42話
ティーとあなたはエロいことするだけの友人関係になった。
まぁ、それはさておいて、ソーラスにおける拠点が完成した。
これからはそう頻繁に王都に帰らずとも活動ができるだろう。
元より、そう頻繁に帰る予定があったわけでもないが。
「ご主人様、今日は稽古をつけてくれませんか?」
休暇5日目。
朝食の最中にサシャからそんな提案を受けた。
もちろん構わない。冒険者として成長するのはよいことだ。
「サシャは向上心旺盛ね」
「楽しくてやってることですから。思った通りに剣が動くのって、楽しいですよ」
「そう言うものかしら」
「あと、敵を圧倒的に打ちのめした瞬間とかも、楽しいですよ!」
「サシャって、戦いになると途端に性格が最底辺まで落ち込むのどうなってるの?」
基本的にサシャは善良で素直で可愛い子なのだが。
暴力が絡むと途端に冷酷なサディストに成り下がる。
まぁ、同意のない相手を痛めつけたりしない理性はあるので、そう問題ではないが。
問題なのは性格ではなく、自我の構造なのだろう。
朝食後、軽く食休みをし、あなたとサシャは庭で剣を交えていた。
真剣を使うのはやや危険なので、ちゃんと木剣を使っている。
サシャの剣術は攻撃的なもので、斬撃を主体としたものだ。
荒々しい攻めの剣であり、猛攻にこそ軸がある。
防御はあまり考えておらず、力と速度で捻じ伏せる剣技だ。
良いとも悪いとも言えないが、チームありきの剣技と言う印象はある。
こうした訓練において、助言することはほとんどない。
かつて必要だった助言はもう出し尽くし、サシャはそれを守っている。
もはやサシャの剣技は、自分で見出して培っていく段階なのだ。
壁として立ちはだかるのがあなたの役目だ。
そして、サシャもそうした役目をあなたに求めている。
「くっ、ご主人様ってやっぱり強い……!」
あなたの剣技は正統派のものと言っていいだろう。
ハイランダーは戦士の種族でもあり、戦技の研鑽に余念がない。
相伝する武器術や戦術は多々あり、あなたも母よりそれを習い覚えている。
そして長い冒険期間と研鑽で磨かれるうち、正統派となった。
不足部分をどんどん付け足していくと、最終的には正統派になるのだ。
やがてはサシャもこうした剣技の使い手になるのだろうか。
いまの荒々しさが喪われるのは惜しいような気もするが。
それもまた、成長と言うやつなのだろう。生命として生きる以上、避けられぬさだめと言える。
存分に訓練を積み、庭に作った井戸から汲んだ水を被る。
地下水は1年を通してひんやりと冷えている。
その爽快な感触に、あなたは思わず声を上げる。
「冷たくて気持ちいい~……」
サシャも浴びた水に心地よさげな声を上げる。
「今日も勝てなかったです。ご主人様強過ぎですよ」
そう易々と負けられない。
とは言え、時折ひやりとさせて来ることはある。
サシャの剣があなたに届く日も来るだろう。
「私の剣がご主人様に届く日が……いつか、勝てる日が来る……!」
まぁ、届いたところでそれが通用するかは話が別だが。
仮にサシャが真剣の剣戟を首に直撃させても、あなたは掠り傷で済む。
純粋に攻撃力が不足しているのだ。もっと腕力をつけないと。
あなたはそのあたりは口にしなかった。
サシャのモチベーションを下げたくないし。
「でも、ご主人様。最近は伸び悩みを感じることも多いんです……どうしたらいいでしょう?」
サシャの技量は円熟して来た。
同時に、大幅な進歩を感じにくくなった。
これはどんな道でもそうだが、ある一定以上の成長は感じにくくなる。
サシャもそうした領域に至ったということだ。
「なにかこう、ババーンと大幅にパワーアップするような秘密の訓練とか……ないでしょうか?」
そんなのあったらあなたは大喜びでそれをやるだろう。
そして、あなたは大喜びでやれる訓練に心当たりがない。
つまり、そんな都合のいいものは存在しない。
「ですよね……ご主人様は剣技の修行って、どういう風にやってました?」
エルグランドの無限増殖する特性を持つモンスターを『パンチングバッグ』で捕縛。
死なない状態にしたモンスターを殴って増殖させる。
そして、増殖したモンスターを倒して鍛えていた。
「なるほど、半実戦みたいな感じですね。それならたしかに上達も早いかも」
それをざっくり1週間くらい不眠不休でやる。
「なるほど……なんて言いました? 1週間不眠不休?」
もっと長くやる場合もある。
エルグランドの冒険者は速度を上げることができる。
そのため、1週間と言っても体感ではもっと長いこともあるのだ。
「あの、1週間も不眠不休だと、死んでしまいませんか」
そう簡単に死なないから大丈夫。
生命力吸収効果と体力吸収効果のある武器を使えばいい。
運動で費やす体力、飢えで衰える生命力を補える。
終わった後に死ぬほど食べて、泥のように眠ればいいのだ。
「な、ナチュラル鬼畜訓練……!」
サシャが慄いていた。
エルグランドではよくあることなのに……。
思うさま訓練をした後、軽く午睡を嗜み。
起きたら夕食の支度をし、全員でお腹いっぱい食べ。
それから飲みたいものが集まって、酒盛りをする。
レインは毎日思う存分呑めてご満悦のようだ。
先日の儲けのほとんどは酒代に費やしたらしい。
金貨295枚分も酒を買い込むとは、相当な飲兵衛である。
まぁ、295枚と言う額は割と半端な数字ではある。
新しい装備を整えるにしては、額が足らないところがあるのだ。
『四次元ポケット』で長期保存が効くこともあり、後々を見据えて酒を買いためておくというのも悪くない選択かもしれない。
「私が思うに、そんな深いことは考えていないように思う」
レウナがそのように評した。
ベロベロになるまで飲んでいる姿を見ると、たしかにそう思える。
だが、レインにはきっとなにか深い考えがあるに違いない。
そうでなければ酒に目が眩んで有り金使い果たす低脳になってしまう。
なので、あなたはレインに深謀深慮があると思うことにしている。
「私もないと思います」
カイラに教えてもらったカクテルを飲みながらサシャがそう評する。
ジンジャービアーと、この町で流通している蒸留酒ロアリーキラーを混ぜ、ライムを搾った酒だ。
爽やかでキックのある味わいだが、実に飲みやすくお気に入りらしい。
「みんな、飲みが足りないんじゃない~? 私はもうバリバリよ?」
ぐらんぐらんに酔っているレインを見ていると、あなたもそう思えてくる。
でもたぶん、きっと、なにかすごい深謀深慮があるに違いない……。
「あなたは人の美点を探すことがうまいな。とても良いことだと思う。だが、無暗な擁護はためにならないと思うぞ」
たしかにその通りではあるが。
レインの酒癖が悪くて、飲み方がクソなだけだとは思うが。
それでも、あなたくらいは信じてやらないといけない。
欲望に負けて金貨300枚も酒に注ぎ込む酒カスでは、可哀想ではないか。
「誰がだ」
ポーリンが。
「誰だ?」
「レインさんのお母様です」
「なるほど、たしかに可哀想だ」
レイン本人のことは全員諦めていた。
これはもうそう言う生き物だから……。
そんな感じであなたたちの日常は穏やかに過ぎて行った。
やたらめったら朝の早いレウナが朝食を準備し。
昼食は各自で好きに食べ、夕食はあなたが用意する。
それ以外の家事は各自で行い、共同生活は和やかに成立している。
そして、1週間が経った頃、フィリアが退院して来た。
「ただいま帰りました、お姉様」
そう言ってあなたを抱き締め、キスをしてくるフィリア。
久し振りだからか、とても積極的だ。
あなたは喜んでキスに応じ、フィリアと愛を確かめ合った。
「退院おめでとう、フィリア。まずは1週間休んでた錆落としね」
「おかえりなさいフィリアさん! 今日は内臓肉のご馳走をたくさん用意したんですよ!」
「うわぁ、ありがとうございます、サシャちゃん。たくさん食べて、明日から訓練を頑張ります」
フィリアの退院祝いをして、その夜はたくさん可愛がってやり。
3日かけて錆落としと訓練をして、あなたたちは次の挑戦に備えた。
ソーラスの迷宮の再挑戦。今度は4層を突破したいものだ。
食料に装備に着替えに、水袋を綺麗に洗って補給の用意。
装備品類の手入れがしっかりなされているかチェックし。
慌ただしく準備をしていると、レウナが声をかけて来た。
「私も同行してよいか?」
レウナがそのように申し出て来た。
あなたはなんでまたと尋ね返した。
「私の目的はより下層に到達することでしかないからな。より深く潜れる者と同行できるならそうするだけだ」
他のチームでは同行させてもらえなかったのだろうか?
「私みたいに得体のしれない謎の神官が同行させてくれと言って頷くやつの方が珍しいだろう。そもそも私は探索者ギルドに所属できなかったので、正規の手順では参加できない」
それはそう。
不安要素をわざわざチームに付け足す人間は少ない。
チームメンバーに困っているチームなら分からないが……。
そうしたチームが深層まで到達できるかと言えば、無理だろうし。
「大した礼はできないのだが、同行させてもらえないか。無論、前回と同じく戦闘には尽力しよう。つまり戦闘力を代価として支払う」
悪くない取引と言える。
レウナは間違いなくかなりの実力者だ。
それをタダで傭兵として雇用できると思えば。
おそらくかなりお得な取引と言えるだろう。
あなたにしてみれば、拒否する理由がなにもない。
有能な戦闘力をタダで雇い入れることができるのだ。
しかもレウナは可愛い女の子。いるだけでお得だ。
とは言え、他のメンバーはなにか思うところもあるかも。
なので、あなたは一応他のメンバーに了承を取った。
「いいんじゃないかしら。レウナってかなり強いじゃない」
「構わないのではないでしょうか。私以外の信仰魔法の使い手がいるというのも、すごく心強いですしね」
「いいと思います。もういっそ正式メンバーになるといいと思います!」
誰も否やはないらしい。
では問題ないなと、あなたはレウナに同行を歓迎すると答えた。
「礼を言う」
ついでに、サシャの言うように正式メンバーになることも考慮してはどうだろう。
やはりだが、あなたたちの4人と言う人数は少ないのだ。
もう1人いれば、安定感が違ってくるし、余裕ができる。
あなたたちのチームは4人で、最低限の要素を満たしている。
つまり、前衛を張る戦士、後衛の魔法使いと神官、そして探知と罠解除のあなた。
必要最低限は満たしているが、いかにも余裕のない運営と言える。
そこに遠近双方をこなせる戦士でありつつ神官が加入する。
いざとなればサシャとフィリアとレウナで前衛を張ることで、抜群の安定感が生み出せる。
そうでなければ、サシャとあなたで前衛を張ることで、手厚い後方支援を実現。
臨機応変に立ち回るクレバーさは求められるが、かなり柔軟に動ける。
レウナの加入は福音と言っていいほどの作用を齎すだろう。
そう言う意味でも、レウナの加入は歓迎したいところだ。
「申し出はありがたいのだが……私は各地の迷宮を探索する必要があるのでな。ソーラスにだけ固執はできないのだ」
「つまり、ちょっと噛みして美味しいとこだけいただきたい、ってわけ?」
「そう言われると反駁も出来ん……本当に身勝手なことばかり言ってすまないが、それが私の使命なのだ……」
まぁ、臨時で加入して手伝ってくれるだけでもありがたい。
あなたは気にするなとレウナを慰めた。
たしかに都合のいいことを言っているとは思うが。
そのやり方で十分な助力が出来る実力がレウナにはある。
そう言う意味では効率的な賢いやり方だ。
「すまないな……」
「まぁ、ちょっとムカつきはするけど……そこの女たらしが言う通り、それで十分助けになるのはたしかよね……」
「レウナさんはお金で雇えるようなレベルの実力者ではないですからね。蘇生魔法が使える神官なんて、そこらにはいないですから」
言われてみるとたしかにそうである。
実に得難い助っ人を得られたものだ。
あなたたちは準備を整えると、さっそく出発した。
もはや慣れ切って語ることもなく3層までを突破する。
レインも登攀に慣れたのか、以前より3層の踏破ペースが速くなった。
そして、あなたたちは4層に到達した。
前回と同じく、すぐにテントを建てて体温確保に走る。
「ううっ、寒っ……!」
「はぁ、はぁ……火の暖かさがこんなにありがたいなんて……!」
「うむ、寒いな。冬に水浴びした時のことを思い出す」
「死、死……死んでしまいます……!」
あなたとレウナだけが、やや余裕だった。
気合と根性で耐えるしかないので頑張って欲しい。
「ご主人様、あっためてください……」
「わ、私も温めてください、お姉様……」
「ずるい、私も……」
メンバーから抱き着かれた。
濡れたひんやりとした肌が触れて来る。
最高! 気持ちいい! あなたは興奮した。
「あったかい……あなた暖かいのね……」
「気持ちいい……あったかいよぉ……」
「お姉様もっとくっついて……」
あなたは興奮していたが、他の面々はただ震えていた。
本当に寒いのだなぁ……あなたはみんなのつらさをなんとなく理解した。
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