49話
風呂で丹念に身を清めたら、清潔な下着とパジャマに着替える。
そして、軽く寝酒を引っかけて、あなたはベッドに入る。
いつもなら冒険終わりということもあり、誰かと体を重ねるわけだが。
「邪魔するぞ」
今日はレウナがお休みのキス付きで添い寝してくれるのだ! やるっきゃない!
今日はまだ無理かもしれないが、後々はもっとすごいことしてくれるかも!
あなたは気長にレウナを攻略するつもりだった。
「ふぅ。妙なことを頼むが、いいか」
ベッドに入ったレウナがいつもの調子でそう切り出して来た。
内容によるが、大体のことは受け入れよう。
「私はあなたが女の頼みを滅多に断れないほどに女に弱く、色仕掛けに信じられないほどに弱いことにつけ込んで、この頼みごとをする」
レウナはあなたのことがよくわかっているようだ。
まぁ、しばらくあなたの近くで見ていれば分かろうものだが。
あなたは自分のこの弱点を改善しようとは全く思っていない。
それくらい女の子のことが大好きで、女の子の助けになりたいからだ。
体よく利用されるにしても、困っている女の子がいなくなるならそれでいい。
「そうか。やはりそうか。である以上、あなたはこの頼みを断るべきなのだ」
頼む側が断れと言ってくるとは妙な頼み事である。
だが、それがレウナにできる最大限の誠意なのだろう。
そうでもしないといけないほどに困難な頼み事なのだろうか。
「なぜなら、これは非常に信義に
そこまで言ってくるとは、いったいどんな依頼なのだろう?
あなたはむしろ気になってしまい、どんな依頼なのか訪ねた。
「私のために、命を賭して戦ってくれ。いつか
あなたはその巨悪の襲来になにか確信があるのかと尋ねた。
レウナが恐れるほどの相手となると、生半な相手ではない。
そんなものの出現の予兆をレウナは感じているのだろうか?
「私は私がこの地に遣わされたことを疑問に思っていた。元より、我が神はそうしたことをするようなお方ではないのだ」
たしかに、それはあなたも疑問に思っていた。
レウナの信仰するラズル神は生者に興味がほぼ無い神だという。
それが神託を下し、生者の領域に干渉する。
尋常ではない事態であると言わざるを得ないのでは?
「私が疑問に思ったのはそこではないのだが……まぁ、たしかにあなたの言うように、我が神は神託を下すような神ではなかった」
レウナも同意見のようだ。
その上で神託を下した理由とは?
「生と死、その表裏一体の均衡を崩す巨悪……我が神の司る死の領域を侵す者……我が神が座視すること能わぬ巨悪……それがいずこかに潜んでいるのではないかと、私は不安なのだ……」
なるほど、超高位の神格ですら座視出来ぬほどの存在。
そのような存在に、いかに高位の神官とは言えただ1人で立ち向かうのは無謀だ。
心強い仲間が欲しいというその気持ちもよく分かる。
その点であなたに依頼をしようというのはまったく納得いく話だ。
そこで、あなたはその依頼のなにが問題なのかと首を傾げた。
冒険者に依頼をするのは当然だ。何もおかしいことではない。
絶望的な戦いが予想されているのかもしれないが、そんなのは冒険者ならいつものこと。
あなたはどんな依頼でも、それに見合う報酬があれば労をいとわない。
「私の持ち物すべてを売り払っても、10万ネルーにもならん」
安い値ではない。だが、べつに高くもない。
ちょっとした金持ちならポンと出せる額である。
神が脅威とみなすほどの相手と戦うには、些か安過ぎる。
「私はあなたに見合う報酬が出せない……だから……」
あなたはレウナにそんなことは気にするなと声をかけようとした。
あなたはそれが報酬ならば、容赦なく毟り取るタイプだ。
だが、精一杯の報酬を無下にするようなことはしない。
あなたが納得づくの上でならば、10万ネルーにも満たない少額の報酬でも構わない。
あなたはこの真摯な神官の精一杯の気持ちに報いたかった。
昨今これほどまでに真摯で誠実な人間と言うのも珍しい。
「本来、金に換えたとても、いいところ1万ネルー程度のものだが……あなたなら喜んでくれるだろう……」
だが、レウナが続けた言葉にあなたは首を傾げた。
いいとこ1万ネルーでも、それなりの額である。
それが10万ネルーにも満たないという報酬と別枠なのはなぜ?
「私の処女を、あなたに捧げる。だから、私のために戦ってくれないか……」
そんな最高の報酬があるなら大喜びで戦っちゃう!
あなたは笑顔で即決OKを出した。むしろOKしない理由がない。
そして、レウナの顔は悲痛な絶望の表情で彩られた。
あなたは自分が返答を思いっ切りミスったことを理解した。
「……あなたは断るべきなんだ。だが、あなたは喜んで頷いてしまう。それを分かっていて私は、あなたにこの依頼を……」
レウナの黄金の瞳から、涙がぽつりと零れた。
「私はあなたの友になりたかった。あなたのような善き友人が欲しいと思ったからだ……だが、私にはその資格がもう無いようだ」
ぽつぽつと零れる涙は止まることなく。
滔々と流れる涙は、レウナの悲嘆と絶望を表している。
「あなたの善意を利用した……私は最低の塵だ……好きにしてくれ……」
そう言ってレウナはベッドに起こしていた上体を横たえた。
レウナは自身の持てる尊厳を全て投げ捨てたのだ。
それほどまでにあなたの返答は絶望的だったらしい。
あなたは慌ててやめてくれと叫んだ。
「妙な情けをかけるのはよしてくれ……とっておきのドミグラスソースを出したのも、懐柔するためだ。私はあんな小銭で買えるような代物であなたの歓心を買おうとしたんだ……なんて無様で小さい……恥を知れ、レウナ・ファンスルシム……」
あなたはレウナを無理やり抱き起こした。
そして、あなたは自分もレウナのことを友だと思っていると告げた。
「やめてくれ……私は、人の善意につけこむ塵のような女だ……」
友のために命を賭すことは、あなたにとって何の疑問もない行為だ。
なぜなら、あなたは友人とはそのようなものであるべきと思っているからだ。
いざという時に、その命を賭してでも友情を証明できる者。
友のために命を捨てる、その最大の愛を表現できてこそ真の友と。
あなたはレウナとの友情に、その命を賭してでも戦いたい。
だからこそあなたはレウナの誠心誠意の頼みに頷いたのだ。
それがレウナの精一杯であり、レウナの持てる最大限の誠意だったからだ。
最大限の誠意を表明した者に、最大限の誠意で応えないのは友情に悖る。
それがあなたにとって望外の望みだったので、ちょっとはしゃぎ過ぎたが。
「やめろ……私は……」
もう1度、友人になるところからはじめたい。
その上で、友人として依頼をして欲しい。
あなたはレウナにそう頼み込んだ。
「……わたしは……塵だ。もう……生きて……わたしの……塵……」
あなたはレウナを引っ叩いた。
いい加減正気に戻れと。そこまで悲嘆するなと。
「だが……私は……」
たしかにレウナはあなたの善意を利用した。
迷惑な依頼をタダ同然で引き受けさせた。
しかし、それがなにか問題なのか。
迷惑を掛け合うのが友ではないのか?
「迷惑を……掛け合うのが……友……」
どうも、周辺の人間に聞く限り、あんまり一般的ではない考え方らしいのだが。
あなたは友とは、どれだけ迷惑をかけてもいい相手だと思っているのだ。
そしてあなたは、どれだけ迷惑をかけられても許容できるから友なのだと思っている。
助け合い、傷つけ合い、そして友情を深め合える。
そんな間柄の存在こそが友であると。
だいたいの場合で周囲の人間から賛同は得られない考え方だった。
唯一賛同してくれたのは、あなたの父だった。
友情とは見返りを求めないことであると、そう言ってくれた。
だからあなたは今もそう信じている。
「……ひとつ、いいか?」
なんだろうか。
「その考え方は、どちらかと言うと男の考え方だぞ」
えっ、そうなの?
あなたはレウナの指摘に驚いた。
「いや、あなた自身、父親は頷いてくれたと言ったではないか。あなたの周りの人間のほとんどが女だろうが」
たしかにその通りだ。賛同してくれなかったのは大半が女。
しかし、賛同してくれたあなたの父も女……というかメスなのだが。
「だが、そうか……迷惑をかけ合うのが、友……か。そうだな……私はそんな当たり前のことを忘れていた」
苦笑気味にレウナが笑う。
どうやら気を取り戻してくれたらしい。
なにが琴線に触れたかちょっとわからないが……。
「そうだな。私の友もそうだった……おたがいに恐ろしいほどに迷惑を掛け合って、その上で命を賭してもいいと思える友となった……そうだったな……」
懐かしむようにレウナが言う。
そして、あなたへと向き直ると、正対して真摯なまなざしで問いかけて来た。
「まだ、出会ってそうも経っていない間柄だが……頼まれてくれるか、友よ」
無論だ、友よ。
「私のために、命を賭して戦ってくれ。私もまた、命を賭して戦おう」
任された。
あなたとレウナの友情を確かめ合う儀式は、そのように端的に交わされた。
そして、あなたとレウナは友人となった。
あなたは最も新しく出来た友と手を握り合い、心を通じ合わせた。
……ところで、処女をくれるという約束は有効でいいのだろうか?
「…………」
なんとも言えない表情でレウナに見つめられてしまった。
いや、だって、くれるって言ったし……!
「友情は見返りを求めないんじゃなかったのか?」
でも、でも……! だって……!
くれるって、くれるって言った……!
見返りは求めないけど、くれるなら欲しい……!
「泣くなよ……」
心底から呆れられたような目で見られてしまった。
レウナが処女をくれると言うならぜひとも欲しいのだ。
「わかったよ……友だからこそ、そうした貸し借りはなくしたいものだ。あなたの献身に、私の処女ごときで報いれるなら……」
あなたは狂喜した。
さっそくやろうとあなたはレウナを促す。
「だがな、まだ実際に戦ってないのに前払いは虫のいい話だと思わないか?」
たしかに、そうではあるが。だとすると……。
「実際に払うのは実際に戦ってからだ」
後払い制かぁ……レインの時もそうだった。
まぁ、そう言うお堅いのも悪くはない。
そこまで頑なに守り通されていたと思えば価値もあるというもの。
しかし、そこであなたは強く反論した。
ほぼ確実にいるであろう巨悪に備える必要がある。
それを思えば前払いでいくらかはレウナも出すべきなのでは?
「処女前払いってどうやるんだ」
この場合、後ろとか上とか下とか横の処女を払うというのは?
「待て待て待て。後ろと下は分かるが、上とか横の処女ってなんだ!?」
もちろんファーストキスと添い寝だ。
「突然ピュアい思想出して来るな……逆に聞くが、あなたはそれで満足できるのか?」
一応、できなくもない。
でも、 本当はネチョネチョした感じのことがしたい。
あなたは指を卑猥な動きでくねらせた。
「……こう、キスとか、触れ合うくらいなら……」
つまり、ペッティング、前戯まではOKと言うことだろうか?
たしかに、そこまでなら処女を喪ったことにはならないだろう。
あなたは処女を奪うこと……つまり挿入する以外は受け入れてくれるのかと尋ねた。
「ああ。これ以上はさすがにわがままだろう。処女を捧げる以外のすべては受け入れよう」
あなたは狂喜した。実質勝ったようなものだ。
あなたは本来からして、挿入に拘るような性質ではない。
むしろ相手を蕩けさせるだけでも十分満足できる。
いっそのことあなたが服を脱がずとも構わないくらいだ。
あなたはレウナをベッドに優しく押し倒した。
これから指と舌だけで、存分に蕩けさせてあげようではないか。
いずれ、早く処女を奪って欲しいと懇願させてやる。
そのためにも、まずは丹念に柔らかく解きほぐすところから。
あなたは持ち得る全ての手管を使ってレウナを蕩けさせることにした。
あなたはとろっとろになるまでレウナを可愛がった。
果てなき快楽の渦に落とされたレウナは実に可愛かった。
未知の快楽に戸惑い、怖いと怯える姿の愛らしさと言ったら……。
「……なぜ私が自身の処女性に拘るのか、少し面白い話をしてやろう」
おたがいに少し寝入って、朝方にもう1度レウナを可愛がって。
ピロートークで愛情を深め合っていたところ、レウナがそう切り出して来た。
「レウナとは最も高貴なる白を意味する古き言葉だ。そして、ファンスルシムとは混成語だ」
混成語と言うことは、複数の言葉から造られた名と言うことになる。
すると、そこに純潔の誓いの由縁が含まれているのだろうか?
「ファヅル・ネクセロス・スミーブ・ルネルガ・シギミ・ムニン。これらの語を組み合わせて造られた語であり、私の名だ」
さっぱり聞いたことのない単語である。
あなたはどういう意味か尋ねた。
「名も無き神に仕えし、忠実にして聖なる白き
つまりなにか。
神に守れと言われた処女をあなたに捧げようとしていると。
これはもしや、奪ったらあなたが神にマジギレされるのでは……?
「さぁな。我が神は私を唯一のいとし子と呼んだが、実際のところどうだか知らん。まぁ、試してみたらどうだ」
などと言いながら、レウナがシーツを引っかぶる。
そして、そのまま身を横たえて寝入ってしまった。
レウナが高位の聖職者とは分かっていたが、これは……。
下手しなくても、相当な寵愛を受けた特別な存在なのでは……?
あなたは超高位神格への挑戦行為について本気で頭を悩ませることになった……。
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