12話

 あなたはダイアとロイヤルな秘め事を楽しんだ。

 ダイアの引き締まっていながらも豊満な肢体を存分に堪能し、その上で快楽の扉を開かせた。

 いや、すごかった……すごい……ほんとうにすごい……。


「遺言はそれでいいのか?」


 イミテルの酷く冷たい声であなたは現実に立ち返る。

 あなたを見下ろすイミテルの絶対零度のまなざしに苦笑を浮かべる。

 頑張ったのだが、生憎とダイアとの秘め事はバレた。


 ちょっと調子に乗り過ぎてダイアを可愛がり過ぎたと言うべきか。

 声を抑えるという高等技術がダイアには難し過ぎたと言うべきか。

 とにかく、あなたとダイアのロイヤルな秘め事は露呈したのだった。


 セレグロス辺境伯を議長とする会議が行われ、あなたの処遇は決定された。

 英雄は色を好むので、ダイア姫が女を手籠めにするのはむしろすばらしいこと。

 被害者の認識が逆だが、エルフたちはそのように理解した。

 こうして、あなたはダイア姫の愛妾と言うことになった。

 つまり、事実上の無罪だったわけなのだが。


 イミテルがそれに激烈に反論し、あなたの死刑を強く主張した。

 姫の愛妾を死刑にするのはまずいぞと反論もあったが、イミテルはこれを拒絶。

 あなたをなんとしても死刑にすると断固とした態度を取り続けた。

 姫君の愛妾を死刑にする点、セレグロス辺境伯の裁量権を侵犯する死刑実行の詫びについては、自分で償うとも。

 イミテルはあなたを死刑にした後、自分自身も死刑に処することで罪を贖うとした。


 そんな無茶苦茶な主張に、エルフたちは涙を流してこれを認めた。

 あなたからするとなんで? というところなのだが、認められたんだからしょうがない。

 イミテルとあなたが来世で幸福な結婚をすることを祈られ、あなたとイミテルの出奔は認められた。


 こうしてイミテルはあなたを連れて脱走し、町中へと降りた。

 そして、広場にあるギロチンにあなたを固定しているのが現状である。


「姫の体がよかった。それでいいのか? なぁ?」


 ダイアの体がよかったのは事実だ。しかし、さすがにそれが遺言なのはちょっと。


 しくしく……今日は眠れないな……もっとぶって! そんな馬鹿な……。

 あなたはいろいろな遺言について考えた。

 いまいちピンとこない遺言しか浮かんでこない。


「まぁ、安心しろ。貴様の望む通り、来世ではきっと私は姫様のような肢体を持って生まれ来ることだろう」


 どういうことなのかよくわからず、あなたは首を捻った。

 そもそも、エルフたちの死生観においては来世は当然のものなのだろうか?

 先ほど、エルフたちがあなたたちの死刑について、そのような考えを述べていた。

 来世ではお互いがもっとも幸福な結婚が出来る、というような認識らしいが。


 すると、来世においてイミテルはあなたの好みドストライクになるのだろうか?

 つまり、可愛くてエッチなことが大好きで、獣耳があるのだろうか。

 加えて言うなら、あなたは大きいか小さいかで言えば大きい方が好みだ。

 頭よりも大きいまで行くと行き過ぎだが、それはそれでいい。嫌いではない。


「頭よりもでかい乳を持った人間なんかいるわけないだろうが!」


 マフルージャ王国はサーン・ランド冒険者学園に通っているリンと言う冒険者の胸が頭よりも大きい。

 生憎、絵とか写真は持っていないので根拠を示すことはできないのだが……。


「……本当にいるのか、そんな化け物が」


 化け物呼ばわりである。まぁ、気持ちはわかるが。

 頭よりも大きいと、こう、迫力が凄い。

 腕を挟んでもらった時の質量感の凄まじさと言うか。

 リンはよくこんな立派なものをぶら下げて活動できるなとか。

 そんな驚きと心地よさを感じられる。

 本当になにを食べたらあんなに大きくなるのだろう?

 ボルボレスアスには豊胸食材でもあるのだろうか?


「頭よりも……」


 ところで、イミテル的には来世のあなたはどんな人間になっているべきなのだろうか。


「それは……そもそも、私は貴様のことなど好きではない! 貴様の美しい金髪も、真紅の瞳も、草原を走る風のような声も! どれも好きではないわ! だいたい、貴様の小鳥のように愛らしい指が滑らかに動くさまが美しいなどと知っている人間はいないのだから関係のない話だ! そのまろやかな乳房の柔らかさとか、引き締まった尻の硬さであるとかもだ! 貴様のくびれた腹もまったくもって好きではない! おい分かっているのか! 分かってる分かってると言いたげなその顔はなんだ! 私は貴様のことなど好きではないからな! 強いて言えば、貴様のよく手入れされた頬の滑らかさと柔らかさは褒めてやらんでもないが、やはりそれも好きではない! 根本的な話をすれば、エルフと比較すればいささか低すぎる背丈と言うのは大きいマイナス要素であるからして……! やはり私よりも背の高い……そう、175センチほどは欲しいし、欲を言うならば180センチほどは夫に求めたいところだ! それが何だ貴様の背丈は160センチやそこらしかないではないか! もう20センチほど背を伸ばして来たら好きになってやろう! それに貴様のなよやかな肩はなんだまったく! もっと頼りがいのある肩幅をしろ! 私がしなだれかかってもびくともしない体幹の強さと筋力はおまえの力強さに思わず胸が高鳴ってしまうので褒めてやるが、やはり私をすっぽりと抱き込めるような体の幅と言うか、そう言う物質的な強さを感じさせる肉体があるべきだというのが前提としてあるのであり……おい! 聞いているのか! 聞いていると言え! よし、聞いているな! 私が夫に求めるものは力強さと言うか……こう、私を軽々と抱きかかえられるような強さなのだ! 貴様の細く美しい腕に秘められた力強さもグッとくるが、やはり見た目にも太く血管の浮いた腕なども憧れるところがあるし、なにより寝所の中で抱かれて眠る時に枕とする腕は太く力強い方が庇護されている感覚があってうれしいと言うか、それだけで濡れるというか……エルフ戦士団のお歴々をいともたやすく薙ぎ倒すその強さはまったくドキドキとしてたまらんので、そのまま衆人環視の最中に押し倒してはくれまいかと思うこともあるが……こう、貴様の女だと周囲にありありと見せつけられるというか……誰かに見られながら抱かれるのは死ぬほど恥ずかしいとは思うが、貴様の女だと喧伝するかのような辱めを思うとそれだけで下着が汚れるというか……それに貴様の作る料理の美味い事と言ったら! 我が生家であるウルディア子爵家のくりやを預かる調理人どもでもああは行かぬ。やはりマフルージャ王国で料理を会得したのか? ウルディア子爵家の料理長もマフルージャ王国で学んだ料理人だからな。私も貴様には及ぶべくもないが、女の嗜みとして料理の1つや2つはこなせるので、いずれ貴様に出しても恥ずかしくないほど熟達できた暁には貴様に食してもらいたいものだな。貴種の生まれであるがゆえ、夫に料理を振る舞うなどそうないことではあるが、やはり女としては好いた者には心づくしの料理を振る舞いたいところだ……まぁ、貴様など好きではないので、貴様に料理を振る舞うゆえもないがな! おい! さっきから聞いているのか貴様は!」


 イミテルのものすごい長広舌を聞かされ、あなたはものすごい速さで疲れた。

 イミテルの繰り返し主張するところを聞くに、イミテルはあなたのことが好きじゃないらしい。

 結構好かれていると思ったのに。そんなことはなかったらしい。

 あなたはイミテルの長広舌をなんとか止められないかと、どうしたら好きになってくれるかな? と尋ねてみた。


「そっ……そ、そうだな! き、貴様が私1人だけを見るというなら、まぁ、好きになってやらんこともない! 貴様の行い次第だということだ!」


 あなたはそう言われ、首を振った。

 お気の毒だが、1人しか見ないあなたと言うのはありえない。

 あなたは女の子が大好きで大好きでたまらないからだ。


「普通のことだぞ! お、夫は妻を愛し、妻は夫を愛する! 愛人だとかそう言う穢れた真似をするなと言うだけだ!」


 その場合において、イミテルはあなたの要求に応えられるだろうか?

 もちろん、妻となる者に対し、無体を働くつもりなどないのだが。

 そうなると、やがてあなたの欲求不満が溜まりに溜まって気が違ってしまう。


「は、破廉恥な! 毎晩あれだけして足らんと言うのか貴様は!」


 もちろん足りない。やはり、時には朝までコースもしたい。

 加えて言えば、バランスよくいろんな女の子を食べたいというか。

 肉と野菜とパンをほどほどのバランスで食べることで健やかな体を維持できるように。


 美女と醜女しこめ、そして平均的な可愛い女の子たちを食べる必要がある。

 同様に、老婆も幼女も時として食べる必要があり、イミテルのような適齢期の少女も食べるべきだ。

 そうした性生活を送ることにより、歪みない性癖を手に入れることができるのだ。


「同性愛の時点で歪み切っていようが! 見境なく女漁りをするにあたって下らん屁理屈を抜かすな!」


 頭を引っ叩かれた。やや痛い。


「貴様が貞淑な夫としてあるなら、私が貴様の貞淑で淫蕩な妻になってやると言う話のどこが気に入らんのだ! 言え!」


 それはたしかにすごくうれしいのだが……。

 貞淑な夫になれと言うのは難易度が高いというか。

 あなたは女の子が本当に大好きなのだ。

 なので、女の子である自分も大好きなのだ。


「な、なるほど。たしかに、生来の女である貴様に男になれというのも無茶な話ではある……私も王宮の雀ども……メイドたちに、妙な懸想をされて困ったことは記憶に新しいからな……」


 閉鎖空間において同性しか触れ合う機会がないとそう言うことがある。

 凛々しい同性に、異性の要素を見出してしまうということが。

 たしかにイミテルは短髪だし凛々しいので、そう言う対象にされがちだろう。

 ある意味で男扱いされていたということで、複雑なものがあったのだろう。


 あなたはそのイミテルを始まりはともかくとして、丁寧に可愛がった。

 そして、ひたすら可愛いよと囁いた。それがクリティカルだったのかも。

 女の子扱いされる嬉しさと、同性を異性のように扱う気持ちを同時に知ってしまったと。

 イミテルはあなたのことを男性的に扱っているところがあるし。


 なるほどなとあなたはギロチンにかけられたまま自分の顎を撫でた。

 首と同時に手首も切断するタイプのギロチンなので、手は比較的自由に動かせるのだ。


「ああ、しかし、よく考えたらこれから私たちは死ぬのだったな。来世、貴様は男として生まれる。生来の男になるのだ。何の問題もないではないか」


 普通に大問題である。

 しかし、死を覚悟したイミテルには通じないようだ。

 イミテルがギロチンの刃のロックを外し、紐を引く。

 この紐を手放した時、ギロチンの刃はあなたの首を直撃するだろう。


「さぁ、死ぬか。来世では私の好みの強くたくましい男に生まれ変われよ」


 しかし、そもそもイミテルはあなたのことが嫌いらしいではないか。

 そんな相手とわざわざ来世で結ばれようとは、どういうことなのか?

 あなたはそのあたりをイミテルに問いかけた。


「ふん……まぁ、これで最期だ。貴様のことは、まあ、嫌いではない……いや……好きだ」


 ここに来てようやくイミテルの本音が聞けた。

 まぁ、知っていたことだが、イミテルはあなたのことが好きらしい。

 嫌いだったらあんないちゃらぶエッチごっこなどしてくれないだろう。

 そして照れ隠しに常人なら即死レベルの打撃を叩き込んで来たりも普通はしないだろう。

 もしもあれが平常運転ならイミテルは普通に頭がおかしいし、その周囲は死体だらけだろう。

 あなたの強さを知るが故の甘えと言うか、あるいは強い者が好みなのでそれを確かめるというか……。


「姫様と私では、やはり地位が違い過ぎる。姫様が貴様を愛人として侍らせようとしたならば、私ではもはや手が届かん……」


 それでいて、御付武官なので、愛人であるあなたとはたびたび顔を合わせる。

 なるほど、実に強烈な脳破壊案件である。今生こんじょうの命に悲観しても仕方ないと言うべきか。


「貴様と共に出奔し、マフルージャ王国に逃げることも考えた。だが、姫様は裏切れぬ」


 忠義ゆえと言うことだろうか。


「私は姫様に忠義を捧げた。私個人としても裏切れぬし、ウルディア子爵家の家名に泥を塗るわけにもいかぬ。私1人の命で済まされる問題ではないのだ」


 なので、自害すると。


「そうだ。すべての罪を自裁によって贖ったとしてくれよう。私とても貴様を害したいわけではないし、死にたいわけでもない。だが、これしか手がないのだ」


 ぽつりぽつりと涙を流しながら、イミテルがそのように教えてくれた。

 筆舌に尽くせぬ表情に流れるその涙はひどく美しかった。

 悩みに悩み抜いた者だけが流せる、透明な涙だ。

 イミテルが本気であなたを想い、悩み抜いた証と言える。


「許せ、我が鼓動よ……来世では貴様の好みの女に生まれる。貴様の好きなようにしてくれて構わぬ。許せ……」


 イミテルの全ての罪を許そう。

 あなたはそのように答えた。


「すぐに私も後を追う。我が鼓動よ……愛しているぞ……来世で、共に添い遂げような……」


 イミテルが縄を離し、あなたの首へとギロチンの刃が落ちた。


「ああっ……! 私が、私が殺してしまった……我が鼓動を……ああっ……!」


 イミテルの絶望の声。

 あなたはギロチンは痛いなぁとぼやいた。


「……おい? なんで生きている?」


 なんでと言われても、死ななかったからとしか言いようがない。

 たしかにギロチンの刃、その威力はすさまじい。

 常人であらば100回死んでも飽き足らぬ威力だ。


 しかし、超人級冒険者の肉体強度と生命力を舐めてもらっては困る。

 あなたはこの程度の威力ならば、1000回受けたところで死なない。

 それでも凄まじい量の生命力は喪うだろうが。


「も、もう1回! 来世で結ばれるんだ!」


 イミテルがギロチンの刃を持ち上げ、あなたの首へと叩きつけようと頑張りだした。

 まぁ、頑張って欲しい。日が暮れるまで頑張ってもあなたの首は切り落とせないだろうが。



 ……その後、イミテルは200回以上あなたの首へギロチンを落とした。

 あなたは痛いとか首が痒いとかぼやき続けた。ちょっとした傷ができると、痛いというより痒いのだ。

 結局、あなたの薄皮が1枚切れただけでギロチン刑は失敗に終わった……。

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