しい光景が現世にもあるとは……。


「さぁさぁ、絶景に心打たれるのもいいですけれど~、まずは野営の準備をしませんと~」


 そう言えばそうだ。

 あなたはカイラに促されるまま野営の準備に取り掛かった。



 この領域に入って来て、正面にあった広大な鏡張りの絶景。

 その背後には、ちょっとした小高い丘があった。

 あなたたちはそこに登ると、野営の準備をした。


 と言っても、あなたの野営の準備はじつにシンプルだ。

 『四次元ポケット』に保管しておいた建屋を取り出し、置くだけである。


「……なんか家が建ってる」


「ど、どこから出したの……?」


 異空間に仕舞っていたものを取り出しただけだ。

 入れるために魔法威力増強効果のある装備を使う羽目になったが。

 『四次元ポケット』にものを入れる際は、体積ではなく質量の方が影響が大きいのだ。


 さて、あなたの取り出した小屋の構造はじつにシンプルだ。

 入口に入ると上がりかまちがあり、その奥に居住スペース。

 台所や水場などはなく、極シンプルに寝るための場所と、くつろぐためのリビングスペースがあるだけだ。


 スペース自体はなかなか広いもので、豪邸と言って差し支えない大きさだ。

 およそだが100人ほどが同時に居住可能な大きさである。

 本来はあなたが王都屋敷で雇っている使用人と、仲間たちがバカンス時に使うための建屋だ。

 そのくらいの大きさがないと、使用人が収まりきらない。


「はー……豪華な建物……」


「地味だけど立派な造りだな。モンスターがいる場所でも安心できそうだ」


 リーゼとリゼラが建物の中を確認してそのように呟く。

 どうせ部屋は余っているので『エトラガーモ・タルリス・レム』のメンバーにも使ってもらいたい。

 この秘境はそれほど危険な地帯ではないようだが、分厚い壁と天井があれば安心だろう。


「こんな立派な拠点があるのはいいですね~。荷物も置いておけるし、休む時も安心ですし~」


 カイラも嬉しそうに小屋の様子を確認している。

 バカンスで使うことを前提に作ったので、調理スペースや水場などはない。

 水は目の前で、調理は屋外で、そう言う前提で作ったのだ。


「いいんじゃないでしょうか~。冒険者なら屋根と壁があるだけで最高ですよ~。これで文句を言う子がいたら、お嬢様かなにかですよ~」


 そのようにカイラが保障してくれた。

 ならばよかったとあなたは頷いた。



 あなたの出した建物の横に、調理スペースを作ったりなんだりと細々とした野営の準備をし。

 それを終えた後、あなたは飽きもせずに絶景に魅入っていた。

 こんなに美しい光景が現実に存在するとは思わなかった。


 あなたは、常人には信じられないようものをたくさん見て来た。

 エルグランドの浮遊奇岩群。ボルボレスアスのイデムウェポン建造工場。アルトスレアの生誕の花園。

 それはどこの大陸にも類似したもののないような、奇跡のような神秘の光景だった。


 重力と言う物理法則すら正しく作用しない、限りなく原初に近い空間。

 素材から生命を生み出す、その領域にまで至った生命操作技術の極限を結集した空間。

 しずくのように命が零れ、この世に像を成す、まさに生命の奇跡である花園。


 そんなたくさんの光景のどれよりも、この空間は美しい。

 この世には信じられないものがたくさんある。

 あなたの知らないものがいくらでもある。

 それを知りたくてあなたは冒険をしている。


 この大陸を冒険していてよかった。

 あなたはそんな満足感を胸に、その光景を眺めていた。


「絶景ですよね!」


 いつの間にやら近くにリーゼが立っていた。

 トレードマークの頭巾を脱いでおり、金の髪を風に流している。

 あなたはこんなに美しい光景は初めて見たと率直な感想を零した。


「私もこんなにきれいな光景はここで初めて見ました! ここ、実は陽が落ちるんですよ! 夜になると、星空が反射してもっともーっと綺麗なんですよ!」


 なんと、そんな隠し玉まであったとは。

 それはぜひとも見なければとあなたは意気込んだ。


「他の大陸にはこういうところはあったりしましたか?」


 問われて、あなたは先ほど思い浮かべた光景について答えた。

 光景の不可思議さで言えば、エルグランドの浮遊奇岩群。

 他で見ることのできない希少さで言えば、イデムウェポンの建造工場。

 そして、神秘的な美しさで言えば、アルトスレアの生誕の花園。

 そう言ったものがあなたの見てきた中で並び立つ光景だろうか。


「すごいなぁ……これに並び立つくらいの光景があるなんて……いつか、私もそれを見に行ってみたい! いや、いつか見に行こう!」


 そう意気込むリーゼに、あなたは眩しいものを見たような気になって笑った。

 かつての自分も、こんな風に意気込んで世界を見て回った。

 数多の大陸を旅しても、深く迷宮に潜っても、まだまだ世界には知らないことがある。

 それを聞いた時、リーゼはどう思うのだろうか?


 自分の寿命では見切れないほどに世界は広いと絶望するのか。

 この世界は自分如きでは計り知れないほどに広いと感激するのか。

 きっと、この純心な冒険野郎は後者なのだろうなと、なんとなく思った。

 根拠はないが、リーゼはかつての自分に似ているような気がしたのだ。

 そして、自分ならば、この世界の広さに感激し、絶対に全てを見て回ってやると意気込む。


「えっと、あなた……先輩って呼んでいいですか?」


 あなたは頷いた。先輩……イイネ!

 冒険者学園でもそのように呼ばれていたのを思い出す。


「私も先輩みたいに、いつか他の大陸まで冒険するのが目標なんですよ。まずははじめにボルボレスアス! 知ってますか? ボルボレスアスには竜の巣と言われる巨大な旅する積乱雲があって、その中には凄まじく強大な飛竜がいるんですって!」


 あなたも初耳だ。それはぜひとも見てみたい。


「この世界には知らないものがたくさんあって、私たちを飽きさせることはないんです。そして、身近にある迷宮にだって、たくさんの謎が眠っています!」


 たしかにその通りだ。この大陸に数多存在するという迷宮。

 その来歴は巨人族が人族を働かせるための鉱山として作ったと聞いたが。

 それが真実なのかは誰にもわからない。


 その謎をどうやって究明すればいいか、とんと見当がつかない。

 だが、その謎を知りたい。あなたは謎の答えが知りたくてたまらない。

 世界はあなたたちを飽きさせることはない。なるほど、至言だ。


「いつか、世界中を旅して回って、自伝をいくつも書いて、それが飛ぶように売れるような……そんな冒険者になるのが夢なんですよ!」


 その時にはあなたも買うので、ぜひともサインなどして欲しいものだ。

 自分で冒険をするのもいいが、他の冒険者の冒険した足跡を追うのも楽しいものだ。

 知らなかったことを知るのは、経緯はともあれ、とにかく楽しいものである。


「先輩もいつか自伝とか出さないんですか? 買いますよ! サインよろしくおねがいします!」


 その時はバッチリサインをしてやろうとあなたは応えた。

 まぁ、あなたが自伝なんか出したら、旅行記ではなく官能小説になりかねないが……。


「ええー……官能小説ってそんな、エッチな……あ、でも、カイラとそう言う関係なんでしたっけ……?」


 あなたは笑って、リーゼともそう言う関係になりたいと思ってるよと答えた。

 すると、リーゼはたちまち顔を赤くしてわたわたと慌て始めた。


「ええっ、そ、そんな! 私とまでなんて、ダメダメ! エッチすぎます!」


 と、断って、少しの沈黙。

 それから周囲を見渡し、そっと耳打ちをして来た。


「あ、あの、女の子同士って……どんな感じなんですか?」


 あなたはニッコリ笑って、男相手なんてやりたくもなくなるよ、と答えた。

 実際のところ、あなたは男と懇ろな関係になったことはないので大嘘もいいところだが。


「そ、そんなにすごいんですか……あ、あの、あの……」


 なんだろう?


「私、その、いま、もう20歳なんですけど……ま、まだ処女って、変……ですかね……?」


 なにも変ではないが、珍しいことはたしかだと思われる。


「だ、だって、そう言うことしたら妊娠しちゃうかもしれないじゃないですか! 男娼買うのとかも、その、恥ずかしいですし! ナンパしてくる人とか、安全かもわかんないですし!」


 あなたは頷き、女同士なら全部安心だねと答えた。

 女同士なら妊娠しないし、あなたは娼婦なので男娼と違って恥ずかしくない。

 そして、あなたはもちろん安心安全な女だ。なぜならカイラが怖いから。


「いや、娼婦だから恥ずかしくないって言うのは違うような……って言うか先輩娼婦なんですか!?」


 エルグランドでの公的な職業はそうだ。

 まぁ、もちろん本業は冒険者なわけだが。


「ははぁ……娼婦……と言うことは……その、はじめてでも、慣れてるんですよね……」


 もちろんだ。はじめて相手でも問題ない。

 むしろ挿れたがる男どもと違って、あなたは指先と舌先で可愛がるだけでも満足できる。

 痛いこと、苦しいことも無理強いしたりなどしない。

 あなたはリーゼの肩を抱き寄せると、優しく可愛がるよと囁いた。


「よ、よーし……私も冒険者ですからね、度胸はあるつもりです……私を女にしてくれますか?」


 リーゼは意外と積極的なようだ。

 20過ぎて処女と言う点について引け目でもあるのだろうか?

 まぁ、女所帯で暮らしていると、そう言うこともあるのかも。


「えっと……いくらですか?」


 リーゼが財布を取り出して交渉をして来た。

 どうやら娼婦だからセーフ理論を真に受けていたらしい。

 あなたはこれは自由恋愛だからお金は不要だと答えた。

 なんならリーゼの処女代と言うことでこっちが金を払いたいくらいだ。


「い、いいのかなぁ? だって、その、先輩ってカイラのイイ人……なんですよね? 最初の頃のカイラって男の子みたいだったのに、先輩と会う都度に女の子らしくなっていったって言うか……」


 あなたはうるせー口だなと言いながら、リーゼの口をキスで塞いだ。

 そして、濃厚で熱い大人のキスをした。


「ぷあ……あ、こ、これが、キス……」


 それも、大人のキスだ。あなたはリーゼの頬に手を添えると、そっと耳元で囁いた。

 大人のキス、その続きはなにをするか、わかるかな? と。


「ほ、本では、ベッドに押し倒して……」


 よく分かっているようだ。

 あなたはリーゼを連れて建屋に戻ると、奥まった位置にあるあなた用の部屋へとリーゼを連れ込んだ。

 リーゼをベッドに寝かせ、あなたは囁く。

 これから2度と忘れられないくらい素敵な初体験をプレゼントするよ、と。


「お、女同士でしか満足できない体にはしないでもらえると……」


 その希望には答えられないかもしれない。

 あなたはリーゼに覆い被さると、甘い初体験を贈った。





 リーゼをたっぷりと可愛がり、蕩けるほどに甘い初体験をプレゼントした。

 やはり、処女と言うのは青く硬いものだ。しかし、それもいい。

 丁寧に解きほぐし、その奥にある快感を引き出してやるのはじつによい。

 甘く蕩けてゆく少女の熱い体……まったくたまらない。


「よかったですね~。で、他になにか言うことありませんか~?」


 あなたはカイラの詰問に、夕飯の支度はこれからすると答えた。

 あなたはリーゼを可愛がった後に部屋から出たら、カイラたちにリビングまで強制連行されて詰問をされていた。

 カイラはそんなに怒っていないように見えるが、他の面々は動揺しているようだ。


「そうですか~。まぁ、時刻的にまだ遅いってほどではないですしね~」


「し、し、しかしなカイラ! り、リーゼが! リーゼがだな!」


「自由恋愛ですからね~。リゼラだって、彼女とイイコトしてもいいんですよ~」


「馬鹿言うな! 女同士なんてそんな、インモラルな! だ、ダメだろが! 女同士は! 子供だってできないんだぞ!」


 リゼラは女同士には抵抗があるようだ。

 リーゼの方はそこまで抵抗はなかったようなのに。


「う~む……兄者たちは念友がいたりしたが……う~ん……女知音ちいんと言うのもなぁ……う~ん……ト一ハ一トイチハイチってのはどうなんだ……?」


 トキは何段か先のラインで迷っているようだ。

 女同士にそこまで忌避はないが、やりたいかと言うと別、みたいな感じだと思われる。


「ふーん……カイラだけじゃなく、私たちともイケるんだ。へー……」


 なにやら意味深に笑うのはスアラ。

 そう言う仕草、実にエロスティックでイイ。


「…………」


 無言であなたの服の裾を引くのはチー。

 あなたは何かなと首を傾けてチーに耳打ちされる姿勢を取った。


「一晩いくら……?」


 チーは元々そう言う趣味があったらしい。

 あなたは笑うと、バカンス中はタダでいいよ、と答えた。


「……じゃあ、今晩いい?」


 もちろんである。あなたは笑って頷いた。

 バカンスははじまったばかりだが、既に2人目の目途すら立った。

 まったく、眠っていられないな!

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