13話
「なんでだ! ギロチンの刃を喰らったら死ね! 人として死ね!」
あなたは酒場でイミテルにブチキレられていた。
周囲でやんやと騒ぐ酔客どもに酒を注がれたり、囃し立てられながら。
正直、ギロチンを落とされまくった身としてはキレられるのも理不尽に思えるが。
普通、ギロチンの刃を落とされた方がキレるべきなのでは。
「これでは貴様に恥ずかしい告白をしただけではないか!」
あなたは頷くと、イミテルに自分も愛していると真剣な顔で応えた。
「ぐっ……! 貴ッ様ァ! その小ぎれいなツラで私に愛の言葉を囁くなァ!」
理不尽じゃない? あなたは首を傾げた。
「くそっ、なんで死なないんだ……! あのギロチン、刃の研ぎが甘いんじゃないのか!」
そう喚くイミテルだが、ちゃんと研いであったのは間違いない。
ギロチンの刃を首に落とされた時の衝撃の感じで研ぎ具合が分かるのだ。
「なんでそんなもん分かるんだ貴様……」
故郷ではよくギロチンにかけられていたからとしか。
エルグランドの娼館にはギロチンが置かれていることが珍しくない。
まぁ、かなりハードなプレイだが、そう言うことをすることもある。
あなたはその手のプレイはNGな嬢だが……なにしろ首が落ちないので……。
「もう意味がわからん……うぅ、もういい……もう疲れた……」
まぁ、とにかく飲んで食べて、吹っ切ろうではないか。
冷たいようだが、死んでやるわけにはいかないのだ。
あなたはイミテルのジョッキに並々と酒を注いでやった。
散々飲んで食べて、イミテルがベロベロに酔っぱらったので引き上げた。
イミテルを背負って帰還したところ、色んな人に驚かれた。
まぁ、おたがいに自裁すると言って飛び出して行ったのに、生きて帰ってきたらそうもなるだろう。
とりあえず夜も遅かったのでそのまま眠りに就き、翌朝に説明することとなる。
あなたは翌朝、ギロチン如きで自分が死ぬと思っていたのかと説明した。
その際、強さの証明のために、あなたは自分の首を切らせた。
すべてのエルフたちに渾身の力で首を切らせ、あなたは素の肉体強度だけでそれを跳ね返した。
「なんたる強さ……! なんたる強き女……! 我らが師の恐るべき強さよ!」
「信じられぬ! 世には刃を跳ね返す肌を持つ人間がいるというのか!」
「斬れぬ……我が家に伝わる伝家の名剣がなまくらのごとくに……」
「我が師のなよやかな首筋がこれほどに強靱とは信じられぬ!」
「貴様ッ! 師の首筋を厭らしい目で見たなッ!」
「ち、違う! 私はただ、師が女らしく美しいと言いたかっただけで!」
「言い訳はよさぬか! 大人しく首を出せいっ!」
「殺していいんだな貴様!」
なんかあなたの首筋が美しいせいで約1名殺されかけていたが、とにかく信じてもらえた。
そして、自分は殺せないのでこの件はなかったことにと強弁した。
「まぁ。イミテルとあなたの姿が見えないので不思議に思っていたのですが、そんなことになっていたのですね。分かりました。では、無かったことといたしましょう」
この場の最上位者の同意によって、あなたとイミテルの出奔はなかったことになった。
ただ、猛烈な恥を晒したイミテルの羞恥心だけが残った。
なにしろギロチンのある場であんなことをやっていたわけで。
公開処刑を娯楽にするこの大陸では、ギロチンとは広場にあるものだ。
そして、当然それは衆人環視の目に晒されているし、近辺には家屋もある。
あなたが死刑に処される場面は多くの人が目撃していた。
イミテルが長広舌を披露したり、あなたに愛の告白をした場面も見られていた。
これで恥ずかしいと思わない人間は早々いないのではないだろうか。
実際、会議後にイミテルの部屋を訪ねて行ったところ、身悶えしていた。
「もうおしまいだ! 同性相手に愛の告白をした場面を見られた! 同性愛者の烙印を押されて、私はもう終わりだ!」
ダイアの同性趣味はかなり好意的に見て貰えていたのに?
あなたはイミテルと他エルフたちの温度差に首を傾げた。
「年寄りどもと私たちでは感覚が違うと前にも言っただろう……それに地域差もある……ここら南部地方は、マフルージャ王国の影響も強い地域だから、同性愛はあまりな……」
たしかに、マフルージャ王国でも強く拒絶されるほどではなかったが、褒められたことではないと見られていた。
すると、トイネの中央や北部方面では、あまり忌避されないのだろうか?
「年寄りたちは、エルフが荒野を彷徨う放浪の民だった頃の風習を覚えているからな……その頃は同性愛は珍しいことではないというか……誰でもやっていたらしい」
実にいい風習だ。現在も残っていればよかったのに。
「子を作るのは義務だ。それゆえ、子を作れぬ同性愛とは真実の愛に近い……そのように言われていたらしいぞ」
なんとなく理屈としてはわからなくもない。
放浪の民であるならば、より一層子を作るのは重大な義務だったろうし……。
その中で行う同性愛と言うのは背徳感もあって気持ちよかったことだろう。
「だが、今は違う……このあたりで同性愛など公言したら、嫁の貰い手がない! まだ先の話とは言えどうしたらいいんだ……!」
エルフの結婚適齢期って何歳くらいなのだろう?
「120から160くらいだが……私は御付武官をしている都合もあって、200くらいまではセーフラインだろうな。そもそも御付武官をしているからこそ婚約者がいないのだ」
御付武官は名誉なことなので、むしろ箔がつくとかそう言うことなのだろうか?
「そう言うことだ。我がウルディア子爵家には家を継ぐ弟がいるので、私が家を継ぐ子を産まなければいけないというわけではないが……」
打ちひしがれるイミテル。
あなたはそれを慰めるように肩を撫でた。
そして、そっと囁いた。
女同士でも子供を作れる秘術がある、と。
「……本当か?」
あなたは頷いた。
「ということは、私の子を貴様が産むこともできれば……私が貴様の子を産むこともできるというか?」
あなたは再度頷いた。
その場合、子供の種族がどうなるかはちょっと分かりかねるが。
「……貴様どこぞの女に産ませた子がどこかにいるな?」
鋭い。
あなたは思わず呻いて目を反らした。
「やはりな! しかも、貴様のその振る舞いからして、1人や2人ではないだろう! 言え! いったい何人子供がいる!」
ガクガクと肩をゆすって来るイミテル。
あなたは落ち着くように言いつつも、答えはしなかった。
「言え! 言わんか! 言わん限りはやめんぞ! さぁ、言え! マフルージャ王国に何人子供がいる! 言え!」
1人しかいないとあなたは断言した。
嘘ではない。マフルージャ王国には、ブレウとあなたの間に生まれる予定の子しかいない。
エルグランドに何人いるかはノーコメントだ。
「本当か? 怪しいな……貴様の信仰する神に誓って言えるか?」
あなたは頷き、我が神の名に懸けて、マフルージャ王国どころか、この大陸全土を見渡したとてただ1人の子しかいないと答えた。
「ふむ……そうまで言うならたしかに1人しかいないのか……」
なんとか納得してもらえたようだ。
マフルージャ王国の方から来た冒険者と名乗るような、詐欺同然の説明だが……。
それでもなんとか納得してもらえた。ひとまずこの場は乗り切れた。
「そうか、貴様と子を成せるのならば……結婚は出来ずとも……うぅ、いや、しかし、父親のいない不義の子と言うことに……我が子につらい思いをさせるのは……それにハーフエルフと言うのも苦労するだろうし……うぅ、貴様のところで産んで、貴様の下で育てるべきなのか……? しかし、私は御付武官をやめるわけにはいかないし、そうなると我が子と離れ離れで……それにハーフエルフを人間の下で育てるのはおたがいに苦労するというし、しかしエルフの下で育てられるとハーフエルフの子は苦労すると言うし、私はどうしたらぁ……!」
なんだか悩みが余計に増えてしまったようである。
そんなつもりではなかったのだが。
「だが、貴様と私の間にできた子はきっとかわいいのだろうなぁ……ふふふ……私が武術を教え、貴様が魔法を教えて……きっと、姫様の御子に仕える立派な子に……あっ、でも、父親のいない子が王族に仕えるなんてできるのか……?」
まだ産んでもいない子の将来を期待しているらしい。
しかし、同時に暗い未来について思い当ってしまったらしい。
あなたはやむを得ず、『ミラクルウィッシュ』のワンドについて言及した。
「『ミラクルウィッシュ』のワンド……ああ、貴様がお歴々を女にしたアレ…………待てよ。もしや、貴様が使えば……」
そう、あなたが男になることもできる。
なので、実際にやるかはともかくとして、あなたが男と言うことにしてもよい。
べつに女のままでも、イミテルと子を成すことはできる。
なので実際に性転換する必要はないのだ。
「ということは……貴様と正式な婚姻関係を結べるということか?」
まぁ、そうなるのではないだろうか。
扱い的に単なるいち冒険者でしかないあなたでは身分が軽いが……。
そのあたりは、トイネの救国の英雄として喧伝してもらうということで。
ダイアの志に胸を打たれ、報酬無しに旗下に加わり、戦いの中でイミテルとの愛が芽生えた……。
そんな感じにしておけば、それなりに納得してもらえるのではないだろうか?
「貴様が第一戦団のお歴々の師になっているというのも大きい。彼らが婚姻の儀に参席すれば、事実上彼らの賛意に異を唱えるも同然だし……」
彼女らからは既に、結婚式の時は呼んでねと言われている。
なので参席はまず間違いなくしてくれるだろう。
「ふ、ふふふ……なるほど……よし! 私は少し用事が出来た! セレグロス辺境伯のところに行って来る!」
勢いよく飛び出していくイミテル。
あなたはその姿を見送り、肩を落とした。
イミテルに慰めックスがしたかったのに……。
まぁ、用事が出来たというなら仕方ない。
あなたは溜息を吐くと、昨日に引き続いてダイアと遊ぶために部屋を出た。
また明日、イミテルには激怒されるのだろうか?
しかし、ダイアの豊満な癖に引き締まるところがぎゅぎゅっと締まった体の美しさと言ったら……。
正直、今まで出会ってきた中でも、トップクラスの肢体ではないだろうか?
ダイアより豊満な者、引き締まった者は多々いたが。
身長と体格のバランスが美しく整いつつ、豊満かつ引き締まっている……。
そんな矛盾するはずの内容が並立している肢体は滅多にない。
あの肢体を楽しまなくては損だ。
特に、この国の平定が終わったら、そう滅多に遊べない可能性がある。
ダイアを王の責務から解き放つ術の用意はしているが……。
ダイアがそれを望まず、王としての責務に身を投じる可能性も高い。
そうなった場合を思うと、今のうちに堪能しておくが吉だろう。
あなたはダイアの部屋へと向かった。
昨日に引き続いて酒瓶を手にダイアの部屋を訪ねると、ダイアは今日もまた酒盛りをしていた。
今日はナッツをぽりぽりと齧りながらの酒盛りのようだ。
「まぁ、今日も遊びに来てくださったのですね。昨日の子作りごっこの続きをするのですか?」
歓迎の言葉が無垢でありつつ淫靡だ。
昨日はダイアをたくさん蕩けさせた。
ダイアは悦んで、もっともっととせがんでいた。
そのご期待に応え続け、ダイアがとろとろになるまで可愛がった。
「あの、ふわあっとなって、ぎゅーっとするのは、気持ちよくて楽しかったです。さぁ、今夜も教えてくださるのでしょう?」
無垢な幼女に教え込むかのようでありながら。
ダイアの肢体は疑いようもなく成熟したそれ。
このロイヤルな秘め事の美味しさは極上のそれだ。
明日、イミテルにブチ切れられるとしても気にならない。
今はただ、ダイアの豊満な肢体に溺れたいところだ。
その上で、ダイアにはあなたの齎す快楽に溺れて欲しい。
今夜はどこまでいけるだろうか?
気持ちよさに貪欲なダイアはすべてを呑み込んでしまいそうだ。
もっと奥深くまであなたを受け入れてくれる確信がある。
その奥深くというのがどこまで、なにを、なのかが重要だ。
あなたはダイアに深い口づけを送ると、抱き上げてベッドへと運んだ。
そして、優しく可愛がって欲しいのか、激しく可愛がって欲しいのかを訪ねた。
「んぅ……それは、うーん……では、激しく可愛がってくださいませ。きっと、その方が気持ちよいのでしょう?」
では、激しく可愛がろう。
たしかに、ダイアにはその方が似合うのかもしれない。
荒々しい炎を宿した彼女には、そうした荒々しい情交の方が。
まさに獣のごとく激しい交合は、原始のそれを思わせる。
人の類が未だ言葉を持たなかった頃、燃えるような愛を人は激しい情交で表したに違いないだろう。
あなたはそんな原始の情事を再現するかのようにダイアを激しく可愛がった。
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