50話

 レウナとの交友で色々あったが、あなたはとりあえず元気だ。

 少なくともラズル神がブチギレて降臨したりはしていない。

 神使が「ちょっとツラ貸して」と殴り込んで来てもいない。

 たぶんセーフだ。セーフだと思いたい。セーフであってくれ。


 叶うことなら神に喧嘩を売りたくはないところなのだ。

 あなたの信ずる神たるウカノ神に迷惑がかかるかもしれないし……。


 まぁ、その辺りはさておいてだ。

 あなたたちEBTGはバカンスに突入した。

 初夏の日差し爽やかな頃、遊ぶにも休むにもちょうどいい頃合いだ。

 あなたは朝ご飯をたっぷり食べて活力を養うと、皆の予定を尋ねた。


「とりあえず思う存分呑むわ。で、眠くなったら寝るわ。起きたらまた飲むわ」


 どうしようもないなこれ。

 あなたはレインの色んな意味で清々しい予定に思わずつぶやいた。

 まぁ、休みの過ごし方としては具合がいいのかも。

 なにせ休みの日じゃないとできないっていうか……。

 冒険する日にこんなことされたらあなたはキレるし……。


「……オッサンみたいだがいいのかこれ?」


 たとえ中身がオッサンでも、外面が女ならそれでいい。

 あなたはレウナの疑問に対し、そのように答えた。


「いいのか、レイン。中身には一切期待しないと言われてるぞ」


「ウッ……!」


 どうやら割とクリティカルヒットだったらしく、レインが言葉に詰まっている。


「……は、ハーブティーを飲みながら読書するわ。それから詩作に耽って、あと、あと……」


 そんなに令嬢アピールしなくても。

 あなたはレインが自分の腕の中では誰よりもしおらしい令嬢だと分かっている。

 そのようにウインクしながら言うと、レインが頬を染めた。


「あなた……」


 まぁ、腕の中にいないときはオッサンなのは諦めたが……。

 そのあたりは口に出さず、あなたは次にフィリアに声をかけた。


「探索者組合に出向いて、カイラさんに保障していただいて6層踏破の証明をしていただきますよ」


 なるほど、昨日聞いた話を今日やることにすると。

 ではなぜか泊まっていたカイラも同じと言うことだろうか。

 やや目が充血しているカイラはあなたの問いに頷く。


「はい~。それが終わったら私は家に帰って、昨夜のベッドの軋む音などに脳を破壊されたことを思い出しながら無様な手仕事に励みます~。私の方が、先に、好きだったのに……!」


 そんな予定は話さなくてもいい……。

 あなたは力なくそう窘めた。

 気を取り直し、次にサシャに尋ねる。


「私は書店を見て来ます! それから町中でごはんを食べて、遊んできますね。なので、お小遣いくださいご主人様!」


 あなたはもちろんと頷き、サシャに金貨の詰まった袋を渡した。

 足りなかったらまた取りに来るといい。

 既に足りないと目算がついているなら、いま追加しよう。


「いえ、十分です! ありがとうございます!」


 サシャが『ポケット』に金貨の袋を放り込む。

 そして、最後にあなたはレウナに予定を聞く。

 レウナは厳密にはEBTGメンバーではないが、同居人なので聞いて問題ないだろう。


「私は適当に家事をしたら矢を作って、それから狩りに行く」


 そう言えばとあなたは思い至り、レウナにいくらかの金貨を差し出した。


「これは?」


 家に収めてくれている獣肉の代金だ。

 狩りをしては家に獣肉を納めてくれているが、レウナは客人。

 その厚意に甘え切りではよくない。ちゃんと代金を払うべきだ。


「たしかに、言われてみればそうだ。ありがたく受け取ろう」


 言いながらレウナが数えもせずに金貨を仕舞い込んだ。

 まぁ、獣肉代などレウナにすれば小銭なのだろう。

 たとえそうであっても、厚意を当然のものと受け取るのはよくないことなのだ。


「ちなみにあなたは?」


 午前中は軽く運動をし、お昼ご飯をおなか一杯食べる。

 エルグランドに一時帰郷し、ここ数年で底を突いた備蓄品を補充する。

 帰ったら軽くお昼寝をした後、おやつを作る。そしたらみんなで食べる。

 今のところはそんな感じの予定を建てている。


「思った以上に普通の予定だな」


 レウナにちょっと驚かれた。

 奇をてらった予定を建ててもしょうがないだろうに。




 各々が予定を過ごすべく行動を開始する。

 レインが酒瓶を『四次元ポケット』から取り出し。

 フィリアとカイラとサシャが出かけていき。

 レウナが雑な掃除をはじめ、あなたは庭で剣の訓練を少しした。

 昼時まで動き、汗をぬぐった後にご飯をおなか一杯食べた。


 それから『引き上げ』の魔法でエルグランドに一時帰郷。

 町中でラチの実などの切れていた品をたっぷりと買い込んだ。

 ラチの実とはサシャも大好きなクッキーに練り込んでいる木の実である。


 次に農耕神クルシュラグナの教えに帰依している友人を訪ねた。

 久し振りの再会を喜んだ後、種々様々な作物の種を融通してくれるよう頼んだ。

 せっかく庭があるので、いろんな野菜やハーブを育てたかったのだ。


 友人からたくさんの種を譲り受けることができた。

 お礼に今冒険している大陸で学んだ魔法を教えてやった。

 特に『天候操作』を気に入ったらしい。まぁ、当然と言えば当然か。

 農耕神クルシュラグナの信徒なのだから、当然農耕ガチ勢なのだ。

 気候が操作できれば、農耕にどれほどの利益があることか。


 あなたと友人は威力と範囲を爆裂に強化した『天候操作』でしばらく遊んでみた。

 壮絶な暴風が吹き荒ぶ中、毎秒数百発の落雷が降り注いだり。

 風速毎秒100メートルのサイクロンを生み出したり。

 人間サイズの雹を道に厚みができるほど降らせたり。

 『天候操作』ってこんなに遊べるんだ! と実に盛り上がった。


 あなたたちの遊びで王都は意味もなく壊滅した。

 どうせ3日もしたら人間は蘇り、町も復興しているので些細なことだろう。



 種を手に家に戻り、以前に耕しておいた畑にこれらの植え付けをする。

 満足いく結果を得られたら、リビングのソファで軽くお昼寝をする。

 寝てる間に誰かイタズラしてくれないかな! とワクワクしながら寝入ったのだが、誰もなにもしてくれなかった。


 残念に思いつつ、あなたはおやつの準備をする。

 キッチンに入ると、勝手口に座ったレウナがナイフを片手に木を削っている。

 どうやら、シャフトを自作するところからやっているらしい。


「おやつを作るとか言っていたな。なにを作るんだ?」


 トロールミートパイ。


「おぞましい物を作るな! 私は死んでも食わんぞ!」


 あなたはレウナに笑って教えてやった。

 トロールミートパイと言う名前なだけで、実際はチーズタルトのことだ。


「なに? どういうことだ?」


 エルグランドにおいて、トロールは2種類いるとされる。

 普通にモンスターとして実在する醜い人型生物と。

 白く幻想的な肌を持った、不思議な隣人のトロール。

 そして、そのトロールはチーズ作りの達人だという。


 それが転じてかチーズをトロールの肉、と表現することがある。

 そして、カッテージチーズを特にトロールの挽き肉と呼ぶのだ。

 つまりトロールミートパイとは、カッテージチーズを使ったタルトだ。


「ほー……まぁ、それなら安心だな」


 安心していただいたところで作っていこうではないか。

 あなたはご自慢のペットから搾ったミルクを使ってカッテージチーズを作るところから始めた。




 オーブンでトロールミートパイが焼き上がる。

 その頃にはもうフィリアもサシャも帰宅していた。

 レインはベロベロに酔っぱらっていたが、まだ辛うじて意思疎通は可能だった。


「おいしい! チーズタルトですね! なんていうタルトなんですか?」


「トロールミートパイと言うらしい」


「えっ」


 あなたは先ほどレウナに説明してやったのと同じ説明をした。


「はー……なるほど……」


「ちょっとブラックジョークが過ぎますね……」


 などと言いながら口に運ぶサシャ。

 あなたは重苦しい声で、……本当に食べてしまったのか? と尋ねた。


「いや、驚かせようとしないでくださいよご主人様! もうっ!」


 ぷんすか怒ってしまったサシャにあなたは笑う。

 昔はこわごわと怯えながら肉を食べていたのに、逞しくなったものだ。

 あなたは昔のちっぽけで痩せっぽっちのサシャを思い起こす。

 あの時の初々しいサシャはよかった……しかし、健康的に成長した今のサシャも実によい。

 特に、丹念に可愛がったお陰か、かなりのボリューム感に成長した胸が……。


「……お姉様、食事中に卑猥な手の動きはやめてください。持ち上げないでくださいね。柔らかくて重いものを」


 フィリアに止められてしまったのでやめる。

 さて、あなたはここでちょっとした話がある。

 コンコンとテーブルを指で叩き、あなたは注目を集めた。


 そして、あなたは告げる。

 あなたは今、猛烈に溜まってしまっている。

 昨晩レウナとイイコトをしたが、それでもまだ足りない。

 今日、今から、明日まで、イイコトがしたい。


 1か月近い冒険の間に溜まりに溜まった性欲……。

 それをぶつけてもいいという者はいるだろうかと。

 もちろん、溜まっているからとて乱暴なことはしない。

 淑女的に、夢のように蕩ける時間を約束しよう。


「い、1か月の禁欲のあと……」


「1週間の禁欲でも、アレだったのに……」


「死ぬんじゃないのぉ~?」


 レインがけらけら笑いながらそんなことを言う。

 そう、可能性としてはありえないと言い切れない。

 もちろんそうはならないようにするつもりだが。

 肉体的にやや虚弱なレインは危ないかもしれない……。


「…………」


「…………」


 べろべろのレインはそもそもやるつもりがないらしく、また酒を飲み始める。

 レウナは顔を赤くしつつも我関さずをと言った調子だ。

 そして、フィリアとサシャがおたがい見つめ合っていた。


「……フィリアさん」


「はい。私は、回復魔法も使えるんですよ?」


「でも、身体能力的には私の方が圧倒的なんですよ」


 もしやこれは取り合いをしているのだろうか。

 押し付け合いだと悲しかったが、取り合いはうれしい。


「私は既に5日ほどぶっ通しで愛し合うという実績がありまして……」


「媚薬を使った状態で、死ぬ寸前まで愛され続けた経験はありますか? 私はあります」


「あ、あれを使った状態で……」


 どうやらサシャが劣勢らしい。

 しかし、そこでサシャが起死回生の一手。


「そうだ! あの、フィリアさん」


「なんでしょう」


「ちょっとお耳を拝借……」


「はい」


 サシャがフィリアに耳打ちをする。

 すると、フィリアの顔がみるみるうちに赤くなるではないか。

 そして、信じられないと言わんばかりの顔をし、サシャの全身を見渡す。


「……アリ、ですね」


「私もアリなんですよね。スゴイんだろうなって……」


「わかりました。私も覚悟を決めましょう」


 どうやら話はまとまったようだ。

 あなたは2人に、どちらが受け止めてくれるのかなと尋ねた。


「ご主人様。私、前にメアリさんといっしょに愛された時の興奮が忘れられないんです」


 サシャが突然そう切り出して来た。

 それはおそらく、学園に通い出した初年のバカンスの時の話だろう。

 ハンターズのメアリと3人で愉しんだあの日のことだ。


「そしてお姉様、私はサシャちゃんのこと、可愛いなぁって思ってたんですよ」


 次にフィリアがそう切り出して来た。これは、もしや?


「私とフィリアさん……2人でいっしょには、だめですか?」


「3人で愉しむって言うの、私はまだ経験なくて……サシャちゃんといっしょがいいなぁって……」


 あなたは脳が焼けそうなほどの興奮を感じた。

 思わず笑みが零れ、興奮から鼻血が出て来た。


 なにも悪くない、むしろ最高、望外の幸運だ。

 かつて味わったサシャとメアリのケモ耳セットは最高だった。

 だが、サシャとフィリアのお仲間ダブルセットも最高に違いない。


 まさか、こんな提案をしてくれるなんて……。

 2人とも、なんてあなた好みのえっちな子に成長してくれたのか……!


「…………フィリア」


「あ、え、はい? どうしました、レインさん?」


「ひっく……『毒中和』を頼みたいんだけど」


「ああ、はい。『毒中和』」


 突然のレインの申し出に戸惑いつつ、フィリアがレインの解毒を行う。

 すると、酔っぱらっていたレインの顔色がすぐさま正常に戻る。

 どうやら解毒の魔法によって、酒そのものを中和したらしい。


「ねぇ、あなた?」


 なんだろうか。


「私だけ仲間外れにするなんて言わないわよね? ねぇ?」


 あなたは自分の耳を疑った。

 まさか、レインも参加すると……!?


「1人だけならいいわ……でも、2人だと私だけ仲間外れじゃない! だ、だったら、わ、私だって……!」


 なんか微妙によく分からない理屈を出して来た。

 これは……酒に酔っていた時の胡乱な思考がまだ残っているな?

 あなたはそう思ったが、ここで疑問を持たせるわけにはいかないとレインの手を取った。

 せっかく、この大陸に来て以来最高のご馳走が食べられそうなのだ。

 レインが冷静になる前に一気に畳みかけるのだ。


 あなたはレインの耳元で、最大限に甘い声で囁いた。

 仲間外れになんてしないよ。とろとろになるまで可愛がってあげる……と。


「ひあぁ……あ、み、耳が……」


 へなへなと座り込んでしまうレインをあなたは抱き上げる。

 さぁ、部屋に行こう。そして、4人で愛し合おうではないか。

 あなたはサシャに目線を送り、パチンとウインクをした。

 すると、サシャはにんまりと意地の悪い猫のような笑みを浮かべた。


「さぁ、レインさん、お部屋にいきましょう!」


「え? サシャ……?」


「フィリアさんの立派な体もそうでしたけどね。レインさんの綺麗な体も……実は触れてみたかったんですよ」


 まずはレインを思いっ切りかわいがろうぜ。

 そんな意図でサシャにウインクをしたのだが、伝わったようだ。


「そんな、2人がかりでってこと? わ、私、おかしくなっちゃうわ……」


「大丈夫ですよ。媚薬を使われるよりはずっと刺激は少ないですからね」


 媚薬がややクセになっているフィリアがそんな保障をする。

 まったく、楽しみなことこの上ない。

 今日は寝れないし、この調子では明日も寝れそうにない。

 だが、悪くない。むしろ最高。こんな日々が続いて欲しい。


「……どうして私の行きつく場所は性が乱れているんだ? 前は男同士で盛っていたが、今度は女同士……まぁ、掘り殺される事態にはならなそうだから、いいか……」


 レウナのぼやく声を後目に、あなたたちは4人でそろってあなたの部屋へと向かった。

 これから目くるめく官能の日々がはじまる!

 今夜は眠れないな!

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