8話
あなたはエルフ戦士団を嬲り殺しにした後、全員におなか一杯ご飯を食べさせた。
ミルクは無尽蔵の在庫があるし、それ以外の野菜や肉もたっぷりと在庫がある。
パンはあまり手持ちがないが、べつにやろうと思えば錬金術で作り放題。
それこそ、この一党くらいならば年単位で養える食料がある。
まぁ、調味料や副菜と言ったものが少ないので、料理のレパートリーは極めて少なくなるが……。
朝食のあとは再度出発し、町を目指す。
道中で反乱軍と出くわすこともあるので、その都度に始末した。
そして、昼前にあなたたちは次の町に到達した。
宿場町と言った雰囲気の町だ。
本来、王都を早朝に出立していれば、夕暮れ前に到達できるくらいの位置だ。
昨日、王宮を離脱した時間が昼前だったせいで日没前に辿り着けなかったわけだ。
「どうするのだ。斥候を立てるか」
近くまで行けば、反乱軍に与しているかはすぐわかる。
抗戦の形跡が見られれば慎重に対応するが。
まったく無傷で反乱軍を受け入れているようであれば、敵だ。
もちろん、多勢に無勢とやむなく受け入れた可能性もあるが。
そうであったとしても潜在的な敵なのは間違いないので。
与した以上は敵と考えさせてもらうのが妥当なところだろう。
「そうか、分かった」
イミテルの同意も得られたことなので、あなたたちは宿場町へと向かう。
町はかなり荒れた雰囲気がある。道端に死体すら転がっているではないか。
武具や矢の残骸があちらこちらに見受けられ、激しい抗戦の証があった。
「抗ったのだな……我らトイネのエルフに相応しき
「この者らならば、王都を荒らさせぬべく反乱軍に降った我らを不甲斐なしと笑うのであろうな……」
「許しは請わぬ……第一戦団は王都の安寧を守る者たちなのだ……」
エルフ戦士団たちが死者を悼む。
あなたは弔い合戦に、反乱軍を皆殺しにするぞと発破をかけた。
「討たれし益荒男を
「倍する数とても
「ゆえ、我ら
戦士団の意気込みは十分なようだ。
その一方で、ダイアはやや顔色が優れない。
「朝につけていただいた稽古で総身の力を使い果たしましたか。本領とは程遠い状態です」
「姫様、ご無理はなさらぬよう。私がおります。
戦闘開始前から割と疲労気味のダイア。
なんでそこまで渾身の力を振り絞って訓練をしてしまうのか。
全力を尽くすのはいいことではあるのだが……。
「ですが、総身の力使い果たせど、命の火は未だ燃えております」
エルフの大シミター、カーヴ・ブレードを抜き放つダイア。
瞳には爛々と戦意が燃え、闘争の狂気が宿っていた。
「戦うとは、命の火を“一瞬”にて燃やし尽くすこと!」
鬨の声を上げ、気炎を吐くダイア。
それに呼応するように、エルフたちが剣を手に気勢をぶち上げる。
「この命尽きるとも七度生まれ変わりて国に報いんことを誓う!」
「我らの忠勇勇武なるを、風よ砂よ鳥よ! 行きて伝えよ!」
「我が身、
あなたはノリについていけなかった。
なので、ちょっと離れたところでそれを眺めていた。
そうしていると、エルフたちの群れからイミテルが出て来た。
そして、やや疲れた顔であなたの肩を叩いた。
「すまない、私も年寄りのノリにはついていけんのだ……」
世代差なのだろうか。その割にダイアはノリノリのようだが……。
「まぁ、年寄りのノリに適応する者もいるからな……」
そのあたりは個性が出るということらしい。
そう言えば、戦士団のエルフたちの名前は独特の響きがある。
イミテルやダイアとはあからさまに雰囲気の違う名前だ。
そのあたりも年代差が出ているところなのだろうか?
「ああ、そうだな。私と姫様は共通語の名だが、戦士団のエルフたちは年嵩なのでエルフ語の名だからな……」
エルフはそう言う年代別の文化の差が大きいらしい。
これは大きな政変などがあった国ではままあることだ。
特にエルフは長命なので、そうした年代別の分断が長く残るのだろう。
まぁ、そう言ったものは無理に迎合してもしょうがない。
うまく距離を取ってやっていくしないのではないだろうか。
「そうだな……そろそろ突っ込むようだ。私たちも行くか……」
あなたはイミテルとちょっと仲良くなれた気がした。
今夜はこの宿場町で休めそうなので、ベッドの中でもっと仲良くなりたいところだ。
いちゃらぶ本番えっちをさせてくれるとのことなので楽しみだ。
宿場町とは宿屋の集合体であり、城壁のようなものはない。
純粋に宿ごとの素性、そのもてなしの差からランクがあるだけだ。
そして、反乱軍はその宿場の最上級の宿の真ん前にて乱痴気騒ぎを繰り広げていた。
一等の宿に相応しく、大きな敷地を持ち、大きな通りに面する宿。
その大通りにある広場にて、反乱軍将兵が集い、酒を酌み交わし、女に乱暴狼藉を働く。
エルフも人もなく、ただそこにあるのは反乱軍の畜生の如き振る舞いだけだ。
「許せません! 下郎ども!
力強い大音声の名乗りが大気を震わせる。
ダイアが激情の焔を燃やしながら駆ける。
朝の戦いのような爆発力こそないが、力強い捨身の突撃である。
王族なんだからもうちょっと自分を大事にして欲しい。
それに追随するのはイミテル。こちらもまた素早い突撃だ。
もしやイミテルの足が速いのは、やたらと突撃するダイアに追随するためでは……。
あなたはそんなことを思ったが、自分の勝手な予想でみんなを混乱させたくないと考えるのをやめた。
「なんたる潔さよ! ダイア姫の突撃、なんと勇ましきことか!」
「者ども遅れを取るな! 姫と言えども一番槍を取られては戦士団の名折れなるぞ!」
「その恐れ知らずの勇猛さ! まさに我らが戴くに相応しき姫君よ!」
戦士団は大喜びだ。あなたは呆れ果てながらも追随した。
ダイアのカーヴ・ブレードが轟音を立てながら振るわれる。
手近にいた反乱軍の兵士がバッサリと切り捨てられ、その臓物をぶち撒ける。
突入したエルフ戦士団が一太刀を振るう都度に命が散る。
10秒足らずの瞬間に1人1殺の惨劇が幕を開ける。
「親でも見分けがつかぬほど
「貴様らのそっ首叩き落として糞を詰めてやるゆえ首を出せ!」
「試し切りの犬にも劣るぞ塵ども! 私に剣で応ずる骨ある者はおらぬか!」
「気骨ある者! 我らが姫様のごときを出せ!」
「弱い! 弱くて下らぬぞ有象無象ども! 応ずるものはあらぬか!」
エルフ戦士団は絶好調だ。
元より圧倒的に強い戦士たちの集団なのだ。
あなたが全員を女にしたせいでやや弱体化している向きもあるが……。
それでも、そこらの雑兵ごときでは抵抗することもできない。
剣を振るう都度に命が散り、血潮が舞う。
ノリにはついていけないが、求めた成果は出ている。
築いた
血風にて語ったところ、地獄絵図が創られた。
簡潔に述べるとそんなところで、反乱軍兵士はほとんど皆殺しにされた。
あなたはあんまり活躍しておらず、ほとんどエルフ戦士団とダイア、そしてイミテルの活躍だ。
あなたが頑張ってもいいのだが、ここはエルフ王国トイネ。
やはり、エルフたちが頑張って戦ったと言う方がアピールポイントとしては強い。
実際、ダイアの活躍とエルフ戦士団の活躍は宿場町に瞬く間に駆け巡った。
宿場町の顔役だと言うエルフの男がダイアに涙しながらあいさつをしたり、エルフ戦士団を饗応したり。
宿場町はにわかにお祭り騒ぎと言うべき様相を示し始めていた。
エルフたちには伝統の酒と料理が振る舞われた。もちろんあなたにもだ。
饗応の場は、宿屋前の広場。反乱軍将兵が屯していた場面だ。
エルフ戦士団が嬉々として並べた反乱軍将兵の生首に見つめられていて居心地が悪い……。
「う、ううむ……」
イミテルは笑顔で酒を飲んでいるが、声音が物凄く渋い。
あなたもエルフの伝統酒はちょっと口に合わない。ものすごく酸っぱいのだ。
舌にピリピリと来るほどの酸味は強烈で、ヨーグルトを薄めたような味がする。
「馬の乳から造った伝統酒でな……我らエルフはこれを『命の水』の意で、コイネンと呼ぶが……」
あなたは酒瓶の中身を干すと、ミルクを口直しに呑んだ。
うまい! これはあなたの大好きなペットのミルクだ!
イミテルにも代わりに注いでやる。
「ん……うまい! 濃厚で病みつきになりそうな味だ! 何の乳だこれは?」
あなたは自慢のペットのミルクだと答えつつ、おかわりを注いでやった。
エルフの伝統酒も白い酒なので、見た目からは伝統酒を飲んでるように見えるだろう。
いい目くらましなので、このままミルクを飲んでいようではないか。
「うむ……コイネンは馬の乳から造る酒なのでな。見た目はミルクそのものだ。うむ、うまい」
自慢のペットのミルクが褒められるとあなたもうれしい。
あなたは笑顔で同時に供された伝統食、干し肉を齧った。
恐ろしく硬い。バキバキと音を立てて噛み千切って咀嚼する。
「ぐっ……か、硬い……布を食べてるかのようだ……」
しかも不味い。頑張って咀嚼しても、血と肉の味ばかりがする。
噛めば噛むほどに生臭い脂が染み出して来て、おえっとなる。
岩場の上で日光に晒し、ひたすらに乾かしまくったストロングスタイルの干し肉だ。
香辛料どころか塩すら使っていないらしい。
「こっちの羊肉も……う、ううむ……! か、硬い……!」
茹で肉だ。こちらはまだしも柔らかいと思ったのだが。
イミテルの言う通り、かなり硬い。さすがに干し肉ほどではないが。
かなり老いた羊肉のようで、臭みもかなりある。
まぁ、問題なく食える範囲だが……率直に言って美味くはない。
というか味付けすらほぼ無いので、旨い不味いというより、味がない。
せめてもう少し塩を……ほんのひと摘まみでもいいから……。
「うう……せめて若い羊を食べさせてくれ……いや、もう、牛が食べたい……」
イミテルは泣きそうだが、すぐに実に美味しそうに食べているような態度を見せる。
今までに見て来たエルフの戦士と違い、人間の貴族にずっと近いような振る舞いだ。
まぁ、貴種の中の貴種、王家にほど近い御付武官に娘を出せる家だ。
貴族の立ち居振る舞いくらいは会得していて当然と言えばそうなのかも。
「私の生家、ウルディア子爵家は、セレグロス辺境伯の
ああ、なるほどとあなたは理解した。
エルフ伝統文化とはかなり遠い位置にイミテルの実家はあるのだろう。
そのため、この伝統酒にも伝統食にもなじみがないと。
「なので、マフルージャ王国の食文化の方が性に合うというか、そう言う食生活で私は育った」
国の端と端では文化がまったく違うなどよくあることだ。
そうした文化の分断に泣き言は言っても耐えるのは、まさに貴族的な仕草と言える。
そう言う意味では、ダイアとイミテルは性質がまったく違うと言える。
ダイアはあのクソ硬い干し肉をおいしそうにバキバキ食べているし。
「そう、エルフの硬い肉こそ旨いという文化ではなく、柔らかい肉こそ旨いという人間の文化で育ったのだ……」
しかし、手元にあるのはエルフ伝統食のクソ硬い干し肉と、味付けほぼゼロの茹で肉。
それを見下ろし、イミテルが深々と溜息を吐いた。
「私は、羊よりも豚や牛の方がうまいと思う……ああ、貴様の家で食べた牛の柔らかさと言ったらな……極上の肉だったな、あれは……」
あなたは『四次元ポケット』から牛のステーキを取り出した。
鉄板の上でジュウジュウと音を立てて焼ける肉だ。
極上の肥育肉を、塩コショウだけで焼き上げた逸品である。
「…………!!」
イミテルの目は肉に釘付けだ。
あなたは笑って、どこか休める場所に行っておいしいもの食べない? と提案した。
「いいな……それは実にいい」
同意が取れたので、あなたはとりあえずステーキを『四次元ポケット』に仕舞う。
そして、あなたとイミテルは次にダイアにターゲットを絞る。
イミテルはダイアの御付武官なので、勝手に離れるわけにはいかない。
ならば、ダイアにも美味しいものを用意して休ませればいいのである。
「姫様。そろそろ日没の刻限です。お休みになられませんか」
「ああ、そうですね。たしかに日も落ちる頃合いですか」
「この者が、就寝前に菓子など用意するとのことで」
「それはよいですね。では、休むといたしましょう」
あまりにも楽勝だった。
あなたたちは用意された部屋に入った。
そして、さっそくあなたは次々と料理を『四次元ポケット』から取り出した。
「まぁ、すごい。どこから出しているのですか?」
ダイアの驚きの声に、あなたは魔法だと答えた。
「便利な魔術もあるのですね。どれもおいしそうですね」
「……はしたないことは分かっているが、もう我慢ならん。食べていいか?」
あなたは遠慮なく食べるといいと答えた。
お腹いっぱい食べて、仲良くいちゃらぶエッチしようね。
「…………ああ美味い! 柔らかでジューシーなステーキ肉がたまらないな!」
聞こえなかったフリだろうか。
それとも、とりあえず目の前の食に集中したか。
まぁ、聞こえなかったフリだろうがなんだろうが、今夜ベッドの中でイミテルをいただくことは決定事項だ。
あなたはダイアにも種々のデザートを用意してやり、今晩の情事に想いを馳せた。
ダイアは満足ゆくまでデザートを食べた後、2本ほど酒瓶を開けて寝室に入った。
スイートルームなので、あなたとイミテルは使用人用の控えの間で休む。
しかし、ダイアは所作こそ淑やかな姫君だが、行動が荒くれものに近い。
普通、姫君は寝酒に濃い蒸留酒を2本も開けたりしないと思う。
さておき、イミテルは心行くまで美食を楽しみ、今はその余韻に浸っていた。
あなたもその対面で蒸留酒をストレートで舐めるように飲んでいた。
「ああ……貴様の性癖は気に入らんが、料理はとにかくいい。誰が拵えたのだ?」
基本的にあなたが『四次元ポケット』に入れている料理はあなたが作ったものだ。
シェフが心づくしの料理を作ってくれたならば、弁当ならともかくすぐ食べることにしている。
「貴様が冒険者でなければ、当家の料理人として懇願してでも雇い入れるところだな……」
などとイミテルが笑って、溜息を吐いた。
あなたはイミテルに満足したかと尋ねた。
「ああ。これほどの美食を楽しんだのは久方ぶりのことだ」
じゃあ、これからはあなたのターンだ。
あなたは美食よりも美女を楽しみたい。
「…………すまないが、最後に強い酒を1杯……いや、1本くれないか」
逃げ隠れするつもりはないようだ。
あなたは言われるがまま蒸留酒を瓶ごと渡した。
エルグランドで購入した酒だ。
「うむ……」
イミテルが瓶を開け、それをラッパ飲みし始めた。無茶をする。
大瓶ではないが、それでも一気飲みするような酒ではないのだが。
「ぷはっ……! ……はぁー。貴族とは、己の言葉に責任を持たねばならぬ。
ほう。それでつまり?
「やってやろうではないか! 貴様といちゃらぶエッチをな! 愛してるわあなた! 早く抱きなさい無礼者!」
イミテルが酒の勢いを借りて、ヤケクソ気味にあなたを誘ってきた。
興奮するというより笑いが込み上げて来る勢いだが、むしろその拙さがいいアクセントだ。
今夜は眠れないな!
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