休暇と修行と旅行編

1話

 あなたは『エトラガーモ・タルリス・レム世界樹の王』の面々と共に、各地の市場に繰り出した。

 そして、そこであなたたちは欲望の限りを尽くしていろいろと買い漁った。


 暑くても早々腐らないからと、まず手始めに焼き菓子の店へ。

 焼き菓子の店では種々の菓子パンや焼き菓子が売られており、甘い香りが立ち込めている。

 この大陸の菓子は驚異的に甘いものがあったりする。

 そのため、あなた的には割と当たり外れが激しいというのが正直なところだ。

 まぁ、シロップ漬けドーナツよりも強烈なものは早々ないが……。


「うおー、甘い匂い……どれだけ買ってもいいんだよな?」


 そう尋ねて来る弓使いのトキにあなたは力強く頷く。

 そんな話を聞きもせずに、お菓子へと突撃していくのは呪術師のチー・ソラ・リグ。


「うへへ、お菓子! お菓子! 抱えきれないくらい買っちゃう! これとこれとこれと……」


 チーが手の中に次々と焼き菓子の袋を抱え込んでいく。

 それを後目に、あなたは店主に向けて、この店の商品を全部寄越せと告げた。


「うへ!?」


 チーが驚愕していたが、あなたは無視して金貨の詰まった袋を渡す。

 店の焼き菓子を全て買い占め、閑散とした店からあなたたちは退出する。


「よーし、次は酒だ酒! 酒問屋いこう!」


 トキに促され、あなたたちは次に酒屋へと向かう。

 酒屋では種々の酒が量り売りされており、種々の樽が置かれている。

 特に、この大陸における庶民の酒、チューバーカルの樽の存在感がすごい。

 イモの酒と言う意味だが、実際の原料はイモではなく木に生るフルーツだとか。

 見た目がメチャクチャイモに似ているのが名前の由来だと言うが、イモそっくりなフルーツとはいったい……。


「さすがにここでは樽ごと買えないだろうが、安心しろ! 私が酒の容器をたくさん……」


 あなたは店主に向け、この店の酒を樽ごと全部買うと告げた。

 そして、金貨の山を店の前に築き上げ、店主の了解を得ると次々『四次元ポケット』にぶち込んでいった。


「はぁぁぁぁぁ!? なんで樽が幾つも消えてくんだよ! 魔法にしてもこんなに入らないだろう!?」


「あ~。彼女の使う魔法に、物を収納できる魔法があるんですよね~。その上位版とかじゃないでしょうか~」


 カイラの推測が正しい。

 ひとつ指摘するなら『四次元ポケット』は『ポケット』とはまったく別種の魔法と言うことくらいだ。

 『四次元ポケット』は異空間へ繋ぐ穴を空ける魔法なので、召喚魔法に類別される。

 一方で『ポケット』の魔法は保管する物品を変性させて体に帯同させるものなので、変性術だ。

 使い方とか効能とかが似ているのでそう言う名前になっているが、まったく別種の魔法なのだ。


「だいたい、こんなにたくさん買っても飲みきれないだろ!」


 べつにすぐ腐るわけでもないし、バカンス後は家に届けるからそこで飲めばいいだけでは。


「マジか……それアリなんだ……! これから私の晩酌代が浮く……!」


「うふふ~、ほどほどにするんですよ~。飲み過ぎで病気になったら、死ぬほどつらい治療が待ってますからね~」


「えっ、そうなの……? ど、どれくらいつらい……?」


「基本的に、私の想定している病気になったら死ぬまでお酒が飲めなくなります~」


「本当に死ぬほどつらい!」


「根治手段はありますが~、内臓を取り換える必要があるので死ぬほど痛いです~」


「そっちもそっちで死ぬほどつらそう!」


 なんかカイラとトキが怖い話をしている。

 あなたも酒は大好物で頻繁に飲んでいる。

 そのため、その病気は自分でもなるのかと恐る恐る尋ねた。


「なると思います~。基本的に人間ならだれでもなるはずですよ~。気になるなら、後で検査しましょうか~?」


 なにそれ怖い。あなたはぜひとも検査して欲しいと頼んだ。

 禁酒は嫌だ。死ぬほどつらいとまでは言わないが、かなりつらい。

 内臓を取り換えるとか言う治療法をぜひとも選択したい。


「シークタイム無しで内臓を取り換えてくれと言うのもすごいですね~……よっぽどお酒、好きなんですね~」


「あんたもか……くっ、酒好きとして負けてはおれんな。私も内臓のとっかえで頼む……!」


「そこは勝ち負けじゃないと思うんですけど~。そもそもならないように気を付けてください~」


 あなたの場合、酒が好きだからというわけでもないのだが。

 単純に内臓の交換とやらが、そうまで痛くなかろうと言う確信があるだけで。

 たぶん痛い原因は腹を掻っ捌いて内臓を引っこ抜かれるからだ。

 今まで爆散したり、切り刻まれたり、爆死したりで種々の痛みを味わってきたが。


 内臓は意外と痛くない。それがあなたのよく知る事実だ。

 まぁ、内臓が破損する時はその周囲にも強烈なダメージがあるのでかなり痛いが……。

 腹を開いて内臓を引っこ抜く場合は、そんなに痛くない気がする。

 腹を開くのが物凄く痛いとは思うので、そのあたりは気合の入れどころだろうか。


 まぁ、そうであっても痛いことが好きなわけではない。

 願うことなら、その内臓が無事であることを祈りたいところだ……。


「さぁさぁ、次々お買い物にいきましょう~。お魚は要らないので~、お肉お肉ですよ~」


 次にあなたたちは各種の牧場へと出向いた。

 丁寧に育成された豚や鶏、そして牛。

 羊や山羊、兎と言った肉類も飼育されていることがある。

 そう言った食肉をあなたは丸ごと購入した。

 さすがに生きたままではないが。


 屠畜して放血。そして皮を剥いで、最低限の加工状態にしたものをいくつも購入した。

 豚に至っては皮を処理せず、内臓だけを抜いた状態で購入した。

 軍隊でも養うのかというほどの量を購入し、すべてを『四次元ポケット』へ。


 普通ならば腐るが、あなたの『四次元ポケット』に入れている限りは腐らない。

 バカンスは1か月ほどに及ぶ予定だが、その間中ずっと新鮮な肉が食べられる。

 こうして、あなたたちはバカンスの準備を終えて、ソーラスへと戻った。




「さぁ! 冒険の時間だよ! みんな、バカンスに行くとは言え、迷宮の中だからね! しっかりよろしくね!」


 『エトラガーモ・タルリス・レム』のリーダーであるリーゼがそのように号令を発する。

 トレードマークである頭を覆う頭巾。そこに隠された金の髪。

 軽装で俊敏さを重視した剣士である彼女の戦闘技術はいかほどだろう?

 そして、その軽装な鎧の下に隠したまろやかな乳房の味はどれほどか。


「とは言え、行くのはあくまで3層だ。砂漠装備や雪山装備は不要だし、楽な冒険だ。背嚢も小さいので済むさ」


 リーゼの言葉を補足するのは、彼女のいとこであるリゼラだ。

 小柄な体躯ながらも重装鎧で身を固め、大きな盾で立ちふさがる重装兵である。

 リゼラの1歳上だと言うが、リゼラよりも年下に見えるのは合法的に幼女を味わえると言ってもいいだろう。


「ま、油断大敵! だけどな。背中に気をつけろ、弦を張れ、剣を手放すな、ってことだ」


 なにかの警句だろうか? トキが3つの言葉を上げて戒める。

 危険なのは2層『岩窟』だけであろうが、警戒して悪いことはないだろう。

 あなたをしても、その発言には頷けるところだった。

 この大陸における北方人種の典型的な容姿の持ち主らしく、この近辺では見ない系統の容姿だ。

 考えてみると、ハンターズのキヨやリンに似た容姿のような気がする。


「フフ……浮かれてる時こそ、私みたいな陰気なのが輝くからね。みんなは存分に浮かれたっていいんだよ」


 などと笑うのは野臥せりのスアラ。

 赤みの強い紫と言う珍しい髪色のせいか、肌が病的に白く見える。

 どことなく毒気のある美貌には溺れてしまいたい。

 暗い色合いの衣服に押し込んだ豊満なボディも堪能したいところだ。


「今回はお客さんもいるし、恥ずかしいとこ見せられないよね。バリバリ呪うぞ!」


 意気込むチー・ソラ・リグ。

 呪術師らしいが、ちょっと聞いたことのない職業だ。

 呪い自体は知っているが、それを戦闘に利用するのは聞いたことがない。

 短髪で頬の刺青が目立つ、ボーイッシュな少女だ。こういうのを蕩けさせるのが楽しいのだ。


「うふふ~。みんな意気込みバッチリでいいことですね~。さぁ、行きましょうか~?」


 最後に〆るのは、知っての通りの最恐ヤンデレ少女カイラ。

 最近実はヤンデレではなく難儀な性癖をしているだけの嫉妬深い少女なのではと言う疑惑が出て来たり。

 国家規模犯罪を目論んでいたりと、なかなかエキセントリックな少女だ。

 加えて言うなら、実年齢が40過ぎと言う本当に“少女”か怪しい疑惑があったりする。


「さぁ、出発! 『エトラガーモ・タルリス・レム』の伝説のはじまりだ!」


 リーゼの号令に呼応し、みんなが武器を掲げる。

 バカンスに気合入れ過ぎだろ、とか、休暇伝説ってなんだよ、なんて苦笑を返しながら。


「いつか自伝に、このバカンスがあったからこそ冒険に成功したって書いてやるからいいのー! ほら、出発!」


 そんな風にまとめて、あなたたちはソーラスの迷宮へと進発した。

 3層の秘境……いったいどんなところか、実に楽しみだ。




 それからの冒険はまったく順調なもので終わった。

 今さら大森林で襲ってくるものもいないし、『岩窟』にいるゴブリンやらオークやらに負けるほど弱くもない。

 『岩窟』でトロルに遭遇した時も、まったく危なげなく終わっていた。

 リーゼの振るった剣が腕を斬り飛ばして押し留め、チーの使った呪術がトロルの足を地面に釘付けにする。

 そして最後にトキの放った矢の4連射がトロルの急所を射抜いて仕留めていた。

 実に安定した、熟練のパーティーと言った雰囲気だった。

 この迷宮で3年間やって来れていたのは伊達ではない。


 3層『大瀑布』に到達したら、パパっと登る。

 このチームでは、身のこなしが軽いスアラが先に登るらしい。

 そして、あなたたちのように金具を打ち込んでロープを垂らし、それを登るとのこと。

 あなたはいつものように空を飛んで登った。


「えっ、魔法使わなくても飛べるの!?」


「飛ぶ能力のある種族だったんだ……人間だとばっかり思っていた」


「どうやって飛んでるんだかさっぱりだね……いいなぁ、便利で」


 そんな風に驚かれた。最近は「今さら何をされても驚かないぞ」と言った反応が多かったので新鮮だった。

 やはり、面識の少ない相手を驚かせるのは楽しいものだ。


「それなら、私じゃなくてあなたに確保してもらいたいんだけど。落ちるようなヘマはしないけれど、疲れるから」


 スアラに金具を打ち込んでルートの確保を頼まれた。

 まぁ、『EBTG』の時にもやっていたことなのでお安い御用だ。



 そうして頂上まで昇った。

 ここまで秘境の手掛かりは一切なかったが……。

 やはり、飛行種族のいる、空にあるのだろうか?


 空を見上げてみると、そこには青い空……のように見える何かがあるだけだ。

 薄靄がかかって居るようにも見えるし、雲ひとつない空のようにも見えるが……。


「では、いきましょうか~」


 そう言ってカイラがなにかの魔法を使った。

 それはあなたたち全員が対象であり、かかった瞬間にあなたへと飛行能力が付与されたことが分かった。

 どうやら、範囲化、あるいは複数対象の飛行魔法らしい。

 現在のレインでも使えないほど高度な魔法のはずだが……。


「そうですね~。でも、私なら使えます~」


 なるほど、単純明快だ。

 べつに秘密のからくりがあるとかではなく、順当に使えるだけ。

 逆にそっちの方が理不尽な気もしなくはない。


「後は飛ぶだけです~。さぁ、私についてきてくださいね~」


 あなたは促されるまま、カイラについて行った。

 道中、以前にレインの胸に大穴を開けた鳥が襲ってくる。

 しかし、カイラが指を指すと、それだけで鳥が落下していく。


 なにをしているのか真剣に見てもまったく分からない。

 加速して20倍速くらいでカイラのやったことを眺めてもなにもしていないように見えるのだ。

 まだまだあなたの知らない秘密の引き出しがあるらしい。面白い。


 そうして数分ほど飛ぶと、湖が小さく見えるまで上昇した。

 軽く500~600メートルほど上昇したと思われる。

 そして、そこまで上がったところで、あなたは青く見えていたものが空ではないことに気付いた。


 近付くにつれ、それはあなたの姿が映った。

 鏡面のように光を反射する特性のある物体なのだ。

 そして、それに触れると、あなたの体はそこへと沈み込んだ。


 それは水に飛び込んだ時と全く同じ感触で、その性質もまた水そのもの。

 上空にあったものは、空ではなかった。それは水面だったのだ。


「到着です~」


 カイラの声がどこか遠い。

 あなたは周囲を見渡して、その想像を絶する美しさに言葉が出なかった。


 どこまでもどこまでも果てなく続く水面。

 酷く透明度の高い水面に、空の青と白い雲が映し出されている。

 鏡映しのような水面と、透き通った空。そのはざまにいるあなた。

 この世のものとは思えないほどに美しく、幻想的な光景だった。


 今まで世界を旅してきた中でも、これほどに美しい光景はほとんどない。

 いつまでもいつまでも眺めていたくなるような光景だ。

 『大瀑布』の上空に隠されていた絶景。それはあなたから言葉を奪うほどに美しく。

 あなたは時間を忘れて、ただひたすらその美しい光景に魅入った……。

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